剣姫転生 〜エルフの娘は世界最強の剣士を目指す〜 作:カゲムチャ(虎馬チキン)
ファランクスアントが襲来した街から旅立ち、あの日以来かなり仲良くなったアレクさん……アレクの案内で迷宮都市ラパンを目指してから1年以上が経った。
1年以上が、経った。
ラパンまでの距離はそれなりに遠かったといえば遠かったけど、さすがに1年以上も旅しなきゃいけないほど離れてたわけじゃない。
なのに、こんなに旅が遅れたのは全部アレクのせいだ。
あいつ、行くところ行くところで面倒事に首を突っ込んで、戦闘力で解決できる問題なら解決し、できない問題ならしっちゃかめっちゃかにして去っていくという、英雄というより迷惑系主人公みたいなことばっかりしてたのだ。
途中で呆れかえって、アレクさんじゃなくてアレクと呼び捨てにするようになった。
気安い間柄になったから呼び捨てにしたんじゃない。
敬意が無くなったから呼び捨てにしたのだ。
良かったことといえば、北神三世という極上の修行相手と毎日戦えたことくらいか。
アレクは北神の代名詞である伝説の剣『王竜剣カジャクト』の力がある分、シャンドルより強かった。
重力を増して重くなる攻撃。
重力を軽くしてフワリと浮き上がったり、かと思ったら上や横に落ちたりするする変態軌道。
重力を駆使したアクロバティックな動きの数々。
魔力眼で重力魔術発動のタイミングを察知してもなお戦いづらい。
おかげで、勝率は1割程度だ。
お互い殺す気の本気の戦闘になったら、もっと下がると思う。
あと、アレクがいることによって、オルステッドと戦った時並みのピンチに陥ったこともあった。
このベガリット大陸には、かつて魔神ラプラスがベガリットの屈強な戦士達を滅ぼすべく放ったっていう『サキュバス』って魔物がいるんだけど、こいつの特徴はなんといっても、男を発情させて誘惑して殺すことだ。
サキュバス狩り自体は難しくない。
戦闘力は低いから、見かけた瞬間、斬撃飛ばしで真っ二つにすればいい。
アレクも今までそうやってサキュバスを迎撃してきたらしいし。
ただ、一回だけ私のポンコツのせいでサキュバスの接近に気づかず、アレクがサキュバスの出すフェロモンみたいなのを食らっちゃったことがあった。
そのサキュバスは即座に始末したんだけど、それでアレクの発情が治まるわけじゃない。
そして、サキュバスの誘惑というのは強すぎて、一度かかった男は中級の解毒魔術で治すか、女を抱くまで性欲が暴走して半ば理性を失ってしまう。
ここまで言えばもうおわかりでしょう。
その時、私は血走った目で襲いかかってくるアレクに犯されかけたのだ。
理性が吹っ飛んでたせいで技のキレもなく、あれだけ大事にしてた王竜剣まで手放して押し倒しにきたおかげで、なんとか気絶させて街に運ぶことができて、娼館にぶち込むことで危機は去ったけど、本気でやばかった。
後日、アレクはかなり申し訳なさそうな顔で私に謝罪してきて「責任は取る!」とか言ってきたけど、未遂だったからすげなくふった。
ちなみに、その直後に『七大列強の石碑』っていう、現在の七大列強の序列を表示する謎の石がある場所を通ったんだけど、序列の変化はなかった。
七大列強は前任を倒すか称号を受け継ぐことで入れ替わるって話だけど、どうやらあのサキュバス騒動は戦いとしてカウントされてないっぽい。
痴話喧嘩にでもカウントされたのかな?
