剣姫転生 〜エルフの娘は世界最強の剣士を目指す〜   作:カゲムチャ(虎馬チキン)

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26 追跡

 十中八九姉だと思われる守護術師フィッツの情報を手に入れてから一ヶ月。

 私はきったない字でミリスに旅立った両親に姉と思われる人物を発見したという報告の手紙を……出そうとして、字が汚すぎて情報伝達に齟齬が出そうだねってシャンドルに言われ、最終的にシャンドルに代筆してもらったりしつつ、そのシャンドルの知恵を借りて、どうにかして姉に会う方法を模索していた。

 

 しかし、行った作戦は全部失敗。

 一番有力だったのは、北王の肩書を活かして護衛として売り込む作戦だったんだけど。

 アリエル派唯一の有力貴族だっていうノトス・グレイラット家の屋敷に「北王でフィッツの妹です」って触れ込みで売り込みに行ったら、当主のピレモンさんとかいう人に話すら聞いてもらえずに門前払いされた。

 そもそも会おうとすらしてくれなかった。

 

 年齢のせいで北王って信じてくれないのが原因かと思って、門番の皆さんを叩きのめして、やたら強かった用心棒のウィ・ターさんとかいう人まで叩きのめして、デモンストレーションをかねてピレモンさんのところまで押し入ってみたんだけど、それが悪かったのか完全に怯えられたよ。

 あと、なんかピレモンさん「き、貴様パウロの回し者だろう!? 騙されるか!」とか言ってたんだけど、何? 師匠の知り合い?

 しかも、あんまりよろしくない感じの知り合いっぽい。

 それ以降、ピレモンさんは完全に聞く耳を持ってくれず「出ていけ!」としか言わなくなったので、仕方なく退散した。

 

 それでも、この話が姉まで行けばワンチャンあるような気がしたんだけど、ピレモンさんが上に話を通さなかったのか、それとも姉にそこまでの発言力がなくて上の方で弾かれたのか、向こうからの音沙汰は一切なし。

 作戦失敗である。

 

 で、一番有力な肩書を活かす作戦がダメだった以上、他の作戦でもどうにもならなかったわ。

 後のことを考えると、さすがに世界最大の国の王城に力ずくで乗り込むわけにもいかないし、私達には城に迎えてもらえるようなツテもコネもない。

 唯一ツテと言えそうなのはお嬢様の実家のボレアス家くらいだけど、あっちはあっちで転移事件で領地を殆ど失って大変みたいだから頼れるわけないし。

 

 そもそも、今ボレアス家を動かしてるのは、私が会ったこともないフィリップさんのお兄さんだ。

 姉の情報をつぶさに調べるべく、貴族関係の最新情報を求め続けてたらおまけで知った。

 フィリップさんは転移事件のせいでまだ行方不明。

 お嬢様も行方不明。

 お嬢様が私に剣術で負けて泣きついたことで一回会ったことのある声の大きいお爺さん、フィットア領の領主にしてボレアス家当主のサウロスさんに至っては、転移事件の責任全部押しつけられて処刑されちゃったらしい。

 酷い話だ。

 そういう事情もあって、ボレアス家には頼れない。

 

 私達がやれたことと言えば、姉がアリエル王女の巻き添えで暗殺される可能性を少しでも下げるために、シャンドルと一緒に顔を隠して、暗殺を請け負ってそうな組織を片っ端から潰していったことくらいだ。

 組織を潰しても貴族お抱えの暗殺者くらいいるらしいから、どこまで効果があるかわからないけど、やらないよりはマシだったはず。

 

 バレたら私達の方が暗殺されそうだけど、北神流の潜入術(そんなものまであるんだ)を駆使して組織に関係ない人の目には一切触れず、私達を見た組織の人間は全員消してるから、まだ犯人グループの特徴すらバレてないはずだ。

 ……どっちが暗殺者かわかんないなこれ。

 

 

 事態が動いたのは、暗殺者狩り以外にっちもさっちもいかず、もういっそのこと力ずくで乗り込む作戦を実行して姉を拐ってやろうかと思い始めてた頃だった。

 

