剣姫転生 〜エルフの娘は世界最強の剣士を目指す〜   作:カゲムチャ(虎馬チキン)

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「失礼、取り乱しましたわ……」

 

 ひとしきり父を抱いて号泣し、ついでに母と私のことも抱きしめてきたお婆ちゃんがようやく落ち着いた。

 今は気まずそうな顔で小さくなってる。

 照れてる、可愛い。

 

 と最初は思ったんだけど、照れてるだけにしてはちょっと雰囲気が固いというか、マジで肩身が狭そうな顔してるというか……。

 父はそんなお婆ちゃんを見て苦笑してるし、もしかしたら親子関係がそんなに上手くいってなかったのかもしれない。

 それでもお婆ちゃんが父を愛してくれてるってことは今の泣きっぷりを見れば充分に伝わった。

 父の方も別にお婆ちゃんに対してそこまで悪感情を抱いてるようには見えない。

 何かしらの事情でこんがらがってるのかな?

 もしそうなら、これをキッカケに仲直りしてほしい。

 

「エリナリーゼさん、お子さんどころかお孫さんまでいたんですね……。意外なような、そうでもないような……」

「わしとしては、この女のしおらしい姿を見たことの方が驚きじゃな。まあ、あまり詮索してやるなよ、ロキシー。これはこの女にしては珍しく、他人にずけずけと踏み入られたくない領域と見た」

「は、はい。すみません、タルハンドさん」

 

 ロキシーさんと、タルハンドと呼ばれたドワーフっぽいお爺ちゃんが小声で会話してた。

 それはさておき、改めてお互いに自己紹介をする。

 父とお婆ちゃん以外、お互いに殆ど面識ないからね。

 

 そうして自己紹介した結果、なんとお婆ちゃんとタルハンドさんが、師匠の冒険者時代の元パーティーメンバーだったと判明した。

 なんとも奇妙な縁だと思った。

 尚、こっち側の自己紹介は、シャンドルが自分の正体に関するやたらと思わせぶりな発言ばっかりして、結局教えてくれなかったから、ちょっとイラッとした。

 教える気があるなら、さっさと教えてほしい。

 シャンドルの正体はかなり気になってるんだから。

 

 そんな茶番を挟みつつ、私達はお互いの情報のすり合わせを行った。

 とはいえ、こっちは情報なんて入りようのない紛争地帯にいたから、情報を貰うばっかりだったけど。

 こっちから提供できた情報と言えば、紛争地帯攻略記くらいだ。

 父と私が結構な頻度で死にかけた話をしたらお婆ちゃんが真っ青になり、青繋がりで青竜狩った話をしたら「その歳で竜退治ですか……」とロキシーさんが遠い目になったけど、それは置いとこう。

 

 ロキシーさん達から貰った情報を纏めるとこうだ。

 例の極大魔力によって、フィットア領はほぼ全域が消滅。

 建造物や自然物は綺麗サッパリ消えてただの草原になり、人や動物、魔物なんかは私達同様転移した。

 この転移の範囲が曲者で、転移する場所は世界中のどこからしい。

 考えてた中で最悪の可能性だ。

 これじゃ、姉や師匠達の転移先の目星すらつけられない。

 

 でも、ロキシーさん達が持ってきてくれたのは、絶望的な情報ばかりじゃなかった。

 

「シルが、生きてる……?」

「ええ。少なくとも生存確認の報告がフィットア領の難民キャンプに届けられたのは間違いありませんわ」

 

 私達、というか父とその家族の情報を難民キャンプとやらで調べてたらしいお婆ちゃんがそう証言してくれた。

 残念ながら連絡先まではわからなかったみたいだけど、生死不明とか、死亡が確認されたとかに比べればずっといい。

 最高の朗報に、私達家族は心の底から安堵の息を吐いた。

 

 でも、油断はできない。

 死んでないってだけで、どうなってるのかはわからないのだ。

 希望は持てたけど、結局のところ早く探し出した方がいいことに変わりはない。

 

