剣姫転生 〜エルフの娘は世界最強の剣士を目指す〜   作:カゲムチャ(虎馬チキン)

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16 現状確認

 あの後、山賊ども(情報源の証言が正しいなら傭兵崩れ)の死体の臭いに釣られてか、魔物が寄ってくるようになったので、持てるだけの装備を剥ぎ取り、父と情報源を担いで比較的安全そうな場所に移動した。

 相変わらず森の中だから、気休め程度の安全性だけど。

 

 尚、傭兵崩れどもの装備を剥いでいこうというのは母の提案だ。

 私達は着の身着のままでこの森に放り出されたので、現在一文無し。

 唯一の財産は、誕生日プレゼントの剣と、師匠の真似をして剣帯に付けておいた冒険者カードだけ。

 だったら、手っ取り早く金になりそうなものは何がなんでも持っていくべきだと言われた。

 母も大分苦労するような人生送ってきたらしいので、私なんぞより遥かに逞しかったのだ。

 

 それから数時間程度の時間が経ち、母と私の必死の看病の甲斐あって、気絶してた父がようやく目を覚ましてくれた。

 

「あなた! あなたぁ!」

「ごめんな、二人とも……心配かけて」

「いい。父、悪くない。悪いの、こいつら」

 

 心底心苦しそうにする父を慰めるために、持ってきた情報源に軽く蹴りを入れておいた。

 気絶しながら呻いたので、上に座って椅子にしてやった。

 慈悲はない。

 

 それから、父と母と共に現状の確認を始める。

 まず、二人にもなんで自分達がこんなところにいるのか理解はできてなかった。

 つまり、まずあり得ないとは思ってたけど、私が気絶してる間に二人が私と一緒にここに移動したって可能性はゼロだ。

 それなら、原因は一つしか思い浮かばない。

 

「あの、魔力の、雲」

「魔力の雲? ああ、あの不気味な空模様のことかい?」

「そう」

 

 私は二人に、あの時に魔眼で見た光景のことを伝えた。

 尋常ならざる魔力の奔流。

 それが地面に落ち、周辺一帯に津波のように広がっていった様子。

 それを聞いた二人は、やっぱり私と同じ結論を出した。

 あの魔力のせいで、私達はこんなところに吹き飛ばされたのだろうと。

 

 恐らく、転移の魔術に近いものじゃないかと父は言った。

 転移、つまり瞬間移動。

 この世界には禁術だけどそういう魔術があり、自然界にも迷宮っていう場所には転移を使った罠みたいなものがあるんだとか。

 あの魔力は、そんな転移の罠の超大規模版じゃないかっていうのが父の予想。

 

 これはまだ運が良かったと言うべきなんだと思う。

 あれが転移じゃなくて破壊の魔力だったら、今頃私達は確実に生きていない。

 だけど、そうなってくると……

 

「父。シルは、師匠達は、どうなったと、思う?」

「…………運が良ければ安全な場所に飛ばされてるはずだ」

「……そっか」

 

 父はそうとしか言わなかった。

 私もそうとしか返せなかった。

 お互いに最悪の可能性なんて想像したくもなかったから。

 

 全く、平和を満喫しておこうとか思った矢先にこれとか、世界は容赦ないにもほどがあるんじゃないかなぁ。

 前世の最期のトラックといい、理不尽はいつも突然にやってくる。

 

 でも、嘆いてばかりもいられない。

 私達がこうして生きてる以上、姉だって師匠達だって生きてる可能性はある。

 私達は生きてることを信じて動くしかない。

 

「とりあえず、私達はフィットア領を目指そう。そこでこの事件の正確な情報を得る。まずはそこからだ」

「そうね」

「わかった」

 

 今できることはそれしかないか。

 仮に、この付近に姉や師匠達も転移してると確定してるんだったら、何がなんでもこのあたりを探すべきなんだろうけど、どこに転移したかは不明。

 転移の規模がどれだけ大きいのかも不明。

 飛ばされる範囲が中央大陸限定なのか、それとも世界全体のどこかに飛ばされてしまうのかも不明。

 おまけに父は手負いで、母は非戦闘員で、ここは世界でも屈指の危険地帯。

 悠長に周辺を捜索してる余裕はない。

 

 こんな状態じゃ、とりあえずわかりやすい目的地である故郷を、安全な場所を目指すしかない。

 多分、転移させられた人の大半は帰ろうとするだろうし、運が良ければその中に姉や師匠達もいるはずだから。

 

 そして、帰還のために必要なのは、現在地の情報だ。

 というわけで、情報源を叩き起こして今度は父が尋問を開始した。

 もちろん、私が睨みを効かせて嘘なんか吐けないように威圧しながら。

 

 結果、父は私よりも多くの情報を情報源から引き出してくれた。

 剥ぎ取った装備の中に、傭兵親分が記してたという紛争地帯の主だった国、つまりこいつらにとっては商売相手の情報が書かれたメモがあったと判明したのは大きい。

 それをもとに、まずはこの紛争地帯とかいう場所を抜けることを目指す。

 

「よし、二人とも。まずは南に向かうよ」

「了解」

 

 ここは中央大陸南部の北の方。

 そして、フィットア領のあるアスラ王国は中央大陸西部。

 地理的には、まっすぐ西に向かえば辿り着ける。

 だったら、素直に西に進んだ方がいいんじゃないかと思うところだけど、中央大陸は南部、西部、北部の間に横たわる『赤竜山脈』っていう山々のせいで三つに分断されてるらしい。

 

 そこは単純に山としての厳しさ以上に、赤竜(レッドドラゴン)っていう滅茶苦茶強い魔物が群れを成して生息してるため、普通の人は特定の場所以外からの通行は不可能とのこと。

 通れるのは人知を超えた力の持ち主、世界最強と言われる七人の武人『七大列強』くらいだろうと前に師匠は言っていた。

 ちなみに、七大列強の序列一位は私の夢の最終目標だったりするんだけど、それは今は置いとく。

 

 とにかく、今は紛争地帯を抜けるべく南に向かってゴーだ。

 紛争地帯さえ抜ければ、その先にはアスラ王国にも通じてる中央大陸を横断する最も大きい街道があるらしいので、そこまで行けば一安心。

 ここは紛争地帯の中でもかなり奥地の方らしいから、そう簡単にはいかないだろうけどね……。

 

 まあ、何はともあれ行くしかない。

 まずは第一目標、傷の治り切ってない父の治療ができそうな街か村を目指して出発だ。


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