剣姫転生 〜エルフの娘は世界最強の剣士を目指す〜 作:カゲムチャ(虎馬チキン)
ベガリット大陸に渡り、言葉が通じないことに気づいてやべぇって思ったけど、まだそこまで慌てるような時間じゃなかった。
ここは王竜王国のイーストポートから続く港町。
つまり、海を渡ってきた中央大陸の人達も多いわけで、その人達には言葉が通じる。
で、私は言葉が通じる人達に迷宮都市ラパンってところに行きたいんですって話をしたところ、それならラパンの迷宮から出るアイテムを取り扱う商人がいるから、そいつの旅に同行させてもらえばいいって言われた。
なるほど、そういう方法があるのかと感心しながら知恵を授けてくれた人にお礼を言い、私はその商人を探し出して、積荷の護衛をする代わりに馬車に乗せていってもらうという契約が成立。
運が良いと無邪気に喜んだ。
雲行きが怪しくなってきたのは、その商人の馬車がベガリット大陸の砂漠を拠点とする盗賊団に襲われたことだ。
いや、襲われたという言い方は正確じゃない。
実際は商人と盗賊団が組んでやがったのだ。
奴らの会話内容はわかんなかったけど、恐らく「商人、お主も悪よのう」「いえいえ、盗賊団様ほどでは」とかそんな感じだったに違いない。
言葉はわからなくても、商人がねっとりした声で下手に出てたのはわかったし。
私以外にも護衛の冒険者はいたんだけど、どうやらそいつらもグルだったっぽい。
言葉の通じない哀れな旅人を捕まえて売り飛ばすビジネスでもやってたんでしょ。
もちろん、大人数で囲んで武器を突きつけて下卑た笑みを浮かべるような連中に慈悲はない。
まるで紛争地帯を思い出すような、血で血を洗う争いが即座に勃発したよ。
相手は盗賊のくせに、後詰めで出てきたのを含めれば100人規模の軍隊みたいな奴らで、歩兵、弓兵、魔術師、果ては騎兵までいて高度な連携を取ってくるという、もうそのままどっかの国に雇われろ! って言いたくなるようなレベルの高い連中だったけど、個々の力は幹部っぽい奴でせいぜい上級剣士並み。
頭領っぽい奴は驚いたことに王級にギリギリ届くか届かないかってくらいの強さだったけど、所詮強いのはそいつ一人だけだったから、私は個としての戦闘力の高さに任せて無理矢理圧倒した。
「北神流奥義『烈断』!」
シャンドルがオルステッドに放った奥義『破断』の下位に位置する技。
『烈断』という、まあ一言で言えば巨大な斬撃を放つ技と、込める魔力を増やして規模と威力を増幅させた衝撃波の魔術で一気に数を減らしていった。
ひとえに相性の差だね。
私が広範囲攻撃を持たないタイプの剣士だったら物量に圧殺されてたかもしれないけど、持ってるタイプだったから格下がうじゃうじゃって状況には強いのだ。
さすがに、これが千人とか一万人とかになると無理だろうけど、100や200の弱兵じゃ私は倒せない。
もっとも、油断したら毒が塗ってあった矢に当たって死んでたかもしれないけど。
いや、でもどうだろう?
今の私の闘気なら、あの程度の矢が当たってもかすり傷くらいで済むだろうし、それくらいの傷から侵入してくる少量の毒なら初級の解毒魔術でも吹き飛ばせたかな?
まあ、当たらないに越したことはないんだけども。
結局、奴らは頭領っぽい奴が死んで、全体の三割くらいが壊滅したあたりで勝ち目なしと判断したのか逃走を開始した。
また襲われたら敵わないから、追撃してできる限り倒しておいたけど、バラバラの方向に逃げられたせいで全員は倒せてない。
そして、ここからが悪夢の遭難生活の始まりだった。
最初の絶望は、私を嵌めた例の商人が、戦いに巻き込まれて死んでたことだ。
死体は放置しとくとアンデッド系の魔物になりかねないから、できる限り死体は燃やすのがこの世界の常識なんだけど、そのために盗賊団の死体を纏めてる時に、その商人の死体を発見してしまったのである。
それだけならまだ問題はなかった。
私のようないたいけな少女を売り飛ばそうとする奴に慈悲はない。
問題は、その商人以外に中央大陸の言語が通じる奴がいなかったことだよ!
別にわざわざ生け捕りにしたわけじゃないんだけど、たまたま攻撃が急所を外れてて生き残り、仲間に置いていかれた哀れな盗賊が何人もいたから、私は当初そいつらの誰かを脅してラパンまで案内させるつもりだった。
紛争地帯で最初に情報源にした奴と同じ扱いだね。
ところがどっこい。
そいつらは誰一人として中央大陸の言語(人間語っていうらしい)を話せなかった。
人間語で脅しても、わかる言葉で答えろって言っても、この大陸の言語(闘神語っていうらしい。港町で聞いた)で喚き散らしたり、命乞いするだけで、人間語を話し始める奴は一人もいない。
私は途方に暮れた。
そうして私は現在、砂漠の地、ベガリット大陸のどことも知れない場所で、一人さまよってるわけである。
どうしてこうなった!?
商人「話が違うじゃないですか、ヒトガミ様ーーー!!」