剣姫転生 〜エルフの娘は世界最強の剣士を目指す〜 作:カゲムチャ(虎馬チキン)
シャンドルが師匠として同行してくれるようになってから、紛争地帯を抜けるための旅は今までの苦戦が何だったのかと思えるレベルで順調に進んだ。
シャンドルと戦った場所から少し進んだだけでバトルロイヤル地帯を抜けて、父の治療ができたっていうのも大きいんだろうけど、それ以上にシャンドルという化け物が味方にいるってことの安定感がハンパない。
戦闘自体は修行の名目で私がやらされるんだけど、その後ろでシャンドルが両親を守ってくれるおかげで、目の前の相手だけに集中できる。
そうなれば聖級剣士だってそこまで怖くない。
紛争地帯に飛ばされて、不本意ながら命を賭けての実戦経験を積み重ねた結果、私の戦闘力は自分で思ってる以上に上がってたみたい。
シャンドルに出会った時点で北神流もかなりのレベルに達してたってことで、修行初日に『北聖』の認可貰ったし。
これで二つの流派で聖級。
残る水神流も、認可を貰える相手がいないだけで、シャンドルの体感的に聖級くらいはあるらしいので、実質三大流派聖級だ。
ここまでくれば、一流派だけの聖級剣士よりは明確に格上だと言っていいと思う。
まあ、油断したら普通にやられる程度の差だけど。
でも、旅が楽になった最大の要因は他にある。
それは、シャンドルと戦ったのを最後に、戦闘の機会自体が大幅に減ったことだ。
今までは平均して二日に一度、酷い時は一日に何回も魔物なり野盗なり兵士なり、何かしらの敵と遭遇してたんだけど、それが今では1週間に一度くらいの頻度にまで激減した。
同じ紛争地帯でも、バトルロイヤル地帯を抜けたら天国と地獄だったよ。
だけど、なんかそれだけじゃないような気もする。
なんというか、バトルロイヤル地帯で感じてた、あの運命が私達を殺しにきてるような感覚。
あるいは運命じゃなくて誰かの作為を感じるレベルでの不運の連続。
あれが無くなったような気がするんだよね。
三国のどこか、もしかしたら全部に死ぬほど恨まれてて、そこの領域を抜けたから諦めたとか?
うーん……確かに兵士は殺しまくったけど、国家が滅ぶかどうかの瀬戸際の時に、私情を優先して私達みたいな殺しても何の得もない普通の一家を狙うかな?
まあ、三国の思惑も運命様のご機嫌も考えてたってわからないし、考えるだけ無駄かな。
そんなこんなで、びっくりするくらい順調に(それでも街道封鎖されたり、戦争に巻き込まれたり、密偵と間違われて殺されそうになったりはしたけど)紛争地帯を突き進むこと半年と数ヶ月。
遂に私達は紛争地帯を突破し、中央大陸南部のまともな国に出ることができた。
ついでに、この半年強で色々鍛えられた私は『北王』の認可を得た。
……本来なら一番喜べるはずのことがついで扱いとか、随分余裕のない時間を過ごしたものだなぁ。
で、まともな国に出てからは中央大陸の南部と西部を横断する最も大きい街道に沿って移動。
道中でもシャンドルにシゴかれつつ、故郷であるアスラ王国フィットア領を目指す。
というか、この街道の安全快適っぷりが本当に凄い。
野盗はたまに出てくるけど、そいつらは紛争地帯から逃げ出した上に、食うに困って野盗やってるような奴らなので、随分と弱い。
グラ○ドラインとイー○トブルーの海賊くらい違う気がする。
そんな奴らが生きてられるくらいだから、魔物も滅多に湧いてこないし、湧いてきたとしても、これまた弱い。
中央大陸南部は本来、魔物が弱い方の土地だからね。
街道を通ってる以上、例外的に強い魔物がいて縄張りにしてる森とかも通らないわけだし。
ここは極楽かな?
