剣姫転生 〜エルフの娘は世界最強の剣士を目指す〜   作:カゲムチャ(虎馬チキン)

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 アニメ3期、12話放送!
 老デウス……ッッ!!
 そうだったら良いなと原作読んでた時から思ってたけど、やっぱり予見眼で最愛の二人を見てから逝ったんだね……!
 ああいう、ずっと苦しみ抜いてきた人が、最後の最後に、ほんの僅かな救いを得る展開に弱いんだ……!

 ということで、今回の番外編は引き続きifルート。
 今回はエミリーサイドの話です。
 ……日記の回はまだ来週なのに、ネタを使っちゃってるなぁ。


番外 if 狂ってしまった歯車

 甲龍歴445年。

 中央大陸西部と北部を繋ぐ赤竜の上顎。

 そこを少し北部側に抜けたあたりの道を、一人の旅人が歩いていた。

 

 腰に一本の剣を差した女だ。

 外見年齢は30代半ば。

 剣以外の装備は、極めて軽装。

 纏う雰囲気は穏やかで、戦闘を生業とした冒険者や傭兵には見えない。

 

 世間知らずのお嬢様が、剣だけ立派なものを用意して、護衛も連れずに歩いている。

 そんな風にも見えてしまう。

 

「へっへっへ。よぉ、そこのお姉様」

「良い剣ぶら下げてんなぁ。あんたには似合ってねぇぜ?」

「俺らが貰ってやるよぉ!」

 

 ゆえに、こんな輩に絡まれることもある。

 農作に不向きな北方大地で、食うに困って盗賊に堕ちた者達。

 いや、明らかに戦闘慣れした様子なので、大分罪を重ねた一人前の盗賊団だろう。

 

「はぁ……。嫌ですね。見る目の無い方々は」

 

 ため息を吐きながら、旅人は腰の剣を引き抜いた。

 盗賊どもはニヤニヤと、無駄な抵抗を嘲笑うように武器を構えて──

 

 ──次の瞬間、全く別の方向から飛んできた極大の殺気に、震え上がった。

 

「「「ッ!?」」」

 

 バッと、全員が殺気の発生源に目を向ける。

 そこには、小柄な人物がいた。

 緑の外套に付いたフードを深く被り、腰の剣に手をかけた人物。

 

 身体の線が細い。

 恐らくは少女。

 年齢は、十代半ばといったところか。

 見た目だけなら、とても今の殺気を飛ばした相手とは思えない。

 

 だが、見た目と中身が一致しない強者というものが、いるところにはいるものだと。

 この旅人は、よく知っている。

 

「そういうの、好きじゃ、ない」

 

 フードの少女が声を発する。

 ……聞き覚えのある声だった。

 懐かしさを感じる。そして複雑な感情を思い出させる声。

 

「あぁん? ガキ、か……?」

「驚かせやがって……! 弱そうなメスガキじゃねぇか!」

 

 しかし、そんな感想を抱いたのは旅人のみ。

 盗賊達は見た目だけを見て、すっかり油断し、獲物が増えたとばかりに、不用意に少女に近づいていく。

 あ、終わったなと、旅人は思った。

 

「──『剥奪剣界』」

「「「ぎゃあああああああ!?」」」

 

 蹂躙が始まった。

 失われたはずの幻の奥義。

 それを存分に使って繰り広げられる雑魚狩り。

 

 格が違い過ぎる。

 いっそ哀れになるほどに。

 あるいは、そんな輩にその奥義を使わないでくれと怒りたくなるほどに。

 

 そして、全てが片付くまで、僅か数秒。

 その数秒を待って、旅人は少女剣士に語りかけた。

 

「久しぶりですね、エミリー」

「…………イゾルテさん」

 

 剣を振るう間にフードが外れ、あらわになった少女の顔。

 20年を経ても少ししか変わらない、相変わらずの可愛らしい妖精の美貌。

 

