剣姫転生 〜エルフの娘は世界最強の剣士を目指す〜 作:カゲムチャ(虎馬チキン)
私達がシャリーアに帰還してから数日。
私達は盛大にお疲れ様会的な宴会を開いた。
存分に飲んで、騒いで、笑った。
ギースさん、タルハンドさん、シェラさん、ヴェラさんは、冬が明けたらアスラ王国に向けて旅立つんだし、その前に楽しい思い出を残せて良かった。
師匠はゼニスさん、リーリャさんと一緒に、しばらくはルーデウス邸に住むことにしたらしい。
ただ、息子一家のところにいつまでも厄介になって夜のあれを邪魔するつもりはないみたいで、近いうちに家を建てて、ゼニスさんとリーリャさん、それから師匠を特に慕ってるノルンちゃんと一緒に、そっちに引っ越すつもりらしいよ。
といっても、その建てようとしてる家がルーデウス邸の敷地内に増設する離れみたいな感じになる予定だから、事実上の二世帯住宅だと思うけど。
父と母は、迷宮攻略の報酬でルーデウス邸の近所に小さな家を買った。
私と姉という、王女様の二大臣下の両親ということで、不動産屋がかなりゴマすってきてお安くしてくれたらしい。
これからは私も基本的にそっちに帰ることになる。
お婆ちゃんは愛しの旦那様のところへ帰還。
会えなかった寂しさを埋めるかのように、最近は朝から晩まで愛し合ってる。
その旦那さん、クリフさんっていう人を紹介してもらったけど、印象としては尊大な自信家って感じだ。
ただ、私と同じく身長が低いことにシンパシーを感じたのと、お婆ちゃんとの関係が、完全に強気な男の子と綺麗なお姉さんによるおねショタだったから、嫌な感じは一切しない。
末永く爆発してどうぞ。
ちなみに、師匠と父は無職になるつもりなんてサラサラないので、近いうちに魔法大学の警備員として雇ってもらうために面接に行くらしい。
私のコネも姉のコネも、なんか最近学校でぶいぶい言わせてるらしいルーデウスのコネもあるし、まず間違いなく雇用されると思う。
魔法大学と言えば、ロキシーさんも近いうちに、こっちは教師として雇ってもらうつもりなんだって。
ロキシーさんって魔法大学の卒業生だし、今では世界的に見ても希少な王級魔術師だし、落ちる要素を探す方が大変なくらいだ。
確実に採用されるでしょ。
そんな感じで、皆の今後の予定が決まっていく中、私はひとまず魔法大学に復学した。
いくら特別生とはいえ、何年もサボタージュしてたんだから、とっくの昔に退学になってるもんだと思ってたんだけど、どうも今の私は殆ど広告塔みたいな扱いらしい。
帰還の報告をしに行った時に、アリエル様達にそう聞いた。
私が魔法大学を出てから冒険者として獲得した『妖精剣姫』の名声と北帝という称号は、ただ在学してくれてるだけでも、ウチの学校にはこんな奴まで通ってたんだぞー! っていう箔付けになるらしいよ。
最近まで『不死身の魔王』バーディガーディって人すら在学してたって話だし。
その人はふらっといなくなったまま帰ってきてないそうだけど。
「そういえば、シャンドル様が戻ってきた時、お財布を渡し忘れたと言っていましたが、路銀無しで大丈夫でしたか?」
「色々あって、遭難、しました」
「そ、そうなんですね……」
そうなんですよ。
帰還報告した時にアリエル様とはそんな会話もして、「でしたら、辛い遭難生活を忘れられるように体で慰めてあげましょうか?」と久しぶりのセクハラを食らいつつ、丁重にお断りして、その場を去った。
次に帰還の報告をしにいったのは、最後に会った時、魔法大学に入学するつもりだって言ってた七星さんのところだ。
何かあったらアリエル様を頼れって七星さんには言ってたし、そのアリエル様なら居場所知ってるかなって思って尋ねてみたら、今は特別生のサイレント・セブンスターって名前で、専用の研究室にいるんだって。
サイレント・セブンスター……ああ、七星静香の英語読みか。
なんでそんな名前名乗ってるのか不明だけど、まあ、日本人の名前じゃ悪目立ちするかもしれないって思えば、そこまで不思議でもないのかな?
