剣姫転生 〜エルフの娘は世界最強の剣士を目指す〜   作:カゲムチャ(虎馬チキン)

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「え?」

 

 気がついた時、私の目には理解できない光景が飛び込んできた。

 目に映る景色は森の中。

 そこで父が血を流して倒れている。

 母の方は山賊みたいな格好した男どもに、今にも服を剥かれそうになっている。

 そして、私は誰かに首根っこを掴まれて猫みたいに持ち上げられていた。

 

「え? え?」

 

 何がどうなってるのかわからない。

 意味がわからない。

 わけがわからない。

 頭が混乱する。

 私達は確か、あの魔力の津波に飲み込まれて、それで……

 

「いやぁーーー!!」

「大人しくしやがれ!」

「ッ!?」

 

 だけど、混乱した頭の中に母の悲鳴が響いた瞬間、私の体は勝手に動き出した。

 わけのわからない状況の中、それでも戦う訓練を積み重ねてきた体は動いてくれた。

 

 あいつらは誰だとか、ここはどこだとか、あの魔力の津波に飲まれてどうなったのかとか、その全てを一旦頭の隅に追いやって、師匠仕込みの直感に任せた動きで緊急事態に対処する。

 そうじゃないと家族が危ないという焦りは、体を無理矢理動かすこの上ない原動力になった。

 

「シッ!」

 

 まずは私を後ろから摘み上げてる手に向かって、挟み潰すように両手の拳で殴る。

 生まれついての体質を聖級剣士の闘気で強化した私の力に耐えられず、私を掴んでいた手はグチャって音を立ててぶっ壊れた。

 

「ギャーーー!!?」

 

 背後から聞こえてきたのは、年若い男の悲鳴。

 それを無視して体を捻り、自分に向かって衝撃波の魔術を発動。

 私を掴んでいた手首の砕けた手を引き千切りながら一気に加速し、まずは母を剥こうとしていた男の一人に体当たりをかます!

 

「げぼぉ!?」

 

 それだけで首が変な方向に曲がった男の体が吹き飛ぶ。

 何故か私の剣が見当たらなかったから、吹っ飛ぶそいつの腰から一瞬のうちに剣を奪って、母の近くにいた残りの男どもも斬り捨てる。

 更に、今度は魔術より手っ取り早く普通に地面を蹴って加速。

 恐らくは父に怪我を負わせたと思わしき奴に斬りかかる。

 

 剣神流『光の太刀』!

 

「え……ぐぎゃ!?」

 

 そいつは私の動きに反応することもできず真っ二つになった。

 人を殺したことに何かを思う暇もない。

 まだ山賊っぽい奴らは10人以上残っている。

 こいつらは両親に危害を加えた敵だ。

 魔物と同じだ。

 排除しないと、こっちがやられる。

 

「ッ……!」

 

 迷うな。

 考えるな。

 手の震えは無視しろ。

 嫌な汗も、荒い呼吸も、バクバクと跳ねる心臓の鼓動も無視しろ。

 家族を守りたければ、斬れ!!

 

「ああああああああああ!!」

「な、なんだテメェ!? ギャーーー!?」

「こ、このガキ! ぐはぁ!?」

「よくも部下達を! 北神流上級剣士の俺が相手だ! ぐっはぁ!?」

 

 斬る斬る斬る。

 殺す殺す殺す。

 剣聖の速さと水神流上級の防御力、北神流上級の立ち回りを持って、数秒のうちに山賊どもを皆殺しにした。

 そうやって直近の脅威を取り除き、急いで倒れてる父の治療を始める。

 

「『ヒーリング』」

 

 無詠唱治癒魔術。

 姉やゼニスさんに習って数年がかりで覚えた、私が使える唯一の怪我に対する治療手段だ。

 他の魔術は詠唱するよりむしろ無詠唱の方が使いやすかったんだけど、これと解毒魔術だけは中々感覚を掴めなくて、修行の怪我を何回も何回も治してもらってるうちに、ようやく感覚を覚えて会得した魔術。

 

 これでダメだったらと考えると恐怖で心臓が早鐘を打ったけど、幸い父の怪我はそこまで深刻じゃなかったみたいで、初級の治癒魔術でも殆どの傷は塞がった。

 一番深い傷だけは治し切れなかったけど、血は止まってる。

 息もしてるし脈も正常だから、とりあえず父が死ぬ可能性は大きく下がったと思う。

 

 でも父を傷付けた武器に毒でも塗られてたら怖いから、念のために解毒魔術も父にかけ、それから気絶してる父を担いで呆然としてる母のもとへ向かう。

 私は母を安心させるために、大きく頷いて「父は、大丈夫」と伝えると、母は涙を流しながら私達を抱きしめて「よかった……! よかった……!」と安心してくれた。

 

