剣姫転生 〜エルフの娘は世界最強の剣士を目指す〜 作:カゲムチャ(虎馬チキン)
ゴール間近、目の前には三つの転移魔法陣。
でも、ここで困ったことがある。
なんと攻略本に書かれてる情報はここまでなのだ。
攻略本を書いた人はここで罠に嵌まり、仲間全員を失ったらしい。
三つの転移魔法陣。
私にはさっぱり違いがわからないけど、ルーデウス曰く、この中の一つは双方向転移の魔法陣、つまり離れた二つの場所を結んでるオーソドックスなタイプに似てて、
残りの二つはランダム転移、乗ればどこに飛ばされるかわからない、そこら中にあった転移の罠と同じ構造に見えるんだって。
ただ、双方向転移の魔法陣はそう見えるってだけで、攻略本の著者はその判断を信じてこの魔法陣に乗った結果、大量のヌメヌメがひしめいてる場所に飛ばされたらしい。
つまり罠だね。
なら、残りの二つのうちどっちかが正解ってことになるけど、もし間違った方を選んだら大変なことになるし、そもそもルーデウスはこの二つのどっちかが正解って答えにも疑問を持ってるみたいで、魔法陣を睨みつけながら頭ひねって考えてる。
頭の良い人の考えはわかんないや。
私だったら勘で選んで、罠だったら叩き潰して再チャレンジくらいしか攻略法が思いつかない。
私は迷宮探索に向いてないな。
「エミリー、魔眼で何か見えないか?」
「ん、やってみる」
ルーデウスに助力を乞われたので、ここまで殆ど役に立ててない分、気合いを入れて魔眼の出力を徐々に上げていく。
入り口付近とは比べものにならない、一気に酔いそうなほどの濃密な魔力が部屋全体に渦巻いてるのが見えた。
特に、三つの転移魔法陣からはひときわ強い魔力が見える。
ただ、なんか部屋の魔力の流れに違和感があるような気はした。
でも、そろそろ目の奥が痛くなってきたので、守護者戦前に消耗するのもやばいと思って出力を下げる。
「確かに、魔力の、流れ、違和感ある、気がする。でも、迷宮、全部、こうだって、言われたら、私じゃ、わかんない」
「そうか……」
「でも、転移魔法陣、そっちの、二つ、転移の罠と、同じだった。もう一つも、ちょっと、違う、だけで、多分、同じ」
私は三つの転移魔法陣を指差してそう告げる。
こうなると、俄然ルーデウスの言っていた三つとも正解じゃないって可能性が高くなった。
じゃあ、正解はどこって話になるから、ルーデウスも皆も難しい顔になる。
「もっと、魔眼、強くすれば、何か、わかるかも。でも、それやると、目の奥、痛くなりそう」
「とりあえず、ルーデウスの推理でなんとかした方がいいですわね。……エミリーの魔眼に頼るのは、ルーデウスにもわからなかった時ですわ」
「まあ、それしかねぇよな。最高戦力を消耗させるのは避けてぇし。ルディ、頑張ってくれ」
「いや、父さんも考えてくださいよ」
「わ、わたしは手伝いますよ!」
ルーデウスはまた難しい顔で考え出して、ロキシーさんや他の皆にも意見を聞き、我慢できなくなってトイレに行って戻ってきたりしながら、小一時間考え続けた。
ちなみに、下品な話になるけど、迷宮内でのあっちの方は苦労したよ。
やってる最中は無防備になるから、基本お婆ちゃんに周囲を警戒してもらいながらだったんだけど、恥ずかしいのなんの。
まあ、それを言ったら普段の旅でもあれなんだけどね。
シャンドルはそのへんの気遣いができてて、遠距離の見えも聞こえもしない場所から警戒してくれてたんだけど、アレクは無遠慮に近づいてきて半径1メートル以内で警戒し始めたから、一回マジ殴りを食らわせたことがある。
友達いないのも、弟子に逃げられたのも、そういうデリカシーの無さが原因じゃない?
そんなことを思い出しちゃうくらい私にはやることがない。
周囲の警戒くらいしかやることがない。
退路を塞がれたら堪らないって理由で、ここまで魔物はまだ孵化してないヌメヌメの卵を含めて全滅させてきたから、警戒してても魔物なんて来ないし。
油断はしないけどさぁ。
「イィイイイイイ!!」
あ、そんなこと思ってたら、魔物来たわ。
出てきたのはちっこいヌメヌメ。
普通のヌメヌメの陰に隠れてたか、それとも誰かが潰し忘れた卵がたった今孵化して誕生したのか。
とはいえ、普通のヌメヌメですら敵じゃないのに、多分幼体と思われるちっこいヌメヌメなんて余計敵じゃない。
一撃でスパッと斬って終了。
天井から襲いかかってきたヌメヌメジュニアは、上半身と下半身が別れて地面に叩きつけられる。
ただ、これこそが……特大のトラブルの引き金だった。
それは「いやそうはならんやろ!?」って言いたくなるような奇跡的な確率の、あるいは運命的な確率の偶然だった。
上下に別れたヌメヌメジュニアの体が迷宮の床に叩きつけられる。
この時、奇跡的な角度でバウンドした下半身が、奇跡的な角度で上半身に当たり、上半身は予想外の方向に跳ねて飛んでいく。
そして、転移魔法陣を睨みつけていたルーデウスの背中に激突した。
「え!?」
「わ!?」
それは一瞬の出来事すぎて、誰も止められなかった。
ルーデウスの体が転移魔法陣に向けて押し出される。
咄嗟のこと、全くの予想外のこと。
そういう時は、頭で考えるより先に反射で体が動いちゃうものだ。
ルーデウスはふらついた体を反射的に支えようとして、近くにある何かに掴まろうとした。
最悪なことに、この時一番近くにあったっていうか、いたのはルーデウスを抱き止めて倒れるのを阻止できない小柄で非力なロキシーさん。
結果、ルーデウスはロキシーさんに掴まったまま転移魔法陣に足を踏み入れて……
二人の姿が消えた。
ついでにヌメヌメジュニアの上半身も消えた。
予想外すぎる事態に皆揃って唖然とし、数秒間呆けてから、全員揃って驚愕の声を上げる。
「「「ええええええええええ!!!?」」」
その日、ルーデウスとロキシーさんは、最下層で行方不明になった。
運命「良い仕事した」<( ̄︶ ̄)>
ヒトガミ「あーあ。フラグ立っちゃったよ」