剣姫転生 〜エルフの娘は世界最強の剣士を目指す〜   作:カゲムチャ(虎馬チキン)

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34 すれ違い

 シャンドルや七星さんと別れ、旅をすること2年くらい。

 ようやくミリス神聖国にまで辿り着いた。

 さすがに、世界の反対側の北方大地からスタートしただけあって遠かったよ……。

 

 だけど、この道のりは本来もっと短縮できるはずの旅程だった。

 それこそ、順当に行けば4分の1くらいの時間で辿り着けたかもしれない。

 なのに、こんなに時間がかかった理由は、ひとえに路銀が尽きたことに起因する。

 

 迂闊だったとしか言いようがない。

 一応ミリスまでの路銀は姉に持たされてた。

 でも、その管理をしてたのはシャンドルだ。

 私より確実に上手くお金を使えるんだから当然だよね。

 ただし、そのシャンドルとはオルステッド戦の後に、その場の勢いで別れちゃったもんだから、財布まで一緒にシャリーアに戻っちゃったのだ。

 

 そのことに気づいたのは、赤竜の上顎を通ってアスラ王国に辿り着いた後だった。

 もうすぐ冬がくるってことで、大雪に足止めされないように、全力疾走と野宿でお金を使わない旅をしてたのが災いした。

 それでも出る僅かな出費は、お小遣いとして渡されてた分だけで事足りてたのが、余計に大元の財布の存在を私が思い出すことを阻害した。

 結果、気づいた時にはアスラ王国に来ちゃってた上に、北方大地は冬真っ盛りで、引き返すには相当の時間がかかるというありさま。

 

 仕方なく、随分昔に登録した冒険者の資格を使って、冒険者としての仕事で路銀を貯めることにしたよ。

 幸いと言っていいのか、冒険者ランクを上げる暇がまるで無かったから、私のランクは最低のFランクのまま。

 そして、このアスラ王国では専門職が充実してるせいで何でも屋である冒険者の仕事が少なく、低ランクの仕事しかない。

 高ランクの依頼になる強い魔物の討伐とかは、騎士団が片付けちゃうからだ。

 

 で、冒険者はシステム的に、低ランクが高ランクの仕事を受けることも、高ランクが低ランクの仕事を受けることもできない。

 高ランク冒険者だったギレーヌがこの国で野垂れ死にかけたのはこれが原因だ。

 だけど、私は北帝とはいえ低ランク冒険者なので、低ランクの仕事には困らない。

 地道に雑用みたいな仕事をこなしてお金を貯めていったよ。

 低ランクに戦闘の仕事なんてないから、苦手分野でしょっちゅうポンコツ晒して延々と貯まらなかったけどね。

 それどころか、仕事でドジって備品を壊して、借金まで抱える始末……。

 借金ができちゃった以上、踏み倒すわけにもいかないから、路銀なしの強行軍に踏み切ることもできない。

 

 これなら北帝の肩書を活かして、どこかに売り込んだ方が早いと思ったんだけど。

 この平和なアスラ王国で、北帝という過剰な武力を必要としてるのは、アリエル様みたいな護衛を欲してる偉い人くらいだ。

 

 さすがに、アリエル様に協力する意思がある以上、そういう人と勝手に接点を持つわけにはいかない。

 だからこそ、ここには水神流の総本山なんて垂涎ものの場所があるのに寄りつけないのだ。

 あそこは貴族と婚姻関係まで結んでガッツリ癒着してるから、突撃だけは絶対に我慢しなさいって姉に何度も何度も言い聞かされたからね。

 

 ポンコツ戦闘狂の自覚がある私だけど、絶対にやるなと言われたことをやるほど腐っちゃいない。

 無意識に向かおうとする足を、その度にぶっ叩いて、泣きながら我慢しましたとも。

 ちっくしょー!

 

 この頃は全然貯まらないどころかマイナスの貯金額を嘆きつつ、一人寂しく今まで培ってきた技の鍛錬をしてたよ。

 唯一の癒しタイムは、オルステッドが纏ってた龍聖闘気を真似る訓練をしてた時くらいだ。

 あの芸術的な闘気を習得できるかもしれないっていう希望は、日々の暮らしの支えになった。

 

 まあ、魔力眼で見た感じ、龍聖闘気は技術だけじゃなくて、特別な才能というか体質というか、そういうのが必要な感じがするんだけどね。

 初めて闘気を見た時に感じた『少量の魔力を何かと混ぜた上で変質させて体に纏ってる』という印象。

 その魔力と混ぜてる何か(・・)の量というか、質というかが龍聖闘気習得の絶対条件に思える。

 

 そして、その何かが私には圧倒的に不足してるってこともなんとなくわかった。

 いや、私が不足してるというより、オルステッドが凄すぎるのか。

 多分、私がどれだけ努力しようとも龍聖闘気を習得できる日はこない。

 

 でも、オリジナルは無理でも劣化版なら意外といけそうな感じがしてるのだ。

 今でも少しずつ、本当に少しずつだけど、龍聖闘気の練り込まれた魔力の流れを再現することで、私の闘気の硬度が上がってきてる気がする。

 目に見える変化が現れるまでに何年もかかるだろうけど、そこまで行ければ私は確実に強くなると確信した。

 

 そんな感じで自分を慰めつつ、どうにか時間をかけて最低限のランクになり、弱い魔物の討伐依頼を受けられるようになってからは早かったよ。

 弱いとはいえ魔物は魔物。

 倒せば雑用よりよっぽどいい報酬が手に入るし、何より得意分野だから連続でガンガン成功させられる。

 その好循環でランクは上がり、お金は増え、借金を完済し、遂にアスラ王国を旅立てるだけの路銀とC級冒険者の資格を私は得た!

