剣姫転生 〜エルフの娘は世界最強の剣士を目指す〜   作:カゲムチャ(虎馬チキン)

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43 トラブル

「ッ!?」

 

 二人が転移魔法陣で消えたということに頭が追いついた瞬間、私は二人をどこかに飛ばした魔法陣に向かって走ろうとした。

 でも、私の体が加速し始める前に、お婆ちゃんが私の肩を掴んで止める。

 

「ダメですわよエミリー! 先走ってはいけませんわ!」

「で、でも、私の、せいで……!」

「あなたのせいではありませんわ! あんなの誰も予想できませんわよ! それにあれはランダム転移の魔法陣! 乗ってもルーデウス達とは別の場所に飛ばされるだけですわ!」

「そうだぜ! それにあんたに抜けられたら俺達が地上に戻ることもできねぇ!」

「ぐぬぬ……!」

 

 お婆ちゃんとギースさんに理知的な理由で止められて、私は歯噛みしながら踏み出そうとしてた足から力を抜いた。

 くそぅ!

 あのヌメヌメジュニア、横じゃなくて縦に斬ってればこんなことには!

 

「お、おおおおおお落ち着け! まずは、ええっと、ええっと!?」

「パウロ、まずはお主が落ち着け!」

 

 師匠がめっちゃ動揺してタルハンドさんにどつかれてた。

 それでもまだオロオロしてる師匠に代わって、タルハンドさんが話し合いの火蓋を切る。

 

「さて、緊急事態じゃ。ワシらはどう動く?」

「どうもこうもありませんわ! 転移したと思われる場所を片っぱしから探していくしかないでしょう!」

「まあ、それしかないか。全員、どの程度余裕が残っとる?」

「わたくしは、まだまだ余裕ですわ!」

「こっちもだ。今回はやけにスムーズに進んだからな。物資の消耗も殆どねぇ」

「私、大して、働いて、ないから、問題なし」

「パウロ、お主は?」

「あ、ああ、俺も大丈夫だ」

「ならば、決まりじゃな」

 

 そうして、私達はルーデウス達を探すべく行動を開始した。

 向かう先はルーデウス達が消えた転移魔法陣だ。

 ないとは思うけど、これが正解の魔法陣で、ルーデウス達は今頃守護者と戦闘中って可能性もある。

 私達が話し合いに費やした時間は1分足らず。

 もし守護者と戦ってたとしても、充分間に合うはずだ。

 

 私達は全員が同じ場所に飛ぶために、手を繋いだ状態で転移魔法陣に乗った。

 双方向転移ならこんな必要ないんだけど、ランダム転移は接触してたものしか一緒に飛んでくれないのだ。

 転移事件と同じだね。

 そう考えたら嫌な予感が更に増した。

 

 転移した先は、大量のヌメヌメがいる空間だった。

 攻略本の著者が通った道と同じだ。

 だけど、ルーデウス達はいない。

 やっぱり、あの魔法陣は正解じゃなくて、ただのランダム転移の罠だったってことだ。

 これで少なくとも、ルーデウス達が守護者と戦闘中って可能性はかなり低くなった。

 

「邪魔! 剣神流『疾風』!」

 

 私は斬撃飛ばしの連続斬りでヌメヌメどもを殲滅する。

 前と同じく、うっかり足下の罠を踏まないために、その場から動かず斬撃だけを飛ばす。

 さすがに、光の太刀は連続で使えないけど、一太刀一太刀が無音の太刀の速度を誇る連続攻撃だ。

 所狭しとひしめいていたヌメヌメどもは、数秒とかからずに全滅した。

 

「よし、進むぞ!」

 

