剣姫転生 〜エルフの娘は世界最強の剣士を目指す〜 作:カゲムチャ(虎馬チキン)
オルステッドがまっすぐ私に突っ込んでくる。
神速と称したくなるような圧倒的速度。
どことなく剣神流の踏み込みに似てる気がする。
そんな私の直感は正しかったのか、オルステッドは剣神流の技の構えを取った。
オルステッドが手刀を構える。
芸術的な闘気が見覚えのある動きをした。
構えてるのは剣じゃなくて手刀だし、形が随分と違うけど、本質は慣れ親しんだあの技と同じだ。
私がこの技を見間違えるわけがない。
だって、これは私が最初に習得した『奥義』と呼ばれる技なんだから。
オルステッドが放とうとしてる技。
それは剣神流奥義『光の太刀』だった。
本来は両手で剣を握って、全身の動きを完璧に連動させ、それらを加速のためのカタパルトにして、発動の直前、一瞬で一気に両腕に集中させた全闘気により、爆発的な勢いで刃を押し出すことでようやく放てるはずの奥義を、オルステッドはあろうことか手刀で放とうとしてる。
意味がわからん!
これ例えるなら、野球のピッチャーが計算され尽くしたピッチングフォームを使うことでようやく投げられる豪速球を、手首のスナップだけで投げてるみたいな話だよ?
次元が違いすぎるわ!
でも、そんな次元の違いすぎるオルステッドの攻撃に、私の反応はなんとか間に合った。
手刀であるにも関わらず、オルステッドが放とうとしてる光の太刀の練度は、剣王であるギレーヌを遥かに超えてる。
普通に迎撃したんじゃ防げない。
だからって、速すぎるから避けることもできない。
ならどうする?
その答えとして、私は北王として鍛えられた動きで、攻撃が放たれるまでの僅かな時間で瞬時に間合いを調節し、少しでも
そこへ放たれたオルステッドの光の太刀を、聖級相当と言われた頃から更に進化した水神流の技で受け流す。
「ッ!?」
速っ!?
重っ!?
でも、どうにか初撃は防いだ。
だけど、当然ながらカウンターを放つ余裕まではない。
ひとえに今の光の太刀がそれだけヤバかったからだ。
「水神流の受け流しを北神流の立ち回りで補助したのか。中々にやる。だが……」
オルステッドが再び手刀で光の太刀の構えを取る。
さすがに光の太刀の二連撃なんて受け切れない。
でも、大丈夫だ。
だって、私は一人じゃない!
「うぉおおおお!! 奥義『砕鎧断』!!」
私がオルステッドの攻撃を止めた直後に、シャンドルが横合いからオルステッドに襲いかかった。
目の前の龍神には劣るものの、私より遥かに美しく完成度の高い斬撃でオルステッドの首を狙う。
だけど、
「奥義『流』」
「くっ!?」
オルステッドはシャンドルの斬撃にそっと手を触れ、いとも簡単にその軌道を捻じ曲げてしまった。
今のは私も使う水神流の技だ。
完成度が段違いというか、もう水神流の極みみたいな恐ろしい練度だったけど。
でも、シャンドルの方に対処してる今なら、私の方が攻勢に出られる!
私は即座に体勢を整え、オルステッドに使われたのと同じ最速の奥義を繰り出した。
剣神流奥義『光の太刀』!
「ふっ」
それに対し、オルステッドは蹴りで私の光の太刀を相殺した。
しかも、私の斬撃とぶつかったはずの足には傷一つない。
…………は?
うっそでしょ!?
光の太刀は剣神流で最も殺傷力の高い
それを生身で受けて無傷とか、いくらなんでも滅茶苦茶すぎる!
「今度は光の太刀。三大流派の全てで聖級を超えているのか。この歳でこれとは、ヒトガミが目をつけただけのことはある」
「エミリー! 龍神は反則的な防御力を誇る『龍聖闘気』という力を纏っている! 極端に威力の高い技か、防御を貫く技でなければ通用しないよ!」
シャンドルが攻撃しながら私に忠告してきた。
ああ、なるほど。
だから、さっきシャンドルは『砕鎧断』を使ったのか。
あれは名前の通り、本来なら敵の鎧を砕きながら斬撃を浴びせかける防御貫通技だ。
龍聖闘気とかいうらしいこの芸術的な闘気を纏ったオルステッドにどこまで通じるかはわからないけど、少なくともそれ以外の普通の攻撃はおろか、大抵の必殺技すら通じないのは今のでよくわかった。
なら、シャンドルの言う通りに立ち回るしかない!