 ただし、それまでにかかった時間、約1年半!

 

 そんな困難に見舞われながらも私はめげず、ミリス大陸を目指して前進した。

 平和すぎるアスラ王国を抜ければ、紛争地帯を抜けた後にも通った、それなりに治安が悪くて魔物も出る場所(紛争地帯に比べれば天国だけど)に出るから、得意分野の戦闘が活かせて、旅は順調に進んだよ。

 

 そのまま中央大陸を南下し、最南端の王竜王国に辿り着く頃には私の冒険者ランクはAに上がり、ナナホシ焼きとかいう唐揚げもどきとご飯のセットを食べて喜ぶ余裕すらあった。

 というか、ナナホシ焼きって……。

 誰が広めたのか一発でわかる。

 七星さんも色々やってたんだなぁ。

 

 あと、これは副産物なんだけど、冒険者として活躍してるうちに割かし有名になった。

 私がそこそこ高ランクになって強い魔物をバッタバッタと薙ぎ倒し、北帝としては恥ずかし過ぎるくらい遅くにようやく頭角を表し始めた頃。

 魔法大学で私のことを見てたらしい卒業生だか落第生だかが、魔法大学での私の逸話と、誰かが言い出した『妖精剣姫』って異名を広めてくれたのだ。

 おかげで、最近では吟遊詩人が私のポンコツエピソードを除いたカッコ良い感じの逸話だけを唄ってくれるので、それを聞いてると中二心が満たされる。

 

 そんな激動の冒険者生活を乗り越え、私は王竜王国の港町『イーストポート』から船に乗り、ようやくミリス大陸へと到着した。

 時間をかけすぎたので、そこからは走って両親や師匠の待つミリス神聖国首都『ミリシオン』へ。

 今の私なら全力疾走で最高時速150キロくらい出せるし、余力を残して走っても100キロは出る。

 そこらの馬車よりよっぽど速い。

 

 そうしてミリシオンまで駆け抜け、師匠達が所属してるというフィットア領捜索団の情報を聞いた私は愕然とした。

 

 なんと、フィットア領捜索団はつい先日、資金を出してたアスラ王国のダリウス上級大臣とかいう奴(アリエル様を失脚させた奴だ)から資金援助を打ち切られ、解散したらしい。

 師匠達も数日前にミリシオンを去ったとか。

 まさかのすれ違い!?

 ぬぁーーー!! 財布を忘れたばっかりにーーー!! 

 

 でも、師匠達がどこに向かったのかは、ミリシオンの冒険者ギルド本部の掲示板に伝言として残されていた。

 多分、すれ違い対策だ。

 師匠達の気遣いに感謝しよう。

 

 その伝言によると、どうやら師匠の家族はゼニスさん以外の全員が見つかったらしい。

 そのゼニスさんも、どうやってかは知らないけどベガリット大陸の『迷宮都市ラパン』って場所にいるという情報を掴み、師匠達はそこへ向けて旅立ったそうだ。

 

 それを知った私は、ゼニスさんさえ救出できれば、少なくとも私の大切な人達は全員生存でハッピーエンドを迎えられると歓喜した。

 そして、即座に師匠達を追ってベガリット大陸へ渡ることを決断。

 また走ってミリス大陸側の港街『ウェストポート』に行き、そこから船に乗ってイーストポートに取って返す。

 更に、イーストポートからベガリット大陸に出てる船に乗り込んで、私は別大陸に殴り込みをかけた。

 待っててください、ゼニスさん!

 

 ……思えば、この時もうちょっとよく考えるべきだったんだと思う。

 

 師匠達はそこまで戦闘能力の高くない両親と共に移動してる。

 移動手段は多分、徒歩か馬車だ。

 それなら、高速で走ってきた私なら余裕で先回りができる。

 だったら、ミリス大陸からベガリット大陸に行く時、必ず経由しなきゃいけないウェストポートで師匠達を待つべきだったんだ。

 

 そこまで思慮が及ばなかった私は、ゼニスさん救出しか頭になくなり、一刻も早くという思いで先走って、単身ベガリット大陸へ渡った。

 失念してた。

 ベガリット大陸は、中央大陸とは言語が違う(・・・・・)ということに。

 

 結果、私は言葉も通じない異国で一人、ものの見事に遭難した。




一方……

エリナリーゼ「ゼニスが見つかりましたわ」
ルーデウス「よし、ベガリット行くか」
ヒトガミ「ベガリットにはエミリーがいるから大丈夫さ。それより君は魔法大学に行きなさい。そこで君のEDは治るでしょう」
ルーデウス「マジっすか、ヒトガミ様!?」

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