剣姫転生 〜エルフの娘は世界最強の剣士を目指す〜   作:カゲムチャ(虎馬チキン)

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21 大英雄

「無詠唱魔術!? さっきの光の太刀といい、その歳でいったいどれほどの……!」

 

 黒髪男が何故か目をキラキラさせて私を見るけど、そんなことを気にしてる余裕はない。

 私は衝撃波で加速して一直線に突っ込み……幻惑歩法で向きを変えた。

 このレベル相手に真正面からの攻撃が有効打になるとは思ってない。

 幻惑歩法の敵を惑わす移動法に、更に衝撃波移動という奇抜な動きを混ぜ合わせ、より予測を困難にしていく。

 

「おお! 今度は幻惑歩法まで! 素晴らしい! それでこそ北神流だ!」

 

 なんか黒髪男が感動してるような気がするけど気のせいだろう。

 私は幻惑歩法で撹乱しつつ背後を取る。

 そこで更に上に向かってジャンプ!

 直後、私のいた位置を正確に棍棒が通過していって冷や汗が出たけど、構わず黒髪男の頭上から二撃目の光の太刀を放つ!

 

「おおっとぉ!」

「ッ!?」

 

 これでも通じない!?

 黒髪男は体勢の崩れも、幻惑歩法による撹乱もまるで意に介さずに私の光の太刀を受け流し、まるで高位の水神流みたいに綺麗なカウンターを放ってきた。

 それを私も水神流の技で受け流す。

 でも、あっちと違ってカウンターを放つ余裕まではない!

 

「水神流までも!? 素晴らしいを通り越して凄まじい! 我が息子をも超える才気を感じる!」

「うっ……!?」

 

 黒髪男の連続攻撃。

 技のキレは凄まじいけど、身体能力的には手を抜いてるのか、私でもなんとか受け流せた。

 でも、やっぱりカウンターの余裕まではなくて、どうにもならずに衝撃波移動で後ろに下がるしかなかった。

 

 どこまでもテンションを上げていく黒髪男と反比例するように、私の胸中は絶望に包まれていく。

 距離を、取ってしまった。

 攻撃が途切れてしまった。

 その間に黒髪男は僅かに崩れていた体勢を完全に立て直す。

 聖級剣士二人の命と引き換えに作った僅かな綻びが、綺麗サッパリ消えて無くなった瞬間だった。

 

 もう、勝ち目が見えない。

 どうしようもない。

 私一人だったら、どうせ一度死んだ身だし、戦いに生きる者の宿命として、最期まで戦って潔く散ってやろうって気にもなれたかもしれないけど、ここで私が死んだら父と母まで死んでしまう。

 それはダメ!

 それだけはダメ!

 せめて二人だけは、何がなんでも逃さないと……!

 

「む?」

 

 私がそう思った瞬間、黒髪男に向かって一本の矢が飛来した。

 聖級剣士どころか、そこらの一兵卒の攻撃にすら劣る弱々しい攻撃だ。

 それはそうだろう。

 これを射った人は、いつ倒れてもおかしくないくらい弱ってるんだから。

 

「父!」

「エミリー……お前だけでも逃げなさい!」

 

 母に支えられた父が、弱った体を奮い立たせて、通じないとわかってるはずなのに、何本も何本も、兵士から奪った弓矢を力の限り射る。

 

「ダメ! 私が、時間、稼ぐ! 二人は、シルを!」

「ダメだ! 子を見捨てて逃げる親がどこにいる!? エミリーこそ生き延びて、シルフィを頼む!」

「ッ〜〜〜!!」

 

 無理だ。

 それは無理なんだよ、父。

 私が逃げたところで、黒髪男に追いかけられたら、逃げ切るどころか背中を見せた瞬間にやられる。

 父達の足止めなんて意味がないくらい、圧倒的な実力差がある。

 ここで誰かが生き残れるとすれば、私が黒髪男の注意を引いて、その隙に両親が逃げるくらいしかなかった。

 

 でも、二人はきっと逃げてくれない。

 この極限状態ですら、私を見捨てて逃げられないくらい愛してくれてるって、今の行動だけで嫌というほどわかってしまった。

 

 なら、どうする?

 勝つしかないでしょ!

 それ以外に二人を生かす道がない。

 勝ち目なんて見えない。

 だけど、やるしかないんだ!

 

 やってやる!

 奇跡起こしてやる!

 

「あああああああああああ!!!」

 

 私はお嬢様のごとく雄叫びを上げて突撃した。

 恥も外聞も捨てて、死にものぐるいの全力でこいつを倒す!

 

「大切な者のため、己より強大な敵に勝算無しで向かってくるか! その歳にして実にあっぱれな心意気だ!」

 

 うるさい死ね!

 剣神流奥義『光の太刀』!

 

「ほい!」

 

 真正面からじゃ光の太刀ですら全く通じない。

 あっさりと受け流されて、カウンターの横薙ぎが私に迫る。

 私はそれを、自分で振り下ろした剣に合わせて倒れ込むことで回避。

 更に左手を剣から離し、両腕の肘から先を地面につける。

 

 北神流『四足の型』!

 そこから地面につけた腕で跳ね起きながら体を捻り、真下からの追撃を放つ。

 無理な体勢だから光の太刀は使えなかったけど、それでも滅茶苦茶な角度から迫る無音の太刀だ!

