剣姫転生 〜エルフの娘は世界最強の剣士を目指す〜   作:カゲムチャ(虎馬チキン)

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36 遭難中なう

 ベガリット大陸で遭難してから半年くらいが過ぎた。

 不幸中の幸いとして、死ぬような窮地には陥ってない。

 

 飲み水は幼少期にルーデウスと姉から習った水の初級魔術で出せるし、食料はそこらへんに食いでのあるデカい魔物がいくらでも生息してる。

 見える範囲にいなくても、魔眼の出力を上げれば見つけられる。

 ベガリット大陸は、世界で屈指の強い魔物が出てくる地域らしいからね。

 強い魔物はデカい奴が多いのだ。

 

 そいつらをこれまた幼少期に習った初級の火魔術で焼いて食べれば、とりあえず飢えて死にはしない。

 怖いのは魔物を食べた時に毒に当たることだけど、初級とはいえ解毒魔術があれば、生まれついての頑丈さと合わせて大抵の毒はなんとかなる。

 習っといて良かった魔術。

 教えてくれたルーデウス、姉、ゼニスさん、本気でありがとう。

 

 あと、遭難中って言っても、別にずっと砂漠の中をさまよってるわけじゃないよ?

 全力で空に向かってジャンプした後、足の裏に発生させた衝撃波の魔術を踏みつけて上へ上へと飛んでいき、上空から地表を見渡せば、村とか街の場所くらいわかるからね。

 あんまり高くは飛べないけど。

 空の上、障害物の一切ない場所に吹き荒れる強風。

 無理。

 砂漠の上なのに寒かったし。

 

 それでも空の上からの観測なんてチートがあるんだから、大きな街くらいすぐに見つかると思ってた。

 だけど、あの商人が運んでくれやがった場所が悪いのか、主要な街とかがある地点からは外れてるみたいで、半年経っても小さな村とか小さな街にしか辿り着けてない。

 そういう小さな集落には、もちろん人間語を話せる人なんかいるはずもない。

 なんとか身振り手振りで最低限の意思疎通をして、必要物資を魔物の素材と交換する物々交換とかはできてるけど、目的地である迷宮都市ラパンの場所を聞くとか、そういう高度なコミュニケーションは取れないのだ。

 

 やばい。

 このままじゃ師匠達に合流するどころか、アリエル様が動くまでに帰ることすらできないかもしれない。

 結構焦ってきた。

 今ならヒトガミの助言にもすがっちゃうかもしれない。

 いや、実際に夢に出てきたらガン無視するけどさ。

 シャンドルとの約束を違える気はないから。

 

 そんな気持ちで、今日も私は砂漠を行く。

 前に打ち上げ花火観測した時から結構進んだし、ここらでもう一回やっとこうか。

 今度こそ大きな街とか見つかりますように。

 

「北神流『花火』」

 

 そんな名前をつけた大ジャンプで上空に飛び上がり、大空の上から地表を観測する。

 どうせあったとしても、いつも通り小さな村とかだろうなぁ……って、ん!?

 

「あ、あった!?」

 

 あった!

 あったよ! 大きな街!

 苦節半年……ようやく見つけたぁ!

 

「『衝撃波(エアバースト)』!」

 

 私は空中で回転して、頭をやや下に、足を斜め上に向けた水泳の飛び込みみたいな体勢になる。

 そして、足下で強烈な衝撃波を発生させ、それを思いっ切り踏みつけて、街の方向へ落下しながら弾丸のように吹っ飛んだ。

 

 この時、私の目には希望(まち)しか映っていなかった。

 だからだと思う。

 不幸な交通事故が発生しちゃったのは。

 

「グギャアアアアアア!!?」

「わっ!?」

 

 限界まで加速してたせいで、雲を突き破って飛び出してきた何かにぶつかった。

 その何かは私に巻き込まれて一緒に地表に落ちていく。

 最近ようやく形になってきた龍聖闘気もどきのおかげで、追突のダメージが少なかったのが救いだ。

 

 私は衝撃波で減速してから着地し、その何かもどうにか軟着陸。

 そして、怒りに満ちた目で私を睨んできた。

 

 いや、さすがに今のはスピード違反してた私が悪かったと思……あっ!?

 貴様、青竜じゃないか!

 我が因縁の相手!

 いや遭遇したのは一回だけだし、あの時の奴は倒したから人違いならぬ竜違いなんだけれども。

 

 でも、例え竜違いだとしても、今のは全面的に私が悪かったとしても、殺しにくるなら容赦はしない。

 魔物と話し合いで和解とか無理だからね。

 前回貴様の同類と遭遇した時より、私は遥かに成長した!

 今回は一撃で葬ってやる!

 

 そうして、私が戦意を漲らせて剣を抜こうとした瞬間……

 

「とう!」

 

 どこからともなく、でっかい剣を持った黒髪の少年が飛び出してきた。

 ここに飛び込んでくるとか、どんな命知らず!?

 一瞬そう思ったけど、魔力眼に映った少年の闘気の質を見て絶句。

 なんじゃこりゃ!?

 シャンドルには多少及ばないけど、それでも私以上の練度だよ!?

 

「************! *************! ***********!」

 

 その少年は、闘神語で何事か叫びながら青竜に突撃をかました。

 青竜が口から青い炎の息吹を放つ。

 かつて水神流で受け流したにも関わらず、私を黒焦げにしてくれた忌まわしい攻撃。

 そこらへんの剣士が食らったら、一瞬で黒焦げ通り越して昇天するだけの破壊力がある。

 

 でも、彼はそこらへんの剣士ではない。

 

「*****『**』!!」

 

 少年が手に持った巨剣、とてつもない魔力を纏った魔剣を振りかぶり、見覚えのある技を放った。

 私も使う北神流奥義『烈断』だ。

 巨大な斬撃が青竜のブレスを引き裂き、そのまま前進を続け……一撃のもとに最高峰の魔物を屠ってみせた。

 

 青竜が断末魔の声すら上げられないまま真っ二つになる。

 それを見届けた少年は、なんかキザな感じにポーズを決め、私の方に向き直った。

 

「******? ****」

「え、えーと、その……」

「*? ああ、人間語か! 言葉がわからなかったんだね。すまなかった。これで通じるかな?」

「あ、はい」

 

 少年は私の困惑とどもった言葉を読み取ってくれたのか、すぐに人間語に切り替えて話してくれた。

 人間語……人間語!?

 ああ、探し求めてた言葉のわかる人が遂に……!

 

 だけど、落ち着こう。

 まずはお礼言うのが先だ。

 ぶっちゃけ、ピンチでもなんでもなかったんだけど、助けようとしてくれたのは事実だし。

 

「助けて、くれて、ありがとう、ございます」

「何、可愛らしいお嬢さんを助けるのは当たり前のことさ。僕は英雄だからね!」

 

 英雄?

 勧誘してきた時のシャンドルみたいなこと言うなぁ。

 っていうか、この人かなりシャンドルに似てる。

 あのナイスミドルを若くすればこんな感じになりそう。

 

「僕の名前はアレクサンダー。アレクと呼んでくれていいよ、お嬢さん」

 

 そうして、シャンドル似の謎の少年は、私に向けてニコリと笑いかけた。


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