剣姫転生 〜エルフの娘は世界最強の剣士を目指す〜   作:カゲムチャ(虎馬チキン)

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33 同郷と別れ

 あの後、七星さん(仮)は日本語でマシンガンのごとく喋り出し、色々と私に質問してきた。

 なんで日本語が話せるのか?

 なんで自分の名前を知ってるのか?

 私はいったい何者なのか?

 流暢に日本語を話し始めた時点で、七星さん(仮)が七星さんだと確信した私は、特に隠すこともなくこっちの事情を話した。

 

『え!? じゃあ、あなた剣崎さん!?』

『そうだよ。剣崎絵美理』

 

 私は結構有名な学生剣道の選手だったから、七星さんも普通に私のこと覚えてたみたい。

 ちなみに、私が七星さんを覚えてたのは、結構美人で男子からの人気が高くて目立ってたからだ。

 

『あの剣崎さんが、こんなにちっちゃく……。じゃあ、一応確認なんだけど……』

 

 そして、七星さんは確認のために、通ってた高校の名前とか、クラスメートの名前とか、教師の名前とか、私が剣崎絵美理本人じゃないと知りえないようなことを質問してきた。

 クラスメートの名前はうろ覚えだったり、そもそも覚えてなかったりしたけど、教師とか七星さんとイチャコラしてた篠原くんとかのそこそこ目立ってた人のことは覚えてたので、そこらへんの記憶のガバさも含めて私らしいって納得してくれた。

 こっちは遠回しにバカと言われて微妙な気分になったけど。

 

 で、次はお互いどうしてこの世界にいるのかの話になった。

 結果、

 

『……じゃあ、剣崎さんもトラックに轢かれてこの世界に?』

『うん。痴話喧嘩してたどこぞのカップルに気を取られちゃってねぇ。背後から一撃だったよ』

『それは、その、なんていうか……ごめんなさい』

『別に恨んでないから安心して。っていうか、これで恨んだら逆恨みでしょ』

 

 そう。

 七星さんが謝ってることからもわかるように、私が転生するキッカケになったトラック事故。

 あの時、私が気を取られた痴話喧嘩中の人達とは、何を隠そう七星さん達のことだったのだ。

 その七星さんも、どうやらトラックが迫ってきた記憶を最後にこっちの世界に来てたらしいから、恨むとしたらトラックの運転手だと思う。

 

『で、七星さんは気づいたらアスラ王国にいて、オルステッドに保護されて、元の世界に帰るための情報を求めての旅の途中だったと。しかも、転生の私と違って、元の姿のままでの転移』

『そうなるわね』

 

 全力でこの世界をエンジョイしてる転生者の私と違って、転移者の七星さんは望郷の想いが強いらしい。

 まあ、そりゃそうだよね。

 私だって会えることなら前世の両親や友達に会いたいし。

 憧れに思考回路を汚染されて、この世界に根を張るつもりの私でさえそう思うんだから、正常な思考能力を持った七星さんが家族のところに帰りたいと願うのは普通だ。

 

 あと、七星さんがこの世界に来たのは2年ちょっと前、転移事件の時らしい。

 私の転生時期と大きくズレてるのも気になるけど、それ以上に転移した場所がフィットア領だったっていう方が重要だ。

 転移事件のあった場所に転移……。

 嫌な予感しかしない。

 

 それは七星さんも同じで、転移事件は自分が召喚された時の反動で起きたんじゃないかって申し訳なさそうな顔で言ってた。

 ……まあ、うん。

 もしそうだとしても、七星さんだって被害者だ。

 恨むとしたらトラックの運転手だろう。

 おのれ、運転手!