 私達は定期的に新しい情報を得るために接触してた情報屋から、とんでもない話を聞いてしまったのだ。

 なんと、アリエル王女は中央大陸北部のラノア王国にある『ラノア魔法大学』ってところに留学という名目で、ちょっと前に秘密裏にアスラ王国を旅立ってたらしい。

 実態は留学という名の島流しみたいだけど、そんなことはどうでもいい。

 問題なのはその護衛の中に『無言のフィッツ』がいて、アリエル王女と敵対してる王族が、念のためにアリエル王女を道中で暗殺しようとする可能性が高いってことだ。

 

「シャンドル!」

「わかっているとも!」

 

 それを聞いた瞬間、私は取るものもとりあえずシャンドルと共に全力で駆け出して王都を飛び出し、アリエル王女を追いかけた。

 今の私なら本気出せば時速100キロくらいで走れる。

 シャンドルの全力ダッシュのスピードに至っては私の倍だ。

 ここは恥も外聞も捨てて、シャンドルにおんぶしてもらいながら、私はアリエル王女が去ったという北を目指した。

 

 シャンドルは凄まじい体力で、アスラ王国から中央大陸北部に抜けるなら必ず通らなければいけないという関所までの道のりを走破してくれた。

 でも、ここから先は赤竜の髭と呼ばれる森林地帯で、ゴールこそ赤竜の下顎と対を成す西部と北部の通り道『赤竜の上顎』と決まってるものの、そこへ行くのにどのルートを通るのかはわからない。

 

 しかも、赤竜の髭は待ち伏せや暗殺に絶好のポイントって話なので、狙う側も狙われる側も通る道を工夫するらしい。

 ここまでの道のりで追いつけなかった以上、多分もうアリエル王女一行はこの森に入っちゃったんだろうし、潜んでるかもしれない暗殺者より早く見つけないと大変なことになる。

 

 私はこの広い森からアリエル王女一行を、いや姉を見つけ出すべく、右眼の魔力眼に限界まで魔力を流した。

 

 シャンドルは知り合いに魔眼の専門家がいるとかで、私に魔眼の扱い方も伝授してくれた。

 魔眼は流す魔力量によって出力の調節ができる。

 同じ眼を持ってるギレーヌと私で見えるものが違ったのは、無意識に魔眼に流してる魔力量が違ったからだ。

 私はごく微量で、ギレーヌは多分そこそこ大量に。

 

 その魔力量をコントロールすることで、私はギレーヌが見ていた自然界の魔力を見ることができるようになったし、更に細かい調節次第で、相手の体の中に宿る魔力総量とかも見抜けるようになった。

 魔力コントロールが無詠唱魔術を使う感覚に近かったことも幸いした。

 覚えといて良かった魔術。

 

 で、今の私は魔力眼を限界まで酷使することで、自然界の魔力に溶け込んだ個人の魔力の痕跡を追ってるのだ。

 魔術に変換された魔力には色がある。

 だけど、魔術に変換されてない魔力、個人個人が体に宿してるだけの魔力にも、実は個人差みたいに微妙な色の違いがある。

 例えるなら、指紋みたいな感じかな。

 

 魔力眼の出力を上げれば、その微妙な色合いの個人差も見分けられるようになった。

 限界まで出力を上げれば、自然界の魔力に溶けてしまった魔力の痕跡を追い、その魔力の個人差を見分け、今見える場所から誰がどっちに行ったのかがわかる。

 もちろん、見知った人物に限るけど。

 姉は見知った人物だから大丈夫だ。

 大丈夫なはずだ。

 

 姉の魔力を見てたのは魔眼を制御できるようになる前。

 だけど、生まれてから転移で離れ離れになるまでの10年間、毎日のように見てきた魔力。

 思い出せ。

 思い出せ!!

 姉の魔力はどんな色をしてた!?