「捜索についても希望はあります。

 掲示板に貼られた伝言によると、パウロさんが娘さんの一人を保護した上で、ミリス神聖国で『フィットア領捜索団』を立ち上げたみたいです。

 パウロさんはこういう時こそ頼りになる人ですし、きっと大きな力になってくれるはずです」

「おお。さすが、師匠」

 

 師匠の凄さ強さは身をもって知ってる。

 転移からもう半年以上経ってるんだし、今頃はしぶとく生きてそうなルーデウスあたりは回収できてるかも。

 ……それにしても、ミリス神聖国か。

 シャンドルの件といい、またヒトガミの言葉が当たった。

 もしかしたら、あれは本当にただの夢じゃないのかもしれない。

 

「なら、私達はフィットア領ではなくミリス神聖国へと移動して、パウロさんと合流すべきですかね?」

「いい判断だと思います。ミリスなら魔大陸までの通り道ですし、私達もご一緒しますよ」

「うっ、パウロに会うのは嫌ですわ……。でも、ロールズ達のためなら……!」

「わしはゴメンじゃから、どっかで時間潰しとるぞ」

 

 私がちょっとヒトガミに関して真面目に考えてる間に、大人達の会議で行き先がフィットア領からミリスへ変更になりそうな感じになってた。

 まあ、妥当だと思う。

 お婆ちゃん達がフィットア領の現状を教えてくれた上に、もうフィットア領自体が何もない草原になってるんじゃ行く意味がない。

 だったら、まずは師匠に合流して情報を共有してから、一緒になって姉や師匠の家族を探すなり、手分けするなり、適切な方を選べばいいという大人達の判断は多分正しい。

 

 でも、仮に姉の居場所が特定できてるんだとしたら、もっと効率的な方法がある。

 

「わかった。父と、母は、お婆ちゃん達と、師匠のところ、行って」

「え? エミリーは……」

「私は、先に、アスラ王国、探す」

 

 私の言葉に、全員が困惑したような顔で目を見合わせた。

 特に父と母、お婆ちゃんが困ったような顔してる。

 何せ、私の言葉は両親と別れて一人で別方向に向かうっていう宣言だ。

 10歳の子供がそんなこと言い出したら、そりゃ困る。

 

「エミリー、理由はなんだい?」

「アスラ王国に、シルが、いるような、予感、するから。いなかったら、私も、すぐ、ミリス、行く」

「で、でも……」

「母、心配無用。私、もう北王。それに、どうせ、シャンドルも、ついてくる」

「その通り! 君が一人前になるまで私はついていくよ!」

 

 北王で一人前じゃないなら、北神にでもならないと解放してくれなさそう。

 まあ、それはそれで望むところだけどさ。

 どうしてもウザくなったら、シャンドルを倒せるくらい強くなって振り払えばいいし。

 

 その後、渋る家族を「ちょっと引っかかってるだけだから。一通り調べたらすぐミリス行くから」と説得し、制限時間付きで別行動を許可された。

 期限は半年。

 半年間アスラ王国を調べて何もなかったら、私もミリスへ行って師匠達と合流する。

 あんな荒唐無稽な夢が根拠なんだし、それくらいが妥当なところだろうね。

 

 というわけで、私は両親をロキシーさん一行、主にお婆ちゃんに任せて、シャンドルと二人でアスラ王国へと向かった。

 父と母も、紛争地帯で私だけに戦闘を任せるなんて我慢できないって言ってくれて、それを聞いたシャンドルが上機嫌で鍛えてたから、私と離れてもどうとでもなるはず。

 父は元々そこらの一兵卒くらいには基礎ができてたから、短い期間で北神流中級までいったし、母も北神流初級の認可を得た。

 この平和な街道沿いに進むなら問題ないだろうし、もし問題あってもロキシーさん達がいる。

 思うところがあるとすれば、この旅で父とお婆ちゃんの間にあるのかもしれない、こんがらがった事情みたいなものが解消すればいいなぁってことくらいだ。


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