剣姫転生 〜エルフの娘は世界最強の剣士を目指す〜 作:カゲムチャ(虎馬チキン)
「それにしても災難だったね。まさか、こんなところで青竜に襲われるなんて」
「……うん、まあ」
アレクサンダー……アレクさんの言葉に、思わず曖昧に頷いてしまった。
言いづらい。
あれは完全に私の不注意による事故でしたとか、凄い言いづらい。
しかも、被害者もう死んじゃってるし。
哀れ、青竜。
「それで、君はなんで一人でこんなところにいたんだい?」
「迷宮都市、ラパン、目指して、遭難中」
「ラパン? それなら向こうの方角だね」
そう言ってアレクさんが指差したのは、私が飛んできた方向から少し横にズレた場所だった。
と、通りすぎてた……!
薄々そうじゃないかとは思ってたけど……!
「ラパンには何をしに行くんだい?」
「家族と、お世話に、なった、人達、いるから、助けに、行く」
「そうなのか。まだちっちゃいのに立派だね」
アレクさんが頭を撫でてきた。
完全に子供扱いされてる!?
いや、まあ、私今生だとまだ15歳だし、あとなんかエルフの血が変な仕事してるのか、姉より体の成長が遅くて年齢以上に幼く見えちゃうから、仕方ないっちゃ仕方ないんだけど。
「よし! ここで会ったのも何かの縁だ! 僕が責任を持ってラパンまで送ってあげよう!」
「え!? 本当?」
「本当だとも! 英雄は嘘を吐かないんだ!」
堂々と、微塵の嘘も感じさせないような自信と誇りに満ち溢れた顔でアレクさんは言う。
それを見て、私は既にこの人を信用しかけていた。
チョロいとは思うけど、この人といるとシャンドルといるような気分になるのだ。
顔立ちだけじゃなくて、雰囲気というか、元気の良さというか、そういうのもシャンドルそっくり。
この強さといい、高度な北神流の技といい、シャンドルそっくりの見た目と中身といい。
ここまで揃えば、いくらポンコツの私でも、この人の正体がなんなのか大体察する。
……いや、でも血筋だけで人となりを判断するのは危険だよね。
今だって安易に人を信じた結果遭難してるんだから、不意討ちとか罠とかには警戒しとこう。
仮に真正面から戦った場合、勝ち目は……2割くらい?
いや、あの巨剣が伝説通りなら1割ないか。
果たし合いはバッチコイだし、真剣勝負もなんの憂いもない状況なら望むところだけど……私はまだ色々と抱えてるものがあるから無断で死ねない身だ。
本気の殺し合いになったら逃げよう。
シャンドルも無謀な玉砕は得意技「死んだふり」を使ってでも避けなさいって言ってたし。
「でも、その前に君は街でゆっくり休むべきだね。というわけで、行こう!」
アレクさんは青竜の骸に駆け寄り、軽く引きずりながら私を街へと誘導した。
それ持ってくんだ……。
いや、竜の素材とか死ぬほど高く売れるらしいし、実際私も前に倒した青竜とか、シャンドルが倒した赤竜とかの素材を剥ぎ取ったことはある。
でも、丸ごとお持ち帰りする人は初めて見た。
確かに、街が近ければ丸儲けだね。
青竜を引きずるアレクさんに続いて街に入る。
住人達の視線が凄い。
化け物を見る目がアレクさんに注がれてる。
だけど、アレクさんは全く気にすることなく、むしろ誇らしげに胸を張ってた。
そのままベガリット大陸にも当たり前のようにあった冒険者ギルドへ直行。
こんな言葉の違う大陸にまで進出してるとか、冒険者ギルドっていったいなんなんだろう?
「やあ、素材の買い取りをお願いしたいんだけど?」
「は、はい! 買い取りですね! わかりました!」
受付にいた格差社会を感じるインド人っぽい美人さんが、アレクさんから冒険者カードを受け取って買い取り手続きを開始した。
他の国でも感じたけど、何故か冒険者ギルドの受付嬢は私に劣等感を抱かせる人が多い。
わ、私だって成長すれば……!
