剣姫転生 〜エルフの娘は世界最強の剣士を目指す〜   作:カゲムチャ(虎馬チキン)

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38 英雄達

「君はどこかに隠れていてよかったのに……」

「あんまり、舐めない。こう見えて、私、強い」

 

 もう街からでも大きく見えるくらい近づいた魔物の群れ、赤い大地が動いてるようにしか見えない壮大な数のファランクスアントとかいう魔物を前に、

 私とアレクさんは、冒険者と街の警備兵の連合軍と一緒に、街から離れた場所に布陣していた。

 

 これは戦いに街を巻き込まないようにするためらしい。

 一応、襲来まで二日くらいの猶予があったので、土魔術による簡易な砦……いや砦っていうには心許ないから壁かな。

 うん、とりあえず無いよりは遥かにマシな防壁を築くことはできた。

 

 なんで真っ先に逃げようとした私がここに参加してるのかというと、まあ、普通に勝ち目があるなら逃げるつもりはないからだ。

 縁もゆかりもないの街のために玉砕覚悟の特攻をするつもりはないけど、勝ち目のある戦いに助力するくらいは剣士として普通にやる。

 

 相手は千を超える大軍勢って話だけど、こっちにだって100人くらいの戦力がいるし、アレクさんと私は一騎当千だ。

 それに、聞いた話だとファランクスアントの一体一体は本当に弱い。

 下位の奴だと魔物として最低ランクのEランク、上位の奴でもDランクかCランクらしい。

 Cランクなら中級剣士でも何人かで挑めば普通に狩れる。

 Eランクなんて言わずもがな。

 つまり、勝ち目はあるってことだ。

 

 そうして真っ赤な体をしたアリの魔物どもがハッキリ見えるくらいまで近づいてきたんだけど……ちょっとアレクさん、話が違いませんか?

 千どころか、どう見てもその十倍はいるんですけど?

 一万越えの大軍勢とか聞いてないよ!

 なるほど、こんなに数がいるなら最強の魔物の一種と言われるのも納得だね。

 逃げとけば良かったかもしれない。

 

「突撃! 僕に続け!」

「「「おおおおおおお!!!」」」

「あ、ちょっ、待っ……!」

 

 アレクさんが迷わず突撃してしまった!

 その後ろから近接タイプの戦士達が続き、更に後ろの防壁の上から弓兵と魔術師が味方を巻き込まない位置にいるアリどもに遠距離攻撃を食らわせて数を減らした。

 特に魔術師の人達の活躍が目覚ましい。

 

 シャンドルから聞いてはいたけど、本当に魔術師はこういう数対数の戦いになると強いなぁ。

 一対一だと、まず剣士には勝てないって言われてる魔術師だけど、戦闘での彼らの真価は集団戦だ。

 攻撃魔術っていうのは、ランクが上がれば上がるほど攻撃範囲が広くなっていく。

 上級魔術でも数十人を纏めて吹き飛ばせるし、魔法大学で教師に見せてもらった聖級や王級の魔術に至っては、一人で千や二千の軍勢を相手にできそうなレベルだった。

 この街にいるのは、せいぜい上級魔術師が二人と、中級魔術師が十人くらいだったけど、それでもかなり心強い。

 

 だけど、そんな魔術師の攻撃も思ったほど効いてない。

 なんと恐ろしいことに、ファランクスアントの方も何体かが魔術を放ってこっちの魔術をレジストしてるのだ。

 一体一体の魔術は初級魔術程度の威力なんだけど、数が集まれば上級魔術にすら押し勝ってる。

 本当にアリなの君達?

 どこかの狩人漫画に出てくるキメラなアントを彷彿とさせるよ。

 

 とにかく。

 私がまずやるべきなのは、あの魔術使ってくる一団を潰すことかな。

 

「北神流『花火』!」

 

 私は遭難生活で習得した怪我の功名的な技を使い、一気に上空へ飛び上がった。

 ファランクスアントはアリのくせに陣形を組んで、魔術師アリどもを後衛に配置して前衛の壁で守ってるから、前衛を無視した空からの強襲で後衛を潰す!

