剣姫転生 〜エルフの娘は世界最強の剣士を目指す〜   作:カゲムチャ(虎馬チキン)

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22 新たなる指導者

「やあ! 目が覚めたかい?」

 

 目が覚めたら白い場所にいて、白いモザイクを纏った自称神に話しかけられた。

 なんてこともなく、むしろ私に話しかけてきたのは、白とは正反対の黒い髪をした壮年の男だった。

 どこかで見た顔……というか意識を失う寸前まで殺し合いをしてたはずの男の顔だ。

 

「ッ!?」

 

 その顔を見て一瞬で眠気が飛んだ私は、バッと飛び起きて身構える。

 激痛が走った脇腹を無詠唱治癒魔術で治して剣を……あれ!? 剣は!? 私の剣はどこ!?

 

「どうどう、落ち着きなさい。私は君の敵ではないよ」

「嘘!!」

 

 剣は……あった!

 何故か困ったような顔してる父が持ってる!

 私は即座に男から父を背中に庇うような位置に立ち、剣を渡してもらうべく後ろに手を伸ばす。

 

「父! 剣、ちょうだい!」

「いや、その、なんというか……」

「早く!!」

「……落ち着きなさい、エミリー。私も未だにちょっと頭が追いついてないんだけど、とりあえず彼は本当に敵じゃないみたいなんだ」

 

 父まで何を!?

 すわ、洗脳か!?

 と、慌てかけたところで、父の隣にいた母が優しく私の体に手を回し、その豊満な胸に私の頭を埋める形で抱きしめた。

 

 転移初日に抱きしめられた時は精神的にいっぱいっぱいだったから、それどころじゃなかったけど。

 今は化け物を前にしてるとはいえ、その化け物が敵意を見せないどころか、一見するとフレンドリーな感じに話しかけてくるという妙な状況だからか、私の胸には場違いにも前世から続く胸囲の格差社会への憤りが湧いてきた。

 いや、平常時ならこの憤りが条件反射で湧いてくるのがデフォルトではあるんだけどさ。

 

 でも、それはそれとして、大切な人の優しい人肌の感触が、私に初めての人斬りの業を乗り越えさせてくれた温もりが、私を少しリラックスさせて冷静にさせた。

 

「エミリー、落ち着いてよく考えましょう? 彼が敵なら、私達はもう生きていないはずよ」

「…………」

 

 母の諭すような言葉によって、私の頭は客観的に現在の状況を考え始める。

 私は剣術以外ポンコツだし、成績も壊滅的だったけど、別にバカじゃないのだ。

 ただちょっと好きなこと以外(勉強とか)が全然できなくて、覚えるのに時間がかかって、慣れるまで失敗を繰り返してポンコツを晒すだけだ。

 決して無能じゃないのだ。

 

 そんな無能じゃない脳細胞が必要に駆られて高速回転した結果、出た結論は「確かに、母の言う通り」だった。

 黒髪男がそのつもりなら、私も両親もとっくにこの世にいない。

 騙して何かをさせようとしてるって可能性もあるけど、その場合、警戒するだけ無駄だ。

 だって、力関係は明白なんだから、向こうがその気になったら、いくらでも強制的に言うことを聞かせられる。

 

 ……というか、逃げることすらできない圧倒的な力の差がある以上、何を警戒しても無駄だよねこれ。

 全ては黒髪男の気分次第だ。

 私達が生き残る方法はただ一つ。

 この黒髪男に媚びへつらうことだけ。

 うわ、嫌だなぁ。

 でも、二人を守る方法がそれしかないなら仕方ない。

 

「ごめんなさい。なんでも、するから、二人、だけは、助けて、ください」

「ん? 今なんでもするって言ったかい?」

「言った」

 

 例えこいつが真性のペド野郎で、私の体を要求してきたとしても耐えてみせる!

 その覚悟でいた私に、黒髪男が要求してきたのは予想外のことだった。

 

「だったら、私の弟子になってくれないかい!?」

「……弟子?」

「そう! 弟子だ!」

「……なんで?」

 

 私は首を傾げた。

 そんな私に、黒髪男は興奮したようにまくし立てる。

 

「ご両親には既に話したけれど、私は己を磨くと共に北神流を、『北神カールマン一世の教え』を世に広める旅をしていてね!

 君の才覚と、何より両親を守るべく、なりふり構わず勝ち目の無い強敵に立ち向かってきたその勇気に、北神一世のような英雄の片鱗を見たんだ!

 君のような子にこそ、私は北神一世の北神流を教え込んでみたい!」

 

 熱弁する黒髪男はまるで、部活に熱心に誘ってくる熱血系の教師みたいだった。

 その姿からは、これまで紛争地帯で出会い、殺してきた奴らみたいな悪意を一切感じない。

 

「……傭兵の、仕事は、いいの?」

「構わない! 既にマルキエン傭兵国には契約解除を願い出たし、君を鍛える間は傭兵家業も休業するつもりだ。元々、傭兵という肩書にそれほど思い入れはないしね」

 

 じゃあ、この人が私を殺す理由はなくなったのか。

 

「私、剣神流も、水神流も、使うけど」

「関係ないさ! 北神流は臨機応変、なんでもあり! 使えるものはなんでも使うがモットー! むしろ、それほどに他人にはない強みを持っている君には北神流が向いている!」

「私、師匠、もういるけど。北神流、嫌いな」

「むむ!? それは悲しいね。その師匠とやらに会った時は、その人にも北神流の素晴らしさを教え込んであげよう!」

 

 私の反論とも言えない確認事項みたいなものを、この人は全て簡単に切って捨てた。

 どうしよう。

 考えれば考えるほど断る理由がない。

 そもそも断れる立場じゃないし、こんなに強い人に教えてもらえるなら、個人的には大歓迎だ。

 ただ一つ、さっきまで殺し合ってた相手を信用できるのかが最大の問題だけど……信用するしか選択肢がないんじゃ、腹を括るしかない。

 

「私は、エミリー。今は、剣聖。よろしく、お願い、します」

「おお! 受け入れてくれるんだね! では私も改めて名乗ろう! さすらいの傭兵……いや、傭兵業は休業するんだった。さすらいの武芸者、シャンドル・フォン・グランドールだ! 気軽にシャンドルと呼んでくれたまえ!」

「わかった。よろしく、お願い、します。シャンドルさん」

「シャンドルでいいよ。それと敬語もいらない。君、敬語あんまり得意じゃないだろう?」

「……わかった。じゃあ、よろしく、シャンドル」

「うん! よろしく!」

 

 こうして、私に新しい師匠ができた。

 端的に言って化け物にしか思えない師匠が。

 でも、師匠って呼んだら最初の師匠である師匠が嫌な気分になりそうだから、遠慮なくシャンドルと呼び捨てにさせてもらおう。

 こうなったら、この化け物から学べるだけ学んでやる。

 この日、私はそんな決意を固めた。




ヒトガミ「…………」orz

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