剣姫転生 〜エルフの娘は世界最強の剣士を目指す〜 作:カゲムチャ(虎馬チキン)
老デウス……ッッ!!
そうだったら良いなと原作読んでた時から思ってたけど、やっぱり予見眼で最愛の二人を見てから逝ったんだね……!
ああいう、ずっと苦しみ抜いてきた人が、最後の最後に、ほんの僅かな救いを得る展開に弱いんだ……!
ということで、今回の番外編は引き続きifルート。
今回はエミリーサイドの話です。
……日記の回はまだ来週なのに、ネタを使っちゃってるなぁ。
甲龍歴445年。
中央大陸西部と北部を繋ぐ赤竜の上顎。
そこを少し北部側に抜けたあたりの道を、一人の旅人が歩いていた。
腰に一本の剣を差した女だ。
外見年齢は30代半ば。
剣以外の装備は、極めて軽装。
纏う雰囲気は穏やかで、戦闘を生業とした冒険者や傭兵には見えない。
世間知らずのお嬢様が、剣だけ立派なものを用意して、護衛も連れずに歩いている。
そんな風にも見えてしまう。
「へっへっへ。よぉ、そこのお姉様」
「良い剣ぶら下げてんなぁ。あんたには似合ってねぇぜ?」
「俺らが貰ってやるよぉ!」
ゆえに、こんな輩に絡まれることもある。
農作に不向きな北方大地で、食うに困って盗賊に堕ちた者達。
いや、明らかに戦闘慣れした様子なので、大分罪を重ねた一人前の盗賊団だろう。
「はぁ……。嫌ですね。見る目の無い方々は」
ため息を吐きながら、旅人は腰の剣を引き抜いた。
盗賊どもはニヤニヤと、無駄な抵抗を嘲笑うように武器を構えて──
──次の瞬間、全く別の方向から飛んできた極大の殺気に、震え上がった。
「「「ッ!?」」」
バッと、全員が殺気の発生源に目を向ける。
そこには、小柄な人物がいた。
緑の外套に付いたフードを深く被り、腰の剣に手をかけた人物。
身体の線が細い。
恐らくは少女。
年齢は、十代半ばといったところか。
見た目だけなら、とても今の殺気を飛ばした相手とは思えない。
だが、見た目と中身が一致しない強者というものが、いるところにはいるものだと。
この旅人は、よく知っている。
「そういうの、好きじゃ、ない」
フードの少女が声を発する。
……聞き覚えのある声だった。
懐かしさを感じる。そして複雑な感情を思い出させる声。
「あぁん? ガキ、か……?」
「驚かせやがって……! 弱そうなメスガキじゃねぇか!」
しかし、そんな感想を抱いたのは旅人のみ。
盗賊達は見た目だけを見て、すっかり油断し、獲物が増えたとばかりに、不用意に少女に近づいていく。
あ、終わったなと、旅人は思った。
「──『剥奪剣界』」
「「「ぎゃあああああああ!?」」」
蹂躙が始まった。
失われたはずの幻の奥義。
それを存分に使って繰り広げられる雑魚狩り。
格が違い過ぎる。
いっそ哀れになるほどに。
あるいは、そんな輩にその奥義を使わないでくれと怒りたくなるほどに。
そして、全てが片付くまで、僅か数秒。
その数秒を待って、旅人は少女剣士に語りかけた。
「久しぶりですね、エミリー」
「…………イゾルテさん」
剣を振るう間にフードが外れ、あらわになった少女の顔。
20年を経ても少ししか変わらない、相変わらずの可愛らしい妖精の美貌。
しかし、昔は長く伸ばしていた綺麗な金髪が、バッサリと切られていて。
かつては常時宿っていた瞳の輝きも見当たらず、こちらと同じ、複雑そうな感情の宿った眼差しを向けてくる。
やはり変わってしまった。
天真爛漫を絵に描いたようだった少女は、もういないのかもしれない。
そのことに、言い知れぬ寂寥感を覚えながら。
『水帝』イゾルテ・クルーエルは、祖母の仇との再会を果たした。
◆◆◆
「では、乾杯」
「えっと……乾杯……?」
再会の後。
盗賊の死体の後片付けをしてから、野営の準備を整えて、イゾルテは持っていた酒をエミリーにも差し出した。
妖精剣姫は困惑しながら、渡された酒をチビチビと飲み始める。
「思えば、あなたとは何度も剣撃を交わしましたが、こんな風に、お酒を酌み交わしたことはありませんでしたね」
「……あの、イゾルテさん……その、レイダさんの、ことは……」
「もちろん恨んでいません。戦いの結果ですから」
イゾルテの祖母、先代『水神』レイダ・リィアは、目の前の彼女に斬り殺されて死亡した。
しかし、剣に生きる者として、そういう日が来ることも覚悟していた。
悲しくはあったが、恨みは無い。
「……むしろ、あなたの方こそ恨んではいないのですか? 政権争いとはそういうものとはいえ、武人として見ると、祖母の行いは褒められたものではありませんから」
アスラ王国の王位継承戦において、『水神』レイダはダリウス上級大臣と、第一王子グラード……グラーヴェルに味方し。
『北帝』オーベールと共に、第二王女アリエルの陣営に奇襲同然の襲撃を行った。
結果、レイダの戦死と引き換えに、アリエル陣営は壊滅。
アリエル王女は捕らえられ、クーデター未遂の主犯なんて汚名を着せられて、処刑された。
正直、恨むより先に恨まれてるだろうなと、イゾルテは思っていた。
「…………まあ、思う、ところが、なくは、ないです。
でも、恨んでは、ないです」