 しかし、昔は長く伸ばしていた綺麗な金髪が、バッサリと切られていて。

 かつては常時宿っていた瞳の輝きも見当たらず、こちらと同じ、複雑そうな感情の宿った眼差しを向けてくる。

 

 やはり変わってしまった。

 天真爛漫を絵に描いたようだった少女は、もういないのかもしれない。

 

 そのことに、言い知れぬ寂寥感を覚えながら。

 『水帝』イゾルテ・クルーエルは、祖母の仇との再会を果たした。

 

 

◆◆◆

 

 

「では、乾杯」

「えっと……乾杯……?」

 

 再会の後。

 盗賊の死体の後片付けをしてから、野営の準備を整えて、イゾルテは持っていた酒をエミリーにも差し出した。

 妖精剣姫は困惑しながら、渡された酒をチビチビと飲み始める。

 

「思えば、あなたとは何度も剣撃を交わしましたが、こんな風に、お酒を酌み交わしたことはありませんでしたね」

「……あの、イゾルテさん……その、レイダさんの、ことは……」

「もちろん恨んでいません。戦いの結果ですから」

 

 イゾルテの祖母、先代『水神』レイダ・リィアは、目の前の彼女に斬り殺されて死亡した。

 しかし、剣に生きる者として、そういう日が来ることも覚悟していた。

 悲しくはあったが、恨みは無い。

 

「……むしろ、あなたの方こそ恨んではいないのですか? 政権争いとはそういうものとはいえ、武人として見ると、祖母の行いは褒められたものではありませんから」

 

 アスラ王国の王位継承戦において、『水神』レイダはダリウス上級大臣と、第一王子グラード……グラーヴェルに味方し。

 『北帝』オーベールと共に、第二王女アリエルの陣営に奇襲同然の襲撃を行った。

 

 結果、レイダの戦死と引き換えに、アリエル陣営は壊滅。

 アリエル王女は捕らえられ、クーデター未遂の主犯なんて汚名を着せられて、処刑された。

 正直、恨むより先に恨まれてるだろうなと、イゾルテは思っていた。

 

「…………まあ、思う、ところが、なくは、ないです。

 でも、恨んでは、ないです」

 

 しかし、エミリーの表情に、憎悪の色は無かった。

 

「試合なら、ともかく、命懸けの、戦いに、卑怯も、汚いも、無い。

 私も、姉も、アリエル様も、わかってて、戦った。

 だから、悪いのは──守れなかった、私だけ」

「……そうですか」

 

 基本はアホの子なのに、剣士としての心構えは完璧に決まっている。

 イゾルテの知るエミリーだった。

 こういうところは、変わっていない。

 

(お婆ちゃんがあんなことするって、私が事前に気づけていれば……いえ、無意味な感傷ですね)

 

 あの時、イゾルテ・クルーエルは何もできなかった。

 戦いが起きていた時間帯は、すっかり寝入っていて夢の中。

 朝起きたら祖母が死んでいて、王女は捕まっていて、友は逃亡犯になっていた。

 

 止める力があったとか無かったとか以前の話。

 完全に蚊帳の外にいた、ただの見習い騎士。

 後悔する資格すら、ありはしない。

 

「本気の『水神』レイダは強かったでしょう?」

「強かった。師匠の、魔剣に、頼らなきゃ、死んでた」

「そうでしょうとも。何せ、幻の奥義を操る稀代の水神でしたからね」

 

 悲しむのも良いけれど、そんな達人を斬り伏せたのだから、誇りなさい。

 言外に秘めたその想いは、きっと届いているはずだ。

 

「で、その幻の奥義は、あなたが受け継いだと」

「めっちゃ、練習した。習得に、10年、かかった」

「たった10年ですか……。私含めて、門下の誰も習得できなかったのに……」

 

 相変わらず、羨ましいほどの剣才に満ちている。

 本当に胸を張ってくれと、思いっきり背中を叩いておいた。

 

「エミリー。久しぶりに、お手合わせ願えますか?」

「……わかった」

 

