剣姫転生 〜エルフの娘は世界最強の剣士を目指す〜   作:カゲムチャ(虎馬チキン)

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2 師匠

 転生してから5年が経った。

 この5年を一言で纏めれば、言語こそが人類最大の発明であると心の底からわからされた5年間だったと言えよう。

 

 何が言いたいかというと、アイキャントスピーク異世界語ってことですよ。

 ワタシ、イセカイゴ、ワカリマセーン。

 仕方ないじゃん!

 私の成績ってガチで赤点だったんだぞ!

 赤点ギリギリとかそんな生易しいもんじゃなく、ガチで合格点下回って追試受けて、そこでも散々な結果で、剣道の成績でなんとかお目溢しを貰ってるような状態だったからね!

 それがいきなり言語のさっぱり違う世界に放り出されて、まともに話せるかい!

 

 それでも必要にかられるっていうのはいつだって最高の成長の秘訣なのか、それともこの子供の脳みその柔らかさのおかげか、この5年でどうにか聞き取りはスムーズにできるまでになった。

 でも、発音はまだまだ拙い。

 おかげで家族の中では無口片言キャラが定着しちゃいましたよ。

 どうしてこうなった?

 

「父、これ、お弁当」

「ああ、ありがとう、エミリー」

 

 今も今世の父の職場にお弁当を届けに来たんだけど、単語の羅列でしか会話ができない。

 それが年齢以上に幼い印象を与えてるのか、父は凄い優しい顔で私の頭を撫でてきた。

 気恥ずかしいし、精神年齢女子高生としては複雑。

 まあ、嫌な気はしないんだけど。

 

 ああ、ちなみに、エミリーっていうのが今世の私の名前だ。

 中二要素の塊みたいなオッドアイがチャームポイントの、金髪ロリっ子エルフである。

 名前が前世と殆ど同じなのは、果たして偶然か必然か。

 

 で、目の前の父はハーフエルフのロールズ。

 母は獣族とのハーフらしいボニー。

 あの緑髪の子は双子の姉でシルフィエット。

 最近になってようやく覚えた。

 

「お、ロールズ、娘さんか? 可愛い子じゃないか」

「パウロさん……いくらなんでも娘に手出しはさせませんよ?」

「いやいやいや! いくらオレでもそこまで節操なしじゃないからな!?」

 

 父が割と本気で険しい顔をしながら私を抱き締めて、新たにやって来た人から隠すようにした。

 このパウロさんという人はそんなに危ない人なんだろうか?

 軽薄そうなイケメンって感じで、女の子を食いまくってると言われても納得できる見た目ではあるけど。

 

 しかし、そんな失礼な感想は、パウロさんの腰にあるものを見て吹っ飛んだ。

 

「剣! 剣!」

「お? ど、どうした?」

「ちょ!? エミリー!?」

 

 パウロさんの腰にあったもの。

 それは一本の直剣だった。

 前世で見てきた競技用の竹刀や木刀じゃない、正真正銘の戦うための剣。

 よく見ればパウロさんは、なんか凄い力強いオーラみたいなものを纏って見える。

 私は確信した。

 この人こそ、私が求めてやまない異世界の剣士だと!

 

「ボォオオオオオオオ!!!」

 

 だが、興奮の極地にいた私に冷水をかけるように、遠くからそんな声が聞こえてきた。

 恐ろしい獣の咆哮だ。

 声の方を見れば、そこには森から現れた、腕が四本ある二足歩行の猪の姿が。

 魔物。

 この世界に存在する、人を簡単に殺せる力を持った害獣。

 父が森に近づくなという言いつけと一緒によく語っていた存在だとすぐにわかった。

 

「おっと、ターミネートボアか。お嬢ちゃん、ちょっとパパの後ろに隠れてな。ロールズ!」

「わかりました。パウロさん、お気をつけて」

「おう」

 

 全く気負った様子もなくそう言って、パウロさんは駆け出す。

 軽く走ってるようにしか見えないのに、その速度は前世における人類最速を上回るほど速い。

 

 そして、パウロさんが腰から剣を引き抜き、振るった。

 

 鮮やかな一閃。

 前世の私なんて比較にもならない、ちゃんと命懸けの戦いで相手を倒すために鍛えられた剣。

 それがターミネートボアと呼ばれた魔物を一撃で両断するのを見て、━━私は美しいとすら思った。

 

 あれが剣の本当の美しさ。

 これが戦いの本当の美しさ。

 ああ、なんて、なんて……

 

「カッコ良い……!」

 

 前世の幼少期から抱き続けた憧れ。

 それを体現する人が目の前にいる。

 カッコ良い以外の言葉が出ない。

 素晴らしい以外の感想が浮かばない。

 胸が熱くなって、高鳴って、まるで恋に浮かされたみたいに体が熱い。

 そんな私を見て、何故か父が頭を抱えていた。

 

「ふう。終わった終わった。まあ、今回も楽勝だったな」

「パウロ、さん!」

「ん? どうした? もしかしてオレに惚れたか? ふっ、こんな小さな子のハートすら掴んじまうとは、我ながら罪な男だぜ」

「パウロさぁぁん……!」

「お、おい、そんな目で見るなよ、ロールズ! 冗談! 冗談だから!」

 

 父が般若もかくやという顔でパウロさんに詰め寄ってるけど、そんなことはどうでもいい。

 私は全力で父を押しのけ、パウロさんの服の裾を掴んで上目遣いで言った。

 

「弟子、に、して、ください!」

「……へ?」

 

 その日、私に師匠と呼び慕う人ができた。


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