剣姫転生 〜エルフの娘は世界最強の剣士を目指す〜   作:カゲムチャ(虎馬チキン)

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20 蹂躪

「マ、マルキエンの犬だと!?」

「こ、殺せ! 殺せぇーーー!!」

 

 男が敵国所属だと名乗ったからか、それとも威圧を撒き散らすように一歩一歩迫ってくる恐怖を振り払うためか。

 兵士達は一斉に男に向かって飛びかかっていった。

 きっと、誰一人逃げずに向かっていったのは、赤竜が現れてからの展開が急すぎて頭がついていかなかっただけかもしれないけど、逃げてもどうせこの男からは逃げ切れないと、無意識のうちに全員が悟ったからだと思う。

 

 私もそんな奴らの例に漏れなかった。

 多分、この黒髪男が本気になったら、この場の全員を皆殺しにするのに10秒かからない。

 魔眼が見抜いたあまりにも練り上げられた闘気の質。

 曲がりなりにも剣聖として感じた武人としての格の違い。

 それらが最悪の未来予想を私に告げてくる。

 

 10秒。たった10秒。

 そんな短い時間で、父と母を連れてこの化け物の間合いの外に逃げられると思う?

 無理。

 絶対無理。

 断固として無理。

 

 命乞いも多分通じない。

 そんなのが通じそうな奴にはこれまで一度も出会わなかったし、何より黒髪男が所属を名乗ったマルキエン傭兵国とかいうところの奴らも、私は数十人単位で殺してる。

 仲間を殺した奴を見逃してくれるわけがない。

 

 だからこそ、私は覚悟を決めた。

 狙いは一発勝負だ。

 兵士達が全滅する前に、こいつらが黒髪男の注意を少しでも引きつけてくれてる隙に、それを隠れ蓑にして不意討ちの光の太刀で首を飛ばす!

 そのために私はでき得る限り気配を消して、両親への流れ弾を警戒しつつ、小さい体を活かして兵士達の中に紛れた。

 幸い、兵士達の注意は完全に目の前の化け物に向かってるので、私が攻撃されることも、両親が標的になることもなかった。

 

 そして、戦闘(じゅうりん)が始まる。

 

「剣神流『疾風』!」

 

 さっきまで最大の敵と思ってた聖級剣士の一人、多分私と同じ剣聖の男が黒髪男に連続斬りを浴びせかける。

 その練度は高い。

 ギレーヌには及ばないけど、剣神流だけなら師匠より上だ。

 

 そんな剣聖の攻撃は、当然のごとく黒髪男には全く通じない。

 

「ほほう! 中々の腕前! 多分剣聖だね! 磨き上げられたその速度、見事だ!」

「ふざけるなぁああああ!!」

 

 黒髪男は手に持った棍棒を変幻自在に操り、軽口を叩きながら剣聖の連撃をいとも容易く捌き切っている。

 そこへ他の兵士達が突撃。

 剣聖をサポートするべく、あるいは剣聖ごと叩き潰すべく、物量に任せて襲いかかる。

 

「うらぁあああ!!」

「死ねぇえええ!!」

「汝の求める所に大いなる炎の加護あらん! 勇猛なる灯火の熱さを今ここに! ━━『火球弾(ファイアボール)』!」

「不確かなる神よ! 我が呼び声に答え、敵を打ち砕け! ━━『岩砲弾(ストーンキャノン)』!」

 

 更に魔術師達も援護射撃を加え、私でも真正面から相手にしたら容易く押し潰される物量攻撃が黒髪男に炸裂。

 その全てを、黒髪男は笑いながら蹂躪した。

 

「素晴らしい! このあたりでは稀に見る練度だ! どこかの国の精鋭部隊かな? 雑兵の大軍勢を相手にするよりワクワクするねぇ!」

「ぐぎゃ!?」

「ぐえっ!?」

「がはっ!?」

「おぶっ!?」

 