 

『それで、世界中を回っても帰還の方法が見つからなかったから、この後は腰を据えてそれを研究するために、魔法大学に入学するつもりよ』

『魔法大学……』

 

 これまた奇妙な縁が増えたなぁ。

 つい何日か前まで私がいた場所じゃん。

 

『剣崎さん。あなたも来てくれたりは……』

『残念だけど、私はこっちの世界の両親とお世話になった人達に会いに行かないといけないから。あっちも転移事件のせいで苦労してるだろうし』

『そ、そうなのね……。ごめんなさい』

『だから七星さんのせいじゃないってば』

 

 泣きそうな顔で謝罪してくる七星さん。

 見てられないので、背伸びして軽く頭を撫でる。

 そうしたら、七星さんは少しだけ穏やかな顔になった。

 

『知ってる? こういうのと剣道での姿が凄いカッコ良かったから、剣崎さんって女子のファンが滅茶苦茶多かったのよ?』

『ああ、そういえば昔はキャーキャー言われてたなぁ』

『ふふ。弱ってる時に優しくされて……私に好きな人がいなかったら落ちてたかも』

『やめてね』

 

 そういうのはアリエル様だけで充分だよ。

 

『とにかく、私は一緒に行けないし、頭悪いから多分研究とかの役にも立てないだろうけど、そのうちシャリーアには戻るつもりだから、その時まだ七星さんが帰れてなかったら愚痴くらい聞くよ』

『ありがたいわ。日本語で話せるだけで、大分心が落ち着くもの』

『そっか。あと、魔法大学に今世の姉と知り合いがいるから、困ったら頼るといいよ。まあ、知り合いは権力を求めてる人だから、頼ったら後が怖いかもしれないけど』

 

 それでも行き詰まってどうにもならなくなるよりはいいでしょ。

 というわけで、七星さんが持ってた紙とペンを使って、姉とアリエル様に向けた手紙を書いといた。

 友達みたいなものだから、できれば気にかけてあげてほしいって。

 

『剣崎さん、こっちの世界でも字汚いのね』

『ほっとけ』

 

 伝える内容が少ないんだから、解読がちょっと困難でもどうにかなるでしょ。

 そんな軽口を叩かれつつ、手紙を書き終える。

 ついでに、日本語で前世の家族や友人に向けた手紙も書いといた。

 七星さんが無事日本に帰れたら渡してほしいと頼んで。

 

 その後、七星さんと日本にいた頃の思い出話をして、七星さんの溜まりに溜まってた愚痴と鬱憤と不満と不安を吐き出させてから、私達は互いの道へ進むためにスパッと別れた。

 

『じゃあね。私も久しぶりに日本語で話せて嬉しかったよ。母国語なら流暢なトークができるし』

『私も、剣崎さんに会えて本当によかったわ。絶対にまた会いましょう』

 

 そうして、七星さんはオルステッドのところに駆け寄っていった。

 オルステッドのこともついでに七星さんから聞いたんだけど、ヒトガミを個人的に恨んでるらしいってことくらいしか七星さんも知らないみたい。

 

 ただ、思想はわからなくても、シャンドルがあんなに警戒してた理由はわかった。

 なんでも、オルステッドは『世界中のあらゆる者に嫌悪されるか恐怖される呪い』を持ってるらしい。

 そういう不便な体質の人は『呪子』っていって、たまにいるんだってさ。

 逆に便利な体質の人は『神子』っていうらしい。

 こっちはどこかで聞いたことあるような……。

 

 とにかく、シャンドルはその呪いのせいで敵意むき出しだったわけだ。

 オルステッドも気の毒な体質だなぁ。

 でも、それが私には効かなかったし、七星さんにも効いてないみたいだから、転生者や転移者には効かないのかもしれない。

 

 そのオルステッドは今、いつの間にか回収してた仮面を七星さんに渡してるところだった。

 こうして見ると、顔は怖いけど結構優しい人なのかなって思える。

 でも、シャンドルは今でも敵意というか警戒心全開で睨みつけてるので、オルステッドの呪いとやらは相当強いんでしょ。

 

「終わったのかい?」

「うん」

 

 そして、私もそんなシャンドルのところに戻る。

 効果あるかわかんないけど、一応オルステッドが呪子ってことも話しておいた。

 

「……そうか。呪いだったのか。だとしたら、私の反応は失礼すぎたかもしれないね。

 だけどそれよりも、私としては君がヒトガミのことを知っていたことの方が驚きだよ」

「ごめん。言うの、忘れてた」

 

 私の弁明を聞いて、シャンドルはガックリと肩を落とした。

 全てを諦めたような顔だ。

 私に何を言っても無駄だよねって言わんばかりの顔だ。

 失礼な。

 

