剣姫転生 〜エルフの娘は世界最強の剣士を目指す〜 作:カゲムチャ(虎馬チキン)
その後、私達はお互いの情報をすり合わせた。
ぶっちゃけ、ゼニスさん救出に必要なのは師匠達が持ってる情報だけなんだけど、別れてた家族や知人がどうしてたのかを知りたがるのは人情ってものだ。
まず、この状況に至るまでの経緯だけど。
最初のキッカケは、ロキシーさん達が魔大陸で『魔界大帝』キシリカ・キシリスっていう、歴史にも出てくる大魔族と出会って助力を得ることができたことらしい。
キシリカの持つ『万里眼』っていう世界のどこでも見れるチートな魔眼を使って師匠の家族の場所を探ったんだとか。
さすが歴史の登場人物。
オルステッド並みにぶっとんでやがる。
それで、ゼニスさんがここ、迷宮都市ラパンにいることが判明。
でも、キシリカの万里眼でもラパンのどこにいるのかが見えなかったため、キシリカの能力の届きづらい迷宮の中にゼニスさんがいる可能性が高いと予想した。
その情報を持って、ロキシーさんとタルハンドさんはミリシオンにいた師匠達のもとへ。
お婆ちゃんは師匠に会うのが嫌だったから、ゼニスさんのついでに居場所を探ってもらったルーデウスが北方大地にいたということで、そっちに情報を伝えにいったらしい。
魔界大帝と魔王の助力で海を渡って、魔大陸から北方大地へ一直線で。
……というか、ルーデウスが北方大地にいた?
もしかしたら、私と出会ってた可能性もあるのか。
ちなみに、お婆ちゃんが師匠に会いたくなかった理由は、父達を師匠のところへ送っていった時に大喧嘩したからだってさ。
最初は、当時家族が誰も見つからなくて荒れに荒れてた師匠を見て怒る気も失せたらしいけど、お節介焼いて色々言ったら、酒まで入ってた師匠に逆ギレされて、父の前で過去のことまで掘り返されてお婆ちゃんもブチ切れ。
再びの喧嘩別れになってしまったと。
ただ、ラパンで再会した時に師匠から土下座で詫びられて、まだちょっとプリプリ怒りながらも水に流したらしい。
お婆ちゃん、立派。
で、話を戻して、情報を持ったロキシーさん達が師匠に合流。
その頃には、転移事件で魔大陸に飛ばされて、ロキシーさん達とすれ違ってミリシオンに来たルーデウスと再会できたことで、紆余曲折はあったものの立ち直ってた師匠は、情報を貰ってすぐにラパンへ行くことを決意。
父と母と元々保護してたノルンちゃん、それとルーデウスが探し出したというリーリャさんとアイシャちゃん、フィットア領捜索団が解散してもついてきてくれたさっきの女の人二人と共にミリシオンを出立。
その数日後に、私がミリシオンに辿り着いたわけだ。
「それは、その、なんていうか……悪かったな」
「師匠の、せいじゃない。やらかした、私のせい」
それで、その後は子連れで危険なベガリット大陸に渡るわけにはいかなかったため、イーストポートで偶然再会したという凄い強い知り合いにノルンちゃんとアイシャちゃんを任せ、ルーデウスのいる魔法都市シャリーアに送ってからベガリット大陸へ来たという。
って、ん?
今聞き捨てならないことが……
「ルーデウスが、シャリーアに?」
「ああ、魔法大学に入学するって手紙が来てな。いやー、驚いたぜ。何も言ってねぇのにエミリー達と同じところに向かってんだから」
じゃあ、姉はルーデウスと再会できたのかな?
本人がここにいるんだから問い質すこともできるけど……いや、今は情報のすり合わせが優先。
続きお願いします。
「わかった」
更にその後、ラパンでさっきの猿顔の人、ギレーヌやお婆ちゃんやタルハンドさんと同じ師匠の元パーティーメンバーのギースさんと再会し、ギースさんの情報でゼニスさんがいる迷宮がどこかを特定したらしい。
それが『転移の迷宮』という場所。
パーティーメンバーをバラバラに分断するタチの悪い『転移の罠』がそこら中にある凶悪な迷宮。
その攻略は遅々として進まず、焦れたギースさんが独断でシャリーアのルーデウスに向かって手紙を送り、ルーデウスは同じく魔法大学に入学してたお婆ちゃんと一緒に驚異的な早さで合流。
その時、うっかり転移の罠を踏んで遭難してたロキシーさんを助け、現在はルーデウスが魔法大学から持ってきた『転移の迷宮探索記』という攻略本みたいなもののおかげで、もう少しで最深部まで辿り着けそうな状況らしい。
それを私が聞いて思うことは一つだ。
「ごめん、師匠。超、遅れた」
「いや、謝らなくていい。オレ達のためにベガリットまで来てくれたってだけで充分すぎるほど感謝してるさ」
「師匠……!」
私は感動した。
師匠の人間としての大きさに感動した。
必ずやゼニスさんを助ける力になってみせる!
