剣姫転生 〜エルフの娘は世界最強の剣士を目指す〜   作:カゲムチャ(虎馬チキン)

28 / 132
27 再会

 さっきの光の太刀で3人殺して、残る黒装束は12人。

 それが6人ずつに分かれて、左右から私を迂回するように馬車の方を目指して走り出した。

 私を倒すんじゃなくて、どうにかして私を避けて後ろの馬車を狙おうとしてる動きだ。

 

「ふん」

 

 小賢しい。

 私は左の集団に向けて横薙ぎの光の太刀。

 それだけで6人の胴が上下に別れて絶命した。

 

 そんな仲間の死に様を見てた残りの6人は、一太刀で纏めて倒されないようにバラける。

 だけど、複数で纏まってても勝てないのに、バラけて勝てると思ったか。

 いや、勝つ必要はないのか。

 奴らの狙いは私じゃないんだから。

 まあ、どっちにしても全員生かしておくつもりはない。

 

「ふっ!」

 

 私は踏み込み一つで一番先頭の奴との距離を一足一刀の間合いまで詰めた。

 そのまま黒装束が武器を振るう前に、光の太刀で両断して抹殺。

 残り5人。

 

 黒装束の一人が私の注意を引こうとしたのか、毒が塗ってありそうな色した投げナイフで牽制してきたので、水神流の技で受け流して遠距離カウンタースラッシュ。

 それでそいつは縦に真っ二つになった。

 残り4人。

 

 今度はその中の3人が決死の足止めって感じで三方向から私の前に踊り出し、その間に一番身体能力が高そうな奴が馬車目掛けて一直線に進んでいく。

 邪魔だ。

 

「北神流『円天華』」

 

 私はまず間合いを詰めて一人目の喉を貫いて殺し、そこから喉を斜め上に斬り裂きながら剣を引き抜いて、その勢いのまま半円の軌道を描いた剣を二人目の頭蓋に叩き込む。

 一瞬で仲間を二人殺された上に、私がそいつらを仕留めるために位置取りを変えてるので、自分の間合いに捉えることすらできなかった三人目は、悠々と光の太刀の構えを取った私に抵抗もできず斬り殺された。

 

 残りは全力で馬車に向かって走る一人だけ。

 私は踏み込みと同時に衝撃波の魔術を自分の背中に向かって発動。

 一気に加速して最後の一人のすぐ後ろに迫る。

 こいつは黒装束の中で一番強かったのか、聖級剣士並みの動きで反撃を試みてきたけど、私は僅かに発動させた幻惑歩法によって目測を誤らせ、一瞬の交差の末に首を飛ばして始末した。

 これにて黒装束全滅。

 完全勝利である。

 

 私は剣を一振りして血糊を落とし、鞘に納刀。

 剣を納めて敵意無しってことをアピールしながら、万感の想いで姉の方に駆け寄った。

 そして、姉の腰にしがみつくようにしてダイブする。

 

「うわぁ!?」

「シル! 心配した! 心配した!」

「エミリー……えっと、いきなり過ぎて頭がついていかないんだけど、どうしてここに?」

「無言のフィッツ、有名! 王女と、一緒に、国外、出たって、聞いて、追いかけて、きた!」

 

 私は姉に会えた嬉しさで興奮しながら、これまでのことを姉に話した。

 父と母と共に紛争地帯に飛ばされたこと。

 そこでシャンドルに出会って強制的に弟子にされたけど、紛争地帯脱出の時から協力してもらってること。

 道中でロキシーさん達に会って、父と母はそっちについていってミリスに行ったこと。

 全部話した。

 

「そっか。お父さんもお母さんも無事だったんだね。よ、良かったぁ……」

 

 姉は安心したのか、腰が抜けた感じでペタンと地面に座り込んだ。

 そのままこれまでの不安が一気に爆発したのか、大声で泣きながら私のことを抱きしめ返してきて、姉もこれまでのことを語ってくれた。

 

