剣姫転生 〜エルフの娘は世界最強の剣士を目指す〜   作:カゲムチャ(虎馬チキン)

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46 帰還

 師匠が前向きになり、全員で改めて帰還の算段が話し合われた。

 まず、師匠の一家と私の一家は、ルーデウスと姉が家を買って定住しようとしてるらしいシャリーアを帰る場所として定めた。

 ロキシーさんもシャリーアについてくる。

 理由は言わずもがなだ。

 

 他の人達だけど、ギースさんとタルハンドさんはアスラ王国に向かうらしい。

 あそこに高ランク冒険者の仕事はないんだけど、ギースさん曰く、今回迷宮攻略で得たお金でしばらく遊んで暮らすんだって。

 タルハンドさんは豪遊しようとまでは考えてなさそうだけど。

 

 捜索団時代から師匠達を支えてくれたヴェラさんとシェラさんも、アスラ王国に向かうっていうか、帰るそうだ。

 捜索団時代の仲間のところに戻って、フィットア領の復興を手伝うって言ってた。

 なんというか、頭が下がる。

 

 でも、そうしてアスラ王国を目指す人達も、一旦シャリーアに寄ることになった。

 私達が抜けた状態でベガリット大陸を抜けるのは難しいし、何より帰還方法として提案された、ルーデウスとお婆ちゃんがベガリットまで凄まじい速度で移動した方法(極秘につき詮索禁止)を使うと、どうしてもシャリーアの近くに出ちゃうらしい。

 ベガリット大陸を進んで北方大地のシャリーアに出るってどういうこと?

 転移魔法陣か何か?

 

 まあ、とにかく。

 どうせシャリーアの近くに寄るなら、少しくらいゆっくりしてけってことになった。

 

 

 あんまり体を動かせないゼニスさんを運ぶために、ギースさんの提案でベガリットの砂漠を歩けるアルマジロみたいな魔獣を購入して、その子に馬車(アルマジロ車?)を引かせて、全員で帰路につく。

 

 一ヶ月くらいでラパンからバザールって街に到着し、そこで色々とお土産を買ってから、何故かどこの街に通じてるわけでもない砂漠へ向けて行進した。 

 遭難した時のことを思い出して大丈夫かと不安になったけど、先導役のお婆ちゃんが迷いなく進んでるから信じるしかない。

 

 やがて、吹き荒ぶ砂嵐をルーデウスの魔術でかき消しながら進んで、やたら強い魔物達(ファランクスアントやヒュドラに比べれば雑魚だけど)が生息する地帯を抜け、ここからは極秘事項ってことで目隠しをつけられた。

 

「その龍はただ信念にのみ生きる。

 広壮たる(かいな)からは、何者をも逃れる事はできない。

 二番目に死んだ龍。

 最も儚き瞳を持つ、緑銀鱗の龍将。

 聖龍帝シラードの名を借り、その結界を今うち破らん」

 

 目隠しをされた状態の中、ルーデウスがそんな詠唱をしてるのが聞こえた。

 何かの魔術、いや合言葉とか長距離移動装置のパスワードとかかな?

 

 その後はどこかの階段を降りて、転移魔法陣に乗った時みたいな独特の感覚に襲われ、次の瞬間には周囲の温度が急激に下がった。

 砂漠の熱気から北国の冷気ってくらいの落差だ。

 ま、まさか!?

 

 まだ目隠しをしたまま、今度は階段を登り、少し歩いてからようやく目隠しを外す許可を得て外せば、そこはもう雪の降り積もる森の中だった。

 北方大地のどこかの森だ。

 そこそこの時間をこの地で過ごしたからわかる。

 ホントに一瞬で移動したよ。

 

「繰り返しになりますが、秘密の移動手段なので、何か察しても口外しないでくださいね?」

 

 ルーデウスにそう言われた以上、何も言えないんだけどね。

 気にはなるけど、まあいいや。

 

 

 そして、そこから腰の高さまで積もってる雪をルーデウスがラッセル車のごとくかき分けながら、二週間くらいをかけてシャリーアに帰還。

 まず真っ先に事の顛末を姉やノルンちゃん、アイシャちゃんに伝えるべく、ルーデウスが買ったという家に向かった。

 

 ルーデウス邸は、なんというか、デカかった。

 ロアの街にあった領主の館ほどじゃないけど、あれが城みたいなスケールだっただけで、この家も充分に館とか屋敷とかって呼んでいいレベルの大きさだ。

 

 よくこんな家買えたな。

 どこにそんなお金あったんだろう?

