剣姫転生 〜エルフの娘は世界最強の剣士を目指す〜 作:カゲムチャ(虎馬チキン)
ついに来ましたね、ターニングポイント……!
原作を読んでいた頃、正直、ここに至るまでに風呂敷を広げ過ぎなんじゃないかと思ってた。
けど、まさしく、ここをターニングポイントにして始まる怒涛の伏線回収の数々。
今思い出しても震えるぜ、ちくしょう……!
というわけで、今回の番外編は老デウス視点。
本当は来週まで取っておいて、アニメ前半に出てきた七星さんやアリエル様の話をやろうかとも思ったけど、ついに出てきた老デウスを無視することなんてできなかったんや。
来週どうしよう……。
『この役立たず!!』
『ッ……!』
夢を見る。
飽き飽きするほど見てきた夢を。
何度目になるかもわからない、悪夢を。
『そんなに強いのに、なんで!?』
『…………』
最愛の妖精が、力無く横たわっていて。
その妹が、彼女を抱き締めながら静かに泣いていて。
──何もできなかった
ああ、何度見ても最悪だと。
年老いたルーデウス・グレイラットは、愚かな過去を夢に見る度に、びっしょりと冷や汗をかきながら飛び起きるのだ。
「……………………くそっ」
朝。
爽やかとは程遠い目覚めに、小さく悪態をつく。
浅い眠りにつく度に。
少しでも心に隙間ができる度に。
魂にこびりついた後悔の記憶が顔を出す。
ルーデウス・グレイラットの、あまりにも多くの深い後悔の数々。
それが日ごとにランダムで、あるいはブレンドされてお届けされるのだ。
なんとも正気度の削れるモーニングコールである。
「……!」
頭を振って、悔やんでも戻らない過去をどうにか振り払いながら、現状を確認する。
今いる場所は、空の上。
世界各地の空域をさまよう、雄大で美しい城の中。
空中城塞ケイオスブレイカー。
その客室のベッドの上で、ルーデウスは目を覚ました。
部屋を出て少し歩くと、豪奢な鎧を纏った家主と遭遇する。
「目覚めたか」
「……ええ。昨日はありがとうございました。久しぶりに柔らかいベッドで寝られましたよ」
『甲龍王』ペルギウス・ドーラ。
もはや唯一となってしまった、長い付き合いの相手。
向こうにも多少は情があるのか、呼び出せば迎えを寄越してくれるし、客室のベッドくらいは貸してくれる。
「ふん。そのわりには顔色が良くないな」
「……夢見が悪かったもので」
「それだけではなかろう。貴様、随分と老骨に鞭打っていると見える」
「…………」
確かに、夢見の悪さを差し引いても、良い環境で睡眠を取ったにしては、体力の回復を感じない。
関節は軋み、足取りはずっしりと重い。
治癒魔術をかければマシにはなるだろうが、こういうのは一時しのぎにしかならないと知っている。
「……そうですね。少し、疲れが溜まってるのかもしれません」
言っていて、思わず笑いそうになった。
少しどころではない。
肉体的にも精神的にも、とんでもない負荷がかかり続けていると自覚している。
数十年だ。
ヒトガミへの復讐を誓い、戦い続けて数十年。
脆弱で寿命も短い人族の肉体。
しかも、闘気すら纏えないというオマケ付き。
そんなポンコツに、かなりの無茶をさせてきた。
もう、どれほどの余力が残っているのか、わかったものじゃない。
「……そういえば」
今日の夢に出てきた彼女は真逆だったなと、ふと思い至る。
尋常じゃない怪力に頑丈さ、闘気のセンス。
昔は自分に無いものを沢山持ってるように見えて、複雑な感情を抱いたものだ。
「エミリーは、元気ですかね?」
「……突然だな」
ペルギウスが警戒するような顔になった。
……無理もない。
「聞いてどうする? 復讐の旅の道連れにでもする気か?」
そう思われて当然だろう。
今はあの夢のせいで悔やむ気持ちが先に来てるが、普段の己はヒトガミへの恨みに燃える復讐鬼だ。
きっと、エミリーとばったり会った日には、謝罪と思い出話だけでは終わるまい。
最終的にヒトガミへの恨み辛みを全部ぶち撒けて、一緒にやろうと勧誘して、復讐のための道具のように彼女を扱う自分の姿がありありと思い浮かぶ。
「……すみません。忘れてください」
「賢明だな」
これで良い。
謝る機会すら無いのは辛いが、道は分かたれたのだ。
あれだけの罵声を浴びせておいて、どのツラ下げてという話でもある。
だから、これで、良いんだ。
◆◆◆
その後、ルーデウスはまた、孤独な復讐の旅に戻った。
ヒトガミのいる無の世界の中心に行く方法を探してさまよい歩き。
やがて、それが不可能と知って絶望し。
最後は一縷の望みを託した過去転移魔術に、全てを賭けることとなる。
「……そういえば」
エミリーは、元気だろうか?
過去転移の発動直前になって、その疑問が再び湧いてきた。
『妖精剣姫』エミリー。
最愛のシルフィの妹。
この世界での幼馴染。
才能の差を見せつけられて複雑な思いを抱いた相手。
まだゲーム感覚で生きてた頃は、ツンデレヒロイン認定もしてた気がする。
いつかデレ期が来ると、あるいは天才系ヒロインとして、わからせイベントが発生すると信じていた気もする。
同じ転生者だとわかった頃には、そういうゲーム感覚は消えていたが。
そんな彼女は、今どうしているのだろう?
心の方はどうかわからないが、肉体的な強さだけなら、殺しても死なないだろう。
エミリーと一緒に出ていったルーシー達も、今でも彼女が守っているなら、生きているかもしれない。
それなら、不確かな過去転移に頼るより、今からでもエミリー達を探して、一目でも見てから死ぬ方が良いんじゃないか?
過去転移は本当に何が起きるかわからない。
最悪、タイムパラドックスや時空連続体の破壊的なよくわからない現象を引き起こし、この世界ごと壊してしまうかもしれない。
失うものが何も無いなら破れかぶれで実行できるが、もしそうでないのなら──
「………………………………いや、ダメか」
その選択肢を己の心に問いかけてみて、返ってきた答えは──過去転移への強い依存。
そんなにヒトガミに一泡吹かせたいのか。
それとも、シルフィやロキシーに会いたいのか。
なんにしても──ルーデウスは失い過ぎたのだ。
もう、この世界に一欠片の希望を見出して逝くことはできない。
それをするには、辛いことがあり過ぎて、苦しい記憶が多すぎて、今の世界が掠れた灰色に見える。
逆に、過去転移なんて不確かなもの越しでも、あまりにも輝いて見えるから。
──幸せだった、あの頃が。
「……………………ごめんな」
そうして、老ルーデウスは時空を越えた。
・老デウス
転移迷宮でパウロが死んでないので、その分の精神負荷まで一気に来てしまい、原作以上にメンタルがやられてる。
ルーシー達が生きてる可能性に思い至ってもなお、過去転移にすがってしまうくらいには。
まあ、原作でも落ちるところまで落ちてたから、誤差のような気もしないではないけど。
・ペ様
人の心は失ってない龍王様。
ラプラス討伐のためなら捨てるかもだけど、それと関係ないなら、頑張って不幸のドン底から立ち直ろうとしてる人達に追い討ちかけたりはしない。
その判断が正しかったのかは、神のみぞ知る(もちろん、ヒトガミ以外の)
・エミリー
幼少期はそういう目で見られていた。
当時感じていた悪寒は正しかったのである。
……このドシリアスの中で明かすべき情報だったかはわからないが。