私とシャンドルは、二人がかりの連携攻撃でオルステッドに立ち向かった。
連携のクオリティーは高い。
だって、私とシャンドルはずっと共に稽古をしてきた仲だ。
私に技を叩き込んできたシャンドルも、シャンドルの動きを見て学んできた私も、お互いの動きは知り尽くしてる。
しかも、今の私は全力のシャンドルについていけるくらい強くなった。
だからこその高度な連携。
北王とそれ以上の剣士が一心同体の動きで攻めてるんだ。
下手な神級どころか、七大列強の一角だって食い破れるんじゃないかと思うくらい、今の私達は強い。
でも、オルステッドがそれ以上に強い!
列強二位は次元が違った。
私達二人がかりの攻撃を、オルステッドは素手で完璧に捌いてる。
何故か、シャンドルの動きが完全に読まれてるのが痛い。
まるで私と同じく、シャンドルと共に長いこと修行した経験でもあるかのように、癖から何から全て見通されてるのだ。
魔法大学で新たに得た付け焼き刃の技や道具を使わなきゃいけないほど、シャンドルは苦戦を強いられてる。
私の動きはこれまた何故かシャンドルほど読まれてはいないけど、そもそもの地力が違うのでどうにもならない。
この状況を打破するには……
「シャンドル! 奥義、使って!」
「!? しかし……」
「時間は、私が、稼ぐ!」
シャンドルには、多分決まればオルステッドにも通じるだろう最強の奥義がある。
北神流最高の必殺技が。
でも、あの技は闘気コントロールの極致だ。
今の追い詰められてる状況だと、崩れてる体勢を立て直して、構えて、闘気を最高の状態に整えて、技の発動まで持っていくのに、シャンドルの技量でも多分数秒はかかる。
オルステッドを前に数秒。
永遠にも感じる地獄の時間だ。
その時間を私が稼ぐ!
それができなきゃ死だ!
「ああああああああ!!」
私の突撃と同時に、シャンドルが私の覚悟を汲んだのか、後ろに下がって奥義の発動準備に入った。
その間オルステッドの動きを抑えるべく、私はダメージ覚悟で前に出る。
北神流『幻惑歩法』!
剣神流『光の太刀』!
「奥義『光返し』」
「ッ!?」
突撃時に幻惑歩法を一瞬使って目測を誤らせつつ、斬るのではなく吹き飛ばすつもりで放った飛翔する光の太刀。
それを、オルステッドは私の光の太刀が最高速度に達する前の位置に、自分の光の太刀の最高速度を合わせて、手首を斬り飛ばしにきた。
ただ、幻惑歩法で微妙に間合いを外したおかげで、本来手首を襲うはずだった返し技が剣に当たり、武器を上に向かって弾き飛ばされるだけで済んだ。
この状況で武器を失ったのは最悪だけど。
「右手に剣を!」
そんな私達の攻防の裏で、シャンドルの奥義発動の準備が進む。
私は剣を弾かれつつも振り切った腕を地面につけて、地面にへばりつくレベルで大きく屈んだ。
北神流『四足の型』。
そうして身を屈めた私の頭上を、連続で放たれた光の太刀が通過していく。
「げふっ!?」
あ、しまった!?
思わず屈んじゃったけど、そのせいで後ろで頑張ってくれてるシャンドルに当たった!?
で、でも、当たったのは距離が開くほどに威力の落ちる斬撃飛ばしだったし、この距離からシャンドルの練り上げられた闘気の鎧を貫通して致命傷を与えることはできないはず。
それに、シャンドルは不死魔族と呼ばれる回復力と生命力がカンストしてる種族の血族だ。
あの程度で死にはしない。
大丈夫。
大丈夫なはず。
「左手に剣を!」
その証明のように、シャンドルは負傷しながらも奥義の発動を進めてくれた。
私もやらかした分、役に立たないと!
四足の型で屈めた体を両手両足を使ってはね起こし、なりふり構わず頭から突っ込んで、オルステッドの腹に向かって頭突きを食らわせる。
ただの頭突きじゃない。
インパクトの瞬間に初級風魔術『
無詠唱魔術のおかげで、体術と魔術を融合できる私のためにシャンドルと共に開発した北神流の新たな技。
本来なら掌底で放つ技であって、決して頭突きなんてカッコ悪い技じゃないんだけど、この状況じゃ文句は言ってられない。
北神流格闘術『波動掌(頭)』!