「パウロ! わたくしの可愛い孫を騙すんじゃありませんわ! あなた普段から尊敬される要素ゼロでしょうに!」
「な、何おう!?」
「それよりエミリー、別れてた間のあなたの話も聞きたいですわ」
「わかった」
師匠とお婆ちゃん、気安い会話できてて嬉しいなぁ。
そう思いながら、私のこれまでの道中の話をする。
えーと……お婆ちゃん達が持ってる情報は、赤竜の下顎の手前で別れた後、シャリーアで出した姉と再会したって手紙の内容までかな?
ああ、でも、ルーデウスが魔法大学にいたなら、姉から魔法大学時代の話は伝わってるか。
じゃあ、魔法大学を出た後からの話だね。
「魔法大学、出た後、シャンドルに、卒業って、言われた」
「ああ、だからシャンドルさんがいないのか」
「うん。それで、卒業の、証に、『北帝』の、称号、貰った」
「「「北帝!?」」」
異口同音で驚かれた。
驚いてないのはルーデウスだけだ。
どこかで情報でも掴んでたのかな?
「シャンドルと、別れて、北方大地から、アスラ王国に、行った。そこで、シャンドルに、財布、預けてたの、思い出して、路銀、尽きた」
「「「ええ!?」」」
またしても異口同音で驚かれた。
今度はルーデウスも一緒にだ。
まあ、北帝になったなんてニュースの後に、即座にこんな間抜けなニュースが出てきたら驚くよね。
「お金、無くて、仕方なく、アスラ王国で、冒険者、やって、お金、稼いだ。そんなこと、してたから、ミリスまで、2年くらい、かかった」
「ああ、だから俺達が出発したすぐ後に到着したのか。急いでる割には遅いと思ったらそういう……」
師匠含め、全員が可哀想なものを見る目で私を見てくる。
見ないで!
そんな目で私を見ないで!
「それで、師匠達が、ベガリットに、行ったって、冒険者ギルドの、伝言で、知って。引き返して、私も、ベガリット、来た。……そしたら、言葉、通じなくて、遭難した」
「「「遭難!?」」」
「ラパンまで、行くっていう、商人の、護衛、やったら、騙されて、盗賊団に、売られかけた」
「大丈夫だったのか!?」
「壊滅、させたから、大丈夫」
「そ、そうか……」
父が喜べばいいのか心配すればいいのかわかんないって顔してる。
こんな残念な娘でごめんね。
「商人の、せいで、よくわからない、場所、来ちゃって。商人、盗賊との、戦いで、死んじゃったから、言葉、通じる奴、いなくて、遭難した」
「な、なんというか、滅茶苦茶災難だったな……」
「エミリー! ダメですわよ! あなたは幼い見た目のせいで侮られやすいんですから、ちゃんと信用できる相手を見極めませんと!」
「うっ……ごめん」
お婆ちゃんに叱られた。
完全に自業自得だけど。
今はもう16歳のはずなのに、外見年齢13歳くらいだからなぁ。
下手したら、そのうちノルンちゃんとかアイシャちゃんにも身長抜かれるのでは?
恐ろしい。
それはともかく。
「その後、半年くらい、サバイバルして、アレクって、奴に、助けられた」
「アレクくんか。どんな人だったんだい?」
「北神カールマン三世」
「ふぁ!?」
父が変な声を上げて絶句。
他の皆も唖然としてる。
いきなりのビッグネームは、やっぱりびっくりするよね。
「会った時、アレクと、一緒に、ファランクスアントの、群れ、倒したり、した」
「おいおい……! それって最近このあたりまで伝わってきた最新の北神英雄譚じゃねぇか!? じゃあ、北神三世の相棒『妖精剣姫』ってお前か!?」
「うん」
ギースさん、よく知ってるなぁ。
ゼニスさんの情報もこの人が見つけてきたっていうし、情報に強い人なんだろうね。
「パウロ、こいつは勝ったぜ。風呂入ってくる」
「落ち着けギース、意味わかんねぇぞ。いや、オレも意味わかんねぇけど」
師匠達の口調が混乱している。
あと語ることといえば……ああ、あれは外せないね。
「アレクが、サキュバスに、やられた、時は、大変だった」
「え!?」
「ま、まさかエミリー、あなた……!?」
「エミリー、北神様の居場所を教えてくれないかな。ちょっと殺してくるから」
「アレク、もう旅立ったから、いない。それに、未遂だから、大丈夫。気絶させて、娼館に、放り込んだ」
母とお婆ちゃんに心配され、父はバーサーカーになりかけたけど、私の言葉を聞いてなんとか沈静化した。
危うく父が列強になるところだった。
「七大列強を気絶させたのかよ……」
「理性、飛んで、弱く、なってたから」
「だとしてもなぁ……。パウロ、やっぱり勝ったぜこれ。飯食ってくる」
「落ち着けギース。ここは宿の食堂だ」
ギースさんが混乱したまま、師匠の手によって口に何か詰め込まれた。
何やってんだろう。
「私の方は、そんな感じ」
「なんつうか……濃いな。滅茶苦茶濃い冒険してきてるじゃねぇか」
自分でもそう思う。
そして、その殆どのエピソードがポンコツの上に成り立ってるからなんとも言えない。
「ぶっちゃけ、エミリーの話で腹いっぱいなんだが、まだもう一つ伝えとかないといけないことがあってな。ほれ、ルディ」
「は、はい!」
うん?
