剣姫転生 〜エルフの娘は世界最強の剣士を目指す〜 作:カゲムチャ(虎馬チキン)
「というわけで、今日からお前と一緒に稽古をすることになったエミリーだ! 仲良くしろよ?」
「よろ、しく」
「おお! 金髪ロリっ子エルフ!」
パウロさん改め、師匠に弟子入りを申し込んだ翌日。
私は師匠の家に招かれ、同年代くらいの男の子と引き合わされていた。
彼は師匠の息子さんで、ルーデウスと言うらしい。
……なんか興奮でガン開きになった目で舐めるように見てくるから、あんまり好きにはなれなさそう。
エロガキか、こやつ?
まあ、師匠が私に稽古をつけてくれる理由になったのが「ルディも同年代の友達がいれば嬉しいだろ」だったから、無下には扱えないんだけど。
昨日、師匠は私の弟子入りを快く受け入れてくれた。
父は滅茶苦茶渋い顔してたけど、その理由は師匠が生粋の女ったらしだかららしい。
今は結婚して子供まで生まれたから大人しくなったけど、昔の冒険者時代はそれはもう女の子を食いまくってたんだとか。
どうも、父は私が師匠に惚れてると勘違いしてるような節がある。
発声が上手くいかないせいでその誤解が正せてないから、父は渋い顔してるってわけだ。
まあ、もしも本当にこれが娘の初恋だったら悲劇にしかならないもんね。
そうじゃなくても、男親としては面白くないか。
「じゃあ、いつもの基礎トレーニングから始めるぞ。
エミリーは初めてだし、あんまり無理しない範囲でついて来なさい」
「はい」
そうして始まったのは、筋トレ、ランニング、ストレッチなど体作りを目的としたメニュー。
さすがに、最初から剣を握らせてはもらえないようだ。
当たり前だけど。
で、この基礎トレーニングが終わった頃には、
「……驚いたな。汗一つかいてないじゃないか」
師匠の私を見る目がちょっと変わっていた。
確かにこの基礎トレ、子供がやるにしてはそこそこハードだったけど、私は余裕を持ってついて行けた。
ルーデウスは結構汗だくになって息切れしてるけど、私は余裕の表情だ。
むふー。
「家でも、色々、やってる、から」
この世界に転生し、体が動く年齢になってからこの方、夢を叶えるためにトレーニングはかかさなかった。
子供にできる訓練なんて高が知れてたけど、やらないよりやった方がいいに決まってる。
おかげで、こうして師匠に見直してもらえるくらいの体力がついたんだから。
尚、トレーニングを頑張る私を見て、家族は父の真似をしてる可愛い子みたいな認識で私を見てた。
父も村を守る仕事してるから、自宅でトレーニングくらいやってたからね。
一時期は姉も真似してたんだけど、私のトレーニング量が多すぎてキツかったみたいで、すぐにやめちゃった。
まあ、毎日毎日、一日かけて師匠のメニューの十倍くらいの量をやってたからなー。
そりゃ、普通の子は目的意識がないと耐えられないよ。
私の場合、生まれつきの体質(?)のおかげで、更に無理が利いちゃったからね。
「ほれほれ、ルディ〜。女の子に負けて悔しいか? 悔しいだろう?」
「……うるさいですよ、父様」
なんか、師匠がいい笑顔で息子のこと煽ってた。
めっちゃ楽しそう。
親子関係は良好みたいで何よりである。
「さて。じゃあ次はお待ちかね、剣術の修行に移るか。
ほい、エミリー。これを使いなさい」
「あり、がとう」
師匠が私に渡してきたのは、木でできた訓練用の木剣だった。
ただし、前世の剣道で使ってた木刀と違って、ちゃんと打ち合ったんだとわかる傷やヘコみが大量にできてる。
これで打ち合えると思ったら、もうそれだけで感動だ。
剣道だと打ち合うのは竹刀で、木刀をぶつけるなんて型でしかやらなかったからね。
「最初はオレとルディの打ち合いを見ててくれ。よし、来いルディ!」
「わかりました。やぁああ!」
ルーデウスが私が渡されたのと同じ木剣を振り上げて師匠に打ち込む。
その動きはそこそこって感じだ。
剣道なら四級か五級ってところだろう。
段位者には到底届かない。
まあ、5歳かそこらで段位者並みだったら逆に怖いし、ルーデウスは年齢の割には充分すぎるほど凄いと言えるレベルだと思う。
だが、その程度の腕で師匠と渡り合えるはずもなし。
ルーデウスの攻撃を師匠は簡単に防ぎ、躱し、受け流す。
かなり洗練された動きだ。
昨日見た化け物みたいな身体能力を考慮に入れない単純な技術だけでも、剣道なら四段か五段クラス。
しかも、剣道とは全く違う流派の動き。
私は目をガン開きにして、師匠の動きをこの眼球に焼きつけた。
特に変なものが見えるファンタジーな右眼に。
そして、ルーデウスが甘い動きをした瞬間、師匠の軽い一閃がルーデウスの木剣を弾き飛ばす。
「ここまでだな」
「あ、ありがとうございました……」
ハァハァと息切れするルーデウス。
そんな息子に対して、師匠は今の打ち合いで悪かった点を指摘した。
「ルディ、毎度思うが、お前の剣はとにかく遅いんだ。だから速くすることを心がけろ」
「でも父様、剣速は一朝一夕で速くなるものではないのでは?」
「いや、剣速の話じゃない。なんていうかこう、毎度ぐぐってする感じになっちまってるんだよ。もっとバババッて感じにしろ」
「はぁ……」
師匠、言ってることが完全に感覚派な件。
ルーデウスは全くわかってなさそうだけど、私はなんとなくわかった。
なんというか、ルーデウスは毎回頭で考えて、相手の動きを見てから動いてる節がある。
けど、剣術っていうのは攻め気が大事。
相手を観察して後の先を取るつもりでも、常に自分が攻めてるくらいのつもりで、むしろ自分の動きで相手を誘導して釣り上げるくらいのつもりで積極的に動かないとダメなのだ。
師匠は多分そんな感じのことが言いたいんだと思う。
まあ、これは剣道の教えだから、この世界だと全然違う可能性もあるけど。
「いいか、攻める時はこうバッと動いて……」
私が考えてる間に、師匠はルーデウスにお手本を見せ始めた。
「バババッだ!」
そして、何故か庭にあった岩に対して間合いを詰めて、連続斬りで粉々にする。
木剣で。
さすが師匠!
凄いなんてもんじゃねぇです!
その師匠の勇姿を、私は脳内カメラにしかと記録した。
「わかったか?」
「え、えっと……」
「……伝わらないか。まあ、少し考えてろ。次、エミリー!」
「はい!」
ようやく私の番が来た!
天にも登る気持ちで木剣を握り、師匠の前に出る。
さあ、我が夢への第一歩だ!
ド派手に行くぜい!