そんなこんなのすったもんだがありつつ、1年以上に渡る旅の末に、私は遂に目的地である迷宮都市ラパンに到着した。
長かった。
マジで長い旅だった。
今の感想を語るとしたら、たった一言、こう言いたい。
疲れた。
「ラパンについてしまったね……。これでエミリーともお別れか」
さっきまで街の各地から伸びる12本の白い柱(昔シャンドルが倒した魔物の骨らしい)を見て複雜そうな顔してたアレクが、今度は本気で残念そうな顔になった。
なんかアレクって友達いない上に、弟子にも逃げられたとかでボッチを拗らせてるのだ。
父親とすら上手くいってないっていうか、その父親が唐突に王竜剣と北神の称号を押しつけて家出したまま帰ってこないせいで、アレクは色々と拗らせてる。
迷惑系主人公みたいに色んなことに首を突っ込むのも、「あらゆる偉業を成して、父さんなんか超える英雄になってやるんだ!」って思いが先行してるからだ。
何やってるの、シャンドル。
今度会ったらアレクに会いにいけって言っとこう。
というか、冒険者ギルドを通した伝言でも書いとこう。
なお、家族の問題に首を突っ込んで火傷したくなかったので、私の師の一人がアレクのダメ親父だとは伝えてない。
シャンドルも無駄にもったいぶって隠してたから文句は言えないはずだ。
多分、アレクと同じように、ここぞって時に明かした方がカッコ良いとか思ってたんだろうけど、余計なことしたものである。
「エミリー、僕はいずれ、父さんを超えるほどの英雄になるつもりだ。
そして、英雄の隣には頼れる仲間がいるものだ。
どうだろう? 君の用事が終わったら、また僕と一緒に……」
「ここ以外にも、色々、問題、抱えてるから、無理。ごめんなさい」
「そ、そうか……」
アレクが捨てられた子犬みたいな顔になった。
そんな顔されたら、お姉さん罪悪感湧いちゃうじゃないか。
……全く、仕方ないなー。
「私も、アレクも、長命種。そのうち、また会うことも、ある」
「! そ、そうか、そうだね!」
一気にアレクの顔が明るくなる。
尻尾があったらブンブン振ってそう。
やれやれだぜ。
「エミリー! いつかまた会おう! その時こそ共に偉業を成そう!」
「はいはい」
七星さんのごとく見えなくなるまで手を振るアレクを、控えめに手を振りながら見送る。
よし、見えなくなったね。
さて、行こう。
目的地はラパンの冒険者ギルド。
師匠達がミリス神聖国を出てからもう1年半くらい経ってるんだし、私の予想ではもうゼニスさんを見つけ終わって、フィットア領に帰ってると思うんだ。
ああ、いや、フィットア領は何もなくなっちゃったから、姉のいる魔法都市シャリーアに向かった可能性も高いか。
まあ、ゼニスさんを見つけて帰ったにせよ、ゼニスさんが移動してて追いかけたにせよ、冒険者ギルドに伝言くらい残ってると思う。
ミリシオンにも伝言を残してくれるくらいマメだったからね。
で、もうここにいないのなら、今度こそギルドを通した信用できる移動手段で次の目的地に向かえばいい。
え?
それならアレクと別れなければ良かったんじゃないかって?
さすがにもう、あいつに付き合って無駄にするほどの時間は無いんだよ。
助けてくれた恩と善意を無意にするのはダメだと思ったし、一応目的地に向かって進んではいたから、今まで他の道案内に乗り換えることはなかったけど、さすがにこれ以上あいつの珍道中に付き合ってる時間はない。
暇な時だったら結構楽しそうなんだけどね。
そんな気持ちで冒険者ギルドを探してた私の視界に、見覚えのある人物の姿が映った。
整った顔立ちに、私と同じ金髪。何故か私より短い耳。
それは紛れもなく……
「父?」
「え? あ!? エミリー!? なんでこんなところに!?」
そう。
その人物とは、我が父ロールズだったのだ。
父の影になってた場所には父と同じく驚いた顔の母がいて、少し離れたところからはこれまた見知った人物、師匠の家のメイドさん(いや、お妾さん?)のリーリャさんがいて、父の大声を聞いて近寄ってきた。
他にも見知らぬ女の人が二人と、見知らぬ猿顔の人が一人いるけど、まあ、とりあえず、
「父、母、久しぶり」
「ああ、本当に久しぶりだ。手紙見たよ。シルフィも見つかったみたいで本当に良かった。でも、なんでこんなところに……」
「あなた、エミリー、積もる話は宿でしましょう。ここだと他の方の迷惑になるわ」
「あ、ああ。そうだな」
「わかった」
母に注意されたので、皆に案内されて他の人達もいるという宿に向かう。
どうやら父達は必要物資の買い出しの途中だったみたいで、他の人達は宿で休んでるとのこと。
そうして案内されていった宿では……
「わお」
なんと、師匠、お婆ちゃん、ロキシーさん、タルハンドさん、あと何故か私を見て複雜そうな顔してる青年。
凄い背が伸びてるけど、ルーデウスかな?
とにかく、そんな感じで、この場にはオールスターキャストが集結していた。
「エミリー!?」
「久しぶり、師匠」
「エミリー! お久しぶりですわ!」
師匠を皮切りに皆が押し寄せてきて、お婆ちゃんに抱きしめられつつ質問攻めにされた。
でも、私としてはそれより先に知りたいことがある。
「ゼニスさん、どうなってるの?」
これだけの戦力がここにいる理由。
すなわち、これだけの戦力が無いとどうにもならないと思われてるであろうゼニスさんの現状。
それを知らないと始まらない。
既に嫌な予感しかしないけど。
「ああ、ゼニスは……転移の迷宮ってところに囚われてるらしい。まだ発見できてねぇ」
辛そうな顔で師匠が語った言葉。
それを聞いて「嘘でしょ!?」という感想しか出てこなかった。
迷宮。
私もまだ潜ったことのない未踏領域。
危険な魔物の群れと凶悪なトラップに守られた、難攻不落の天然の要塞。
とっくに救出されてるかもと思ってたのに、そんなところにゼニスさんがいるなんて、予想外もいいところだったから。
ようやく……マジでよくやく原作の流れに合流できた……!