 師匠の号令により、私達は前進。

 ただし、フォーメーションが変わった。

 ルーデウスとロキシーさんが抜けて私を温存する余裕がなくなったので、私は師匠とお婆ちゃんに挟まれるポジションで剣を振るうことになった。

 これは私がポンコツを起こした場合に備えて、両サイドの二人がフォローするためだ。

 更に、少しでも罠を踏む確率を下げるために、私は基本さっきみたいに動かず、固定砲台ならぬ固定斬撃発生装置として立ち回る。

 ぶっちゃけ、剣士じゃなくて魔術師の立ち回りだ。

 でも、迷宮初心者の上にポンコツの私にはこれが最適解なんだから仕方ない。

 

 ヌメヌメを処理しながら先へ進む。

 進路の先の行き止まりにあったのは、いくつもの転移魔法陣だ。

 ただし、ギースさんが検証したところ、ここにあるのは双方向転移でもランダム転移でもなく単方向転移、つまり決まった場所に出るけど一方通行の転移魔法陣らしい。

 それを分析できる攻略本がこっちに残ったのは幸いだった。

 この本を持ってきたルーデウスなら、攻略本無しでも同じ分析ができるだろうし。

 

 で、それしか道がないので、私達は自分達が乗る魔法陣の前に目印を置いてから、念のために手を繋いで飛び乗る。

 転移した場所には鎧の群れがいた。

 水神流を使ってくる例の鎧だ。

 構わずヌメヌメ同様に始末した。

 こいつらの技量じゃ私の斬撃飛ばしすら受け流せない。

 

「アーマードウォリアーが出てきたぞ。ってことは、第5階層に来ちまったのか?」

「いや、まだわからねぇぜ、パウロ。

 この本に書かれてるのは第6階層のあの部屋までの情報と、作者が必死の思いで駆け抜けた帰り道の情報だけだ。

 あの部屋からだけ転移する作者も知らねぇ区画があって、そこの魔物の生態系が基本と違っててもおかしくねぇ」

 

 ギースさんのその言葉は正解だった。

 先に進めば進むほど、魔物の生態系がごちゃまぜになっていく。

 ヌメヌメ、鎧、泥人形、芋虫、蜘蛛、今までこの迷宮で出てきた魔物が、この通路には全部いた。

 それが連携を取ってくるからめんどくさい。

 まだ私だけで処理できる範囲だけど、それで私の負担が大きくなって万が一倒れたら終わりだから、師匠達も戦闘に参加するようになった。

 そうすれば問題なく突破できる。

 

「エミリー、大丈夫ですの? もうかなり戦い続けてますが……」

「余裕。ファランクスアントに、比べれば、少なすぎる、くらい」

「……そうですの。でも、無理をしてはいけませんわよ? それでいざという時に疲れ果てて困るのはあなただけではありませんからね」

「わかってる」

 

 お婆ちゃんに心配されつつ、私は魔眼の出力を上げてルーデウス達の痕跡を探す。

 ぶっちゃけ、戦闘よりこっちの方が疲れるくらいだ。

 最奥のあの部屋に比べればマシだけど、濃すぎる迷宮の魔力に紛れちゃって、人の魔力の痕跡が滅茶苦茶見えづらい。

 唯一幸いなのは、ここの迷宮が高難度すぎて、私達以外にこんな下層まで来てる人がいないから、赤竜の髭で姉を探した時みたいに、魔力の個人差まで見分ける必要がないことかな。

 人の魔力=ルーデウス達の魔力である可能性がとても高い。

 昔に挑んだ人達の魔力は、さすがに薄れすぎて私じゃ感知できないし。

 

 そんなことを繰り返しながら進むうち、単方向転移で見覚えのある場所に出た。

 いや、私は道中の景色なんて覚えてなかったんだけど、他の皆が気づいて、ここが第6階層の既にマッピングを終えてる場所だと判明したのだ。

 

 なのに、ここまでルーデウス達の姿どころか、魔力の痕跡もなかった。

 道中、別れ道ならぬ別れ転移魔法陣がいくつもあったし、その先をしらみ潰しに探していくしかないっぽい。

 死ぬほど時間がかかりそう。

 焦る。

 