なお、アスラ王国はもっと治安がいいもよう。
紛争地帯と足して2で割ってどうぞ。
そんなツッコミを毎日のようにしながら街道を進んでいたある日、私達はある人達に出会った。
前方から歩いてくるのは、見覚えのある青い髪の美少女を含む三人組。
最後に会ってから5年以上経ってるはずなのに、何故か当時と全く変わってない中学生くらいに見える魔術師少女。
「ロキシーさん?」
「え? あ、ロールズさん!? ということは、そっちの子はエミリーちゃんですか!? ご無事でしたか!」
驚いた顔のロキシーさんが走り寄ってきて、あ、石に躓いて転んだ。
スカートが盛大にめくれてパンツが丸見えになってる。
可哀想だったので、シャンドルの目に無詠唱魔術で目潰しの火の球を放ちつつ、全速力で移動してめくれたスカートを元に戻してあげた。
「あ、ありがとうございます、エミリーちゃん。というか、凄い身体能力ですね……」
「鍛えた、から」
羞恥心で赤くなってるロキシーさんに、努めて冷静にそう返す。
ロキシーさんと私の関係はそんなに深くない。
故郷のブエナ村にいた頃、数年くらい村に滞在してた高名な魔術師であるロキシーさんに、父が姉の髪色での差別の件で相談をしたのが交流のキッカケ。
道で会えば軽く挨拶する程度の仲だった。
でも、ロキシーさんが村から去った後に、この人がルーデウスの魔術の師匠だったと知り、そのルーデウスがロキシーさんを死ぬほど尊敬してて、布教を目指す
あと、ルーデウスと文通してたことも知ってるので、多分向こうも少しは別れた後の私のことを知ってると思う。
「ロキシーさん、なんで、こんな、ところに? 確か、シ、シーロ……なんとか王国で、王子様の、家庭教師、やってるって、聞いたけど?」
「シーローン王国ですね。そこは雇用期間が終わったので辞めてきました。今はお世話になったグレイラット家の方々を探すために、恐らく捜索の手が及んでいないだろう魔大陸に向かっている途中です」
「ロ、ロキシーさん……!」
私は感動した。
あのルーデウスに魔術を教えたロキシーさんなら、雇用期間が終わっても国に雇われることくらいできたはずなのに、その立場をなげうって師匠の家族を探してくれてるというのだ。
しかも、向かう先は魔大陸。
やたら強い魔物しか出てこない、紛争地帯よりも危険と言われる場所。
どんだけ良い人なんだろうか、この人は。
ルーデウスがやたらこの人のことを尊敬してた理由がわかった気がする。
「凄い。立派」
「そ、そんなことありませんよ! こっちのお二人もわたしと同じ理由で協力してくれてますし……って、あれ? エリナリーゼさん?」
ん?
ロキシーさんと一緒にいた二人、金髪縦ロールをしたエルフの美人さんと、ドワーフっぽい背の低いお爺ちゃんのうち、エルフの美人さんの様子がおかしい。
目を見開いて私の後ろを、というか父を凝視している。
父の方も、何故か美人さんを見たまま微動だにしない。
え? 何? 知り合い?
同じエルフだし、元カノか何か?
「ロ、ロールズ……!」
「……母さん」
…………ふぁ!?
父、今なんて言った!?
母さん!?
母さんって言った!?
え? つまりこの人……私のお婆ちゃん!?
若っ!?
お婆ちゃん、若っ!?
「ぶ、無事で、無事で良かったですわーーー!」
「うわっ!?」
お婆ちゃんが泣きながら父に抱き着き、母はお婆ちゃんのことを知ってたのか、優しそうな顔で二人を見ている。
ロキシーさんと私、ドワーフっぽいお爺ちゃんはポカンとするしかない。
なお、シャンドルは即座に空気に適応したのか、腕を組みながら後方師匠面で「良かった良かった」とばかりに頷いていた。