剣姫転生 〜エルフの娘は世界最強の剣士を目指す〜 作:カゲムチャ(虎馬チキン)
ヒトガミの夢を見た日の午後。
私達は街を出て、森の中を進んでいた。
街道はいつも通り軍隊が封鎖してる可能性があるから使わない。
仮に封鎖されてなかったとしても、ここらは道を阻む関所のチェックがやたら厳しい。
国民の流出でも懸念してるのか、基本的に関所は難癖つけて、通行しようとする人全員を国内に押し返すのだ。
来る者拒み、去る者逃さずって感じだよ。
そんなことしたら国の流通とか止まりそうなもんだけど、崩壊寸前の国にはそこまで考える余裕がないのかもしれない。
狂気。
そんなわけで、私達は通れる場所が消去法でここしかないので、街道から外れた森の中を進んでいる。
当然、森は森で危険がある。
ここまでの道中で嫌というほど思い知らされた危険が。
まず魔物。
これはいい。もう慣れた。
対魔物戦の経験値を積んだ今、青竜みたいなヤバい奴さえ現れなければ問題ない。
次に、野盗と兵士。
これもまだいい。
人を斬ることへの躊躇なんて、とっくの昔にそこら辺に捨ててきた。
そうじゃないと、この紛争地帯は生き抜けない。
こっちも聖級剣士みたいな強敵さえ出てこなければ問題なし。
多くの剣士や戦士達との戦闘経験を積み重ね、自分だけでなく両親も守らなくてはという重圧の中で戦い続けたおかげで、皮肉なことに私の戦闘力自体は上がってるからね。
転移のおかげとは口が裂けても言いたくないけど。
で、そうなると懸念は当然、青竜や聖級剣士みたいな強敵だ。
どこまで運が悪いのか、今日も私達はこれに出くわしてしまった。
発端はいつものように、見覚えのある国の鎧に身を包んだ兵士達に見つかったこと。
バトルロイヤルしてる三国のうちの一国の兵士だ。
こいつらは、まるで何かに誘導でもされてるかのように、毎度毎度的確に私達のところに現れる。
そして、いつものように「殺せ!」となり、いつものように私とそいつらによる殺し合いが始まった。
ただ、その日いつもと違ったのは、
「突撃ーーー!!」
「くたばれ! ディクトのカス野郎どもぉ!!」
「なっ!? ブローズのクズどもだと!?」
「迎え撃てぇ!!」
途中で三国のうちのもう一国の兵士達が乱入してきたことだと思う。
そこからは三つ巴の戦いになった。
このまま乱戦に紛れて逃げたいと切に思ったけど、そう上手くはいかない。
こっちには、これまでの戦いで満身創痍の父と、その父を支えて機動力が鈍ってる母がいるのだ。
二人を守りながら戦線離脱するのはキツい。
背中を見せたらやられる。
しかも、私がなまじ強くて兵士達を斬り殺してるせいで、奴らの中で私の撃破優先度が下がらないのも辛い。
だからって、殺さないように手加減なんかしても、奴らの攻勢が強まるだけだ。
この紛争地帯で一度戦闘になれば話し合いは通じない。
二人を守るには、奴らの魔の手が二人に伸びる前に皆殺しにするしかない。
でも、今回は両国合わせて30人くらいの兵士と、おまけに何人かの魔術師、果ては両陣営に一人ずつ聖級剣士と思われる奴らまでいるから、もう運が悪いとかそういうレベルじゃないよ!
運命に嫌われてるか、そうじゃないなら何者かの作為を感じるレベル!
でも、悲劇はまだ終わっていなかった。
むしろ、本当の悪夢の始まりはここからだった。
「グォオオオオオオ!!!」
突如凄まじい咆哮が鳴り響き、轟音と共にそれが戦場に乱入してくる。
翼を持つのに地を這っている、赤い鱗の竜。
━━
中央大陸を分断する赤竜山脈にて、あらゆる者の通行を阻む番人。
こいつがそうだと直感した。
多分、はぐれ竜ってやつだ。
何かの拍子に赤竜山脈から離れ、地に落ち、飛行能力がお粗末だから帰れなくなった赤竜の個体。
そう言うと間抜けなエピソードに聞こえるけど、はぐれ竜は単独討伐がロマンとして語られるくらい有名な『天災』だ。
こいつを倒すためには、事前に罠に嵌めた上で、万全の準備を整えた高ランクの冒険者パーティーが束になってかからないといけないらしい。
前に死闘を演じて殺されかけた青竜と同格の魔物。
それが、あの時よりも疲弊したところに、あの時と違って他にも気をつけないといけない敵がいる状況で現れてしまった。
でも、真の悪夢は赤竜の襲来なんかじゃない。
これだけなら、むしろピンチであると同時にチャンスだ。
こんなデカくてわかりやすい敵なら、兵士達は私よりこいつを優先するはず。
そうすれば、赤竜が兵士達と戦ってる間に逃げられるかもしれない。
だから、真の悪夢はこれじゃない。
本当の化け物は、赤竜の襲来から数秒もしないうちに現れた。
「とりぁあああああ!!」
雄叫びを上げながら、棍棒のような武器を持った、一人の男が現れる。
50代くらいの、黒髪の中年男性。
見た目は普通の人間にしか見えない。
そう、見た目だけは。
私はその男を一目見た瞬間から、この右眼の魔眼が男の姿を捉えた瞬間から……冷や汗が噴き出して止まらなかった。
「せぇえええええい!!」
「ギャアアアアアアアアア!!?」
男が振るった棍棒が赤竜の頭に直撃する。
一撃。
たった一撃で、私が死ぬ気で倒した青竜と同格の魔物が、天災と謳われる有名な怪物が、頭部をひしゃげながら絶命した。
驚愕、唖然。
何が起こったのかわからない。
この場にいる大体の人はそう思ったことだろう。
私としては、むしろ当然の結果すぎて、驚く代わりに戦慄が止まらなかったけど。
「やあやあ! 私は昨日マルキエン傭兵国に雇われた流離いの傭兵、シャンドル・フォン・グランドール! 紛争地帯の勇士達よ! いざ、尋常に勝負をしよう!」
マルキエン傭兵国。
バトルロイヤルやってる三国の中の最後の一国。
そこの傭兵を名乗る化け物を見て、ああ、ヒトガミの助言に従っとけばよかったかなと、私は今更ながら後悔し始めていた。