 

「北神流奥義『烈断大雪崩』!」

 

 落下する加速エネルギーすら威力に変換した、上空からの巨大斬撃が魔術師アリどもを薙ぎ払う。

 さすがに一撃で全滅はさせられなかったけど、何度も何度も剣を振るって確実に削る!

 

 魔術は使わない。

 あれの利点は剣を振らなくても発動できることと、魔力さえ込めれば烈断以上の範囲攻撃ができる点なんだけど、その分燃費が悪いからね。

 というか、魔術はことごとく剣術より燃費が悪い。

 魔力をただの破壊力として放出してる剣術と、魔力を物理現象に変換してる魔術じゃ燃費が違うのは当たり前だと思うけど。

 とにかく! こっちの消耗を抑えながら、なるべく数を削る!

 

「うぉおおおおおお!!!」

 

 私が魔術師アリどもを狙い始めた時には、既にアレクさんが前衛の群れに突撃して無双劇を開始していた。

 上級魔術すら超える攻撃範囲を持つ斬撃をポンポンと飛ばし、凄い勢いでアリどもを駆逐していく。

 アリがゴミのようだ!

 更に、アレクさんの後ろからついていった人達が討ち漏らしを倒し、私が魔術師アリどもを倒したことでレジストされなくなった魔術が、更にアリどもを駆逐していった。

 

 私は龍聖闘気もどきのおかげで上がった防御力に任せて、どうせノーダメージの雑魚の攻撃を無視し、攻撃だけに専念してアレクさんと同等の撃墜数を稼ぐ。

 やがて、前方からアレクさん、後方から私に切り崩された陣形の中で、私達二人は合流した。

 

「驚いた! 本当に強いんだね君は! いったい何者なんだい?」

「別に、ただの、遭難中の、冒険者。Aランク『妖精剣姫』エミリー」

 

 私とアレクさんは背中合わせに戦いながら、そんな会話に興じる。

 くっさいセリフ言っちゃったのは、雰囲気に酔ってたからだ。

 あとで掘り返されたら悶絶するかもしれない。

 

「ふふ、そうか。なら、僕も改めて名乗ろう! 通りすがりのSSランク冒険者、アレクサンダー! いずれ父をも超える英雄になる男だ!」

 

 そう言って、アレクさんは右手に握った巨剣を上段に構えた。

 

「右手に剣を!」

 

 見覚えのある動き。

 聞き覚えのある言葉。

 最強の技の前口上。

 

「左手に剣を!」

 

 アレクさんが両手で握った巨剣に魔力を込めた。

 力を注ぎ込まれた伝説の剣が、歓喜するように黒く重い色の魔力を放出する。

 私の魔力眼にはその光景が見える。

 

 大量のファランクスアントが黒い魔力に絡め取られ、宙釣りになったように空に浮いた。

 地に足がつかないんじゃ、魔術とかを使える奴じゃないと何もできない。

 身を丸めて防御はできるだろうけど、攻撃も回避もできない。

 

「両の腕で齎さん! 有りと有る命を失わせ、一意の死を齎さん!」

 

 そんな哀れなアリの群れに、アレクさんはその一撃を振り抜いた。

 

「奥義『重力破断』!!」

 

 アレクさんの圧倒的パワーに、伝説の剣の能力である重力操作による圧力まで加わって、とてつもない威力となった一撃が、逃げられないファランクスアントの群れを飲み込んだ。

 かつてシャンドルが放った奥義を遥かに超える力。

 しかも、今回は威力よりも攻撃範囲を重視してるのか、黒い重力の魔力によって押し潰され、薄く引き伸ばされた斬撃が中空を走る。

 

 一撃。

 たったの一撃で、千を超えるファランクスアントが跡形もなく消滅した。

 

「どこが、ただの、冒険者だ」

 