 あ、そういえば転移事件から師匠達がどうしてたのかは聞いたけど、ルーデウスがどう過ごしてたのかについては聞いてないや。

 一応義兄ってことになるし、後で聞いとこう。

 

 そんなルーデウス邸の玄関を主人自らがノック。

 すると、中からパタパタと元気な足音が聞こえてきた。

 

「はいは〜い! あ! お兄ちゃん! お帰り!」

「ただいま、アイシャ」

 

 出てきたのは、メイド服を着た笑顔が眩しい茶髪の少女。

 最後に見た時から随分と成長してるけど、師匠とリーリャさんの娘、アイシャちゃんだ。

 私より6歳年下だから、今は9歳か10歳くらいだろうけど、私の外見年齢が幼いせいでそこまで変わらないように見える。

 既に垣間見える格差社会の象徴によって、その差が更に縮まって見えるのも大問題だ。

 ぐぎぎ。

 

「アイシャー! お父さんも帰ってきたぞー!」

「わーおかえりお父さん」

 

 師匠がアイシャちゃんを高い高いするみたいに勢いよく抱っこしたけど、なんかルーデウス相手の時とテンションが違う。

 どことなく棒読みだ。

 アイシャちゃんはお父さん子じゃなくて、お兄ちゃん子なのかもしれない。

 

「アイシャ」

「お母さん!」

 

 リーリャさんが呼びかけた瞬間、一瞬でアイシャちゃんが師匠のホールドを外して、リーリャさんのところに駆け寄った。

 師匠がしょぼんとしてるけど、仕方あるまい。

 アイシャちゃんは転移事件の時、リーリャさんと一緒に飛ばされたみたいだし、ずっと一緒にいたお母さんは特別なんでしょ。

 

 と思ったら、アイシャちゃんは急にハッとしたようにキリッと顔を引き締めてリーリャさんを見た。

 リーリャさんも嬉しそうだった顔を引っ込めて、仕事人みたいな顔でアイシャちゃんを見る。

 

「久しぶりですね。ルーデウス様にご迷惑をかけず、きちんと働けていますか?」

「はい。でき得る限りの努力をしています」

「よろしい。ルーデウス様とは血が繋がっているとはいえ、あなたにとって命の恩人でもあります。以後、気を抜かずに、これからも侍女としての本分を全うなさい」

「はい!」

 

 アイシャちゃんが「サーイエッサー!」とばかりの顔で答え、リーリャさんが満足そうに頬を緩める。

 その後、アイシャちゃんは「奥様を呼んでまいります」と言って、しずしずとしながらもできる限りの早足で家の奥に引っ込み、玄関から見えなくなった直後に「シルフィ姉ー! お兄ちゃん達帰ってきたよー!」という元気な声が聞こえてきた。

 それを聞いてリーリャさんがため息を吐いてる。

 

「ルーデウス様のメイドとしてはしたない……」

 

 まあまあ。

 きっと、皆揃って帰ってきてくれたことが嬉しくて気が抜けたんだよ。

 それでも、リーリャさんは教育ママだったから、色々言いたいことあるんだろうなぁ。

 なんか師匠の浮気で家庭崩壊しかけた時にルーデウスに助けられたとかで、「娘をルーデウス様に仕える立派なメイドにする!」とかよく言ってたし。

 ちなみに、ルーデウスの妹であるはずのアイシャちゃんがメイド服を着てても、奴の性癖である可能性を疑わなかった理由がこれだ。

 

 やがて、アイシャちゃんに連れられて、姉が玄関にやってきた。

 

「ルディ、お帰り」

「ただいま、シルフィ」

 

 凄い嬉しそうに出迎える姉と、そんな姉を優しく抱擁するルーデウス。

 そして、そんな姉のお腹はぽっこりと膨らんでいた。

 これ見れば、二人がもう夫婦なんだと充分すぎるくらいに伝わってくる。

 だからこそ、これからの展開を思えば心苦しいんだけど……。

 

 と、そこで姉がルーデウスの後ろにいた両親に目を向けた。

 

「お父さん、お母さん、久しぶり。無事で、本当に無事で良かった……!」

「シルフィ!」

「あなたも無事で良かったわ……! しばらく見ないうちに、こんなに大きくなって……!」

 