「とにかく、ヒトガミにはなるべく関わらない方がいい。

 私の叔父なんて、ヒトガミに唆されたせいで、愛する人共々殺されたそうだよ。

 ヒトガミに与すれば今度は彼も本気で殺しにくるだろうし、早いところ縁を切ることをオススメする。

 ヒトガミは敵にしても味方にしてもロクな結果に終わらない存在だよ」

「わかった。次、出てきたら、無視する」

 

 あのモザイクってそんな危ない奴だったんだね……。

 最初はただの夢だと思ってたのに。

 奴には姉の居場所を教えてもらった恩があるけど、それを踏み倒してでも私はシャンドルの方を信じる。

 ヒトガミとシャンドルでは信頼度が違うんだよ。信頼度が。

 

 私達がそんな話をしてるうちに、オルステッドと七星さんは魔法大学の方に向けて去っていった。

 七星さんは見えなくなるまでずっと手を振ってた。

 めっちゃ懐かれたような気がする。

 

「さて、私達も行くとしようか。……と言いたいところだったんだけどね」

「ん?」

 

 二人が去ったのを見送って、さあ私達もと思ったところで、シャンドルがなんか言い始めた。

 それも、かなり真剣な顔で。

 

「さっきの龍神との戦いを見て思ったよ。

 エミリー、君はもう充分に一人前だ。

 よって君に『北帝』の称号を授け、これにて免許皆伝とする」

「え?」

 

 シャンドルの告げた言葉。

 それは突然の卒業を意味していた。

 

「今までよく頑張ったね。これからも頑張りなさい」

「……はい。今まで、お世話に、なりました。シャンドル、先生」

 

 実感が湧いてくると同時に、私は師匠に卒業を告げられた時と同じように、感謝と尊敬の想いを込めて、シャンドルに頭を下げた。

 最初は半分無理矢理始まった師弟関係。

 でも、この2年くらいの間に、私がシャンドルから貰ったものはあまりにも多く、あまりにも大きい。

 返し切れない一生の恩だ。

 いつか、シャンドルが困ってたら、貰ったこの力で絶対に助けよう。

 私はそう決意する。

 

「ハハ。先生と呼ばれるのは嬉しいけど、今まで通りシャンドルでいいよ。その方が気楽だからね」

「じゃあ、シャンドル。これから、どうするの?」

 

 シャンドルがついてくるのは、私が一人前になるまでと決まっていた。

 なら、私と別れたシャンドルはどこへ行くのか。

 

「そうだね。まずはシャリーアに戻って、アリエル殿下にエミリーの卒業を報せてくるつもりだけど、その後はどうしようか。

 もちろん、アリエル殿下の政争が始まったら戻ってくるつもりだけれど……」

 

 あ、やっぱりシャンドルは完全にアリエル様に籠絡されたんだね。

 果たして肉体関係まで至ったんだろうか。

 聞きたくないから聞かないけど。

 

「うん。それまでは魔法大学で新たに得た力を使いこなすために、また修行の旅でもしようかな」

 

 そして、シャンドルは相変わらず向上心に満ちたことを言い出した。

 オルステッドとの戦いで、付け焼き刃の技を使っちゃったのを気にしてるのかな?

 修行して、付け焼き刃を本当の力にするとか考えてそう。

 

「連絡、届く、場所には、いてね」

「もちろんだよ。いつでも駆けつけられるように、中央大陸にはいるつもりさ」

 

 こうして、シャンドルもまた去っていき、私は一人でミリス大陸を目指すこととなった。

 不安はない。

 師匠やゼニスさんに叩き込まれた旅の知識に加え、シャンドル達と共に実際に旅をした経験が今の私にはある。

 物覚えの悪い不出来な弟子だったけど、もう最低限は自分でできるという自負はある。

 

「さて、行こうか」

 

 一人そう呟いて、私はまず北方大地の出入り口、赤竜の上顎を目指す。

 北帝の称号に恥じない生き方をしようと心に誓いながら。

 

 

 

 

 

 あ、シャンドルの正体について問い質すの忘れた。


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