剣姫転生 〜エルフの娘は世界最強の剣士を目指す〜 作:カゲムチャ(虎馬チキン)
「さあさあ、どうした! もっと打ち込んできなさい!」
「「「うぉおおおおお!!!」」」
王女様御一行に同行し、赤竜の上顎を越えて中央大陸北部『北方大地』に入った私達。
現在、私達は北方大地の入口あたりの小さな村で、この地域の名物、冬に降り積もる大雪によって足止めされていた。
護衛の何人かは雪より追手を恐れて先を急ぐべきだと主張してたけど、年配の従者の人やシャンドルがそれに反対。
天候を甘くみると、どんな強者でも死にかねないとのことだ。
確かに、この雪も滅茶苦茶降り積もってるし、場所によっては吹雪いてるだろうから、雪に埋もれて凍死なんて未来は容易に想像がつく。
追手を恐れてた人達も、最終的には私と私よりも強いシャンドルがいるから大丈夫ということで、一応の納得をしてくれた。
そして今。
足止めされて暇になった時間を使って、シャンドルが姉を含む護衛の人達を鍛えている。
鍛えてるというより北神流を布教してるだけだけどね。
シャンドルは見込みありそうな人を見かけると、某上弦の参並みの強引さで「君も北神流にならないか?」と誘ってくるのだ。
弟子にして濃密な修行を課すのは私みたいに直接見出した人だけらしいけど、指導くらいなら結構ノリノリでやる。
まあ、彼らもアリエル様を守るための力は欲しいだろうし、ウィンウィンの関係なんじゃないかな?
なお、私は既にシャンドルにボッコボコにされた後なので、冷たい雪の上で死体のように倒れております。
私への修行は護衛の人達への指導より遥かに厳しい。
治癒魔術で治るからぶった斬られるのも骨折られるのも当たり前だし、本当の本当に立てなくなるまで休ませてくれないし、体力がちょっとでも回復したらすぐに再開だ。
血反吐と虹色のゲロゲロをスパーキングしない日は無い。
休日?
ゼロですが何か?
もちろん、それで強くなれてるんだから文句はないし、むしろ、こんな虐待のようにハードな修行は前世じゃ絶対に体験できないから楽しいくらいだ。
しかし、楽しいこととキツくて死にそうになることは決して矛盾しないのである。
「雪、冷たい」
「お疲れ様です」
「あ、アリエル様」
そんな私に、アリエル様が温かい飲み物を差し入れながら話しかけてくれた。
ありがたく頂戴し、ふらふらしながらアリエル様が腰掛けた隣の椅子に座る。
私達の視線の先では、師匠に似た顔立ちの騎士ことルークさんが、シャンドルの持つ石剣(姉の土魔術製)に顔面を打ち抜かれたところだった。
ちなみに、最初会った時のシャンドルは棍棒を使ってたけど、それを私が斬っちゃったのと、剣をこよなく愛する私への指導とお手本のためってことで、最近は剣を使ってるのだ。
元々は剣士で棍棒を使ってた時期の方が短いらしいので、特に問題はないというか、むしろ最初に戦った時より強くてどんだけーってなった。
上を見上げればキリがないです。
「シャンドル様は本当にお強いですね。まるでおとぎ話に出てくる大英雄のようです」
「それ、私も、思い、ました。アリエル様は、シャンドルの、正体、なんだと、思い、ますか?」
「……敬語が使いづらそうですね。公の場ではありませんし、楽な言葉を使ってくれていいのですよ?」
「今から、慣れないと、後が、きつそう、なので」
「そうですか。エミリーは努力家ですね」
いえ、むしろ剣術以外は積極的に怠けたいです。
でも、できなきゃ生活する上で不都合があるものだったり、将来の目標である武者修行の旅をするために必要なスキルが多いから、仕方なく頑張って覚えようとしてるだけだ。
剣術だけじゃギレーヌのごとく行き倒れるのが目に見えてるから。
私が本当に努力家だったら、まずはこの片言を直してたよ。
意思疎通には問題ないからって、自然に滑らかになるのを待ってた弊害が
ぶっちゃけ、もう片言口調が染みついちゃってるから、今更違うイントネーションにしようとしても手遅れな気がしてるんだけど……。
まあ、せめて敬語が普段の口調と同じくらいの精度で出るようにはしたい。
「それで、シャンドル様の正体でしたか。
北神流にとても拘りがおありのようですし、私としては、かの北神英雄譚の主人公『北神カールマン二世』アレックス・カールマン・ライバック様ではないかと考えていますが」
「私も、同意見、です。……ん? でも、カールマン・ライバック?