あと、さらっと話してたけど、今のベガリット大陸の闘神語じゃなくて人間語だ。
冒険者ギルドの職員なら、多言語もマスターしてるのかもしれない。
これなら万が一アレクさんの気が変わっても、ギルドでラパンまでの護衛依頼とか引き受ければ目的地まで行けそう。
前回のことはギルドを通さなかったから起きたことだと思いたい。
「えっと、アレクサンダー様……え!? アレクサンダー様!? SSランク冒険者、冒険者の頂点と言われている、あの!?」
なんかアレクさんの冒険者カードを見て驚愕する受付嬢。
ギルドにいる冒険者も中央大陸出身がそこそこ多いのか、受付嬢の言葉の意味を理解した層がザワザワとし始める。
そして、1分としないうちに、アレクさんに注がれてた化け物を見る目は、畏怖と尊敬の目に変わった。
ほえー。凄い。
でも、アレクさんのドヤ顔が全てを台無しにしてる気がする。
そこからは素材の買い取り手続きはスムーズに進んだ。
青竜丸ごと一匹とか、買い取り価格がとんでもなくて、お金を準備するのに数日くださいって言われたけど……まあ、数日くらい仕方ないか。
一刻も早くラパンに行きたいけど、半年以上も遭難してた時に比べれば数日くらい許容範囲だ。
ただ、アレクさんが出てこなければ、他の人にくっついてもっと早く行けたのではという思いもなくはない。
「竜退治の記念に乾杯! 今日は僕のおごりだ! 存分に飲んでくれ!」
「「「うぉーーーーー!!!」」」
そんな私と違って、アレクさんは降って湧いた大金で冒険者達に大盤振る舞いしていた。
さっきから「ア・レ・ク!」「ア・レ・ク!」というアレクコールが鳴り止まない。
アレクさんの機嫌は有頂天だ。
楽しそうですね。
……だけど。
「た、大変だぁーーー!!」
そこに宴の雰囲気に水を差す、歓声とはタイプの違う大声が響き渡った。
それを発したのは、軽装の冒険者っぽい男だ。
人間語話してるし、中央大陸出身かもしれない。
「なんだなんだ! せっかく楽しいところだったのによー!」
「空気読め!」
「***! ****!」
人間語、闘神語入り乱れて男へのブーイングが飛ぶ。
でも、男は気分を害する余裕すらないみたいで、真っ青な顔で叫んだ。
「ファランクスアントだ! ファランクスアントの群れが凄い勢いでこの街に近づいてきてやがる!!」
その言葉を聞いた瞬間、あれだけ騒がしかった場の空気が一気に変わった。
言葉の意味を理解したっぽい人から、顔色が情報を伝達してきた男と同じ真っ青に染まっていき、遂に悲鳴が上がる。
もう人間語も闘神語もない。
悲鳴がうるさすぎて何言ってるのかわからない。
わからないので、私はアレクさんの袖をくいくいと引いて疑問をぶつけた。
「ねぇ、ファランクスアントって、何?」
「最強の魔物の一種だよ。千を越える群れで移動するアリの魔物で、進路上にあるものは竜であろうとなんだろうと、全て喰らい尽くして行進を続ける怪物だ」
「せ、千!?」
さすがにそれは私でも勝てる自信がない!
よし、逃げるか。
北神流は引き際の見極めも上手いのだ。
燃える死闘とただの自殺は違うしね。
これがシャリーアに攻め込んでるとかだったら私も腹括るけど、縁もゆかりもないこの街のために捨てられる命じゃない。
ゼニスさんを見つけ出して、アリエル様が起こす政争から姉を守り抜くまでは死ねないのだ。
そうして、逃走手段とその後のラパンへの旅路を計算していた私の頭を、不安に思ってるとでも勘違いしたのか、アレクさんがぽんと優しく撫でた。
「大丈夫だ。僕に任せなさい」
安心させるような声で、自信に満ち溢れた声でそう言って、アレクさんは冒険者ギルドの面々へと目を向ける。
そして、今度は自信も安心感もそのままに大声で話し始めた。
「だいじょーーーぶ!! ここには僕がいる! SSランク冒険者、アレクサンダーが!!」
ギルドの悲鳴をかき消すレベルの大声で、アレクさんが呼びかける。
それだけで、喧騒がやんだ。
ほんの少しだけど、冒険者達の目に希望の光が宿る。
「恐れることはない! ファランクスアントは強大な存在だが、所詮は弱兵の群れ! 一体一体はそう強くない! 群れの大部分は僕が引き受ける! 共に戦う勇気のある者は続け! 僕と共に、この地を襲う災厄を打ち倒そう!」
本当に、一切の不安を感じてないような、堂々とした姿。
シャンドルがよく語っていた、私ならなれると言っていた『英雄』という存在。
ここには、本当の英雄がいた。
私なんかより遥かに英雄に相応しい男がいた。
「行くぞ! 出陣だ!」
「「「うぉおおおおおおおお!!!」」」
英雄に感化されて、戦士達は武器を取る。
今ここに、後に英雄譚として語られる戦いの一節が、なんかついていけないくらい唐突に始まろうとしていた。