剣姫転生 〜エルフの娘は世界最強の剣士を目指す〜 作:カゲムチャ(虎馬チキン)
両親と別れた後、二人の指導に割いてた時間を全部私に注ぎ込めるようになって超上機嫌のシャンドルに、鼻唄歌いながらボッコボコにされてシゴかれつつ。
中央大陸を分断する赤竜山脈の二つしかない通行可能なポイントの一つ、南部と西部を繋ぐ『赤竜の下顎』と呼ばれる渓谷を通って、遂に私達は当初の目的地だったアスラ王国へと到着した。
でも、お婆ちゃん達に情報を貰って状況が変化したため、この先の目的地はフィットア領ではなく、アスラ王国の首都『王都アルス』だ。
アスラ王国で情報収集するなら、とりあえず各地の情報が集まる首都で行うのがいいとシャンドルに言われた。
そして、まだ続いてる街道沿いに進んでたら、特に何事もなく王都アルスに到着。
というか、この街道の終点が王都だった。
なお、終点まで街道を歩いた感想は「アスラ王国やべぇ」である。
元から安全すぎる道だったのに、アスラ王国に入ってからはそこに石畳まで敷かれるようになって、世界中の安全と平和が一点集中した国なんじゃないかと思ったよ。
アスラ王国は土地が肥沃すぎて、普通に生きてれば飢えることのない国とまで言われてるらしいし、アスラ王国マジやばい。
ついでに、そんな国で餓死寸前になって、死にかけたところをお嬢様に拾ってもらったっていうギレーヌはもっとヤバい。
まあ、ギレーヌのことはさておき、私の故郷であるブエナ村も当然アスラ王国の一部だったわけだから、私は随分と恵まれた生まれをしてたんだなぁ。
もし紛争地帯にでも生まれてたらと思うと、背筋が凍るよ。
それはそうと、王都に辿り着いたので、早速姉に関しての情報収集を行う。
まずはそこらの酒場をハシゴして情報屋を探そうとシャンドルが言い出した。
なんでも、シャンドルの奥さんが情報関係に強い人だったみたいで、それを見て学んだからこういう系は任せなさいと言われた。
家庭放り出して幼女をたぶらかしてていいのかと聞いたら、もう死別してるから大丈夫と返されて空気が凍ったよ。
直後に笑いながら100年以上前のことだって言ってたけど、そうなるとシャンドルはいったい何歳なんだろう?
まあ、それも今は関係ない。
今はとにもかくにも姉の情報が最優先。
というわけで、情報屋を求めて酒場へゴー。
そこで店主に情報に詳しい人を紹介してくれってシャンドルが頼んだら、あっさりと何人もの情報屋の名前が出てきたし、なんなら情報屋本人が酒場で飲んでた。
情報屋にとって、酔っぱらい達の証言は大事な情報源の一つなんだってさ。
ホントに酒場って情報が集まるんだね……。
そういうのはフィクションだと思ってたよ。
で、情報屋に紛争地帯で襲ってきた連中の身包み剥いで売り飛ばしたお金をいくらか握らせて、姉の情報を求めた。
シャンドル曰く、情報屋と話す時にはいくつか守った方がいいルールと、やった方がいいテクニックがあるみたいで、覚えとくと世界を旅する時に凄い便利だって言われたので、情報屋と話し合うシャンドルをお手本にして必死に覚える。
幸い、自分のことはあんまり話すなとか、情報屋は口車に乗せていらんことまで喋らせようとしてくるから自分のペースで必要なことだけ話せとか、そういう初級編の内容なら私でもなんとかできそう。
気を抜いてポンコツ晒さない限りは。
でも、シャンドルがやってることは明らかに上級編のやり取りだったから、このポンコツ頭と片言言葉がある限り無理だと諦めたけど。
そんなこんなで、私達は姉の情報を得ることに成功した。
姉の情報を得ることに成功した。
そう、成功しちゃったんだよ。
びっくりするくらい簡単に姉の情報が手に入ってしまった。
正確には姉と思われる人物の情報だけど。
シャンドルは一応、姉の情報は私の弱みになり得るってことで、こっちの目的をボカしつつ、流れの旅人って設定で、まずは最近王国内であった面白そうな話とかを聞き出し、そこから会話を広げて姉の情報を探るつもりだったらしい。
ところがどっこい。
話を広げるまでもなく、この段階で姉と思われる人物の情報が飛び出してきた。
情報屋の話では、その人物の名前は『守護術師フィッツ』。
アスラ王国第二王女、アリエル・アネモイ・アスラ王女の護衛。
最近の面白い話ということで、他のいくつかの話をした後、情報屋はこのアスラ王国を治める王族のゴシップみたいな話をし出したのだ。
そこで登場したのが守護術師フィッツ。
最近、唐突に王女の護衛に就任した謎の魔術師。
サングラスで顔を隠してるため、素顔は不明。
経歴も不明。
ただし、実力は不明ではなく確かなもの。
無詠唱で魔術を操り、凄腕の暗殺者をも返り討ちにする強者らしい。
無詠唱魔術の使い手であることと、滅多に口を開かないことから『無言のフィッツ』とも呼ばれている。
そして何より、━━無言のフィッツは、10歳程度の白髪のエルフの少年である。
「どうだい?」
「髪の色、違う。少年でも、ない。けど、ほぼ、間違いなく、シルだと、思う」
情報屋と別れてから話しかけてきたシャンドルにそう返す。
緑の髪は不吉って言われてるから、染めたんだとしても不思議はない。
少年って言われてるのはちょっと気になるけど、でも最近唐突に現れた無詠唱魔術が使える10歳程度のエルフとか、ほぼほぼ間違いなく姉でしょこれ。
むしろ、ここまで特徴が一致してて別人だったら、逆にどんな確率だ。
「……いや、しかし、困ったことになったねぇ。王女の護衛となるとそう簡単には会えないよ。何がどうしてそうなったのやら。しかも……」
「うん。アリエル王女、失脚寸前」
情報屋から仕入れた話はフィッツのことだけじゃない。
最近の政権争いの情勢についても軽く聞いた。
それによると姉が護衛してるアリエル王女は、元々王位継承権の低い弱い立場みたいで、最近じゃ他の王族にでも目をつけられたのか、暗殺者とかガンガン送られて、私兵も持ってないから、それを撃退する戦力も姉くらいしかいないという、結構な崖っぷちっぷりらしい。
そんな敗軍の将と一緒にいてハッピーエンドが待ってると思えるほど私はバカじゃない。
私はポンコツだけどバカじゃない。
しかも、フィッツの正体が私の予想通り姉なら、王女様が負けても匿ってくれるような後ろ盾がある可能性はゼロに等しいだろう。
シャンドルもアスラ貴族の政争を少しは知ってるみたいで、負けた側が辿るだろう末路についてもちょっと話してくれた。
良くて飼い殺しか、領地や財産を失って没落。
悪ければ不慮の事故とか不治の病に見せかけて暗殺されるんだってさ。
アリエル王女には複数の暗殺者が既に差し向けられてる以上、悪い方の末路を辿る可能性が極めて高い。
その末路に姉が巻き込まれれば、いっかんの終わりだ。
姉の情報が掴めて喜んだのも束の間。
想像の斜め上を行く姉の置かれてる現状の危うさに、私はひたすら頭を抱えた。