 なんでも、姉は転移事件で王城の上空に飛ばされたらしい。

 落下の恐怖に震えながら半狂乱で魔術をぶっ放して減速してたら、偶然王女のところに転移して王女を殺そうとしてた魔物に魔術が命中。

 王女の命を救った恩人ってことになり、あと無詠唱魔術を使える姉の有用性を見込まれたというか目をつけられたというかで、色々な思惑がこんがらがった末に王女の護衛という立場に就任したんだとか。

 

 それからは貴族社会の魑魅魍魎どもに揉まれながら過ごす日々。

 でも、姉を拾った王女様は私達が掴んだ情報通り王族としての立場が弱く、それでも頑張って王様になろうと努力してたんだけど、それが目障りになってきたらしい他の王族だか上級大臣だかが権力と勢力の差に任せて暗殺者を何人も放ってきて、このままだと遠からず殺されるってことで国外に逃げてきたらしい。

 壮絶だ。

 下手したら紛争地帯よりヤバい魔境でよくぞ生き抜いてくれたなぁ。

 さすが我が姉!

 

「シル、私と、一緒に、ミリス、行こう? 父も、母も、待ってる」

「……ごめん、エミリー。それはできないんだ」

「なんで!?」

 

 そんな過酷な一年を耐え抜いてきたなら、もう家族のところに戻ったっていいはずでしょ!?

 両親も師匠のところで難民の捜索やってるだろうから、平穏にとまではいかないかもしれないけど、それでも暗殺者に追われるような暮らしを続けるよりずっといいはずだ。

 姉は私と違ってバトルジャンキーってわけでもないんだから。

 

 はっ!?

 ま、まさか……!?

 

「……もしかして、王女様に、無理矢理、従わされてる? なら、私が、こいつら、殺すよ? ここなら、さっきの、奴らの、せいに、できる」

 

 姉を奴隷のように使ってるのなら容赦しねぇ。

 私が殺気を込めて護衛達を睨みつけると、全員が即座に武器を構えて臨戦態勢に入った。

 反応が遅いし、怯えてるのが丸わかりだ。

 これならさっきの黒装束の方がよっぽど強い。

 この程度、今の体調でも皆殺しまで10秒とかからない。

 

「エミリー、ダメ! ボクがアリエル様を助けたいと思ってるのはボクの意思だよ。

 転移事件のせいで、右も左もわからなかったボクを助けてくれたアリエル様達に報いたいんだ」

「シル…………ん? ボク? 口調、変えた?」

「え? あ、うん。色々あってね」

 

 あ、ヤバい。

 思わず突っ込んでシリアスな空気をブレイクしてしまった。

 姉は勢いを削がれて、困ったように耳の後ろをポリポリかいてる。

 困った時の姉の癖だ。

 

「と、とにかく! ボクは自分の意思でアリエル様に従ってるから! アリエル様、ごめんなさい。妹が凄い失礼を……」

「いえ、構いません、シルフィ。

 今の私達は彼女に生殺与奪を握られているも同然の立場ですからね。

 無礼など咎められませんよ」

 

 姉が凄い自然な感じで、なんか師匠に似た顔立ちの若い騎士を連れてこっちに近づいてきた金髪美少女に頭を下げた。

 ……この人がアリエル王女か。

 なんていうか、美術品みたいなレベルの美少女だ。

 歳は私達より2〜3歳上、お嬢様と同年代くらいだと思うけど、あの肩書詐欺の狂犬お嬢様と違って、この人にはこれぞ王女様って感じの気品と美しさがある。

 私も死蔵してるとはいえ容姿にはそこそこ自信があるけど、この人には何から何まで負けてるね。

 

 あと、なんか声が凄い。

 透き通ってて脳に染みてくる声というか。

 歌手とかやったら大成しそう。

 そんな王女様を見て、シャンドルが見惚れたように目を見開いてるし。

 ロリコンへの目覚めかな?