「ぬ……」
さすがに乙女の尊厳をかなぐり捨てるような動き(頭突き)は予想外だったのか、意識が多少なりとも負傷したシャンドルの方に行ってたのもあって、この日初めてオルステッドに有効打が入った。
といっても、受け流されはしなかっただけで腕でガードはされたし、そもそもダメージを与えようとしたわけじゃないから吹っ飛ばしただけだけど。
しかも、オルステッドは吹き飛ばされながらも、両手を交差させて飛翔する✕字型の光の太刀を放ってくる。
私は闘気の動きからそれを先読みして、咄嗟に両腕を盾にしてガードしたけど、その腕がごっそりと抉られて動かなくなった。
距離が離れるほど威力も速度もガクッと落ちる斬撃飛ばしじゃなかったら、両腕が斬り飛ばされてたところだ。
でも、時間稼ぎはできた!
「両の腕で齎さん! 有りと有る命を失わせ、一意の死を齎さん!」
オルステッドが吹っ飛ばされてる間に、奥義の発動準備は終わった。
シャンドルが剣を大上段に構え、距離ができたオルステッドに向けて突撃していく。
そして……
「不治瑕北神流奥義『破断』!!」
凄まじい闘気の乗った一撃がオルステッドに叩き込まれた。
魔法大学で、私が犬猫の心を折るために使った技の完成形。
シャンドル……いや、100年前まで私が目指す世界最強の剣士と呼ばれていた『北神カールマン二世』アレックス・カールマン・ライバックが、最強のライバル『王竜王』カジャクトに挑んだ時に使ったとされる究極の一撃。
それは全てを飲み込み、全てを破壊し、列強二位の化け物をも……
「北神流『
……破壊、するはずだった。
でも、そうはならなかった。
『龍神』オルステッドは、シャンドルの振るった剣に龍の爪のごとく五指を突き立て、その剣をバラバラに砕いたのだ。
剣という力の集中点を失った衝撃は、オルステッドの水神流によって散らされ、ただの爆風となって周囲に霧散していく。
それでも下手な魔術よりはよっぽど凄い破壊力があったけど、こんなんじゃ龍聖闘気を纏うオルステッドには傷一つ付かない。
せいぜい、オルステッドのお連れの少女が「きゃ!?」って悲鳴上げて倒れて、仮面がどこかに飛んでいったくらいだ。
っていうか、あの女の子のこと忘れてた。
敗因は、武器の質だ。
『強い武器に頼り切りになると強くなれない』という持論により、シャンドルが持ってたのは私と母が紛争地帯で兵士から奪った普通の剣だった。
これが魔剣と呼ばれる業物の類だったなら。
それこそ、北神の代名詞と言われる世界最強の剣『王竜剣カジャクト』だったなら、結果は違っていたと思う。
でも、今のシャンドルが持ってるのは砕かれた普通の剣だった。
つまりは、それが全てだ。
「……なるほど。お前の力はよくわかった。アレックスと協力したとはいえ、俺とここまで渡り合うとはな」
私は魔法大学で数ヶ月かけて習得した中級治癒魔術で両腕を治して剣を拾い、臨戦態勢のままオルステッドの言葉に耳を傾けた。
シャンドルも同じだ。
剣を失おうとも。その戦意は衰えていない。
北神流はなんでもあり。武器を失った程度じゃ終わらない。
私もシャンドルも、ここで死ぬとしても、武人として最後まで戦う覚悟でいた。
「痛たた……」
「どうやら、お前には生かす価値がありそうだ。連れにも流れ弾がいったことだし、戦いはここまでにしておこう」
そう言って、オルステッドは殺気を引っ込めて構えを解いた。
……た、助かった?
こっちはまだ油断できないし、臨戦態勢も解けないけど、それでもオルステッドから戦意がなくなったのは事実だ。
どうせ攻撃しても通じないし、私達が追撃を仕掛けることはなかった。
「立てるか、ナナホシ」
「む、無理……。お尻打った……」
「ハァ。乗れ」
そして、さっきまでの恐ろしさが嘘のように、オルステッドが連れの少女を優しくおんぶする。
お、おんぶ!?
オルステッドがおんぶ……。
似合わない。
だけど、連れの少女は痛みに顔をしかめながらも、割と安心した顔を…………あれ?
『七星さん?』
「え?」
仮面が無くなったことであらわになった少女の顔を見て、私は思わずそう呟いていた。
だって、その少女の顔は、前世でそこそこ見たことのある、クラスメートの顔だったんだから。
えっと、確かこの人のフルネームは……
『七星静香さん……だっけ?』
「ちょ、オルステッド! 降ろして! あう!?」
降ろせと言ってオルステッドの背中から降りたものの、着地の衝撃がお尻の痛みに響いたのか、七星さん(仮)は、その場で可愛らしい悲鳴を上げた。