 でも、やっぱり怖かったんだと思う。

 母の体は未だに小刻みに震えていた。

 そんな母を抱きしめてると、初めて人を殺した感覚よりも、母への心配の方が勝る。

 

 私は手に残る人体を斬った嫌な感触を努めて無視した。

 初めて魔物を斬った時と同じように。

 

 大丈夫。

 剣の道を志した以上、いつかはこういう日がくるって師匠に散々言われてきた。

 初めて魔物を斬った時、戦いに生きるなら、必ず人を斬る日もくるって言われた。

 それでも道を変えなかったのは私だ。

 覚悟を決めて突き進んだのは私だ。

 

 だから、大丈夫。

 覚悟はとっくに決まってたはずだ。

 少なくとも決めた気にはなってたはずだ。

 それを問われる場面が、たまたま今日この瞬間に来ただけ。

 だから、大丈夫。

 大丈夫。大丈夫。

 

 それなのに震える私の体を、母が更に力を込めてギュッと抱きしめてくれた。

 自分だって震えてるのに、私を優先して優しく頭を撫でてくれた。

 そのおかげで、ちょっとずつ、ちょっとずつ、体の震えが収まっていくのを感じた。

 

「ひぃ……! 痛ぇ……痛ぇよぉ……!」

 

 そうして、どうにか平常心を取り戻せた頃。

 後ろの方からそんな感じのすすり泣く声が聞こえてきた。

 声の発生源には、千切れた右手を押さえてうずくまってる年若い男の姿が。

 ああ、こいつ最初に私を摘み上げてた奴か。

 向かって来なかった上にうずくまってたから、視界から外れてたわ。

 

 私は「もう、大丈夫」と伝えて母の腕の中から抜け出し、それでも心配そうな母に父を託して、一応警戒しながらそいつのもとへ近づいた。

 そして、山賊から奪った剣をそいつに突きつける。

 

「ひぃ!?」

「答えろ。お前達は、誰? なんで、私達、襲った?」

「お、俺達はしがない傭兵だよぉ! ディクト王国に雇われてたんだけど、ついさっき滅茶苦茶な乱戦があって、怖くて逃げたんだ!

 お前らは森の中を逃げてる時に出くわして、弱そうなカモだと思ったからそれで!」

 

 痛みから恐怖からか、男は素直にプロフィールと内心をぶち撒けてくれた。

 結果、同情の余地なし。

 殺されて当然の理由で襲ってきたクズどもだってことが判明した。

 というか、ディクト王国?

 聞いたことない国名が出てきた。

 

「ディクト王国って、どこ?」

「こ、ここから北に行ったところにある国で……」

「違う。世界の、どこ?」

「は?」

 

 意味わからんと言わんばかりに疑問の声を上げた男に、いいから答えろと、突きつけた剣を更に前に押し出す。

 逆境に弱いタイプなのか、そうしたら叫ぶような声でちゃんと答えてくれた。

 

「南部だよ! 中央大陸南部の北の方! 『紛争地帯』! そこの更に北の方にある国だ!」

「…………は?」

 

 今度は私が意味わからんって感じの声を漏らす番だった。

 中央大陸南部の紛争地帯?

 知らないところだ。

 将来は武者修行の旅に出たいってことで、前に師匠に世界地図を描いて見せてもらったことがあるけど、地面に木の枝で書いた大雑把な地図だったから、細かいところとか覚えてないんだよ。

 

 覚えてるのはせいぜい世界に五つある大陸の名前と、故郷であるアスラ王国、王竜王国、ミリス神聖国の世界三大国家、あとは剣の聖地という心躍る場所くらいだ。

 つまり、ここがどこだかわかんない。

 どこだかわかんないような場所に、気絶してる間に移動したらしいってことだけがわかった。

 どういうことだってばよ?

 

「なぁ、もういいだろ!? 正直に答えたんだから見逃してくれよ!」

「ダメ」

 

 とりあえずもうちょっと考える時間が欲しいので、貴重な情報源は頭を叩いて気絶させた上で、死なれないように千切れた手首の止血だけ一応しといた。

 私よりずっと長く生きてて、師匠ほどじゃないけど昔は世界を回ったことがあるっていう父が起きたら、改めて尋問しよう。

 

 あ、っていうかこいつ、腰に私の誕生日プレゼントの剣差してるじゃん。

 無いと思ったらこいつに盗まれてたんだ。

 私の宝物を盗むとは太ぇ野郎だ。

 剣を回収した上で、こいつに遠慮はいらないと改めて思った。

 どこかの街についたら野盗として衛兵にでも突き出してやる。

 

 そんなことを考えられるくらいには、私の精神は回復していた。

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