離れてる間に、なんか生徒全員が高校の制服みたいなお揃いの服を着るようになった魔法大学の廊下を歩いて、七星さんの研究室に向かう。
途中、私のことを知ってる世代の上級生から視線を感じたけど、その人達はなんか変な話題で盛り上がってた。
「妖精剣姫だ! かつての学園最強が帰ってきた!」
「番長とどっちが強いんだろう?」
「さすがに番長じゃないか? あんなちっちゃい子じゃ最強集団『六魔連』にも勝てないだろ」
「バッカお前! あの人はあんなちっちゃな体で、百人の舎弟を引き連れたリニア様とプルセナ様をボッコボコにしたことあるんだぞ!」
そして、なんとも気になる話題が聞こえてきた。
どうも今の魔法大学は『番長』とその配下である『六魔連』なる存在がトップにいるらしい。
六魔連には例の不死身の魔王も名を連ねており、番長はそれを打ち破ったんだとか。
へぇ、いいねぇ。
そのうち手合わせでも申し込みに行こうか?
まあ、それは先の話として、今は七星さんだ。
アリエル様に言われただけだと道がわからなかったので、道行く生徒達に教えてもらいながら辿り着いた研究室。
こんにちはー、と挨拶しながらノックして中に入ってみると、そこには三人の人物がいた。
一人は眼鏡をかけたノッポな男の人。
お婆ちゃんやゼニスさんと似た魔力を体に纏わせてるけど、この感じはマジックアイテムを装備してる人達全員がそうなので、呪い持ちなのかマジックアイテム装備者なのかは詳細に見ない限りわからない。
もう一人は、何故かお婆ちゃんの旦那さんであるクリフさん。
何故にこんなところに?
そして、最後の一人が黒髪の日本人少女。
七星さんだった。
何年も経ってるのに全く姿が変わってないけど、それは前会った時に、異世界転移の影響なのか体が変なことになってて、成長もしないし、髪も爪も伸びないし、生理もこないって、不安そうな顔でぶっちゃけてきたから知ってる。
『剣崎さん!』
「わ」
私の姿を見た瞬間、七星さんが飼い主が帰ってきた時の愛犬みたいに飛びついてきた。
思いっ切り抱きつかれて、凄い勢いの日本語で話しかけられる。
顔面に格差社会の象徴が押しつけられるけど、七星さんはせいぜい並くらいなので、そこまで嫉妬の念にかられることはない。
『何年も連絡がないから心配したじゃない! どこで何してたのよ!?』
『ごめんごめん。ちょっと色々ミスって、ベガリット大陸で遭難しちゃってね』
『遭難!? 大丈夫だったの!?』
『大丈夫大丈夫。今の私って遭難生活に耐えうるくらいには強いから』
怒りと心配の混じった感じの七星さんを、どうどうと宥める。
他の二人が突然知らない言語で喋り出した私達を変な目で見てるから、私は七星さんを促してそっちに意識を向けさせた。
『それより、そっちの二人とか紹介してほしいな。まあ、一人は知ってるんだけど。それと、ここ最近の七星さんの話も聞かせてほしい』
『……うん。わかった』
そうして、七星さんはまず二人を紹介してくれた。
ノッポの男の人はザノバさん。
シーローン王国ってところの王子様で、魔法大学に留学中らしい。
アリエル様と同じだね。
ただ、祖国の規模はアリエル様の方が遥かに上だけど。
あと、このザノバさんは『怪力の神子』らしい。
神子、つまり便利な方の呪いを持ってる人ってことだ。
この人から感じた変な魔力はマジックアイテムではなく、この人自身の呪いの魔力だったみたい。
もう一人は普通に会ったことあるけど、お婆ちゃんの旦那さんであるクリフさん。
冗談でクリフお爺ちゃんって呼んでみたら、複雜そうな顔しながらも受け入れられちゃったよ。
どうやらこの人、思った以上に真面目みたい。
でも、やっぱりお爺ちゃん呼びはやめとこう。
私と同い年かちょっと下くらいだろうし。
この二人はどっちも特別生で、最近は七星さんの研究の手伝いをしてくれてるんだって。
ちなみに、二人ともルーデウスの友人でもあった。
クリフさんはお婆ちゃんと自分を引き合わせてくれた仲人がルーデウスで、ザノバさんはルーデウスが人形作りの師匠だって言ってた。
人形?