 ようやく再会できた親子三人、全員が涙ぐみながら抱き合う。

 事前に全員の無事をこの目で確かめてた私は後方師匠面で良かった良かったって頷いてたんだけど、姉に手招きされたから、おずおずと家族の輪の中に入って一緒に抱きしめられた。

 

「エミリーもお帰り。ずっと連絡がないから心配したよ」

「ごめん。色々あって、遭難してた」

「そ、そうなんだ……」

 

 そうなんだよ。

 姉はそんな私に苦笑してから、師匠達の方を向く。

 

「パウロさんとゼニスさんもお久しぶりです」

「ああ、久しぶりだな、シルフィ」

「…………」

「あの、ゼニスさん?」

 

 ゼニスさんの様子がおかしいことに姉が気づいた。

 困ったような顔で私達を見る。

 

「母さんの話は、ノルンが帰ってきてからするよ」

「……わかった」

 

 ルーデウスの言葉で、姉は一旦詮索をやめた。

 

 

 その後、アイシャちゃんが魔法大学に入学したっていうノルンちゃんを呼びにいき、私達一行は姉夫婦によるおもてなしを受けた。

 姉は身重なんだからってことでリーリャさんと母が手伝いを申し出て、私も一緒に手伝おうとしたけど、コップとかお皿とかを落としまくってたら、姉に笑顔で戦力外通告を受けた。

 ぐぬぬ。

 アスラ王国で低ランク冒険者やってた頃に少しは慣れたと思ったのに。

 ただ、この家の食器類がやたら頑丈で、落とした程度じゃ壊れなかったのは幸いだ。

 なんでも、ルーデウスの土魔術製らしい。

 家計に優しい魔術覚えてやがる。

 

「お父さん! お母さん!」

「ノルン!」

 

 そんなことしてるうちに、私と同じ金髪美少女に成長したノルンちゃんが、アイシャちゃんに連れられて、息を切らしながらやってきた。

 こっちはアイシャちゃんと違って、脇目も振らずに師匠の胸にダイブする。

 お父さん子の娘がいて良かったね師匠。

 

「……さて。全員揃ったので、話をしよう」

 

 そうして、ルーデウスによって、姉、ノルンちゃん、アイシャちゃんの三人にベガリットであったことの説明が始まった。

 お婆ちゃんと一緒にシャリーアを出発し、ラパンに辿り着き、師匠達と私と合流して、ゼニスさんの情報を頼りに迷宮に潜り、罠に嵌って大ピンチに陥りつつも、誰も死なずに迷宮を攻略して最奥の魔力結晶に閉じ込められていたゼニスさんを救い出した。

 けど、ゼニスさんは迷宮に囚われた後遺症でこう(・・)なってしまった。

 ルーデウス視点で簡潔に告げられ、私達がいくつか補足して伝えた事実。

 それを聞いて……

 

「そう、ですか……。でも、お母さん、完全に何にもわからなくなったわけじゃないんですよね?」

「ああ。胸を揉んだら引っ叩かれた」

「それは聞きたくなかったけど……。でも、どんな状態でも、帰ってきてくれて良かった……! 皆、生きて、帰ってきてくれて、良かっ……!」

 

 そこまでなんとか言葉にした後、ノルンちゃんが泣き崩れてしまった。

 師匠がオロオロとしながら、そんなノルンちゃんを慰める。

 

 補足は終わったし、これ以上家族水入らずを邪魔するのは無粋だと思ったのか、他の皆は目配せし合って、比較的落ち着いてる姉に細かい話とかは後日するって伝えて、今日のところは退散していった。

 グレイラット家以外で残ってるのは、彼らの家族になるかもしれないロキシーさんと、姉側の親族として父と母と私とお婆ちゃんだけだ。

 やらかした責任として、私は姉に土下座しながら事情の説明をするつもりである。

 修羅場が待ってるだろうけど、なんとか円満に収まってほしい。

 

 

 その後、ロキシーさんは正式にグレイラット家の一員として迎え入れられた。

 一夫一婦の掟がある宗教、ミリス教の教徒であるノルンちゃんが盛大に反発したけど、師匠が取りなした結果、流れ弾を食らってメンタルをズタズタにされたりしつつも、当の姉がロキシーさんを受け入れたことで解決した。

 

 私の立場としては複雜としか言えない心境だけど、あの一家に幸多からんことを心から祈るよ。


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