 一人、また一人と黒髪男の棒術の餌食になって兵士達が倒れていく。

 剣を捌き、魔術を叩き落とし、地面を棒で砕いて撃ち出すことで、距離を取ってた魔術師すらも撃墜されていく。

 最初30人はいた兵士達は、黒髪男が現れるまでの戦いでも多少数を減らしてたとはいえ、既に10人以下にまで減った。

 剣聖の男はまだ耐えてるけど、何度も食らった打撃で体中がボロボロだ。

 

 でも、まだ全滅してない。

 10秒で皆殺しにされると思ってたのに、戦闘開始から1分近く経っても全滅してない。

 何故なら、黒髪男が本気じゃないからだ。

 遊んでるってほど隙があるわけじゃないけど、圧倒的な力で踏み潰すよりも、兵士達相手に自分の技を試すことを優先してる感じがする。

 だったら、まだ付け入る隙があるはず!

 

「お?」

 

 そう考えたのは私だけじゃなかったらしい。

 兵士達が遂に剣聖以外全員倒され、黒髪男の意識が剣聖のみに向けられて視野が狭くなった瞬間。

 隠れていたもう一人の聖級剣士が黒髪男に向かって何かを投げ、それを黒髪男が棒で叩き落とした瞬間、投げつけられた何かから黒い煙が噴き出した。

 

 それを目眩ましにして聖級剣士、恐らくは何でもありの北聖の男が黒髪男に奇襲をかける。

 同時に剣聖の方もこれをチャンスと見たのか、煙幕で視界が塞がれながらも、直前までの位置関係を頼りに剣神流の奥義『光の太刀』の構えを取る。

 右眼が捉えた煙幕の中でも輝く闘気の光から、私は戦いの状況を把握した。

 見えにくいけど、なんとか見えた。

 そして……

 

「なっ!?」

「バカな……!?」

 

 剣聖と北聖の攻撃が同時に受け止められた。

 光の太刀は棒の右側で受け流され、棒の左側は北聖の喉に突き刺さって奇襲を封殺している。

 

「良い動きだった! ただ、連携ではなく互いを利用するような動きだったのが残念だね。君達は敵同士みたいだから仕方ないが、もし味方同士だったなら私も危なか……」

 

 ここだ!

 剣聖の背中側、黒髪男の死角になる位置で、更に倒された兵士達に紛れて死体のふりをしていた私は、

 聖級剣士二人の同時攻撃を受けたことで、多少なりとも黒髪男の意識が目の前の二人だけに向いていることを祈って、予想外になるだろう位置から渾身の一撃を放った。

 

 剣神流奥義『光の太刀』!

 

「ぬぬ!?」

 

 私が使ったのは斬撃飛ばしを併用した光の太刀。

 それが黒髪男の前にいた聖級剣士二人の背中に炸裂し、真っ二つになった二人を目眩ましにして黒髪男に炸裂した。

 こいつら二人と共闘することも考えたけど、ずっと襲ってきた国の連中に背中を預けるなんて土台無理だし、お互いを利用する形の練度の低い連携なんて通じないのは、さっきの光景を見れば明らか。

 そもそも、黒髪男がその気になれば、あの二人なんて秒殺される。

 

 だからこそ、奴らには一瞬の隙を作るためだけの豪華な囮になってもらった。

 これでどうだ!?

 

「なんとも思い切りのいい一撃……ん!? 子供!?」

 

 くっ!?

 ダメか!?

 光の太刀への迎撃が間に合ってしまったのか、黒髪男は無傷。

 でも、聖級剣士二人がいきなり死んだことと、それをやったのが(こども)と知って驚いた顔をしてる。

 光の太刀の迎撃で多少体勢も崩れてるし、好機だ!

 動揺を鎮める暇も与えずに殺し切るしかない!

 

「『衝撃波(エアバースト)』!」

 

 私は背中側から自分にぶつけた衝撃波と、全力全開の踏み込みで黒髪男に突撃した。

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