 通ってきた魔法陣には全部目印を残してるから、同じ魔法陣に乗っちゃうことはないけど、さすがに分岐が多すぎて体力が持たず、何度も撤退して地上に戻るハメになった。

 

 撤退して、地上で少し休んでから再突入。

 それを繰り返し、一つずつ確実に前回とは違う道を攻略していく。

 師匠達はルーデウスの優秀さを信じてたし、この迷宮で一ヶ月遭難して生き延びたロキシーさんも一緒だから、二人の生存を疑ってはいなかったけど、そのロキシーさんが生き抜いた期間である一ヶ月を越えても見つからないとなると、さすがに焦燥を隠せなくなってきた。

 

 そんな時、遂に私の魔眼が人の魔力の痕跡を捉えた。

 

「! 見つけた! あっち!」

 

 いつもだったら考えなしに駆け出して先頭で誘導してただろうけど、ここでそれをやったら転移の罠を踏んでバッドエンドだ。

 それが瞬時に理解できるくらいには経験を積んだ。

 

 私が指差す方に向かって、ギースさんが慎重に罠を探しながら歩いていく。

 やがて、強く魔力を感じる場所に辿り着いた。

 行き止まりだけど、壁の向こうに二人の魔力を感じる!

 

「北神流『壁砕(かべくだき)』!」

 

 奥義『砕鎧断』の前段階に位置する技。

 鎧を砕きながら中身を斬る砕鎧断を覚えるために、まずは鎧の砕き方を、鎧の代わりに壁を砕いて練習する技だ。

 なお、その理由は練習のためにいちいち鎧を壊してたらお金がもったいないから。

 そんな、なんとも微妙なエピソードを持つ技を使って、壁の向こうに乗り込む!

 

「ルーデウス! ロキシーさん! 無事……ッ!?」

 

 そこには、とんでもない光景が広がっていた。

 二人は確かにそこにいた。

 だけど、変わり果てた姿になっていた。

 

 二人は一糸まとわぬ姿で折り重なるように倒れており、壁の中の狭い空間からは異臭が漂い、ロキシーさんの体には血よりも悍ましい白い液体が付着していた。

 

 端的に言ってエッチの真っ最中だった。

 

「お邪魔、しました」

「「待って(待ってください)!?」」

 

 とんだTo LOVEる(トラブル)に突撃してしまったよ。

 私は何も見なかったことにして、能面のような無表情で師匠達のところに戻った。

 

 

 

 

 後で聞いた話なんだけど、二人は魔物連合軍に阻まれて先に進めなかったらしい。

 ルーデウスが大規模な氷の魔術をバンバン使って善戦はしたけど、ヌメヌメ対策のお香がこっちにあったせいで奴らの天井からの奇襲を防ぎ切れず、疲れたところを不意討ちされてルーデウスが負傷。

 ロキシーさんが支えながら撤退して、単方向転移の魔法陣の先にあったヤリ部屋……安全地帯を見つけ出して待避した。

 

 そこで傷の治療をして、体力を回復して、また挑んでの繰り返し。

 でも、どう足掻いても魔物の群れに体力を削られて、何度も襲来してくるヌメヌメにそのうち対処し切れなくなって負傷してしまう。

 ルーデウスもロキシーさんも闘気を纏えないから、一度の被弾が致命的なのだ。

 

 そんなにっちもさっちも行かない状況。

 ロキシーさんはそれが前回遭難した時のトラウマと重なって精神を苛まれ、ルーデウスの方も何週間もやばい遭難生活が続けば参ってしまう。

 この状況を例えるなら、無人島、遭難、絶体絶命、男女二人、こんな感じだと思う。

 そうなると人間の本能なのか、お互いに身を寄せ合って(比喩表現)精神の安定を図ろうとするわけでして……。

 

 …………うん。

 遭難の原因になった私には責められないよ。

 姉の旦那の浮気の原因になってしまった……。

 帰ったら死ぬほど土下座しよう。


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