 

 記憶を頼りに、自然の魔力とこれまでここを通った大量の人達が残した魔力が溶け込み、まるで幾千幾万と重なり合った足跡みたいになってるこの場所から、たった一人の魔力の痕跡(あしあと)を探す。探す。探す。

 

「こっち!」

 

 そして、見つけた。

 姉の魔力の痕跡。

 ここを通ったのが最近だからか、かなりハッキリと痕跡が残っててくれたのが幸いした。

 

 その痕跡を辿って全力疾走。

 そうしているうちに、遠くから音が聞こえ始めた。

 金属同士を打ちつけ合う音、何かが斬り裂かれる音、衝撃波のような轟音。

 

 戦闘音だ。

 

 それを聞きつけて、私は更に加速する。

 走り抜けた先にあったのは、横倒しになった馬車、血を流して地面に倒れてる高級そうな服着た人が3人、同じく地面に倒れてる黒装束の不審者の死体がいくつか。

 生きて馬車を襲ってる黒装束が15。

 それに抗ってる馬車の護衛が6。

 

 その護衛の中にいた。

 右手に見覚えのある短杖を、左手にもこれまた見覚えのある短剣を持ち、無詠唱魔術を用いて戦う白髪のエルフが。

 髪の色が違くてもわかる。

 サングラスで顔を隠しててもわかる。

 魔眼なんか使うまでもなくわかる。

 あれは私の血を分けた双子の姉、シルフィエットだ。

 

 そして、その姉に殺意を向けながら一塊になって向かっていく黒装束どもの姿も見えた。

 

「ウチの! 姉に! 何、してんだーーー!!!」

 

 お嬢様以上の怒りの咆哮を上げながら、私は黒装束どもに飛翔する光の太刀を放った。

 まだ遠かったせいで3人しか殺せなかったけど、私の存在に奴らが気づき、姉への突撃を中断して警戒しながら距離を取る。

 その隙に、私は姉を背に庇える位置へと移動した。

 

「エミリー……?」

「うん。シル、無事で、良かった」

 

 後ろから聞こえてくるポカンとしたような姉の声に、黒装束どもから視線を外さないまま答える。

 姉以外の護衛の人達は、何が起きたのかまだ理解できてないのか、姉と同じくポカンとしてる。

 そんなことしてる間に、シャンドルが追いついてきた。

 

「シャンドル、シルを、お願い」

「わかった。もっとも、私が守らなければならないほどか弱い少女には見えないけどね。……この子も素質ありそうだな」

 

 姉に向かってシャンドルの食指が動いてる気配がするけど、気にしてる余裕はない。

 それは目の前の黒装束どもが余裕を失わせるほどの強者って意味じゃないよ?

 確かに、魔眼を酷使したせいで右眼の奥がジンジンするし、頭も結構痛い。

 右眼は閉じて戦った方がマシだと思う。 

 

 それくらい体調が良くない上に、相手は曲がりなりにも王女を狙いに来てる暗殺者集団。

 油断できない状況と相手だし、元からどんな相手でも油断なんてする気はない。

 どんな強者でも油断すれば簡単に死ぬ。

 時と場合によっては不死身の魔王ですら死ぬ。

 それは師匠、ギレーヌ、シャンドルの共通の教えだ。

 

 だから、私から余裕を奪ってるのは戦況じゃない。

 純粋な怒りだ。

 紛争地帯で両親を人質に取ろうとしてきた連中に抱いたのと同質の怒りだ。

 その怒りで判断をミスらないように、自分の心を制御するのに余裕がない。

 

「私は、『北王』エミリー。皆殺しに、される、覚悟は、いい?」

 

 そうして私は、黒装束どもに怒りの鉄槌を下すべく間合いを詰めた。




ピレモン「フィッツの妹、つまりパウロの弟子……! パウロめ……! 弟子を送り込んでくるとは何が狙いだ? アリエル様にすり寄ってノトス家当主の座を狙っているのか? それとも第一王子派と組んで、あの弟子にアリエル様を暗殺させるのが狙いか? どちらにしてもロクなことにはならん。だが、アリエル様はフィッツにご執心だ。フィッツの妹となれば少なくともフィッツを奴と会わせることくらいはしてしまうはず。それでフィッツがパウロに寝返りでもすれば最悪だ。報せるべきではないな」

ピレモンさん渾身のファインプレー。

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