「ああ、それは北神カールマンという名前が有名すぎて、カールマンをファミリーネームだと勘違いしていらっしゃる方が多いのですよ」
へー。
「何せ、北神カールマンと言えば、現在でもアスラ王国の伝説と謳われる『甲龍王』ペルギウス様と同じ魔神殺しの三英雄の一人。
もしシャンドル様が本当に北神カールマン二世なら、私の体を差し出してでも味方になっていただきたいほどです」
いや、シャンドルはアリエル様に魅了されてる節があるから、体を差し出すまでもなく、上目遣いとネコ撫で声でおねだりしたら、それだけで陥落しそうだけどね。
というか、
「王女様が、簡単に、体、差し出すとか、言って、いいん、ですか?」
「公の場ではマズいですね。ですが、プライベートなら構わないでしょう。王城にいた頃も、何度も可愛い女の子と寝屋を共にしていますし」
「え?」
「ちなみに、私は個人的にあなたとも
シルフィは大切なお友達だから自重しましたが、まだまっさらな関係のエミリーとなら、体を通じたお付き合いで仲を深めていくという道も……」
「私は剣が恋人なので間に合ってますごめんなさい」
「あら、残念」
思わず片言も敬語苦手も吹っ飛ぶくらいの衝撃発言だったよ今の!?
アリエル様は色っぽい笑顔で「うふふ」って微笑んでる。
今のが冗談なのか本気なのか判断できない。
なんとなく目が獲物を狙うハンターの目になってる気がするけど、気のせいだと思いたい。
アリエル様がこの上品の極みみたいな見た目で、中身が下品な好色ビッチだったりしたら、肩書詐欺のお嬢様と併せて、今後アスラの王族貴族を一切信じられなくなりそう。
「よし! 今日はここまでにしておこうか!」
「つ、疲れた……」
「死ぬ……」
「帰りたいよママ……」
「…………」(白目)
あ、そんな話してる間に、シャンドルの修行が終わったっぽい。
6人の護衛のうち、4人はシャンドルが終了の合図を出した瞬間に崩れ落ちたけど、残りの二人、姉と師匠似の騎士のルークさんは根性で立ってアリエル様の後ろに立った。
姉はアリエル様の守護術師、ルークさんは守護騎士という役職で、王城にいた頃からアリエル様の護衛をやってたらしいから、他の道中の護衛に任命された人達より護衛根性が凄いのだ。
「シル、大丈夫、だった?」
「うん。大丈夫だよ。むしろ、自分が強くなってる実感があるから嬉しい。凄いね、シャンドルさん」
姉は元々、故郷にいた頃に私から北神流を習ってたこともあって、アリエル様の護衛の中でも一番飲み込みが早い。
もうかなり力強い闘気も纏ってるし、シャンドルから北神流上級の認可を貰ってた。
魔術を含めた総合的な戦闘力は聖級剣士にも引けを取らない。
最後に会った時のルーデウスは確実に超えてるね、これ。
「アリエル様と何話してたの?」
「ベッドに、誘われ、かけた……」
「アリエル様……遂にエミリーにも手を出したんだ」
「あらあら誤解ですよ、シルフィ。ただの未遂です」
「誤解じゃないでしょそれ!?」
おお。
あの引っ込み思案だった姉が、世界最大の国の王女様にツッコミを入れておる。
成長したなぁ。
……というか、今の会話を考えるに、アリエル様はマジでビッチなお方である可能性が高くなった。
もうアスラの王族貴族は信じない。
「もう、シルフィはこの手の話に過剰反応し過ぎですよ。まあ、そこがいいのですが……。
それはともかく、エミリーほど可愛い娘ならベッドに連れ込みたくなるのは人のサガでしょう。ねぇ、ルーク」
「いえ、自分は絶壁には興味がありませんので」
「ああ、そうでしたね。ここに私の味方はいないようです」
下品な話で小さく笑い合うアリエル様とルークさん。
引いた。
ドン引きである。
姉の貞操のためにも、やっぱり強制的にミリスに引きずっていった方がいいのでは……?
「さて、エミリー。休憩は終わったね。もうワンセットいくよ!」
「あ、うん。じゃ、行ってくるね、シル」
「行ってらっしゃい」
シャンドルに呼ばれたので、思考を打ち切って修行に戻り、ボッコボコにされながら実戦形式で技を学んでいく私。
それを見て、姉以外のルークさんを含む護衛の人達は、毎度毎度化け物を見る目で私達を見てくる。
彼らじゃ目で追うことも難しい攻防を何時間も連続でやってるんだから、そりゃ戦力差に絶句くらいするよね。
「なんで、あんなハードな修行を笑いながらできるんだよ……」
「怖い。幼女怖い」
「俺、今日からロリコンやめるわ」
「…………」(白目)
なんか変な会話してる気がしたけど、シャンドルの修行に集中して強敵相手に剣を磨ける喜びに浸ってる私には聞こえない。
そんな感じで、北方大地での一日は過ぎていった。
アリエル「正直に言って、ドスライクなんですよ。イジメたいし、イジメられたいんです。鞭でも蝋燭でも緊縛でも○○○でも■■■でも△△△でも◆◆◆でも私はイケますよ?」ニッコリ
エミリー「…………」(ドン引き)