ルーデウスがなんか緊張した様子で、師匠に背中押されて私の前に押し出された。
何故に緊張?
「実は……魔法大学の在学中にシルフィと再会したんだ」
「うん。予想は、してた」
何が言いたいのかと思いながら、私は喋りすぎて疲れた喉を潤すためにジュースを口に入れた。
「それで、その……俺達結婚したんだ」
「ぶぅーーーーー!!!」
思わずジュースを吹いてルーデウスにぶっかけてしまった。
マジか……!?
それマジか……!?
姉の恋心は冷めてないと思ってたけど、まさかゴールインまで行ってしまうとは……!
落ち着くために、私はもう一杯飲み物を口に入れた。
「それで、もうすぐ子供が生まれるんだ」
「ぶぅーーーーー!!!」
もう一発吹いた。
ルーデウス、貴様、狙ってやってるんじゃないだろうな!?
それにしても、こ、こ、子供!?
姉がママになるってこと!?
じゃあ、私はおばちゃんか?
やかましいわ!
こちとらピチピチの16歳(外見年齢13歳)やぞ!
あああ、頭が混乱する!
「…………とりあえず、おめでとう?」
「あれ? 怒らないのか?」
「なんで?」
「だって、エミリーって俺のこと嫌ってたし……」
ああ、ルーデウスはそれを危惧してたのか。
私に結婚反対されるとでも思ったのかな?
「別に、結婚は、シルの、自由」
「そ、そっか」
「それに、今の、ルーデウスは、そんなに、嫌いじゃない。私のこと、あんまり、エロい目で、見てこないし」
「あ、嫌われてた原因はそれか」
長年の疑問が解けたと言わんばかりのルーデウス。
今のルーデウスは、なんというか、少し余裕のある感じがする。
節操なくがっついたりするほど女の子に飢えてないって感じだ。
それはそれで、獣の欲望を受け止めたのが姉だと思うと、なんとも言えない気持ちになるけど……。
「まあ、とにかく、祝福は、する」
「ありがとう、エミリー」
「それで、生まれてきた子は、私が、最強に、育てる」
「それはやめて」
何故だぁ!?
そうして、しばらくぶりに会った皆との会話を楽しんだ後、師匠が言い出した。
「さて、今日のところはエミリーは旅の疲れを取るために休んでくれ。そして明日、エミリーを加えて迷宮に入る。上の階層で慣らしてみて、行けそうなら最深部まで一気に行くぞ」
明日、遂に始まる。
最後の一人を救うための戦いが。
皆にとっては最終局面、私にとっては迷宮デビュー戦になる。
気合い入れていかないと。
ギースの手紙が届いた時のルーデウス
ルーデウス「どういうことだ!? ベガリットにはエミリーがいるから大丈夫じゃなかったのか!?」
ヒトガミ「大丈夫さ。ちょっと遭難中だけど、エミリーはちゃんと間に合う。今のあの子は北帝だよ? 最終的に君が行かなくても君の母親はエミリーが救い出すさ」
ルーデウス「この状況で信じられるか! いくら腕っぷしが強くても、あの子結構ポンコツだし! しかも遭難中ってなんだよ!? てっきりパウロ達と一緒にベガリットに行ってるもんだとばっかり思ってたのに!」
ヒトガミ「とにかく、ベガリットには行かない方がいい。行かなくても君の母親は助かる。行った場合は博打だ。成功すれば君は更なる幸せを得るけど、失敗すれば大事なものを失う。成功した場合でも多少の後悔は残るしね」
ルーデウス「おいちょっと待て! それはどういう……」
ヒトガミ「ルーデウスよ。魔法大学に残ってリニアとプルセナに手を出しなさい。さすれば君は危険を冒すことなく更なる幸せを得られるでしょう」
ルーデウス「は!?」
その後、ルーデウスはヒトガミを疑って悩みに悩んだ末、最終的にノルンに泣かれてベガリット行きを決意した。
そして、ヒトガミの言う通りエミリーがちゃんと合流したので、本当に奴の言った通りになるんじゃないかと思って複雑そうな顔をした。
ヒトガミ式ピタ○ラスイッチ
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