で、そのルーデウス自身も七星さんには大分協力してるんだってさ。
ルーデウスの魔力総量は滅茶苦茶多いみたいで、その魔力を使って色々と研究を進めてるんだとか。
他にも色々と手を貸してもらってるらしい。
ほうほう。なるほどなるほど。
ルーデウスには後でお礼を言っとこう。
浮気野郎だけど、それとこれとは別だ。
『それと、剣崎さんに一回会ってほしい人がいるの。できれば私達以外誰もいない場所で』
『ん? あ、もしかして日本関係?』
『そうよ。まあ、相手の方に断られるかもしれないけど』
私達以外にも日本出身者っていたのね。
そういうことなら会おう。
私も自分が転生者だって事実はあんまり吹聴したくないけど、同郷の人には会ってみたい。
『会うならできれば2〜3ヶ月以内がいいんだけど、大丈夫そう?』
『え? 多分大丈夫だと思うけど、なんで?』
『そのくらいしたら姉の出産も終わりそうだし、それを見届けたらまた旅に出ようと思ってるんだよ。ゼニスさん、ああ、ルーデウスのお母さんね。その人のこととアリエル様関係以外の大きな問題が大体片づいたから、今度は私が行きたいところに』
本当は魔眼を使ったゼニスさんの呪い解析担当として残るつもりだったんだけど、そんなのずっとやってもらわなくても自分達でどうにかするって師匠には言われたし、その師匠や両親や姉からも「充分助けてもらったんだから、いい加減自分の好きなことしていい」とまで言ってもらったんだから、その心遣いを無駄にはできない。
皆の言う通り、存分にヒャッハー! させてもらうつもりだ。
もちろん、出発までの数ヶ月でできることは全部やってからね。
『え!? 行っちゃうの……?』
七星さんが庇護欲を誘う悲しそうな目で見てくる。
そ、それはズルいよ!
悪いことしてる気分になるじゃん!
『だ、大丈夫だよ! 旅っていっても近場だから! 手紙くれれば飛んでいける距離だから!』
『そ、そうよね。剣崎さんにも自分の生活があるものね。私のことは気にしなくていいわ。今はルーデウス達だっているもの』
『そんな悲しそうな目で言わないでほしいなぁ! わかったから! 半年はこっちにいるから!』
七星さんの潤んだ瞳に屈した私は、滞在期間を当初の2〜3倍に引き伸ばした。
仕方ない。
その間は師匠と
今の師匠は聖級の上澄みくらい強いし、もうちょっと頑張って王級になってくれれば、修行相手としては申し分ないはずだ。
そこまで行ってルーデウスあたりと共闘されたら、下手すれば私の方が負けるよ。
さすが我が師匠。
『それと、できれば剣崎さんじゃなくてエミリーって呼んでほしいな。前の名前も
『わかったわ。じゃあ、私のことも静香って呼んでちょうだい』
『了解、静香。これからよろしく』
『ええ、こちらこそよろしく、エミリー』
七星さん改め、静香とお互いを呼び捨てにする感じの関係を構築。
その後、私はダメ元で静香の研究を手伝えないかと思って話を聞き、専門用語の嵐に打たれて頭をショートした。
ならばと魔力眼を使って、静香が開発してる異世界転移魔法陣の解析をしようとしてみたけど、他の転移魔法陣とかなり違うってことくらいしかわからなかった。
やっぱり研究の役には立てそうにない。
無念。