 私の撃墜数なんて目じゃない。

 たった一撃で大きく差をつけられてしまった。

 これがアレクサンダー。

 伝説の継承者。

 

「さあ、共に行こう、エミリー! 僕達で勝利を掴むんだ!」

 

 アレクさんが私を引っ張るように突っ走って、軍勢が一気に消えて守る壁が薄くなった女王アリっぽいのに向けて突撃していった。

 

「ふふ」

 

 私は思わず笑いながら、その後に続く。

 

 ああ、楽しいなぁ。

 

 強敵相手に思う存分剣を振るうのが楽しい。

 これだけの強者と一緒に戦えるのが嬉しい。

 紛争地帯の時のように、守るべきものを満足に守れない焦燥に駆られることもない。

 オルステッドと戦った時みたいに、シャンドルについていくだけで精一杯で、サポートが限界だったあの時とも違う。

 

 私の原初の憧れ。

 画面の向こうの英雄(ヒーロー)達と同じ場所に、彼らと対等な立ち位置に、ようやく少し足を踏み入れることができた気がする。

 まさか、遭難した先でこんな出会いがあるなんて思わなかった。

 

 私はアレクさんと並んで女王アリに向かう。

 唯一不満があるとすれば、この敵だ。

 この女王アリはそこそこ強い。

 単独でも、ランクにしてAはあると思う。

 けど、今の私達の前に立つには役者不足だ。

 

「北神流!」

「奥義!」

 

 私とアレクさんの剣技が交わる。

 不思議と呼吸の合わせ方がわかった。

 シャンドルと修行しまくったおかげだと思う。

 

「「『烈風十字断』!!」」

 

 交差する二つの烈断。

 それが女王アリを守る最後の親衛隊を無慈悲に葬り去りながら直進し、女王アリ自身をも葬って、そのまま背後の一団を薙ぎ払う。

 

 そして、あの女王アリが指示を出してたのか、司令塔のいなくなったファランクスアントの群れは、果敢に攻めるものの統率を失い、烏合の集となって一匹残らず駆逐されていった。

 

 

 

 

 

「僕達の勝利だ!!」

「「「うぉおおおおおおおおおおおおおお!!!」」」

 

 アレクさんが剣を天に掲げながら勝鬨を上げ、生き残った割と多くの戦士達が大歓声を上げる。

 その時、不意にアレクさんが隣に立つ私の方を見て満面の笑みを見せた。

 

「我が名はSSランク冒険者、アレクサンダー!

 またの名を、━━『北神カールマン三世』アレクサンダー・ライバック!

 人々を襲う災厄の魔物ファランクスアント! 僕と街の勇者達、そして我が戦友『妖精剣姫』エミリーが討ち取った!」

「「「わぁああああああああああああああ!!!」」」

 

 アレクさんが予想通りの称号を名乗り、あとなんか私が戦友扱いされた。

 北神というとんでもないネームバリューを聞き、ファランクスアントを倒した興奮も相まって、戦士達のテンションは最高潮。

 アレクサンダーコールとエミリーコールが鳴り止まない。

 なんか……いいね! こういうの!

 私もテンションが天元突破しそう!

 

「さあ、街に戻って宴の続きだ! ファランクスアント討伐を盛大に祝おう! もちろん全部僕のおごりだ!」

「「「よっしゃああああああああああ!!!」」」

「わーい!」

 

 私もテンションが上がったまま冒険者ギルドに併設されてる酒場に向かい、乾杯する戦士達と一緒に、前世を含めて人生初のお酒を飲んだ。

 浴びるように飲んだ。

 飲み比べにも積極的に参加し、最後はアレクさんだけになり、そして……

 

 気づいたら私は、酔い潰れて死屍累々の連中が転がる冒険者ギルドで、最後の一人になっていた。

 私、お酒強っ!?




龍聖闘気もどきがアルコールへの耐性まで上げてしまった哀れなエミリー。


魔力総量
ロキシー<エミリー<シルフィ<<<<<<<越えられない壁<<<<<<<<<ルーデウス

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