 戦いが始まる。

 久しぶりの旧友との戦い。

 剣と剣をぶつけ合わせての、対話が。 

 

「フッ……!」

 

 先に仕掛けるのは、当然エミリー。

 剣神流『韋駄天』+北神流『幻惑歩法』。

 お決まりの得意技。

 とはいえ、20年ぶりともなると、新鮮さすら感じる。

 

「奥義『剥奪剣』!」

「!」

 

 対するイゾルテは、初手から切り札を使う。

 自らの前で動こうとする者全て、その出鼻を挫く斬撃で押さえつけ、何もさせずに葬る、水神流の奥義。

 

 エミリーと修行していた頃には未習得だった奥義。

 先代のキレにも負けないと自負するほど、この20年で鍛え上げた技。

 成長を見せてやる。

 

「…………アハッ!」

 

 ──妖精剣姫が笑った。

 強敵を前にして、条件反射で血が滾っているのだろう。

 そういうところも変わらない。

 

「ふふ……! やっぱり、あなたには笑顔がよく似合う……!」

 

 変わってしまった?

 天真爛漫を絵に描いたようだった少女は、もういないのかもしれない?

 

 ──否、そんなことはなかった。

 

 確かに、悲しみを背負って、表面に出てくる輝きは消えてしまったかもしれない。

 けれど、本質の部分は壊れていない。

 皮一枚めくれば、深い悲しみに襲われても歩みを止めない、天才剣士の輝きが今も健在だ。

 

 あの戦いから20年。

 今さらだけど、会えて良かった

 

 

◆◆◆

 

 

「では、私は行きます。楽しかったですよ、エミリー」

「……うん。私も、会えて、嬉しかった」

 

 一晩かけて、存分に剣と言葉で語り合った後。

 アスラ王国の騎士と、王国最悪の賞金首は、笑顔で別れた。

 

「また、会おうね」

「もちろん。会いたくなったら、秘密のお手紙でも送ってください」

「うん……!」

 

 エミリーは姿が見えなくなるまで、ずっと手を振っていた。

 かつての友との隔たりが消えて、イゾルテも温かい気持ちになった。

 

「ふふふ。ニナに良いお土産話ができました」

 

 ……あの戦いから20年。

 知らぬ間に終わっていた全てに、どうしても心の整理をつけ切れなかった。

 

 祖母が死んで水神の席が空いたのだという実感を、どうしても持てなくて。

 祖母を唆したのだろうダリウスの治める国は、どうにも居心地が悪くて。

 次代水神への就任を固辞して、水帝の地位に甘んじ、こうして逃げるように国外を旅することも増えた。

 

 けれど、ようやく自分の心も前に進めそうだ。

 イゾルテはとても良い気分で、来訪予定の剣の聖地を目指して旅を続け──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前、見たことあるぞ……! アスラ王国にいた、水神流の……!」

「え?」

 

 ──その男に出会った。

 巨大な石の甲冑のようなものを纏い、憎悪に満ちた威圧を周囲に撒き散らす男に。

 

「ヒトガミという単語に、聞き覚えはあるか……!?」

 

 その後、イゾルテ・クルーエルの姿を見た者はいない。




・エミリー
アスラ王国の戦いの後、バッサリと髪を切って、一時期のエリスみたいな髪型に。
目のハイライトも大分控え目になってて、精神的ダメージを結構引きずった状態。
でも、友達との再会と和解で、かなり持ち直しました。
なお、その後……。


・イゾルテ
こっちはこっちで、ある朝、目を覚ましたら全てが変わってたに等しい体験をして、メンタルが不安定になってた。
この出会いをキッカケに若い頃の情熱を取り戻し、代わりに水神になってくれた人を支えて、水神流の隆盛を築く……はずでした。



・謎の男
いったい、何デウス・グレイラットなんだ……!?
……と、ボケる気にもならないほどの極限状態。
原作でも今作でも、やらかしてることは大罪で悪役の所業だけど、責める気にはなれないよ……。
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