 

「はじめまして、エミリー様。あなたのことはシルフィからよく聞いておりました。とっても凄い剣士だと。

 先程の戦いを見れば、シルフィの言葉を疑う余地はありません。

 この度はそのお力で私達を助けてくださり、誠にありがとうございます。おかげで命拾いしました」

「……お礼、いらない、です。私は、シルを、助けた、だけ、です、から」

「それでも私達が助けられたのは事実です。恩人にお礼も言えないようでは、アスラ王族の名折れですからね。どうか受け取ってください。

 もっとも、こんな立場ですので、言葉以上のお礼ができないのが心苦しいですが」

 

 アリエル王女は、本気で困ってるのかおどけてるのかいまいちよくわからない仕草で肩をすくめた。

 それは自虐ネタと取っていいのかな?

 王族の冗談がどんなものかなんてわかんないから判断つかない。

 でも、もしそうなら、かなりフレンドリーに接してくれてるのかも。 

 

 だからってわけじゃないけど、私は回りくどいこと一切抜きで王女様に問いかけた。

 

「……アリエル様。シルは、あなたに、ついていく、つもり。じゃあ、あなたは、これから、どうするん、ですか?」

 

 返答によっては、無理矢理にでも姉を連れてミリスに行く。

 私は言外にそう言ってると伝わるくらいに鋭い目で睨みつけながら、アリエル王女にそう問うた。

 

「ラノア王国にて力を蓄え、いつの日か故国に戻って王位を取るつもりでいます。何年かかるかはわかりませんが」

「それ、諦められない、ですか?」

「諦められませんね。それが私のアスラ王族としての使命ですから」

 

 アリエル王女は綺麗な顔で口元には微笑みを携えながら、でも瞳の奥には信念の炎を燃やして私を見詰め返してくる。

 ……強い目だ。

 前世含めて、これほどの目は見たことないってくらいに力強い瞳。

 例え崖っぷちでも、国を追われても、この人は王族なんだと思わせてくる目。

 

「シルも、この人、見捨てられない?」

「うん。見捨てられない。アリエル様はボクにとって大事な人で、大事な友達だから」

「……そっか」

 

 ルーデウスに依存気味で、奴以外に友達と言えるような人がいなかった姉が、王女様と同じくらい強い目で友達を守りたいと言う。

 ……これに文句を言うのは野暮ってもんかな。

 

「わかった。好きに、すればいい。でも、しばらくは、私も、一緒にいる。大事な、姉を、暗殺者に、やられたく、ないから」

 

 剣の道に生き、命の危険に積極的に飛び込もうとしてる私が、友達のために命懸けるって言ってる姉に危ないことするなとは言えないよ。

 ならせめて、できる限り近くで見守るだけだ。

 まだ師匠の家族とか見つかってないから、そっちをどうにかするために離れることもあるだろうけど、とりあえず留学先までの護衛はやる。

 またあんな連中が来たら堪ったもんじゃないもん。

 

「ええ。歓迎します、エミリー様。あなたがいてくれるなら心強いです」

「エミリーで、いい、です」

 

 王女様に様付けされるとか落ち着かんわ。

 あ、でも今のセリフ、ギレーヌとかシャンドルみたいでちょっとカッコ良かったかも。

 現実逃避気味にそんなことを考えつつ、何故か王女様と一緒の旅が幕を開けることになった。

 ホントに人生何が起こるかわからない。




・アリエル様親衛隊
原作よりシルフィが強かったことと、エミリーが駆けつけてくれたことにより、シルフィとルークを除いて10人(戦闘職は4人)が生存。
なお、原作での生き残りは、シルフィとルークを含めても4人。

・聖級暗殺者さん
エミリー達がアサシンギルドを潰し回ったせいで職を失い、つい最近ダリウスさんに個人的に雇われた元アサシンギルド屈指の使い手。
なお、幼女に粉砕されたもよう

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。