 

「ほいさ!」

 

 それも黒髪男はうねるように棒を回転させて受け流す。

 まだ!

 私は捻った体を更に捻って一回転。

 回転しながら立ち上がり、そのままの勢いでもう一発!

 北神流『円天華』!

 

「なんの!」

 

 黒髪男は冷静に、今度は受け流さずに一歩後ろに下がって攻撃を避けた。

 そして、今度は反撃に出てくる。

 さっきまで私の攻撃を受け流すために回転していた棍棒が、今度は私の頭を叩き潰す軌道で振り回される。

 私はそれを水神流の技で受け流そうとして……

 

「北神流奥義『朧十文字』!」

「かはっ!?」

 

 突然視界から棍棒が消えて、気づいたら棍棒の反対側を脇腹に叩き込まれていた。

 何が起こったのかはわかる。

 魔眼も闘気の流れを捉えてたから、どこにどういう力を入れてどう動いたのかは理解できてる。

 

 黒髪男は、振り下ろされる棍棒の軌道をとてつもなく滑らかに変えて自らの体に引きつけ、そこから腰を捻って体ごと半回転。

 回転に合わせて、棍棒の反対側で横薙ぎの一撃を放った。

 結果、私には来ると思ってた振り下ろしの攻撃が消えたように見えて、突然横からの攻撃が現れたように感じたわけだ。

 

 問題は、見えていても全く反応できないほどの技量の差だよ。

 タイミングも、駆け引きも、身体コントロールの技術も圧倒的すぎる。

 思いっきり手加減された上でこれだよ?

 ギレーヌですら足下にも及ばないだろう絶対強者。

 世界最強の七大列強か、そうじゃなきゃ歴史に名を残すような伝説の偉人か何かじゃないかとさえ思う。

 

 400年前、魔族を率いて人族に攻め込み、アスラ王国とミリス神聖国以外の人族の国全てを壊滅状態に陥れた『魔神』ラプラス。

 

 その魔神ラプラスを倒した『魔神殺しの三英雄』、『龍神』ウルペン、『甲龍王』ペルギウス、『北神』カールマン。

 

 三大流派の祖であり、今でも流派最強の長がその称号を受け継いでいる『剣神』『水神』『北神』。

 

 ラプラスより前の時代に魔族を率いた不死身の魔帝、『魔界大帝』キシリカ・キシリス。

 

 そんなキシリカを倒した『勇者』アルス。

 

 復活したキシリカと相討ち、その時、大陸に大穴を空けて二つに分断したという『黄金騎士』アルデバラン。

 

 多くの偉業を成して超有名になった北神英雄譚の主人公。

 100年くらい前まで私が目指す世界最強の剣士と呼ばれていた『北神カールマン二世』アレックス・(ライバック)・カールマン。

 

 師匠や父に教えてもらった、歴史に残るような伝説の登場人物達。

 目の前の黒髪男は、そういう存在と同一視しちゃうくらいの理不尽な強さだ。

 なんでこんな人が傭兵なんかやってるのさ。

 国に雇われなくても、紛争地帯で小競り合ってる小国くらい、一人で相手にできるでしょ。

 

 確実に何本か肋骨が逝ってる脇腹の痛みを感じながら、思わず現実逃避気味にそんな感想が頭を過ぎった。

 けど、すぐにそんな逃げ腰の思考回路に活を入れ、足に力を込めて吹き飛ばされないように踏ん張る。

 向こうの武器が剣だったら私は真っ二つになってただろうけど、棍棒ならその場で耐えて反撃の一撃を叩き込める!

 そうして、私はそこから無理矢理光の太刀を放ち……

 

 ━━それが黒髪男の棍棒を両断した。

 

「!?」

 

 苦し紛れの一撃のつもりだった。

 でも、そうか!

 本人がいくら強くても、武器の方がその使用に耐えられなかったんだ!

 もしかしたら、かなり使い古した武器だったのかもしれない!

 

 そう思って、私の思考は一瞬、驚愕と喜びの感情に支配されてしまった。

 迂闊だったとしか言い様がない。

 そんな都合の良い話があるはずもなく、これが黒髪男の戦略だって気づけなかったんだから。

 

「ッッッ!!?」

 

 喜ぶ私の目の前で、目と鼻の先で、黒髪男が両断された棍棒を手放して自由になった両掌を強く打ちつける。

 大きな音が鳴った。

 実際の音量以上に大きく、私には爆音にすら聞こえた音が。

 それが私の聴覚を狂わせ、感覚を狂わせ、意識すらも徐々にブラックアウトさせていく。

 

「北神流『柏手』。特定の音に特定の魔力を流して放つ、獣族の吠魔術という技を参考にして作った技だ。

 本家と違って、普通に使っても相手の平衡感覚を僅かに狂わせる程度の威力しか出せないけど、相手の思考を誘導して最も脆いタイミングにぶつければ、こうして意識すら断つことのできる中々に便利な技だよ」

 

 それ、どこかの暗○教室で見た。

 思わずそんなツッコミが脳内を飛び交ってる間に、私の意識はどんどん遠くなっていく。

 

「エミリー!?」

 

 最後に父の絶望したような声が聞こえてくる。

 ああ、なんとも最悪な死に方だ。

 そうして無念のうちに、私の意識は完全に途絶えた。

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