しかし、エミリーの表情に、憎悪の色は無かった。
「試合なら、ともかく、命懸けの、戦いに、卑怯も、汚いも、無い。
私も、姉も、アリエル様も、わかってて、戦った。
だから、悪いのは──守れなかった、私だけ」
「……そうですか」
基本はアホの子なのに、剣士としての心構えは完璧に決まっている。
イゾルテの知るエミリーだった。
こういうところは、変わっていない。
(お婆ちゃんがあんなことするって、私が事前に気づけていれば……いえ、無意味な感傷ですね)
あの時、イゾルテ・クルーエルは何もできなかった。
戦いが起きていた時間帯は、すっかり寝入っていて夢の中。
朝起きたら祖母が死んでいて、王女は捕まっていて、友は逃亡犯になっていた。
止める力があったとか無かったとか以前の話。
完全に蚊帳の外にいた、ただの見習い騎士。
後悔する資格すら、ありはしない。
「本気の『水神』レイダは強かったでしょう?」
「強かった。師匠の、魔剣に、頼らなきゃ、死んでた」
「そうでしょうとも。何せ、幻の奥義を操る稀代の水神でしたからね」
悲しむのも良いけれど、そんな達人を斬り伏せたのだから、誇りなさい。
言外に秘めたその想いは、きっと届いているはずだ。
「で、その幻の奥義は、あなたが受け継いだと」
「めっちゃ、練習した。習得に、10年、かかった」
「たった10年ですか……。私含めて、門下の誰も習得できなかったのに……」
相変わらず、羨ましいほどの剣才に満ちている。
本当に胸を張ってくれと、思いっきり背中を叩いておいた。
「エミリー。久しぶりに、お手合わせ願えますか?」
「……わかった」
戦いが始まる。
久しぶりの旧友との戦い。
剣と剣をぶつけ合わせての、対話が。
「フッ……!」
先に仕掛けるのは、当然エミリー。
剣神流『韋駄天』+北神流『幻惑歩法』。
お決まりの得意技。
とはいえ、20年ぶりともなると、新鮮さすら感じる。
「奥義『剥奪剣』!」
「!」
対するイゾルテは、初手から切り札を使う。
自らの前で動こうとする者全て、その出鼻を挫く斬撃で押さえつけ、何もさせずに葬る、水神流の奥義。
エミリーと修行していた頃には未習得だった奥義。
先代のキレにも負けないと自負するほど、この20年で鍛え上げた技。
成長を見せてやる。
「…………アハッ!」
──妖精剣姫が笑った。
強敵を前にして、条件反射で血が滾っているのだろう。
そういうところも変わらない。
「ふふ……! やっぱり、あなたには笑顔がよく似合う……!」
変わってしまった?
天真爛漫を絵に描いたようだった少女は、もういないのかもしれない?
──否、そんなことはなかった。
確かに、悲しみを背負って、表面に出てくる輝きは消えてしまったかもしれない。
けれど、本質の部分は壊れていない。
皮一枚めくれば、深い悲しみに襲われても歩みを止めない、天才剣士の輝きが今も健在だ。
あの戦いから20年。
今さらだけど、会えて良かった
◆◆◆
「では、私は行きます。楽しかったですよ、エミリー」
「……うん。私も、会えて、嬉しかった」
一晩かけて、存分に剣と言葉で語り合った後。
アスラ王国の騎士と、王国最悪の賞金首は、笑顔で別れた。
「また、会おうね」
「もちろん。会いたくなったら、秘密のお手紙でも送ってください」
「うん……!」
エミリーは姿が見えなくなるまで、ずっと手を振っていた。
かつての友との隔たりが消えて、イゾルテも温かい気持ちになった。
「ふふふ。ニナに良いお土産話ができました」
……あの戦いから20年。
知らぬ間に終わっていた全てに、どうしても心の整理をつけ切れなかった。
祖母が死んで水神の席が空いたのだという実感を、どうしても持てなくて。
祖母を唆したのだろうダリウスの治める国は、どうにも居心地が悪くて。
次代水神への就任を固辞して、水帝の地位に甘んじ、こうして逃げるように国外を旅することも増えた。
けれど、ようやく自分の心も前に進めそうだ。
イゾルテはとても良い気分で、来訪予定の剣の聖地を目指して旅を続け──
「お前、見たことあるぞ……! アスラ王国にいた、水神流の……!」
「え?」
──その男に出会った。
巨大な石の甲冑のようなものを纏い、憎悪に満ちた威圧を周囲に撒き散らす男に。
「ヒトガミという単語に、聞き覚えはあるか……!?」
その後、イゾルテ・クルーエルの姿を見た者はいない。
・エミリー
アスラ王国の戦いの後、バッサリと髪を切って、一時期のエリスみたいな髪型に。
目のハイライトも大分控え目になってて、精神的ダメージを結構引きずった状態。
でも、友達との再会と和解で、かなり持ち直しました。
なお、その後……。
・イゾルテ
こっちはこっちで、ある朝、目を覚ましたら全てが変わってたに等しい体験をして、メンタルが不安定になってた。
この出会いをキッカケに若い頃の情熱を取り戻し、代わりに水神になってくれた人を支えて、水神流の隆盛を築く……はずでした。
・謎の男
いったい、何デウス・グレイラットなんだ……!?
……と、ボケる気にもならないほどの極限状態。
原作でも今作でも、やらかしてることは大罪で悪役の所業だけど、責める気にはなれないよ……。