剣姫転生 〜エルフの娘は世界最強の剣士を目指す〜   作:カゲムチャ(虎馬チキン)

49 / 132
48 平和な日常の一幕

「お父さん! 兄さん! 頑張れぇ!」

「うぉおおおおおお!!!」

「ああああああああ!!!」

 

 シャリーアに戻ってからしばらく。

 姉の出産も終わり、私は現在、魔法大学にある本来なら魔術の試合のための会場で、現在この学校を支配している『番長』と、その番長の配下である『六魔練』、否『新六魔練』のメンバーとの決闘を繰り広げていた。

 

 ギャラリーはとんでもない数がいて、確実に授業をサボって見学にきてる奴どころか、番長と対を成す生徒会長一派、青髪の新任教師を含めた複数人の教員、果てはカツラを被った風王級魔術師(校長)という大物達まで足を止めて見入っている。

 

 戦況は私が優勢だ。

 既に新六魔練のメンバーは一人を残して全滅。

 怪力の神子は気絶させられ、天才魔術師はデコピンされた額を押さえて悶絶し、裏切り者の犬猫はパンツ丸出しでひっくり返り、無詠唱使いの凄腕魔法剣士は会場を包む結界の外に優しく押し出された。

 

 残るは番長と、不死身の魔王に代わって新しく六魔練に加入した新入りのみ。

 その残った二人に声援を送るのは、ファンクラブまであるという学園のアイドルだ。

 彼女の声には特殊な魔力でも宿ってるのか、それを聞いた二人の戦闘力が目に見えて上昇する。

 マジレスすると気合い注入されただけである。

 

「どりゃあああああ!!!」

 

 新入りの剣士が雄叫びを上げながら凄まじい攻勢に出る。

 素晴らしい動きだ。

 攻撃、防御、立ち回り、どれを取っても達人の域にある。

 お世辞抜きにそこらの聖級剣士より強いだろう。

 

 訓練用の木剣によって放たれるその素晴らしい斬撃の嵐を私は受け流し、カウンターを決めようとするも、それは剣士の後ろから放たれた魔術によって妨害された。

 

「そいやぁああああ!!!」

 

 番長の放つ必殺の魔術『岩砲弾(ストーンキャノン)』だ。

 本来であればただの中級魔術であるはずのそれも、学園最強の魔術師が使えば、不死身の魔王を一撃で粉砕するほどの攻撃に早変わりする。

 

 それを水神流の技で受け流すも、カウンターは剣士の攻撃によって封じられた。

 剣士へのカウンターを番長が封じ、番長へのカウンターを剣士が封じる。

 実に息の合った連携。見事なり。

 だが、私には及ばぬ!

 

「剣神流『韋駄天』!」

「ぐはぁ!?」

「お父さん!?」

 

 私はあえて一歩後ろにバックステップした後、全力で走りながら剣を振るう剣神流の技により、急加速した腹部への一閃で剣士を沈めた。

 学園アイドルが悲鳴を上げる。

 そんな外野を無視して、私は最後に残った番長へと一直線に向かって間合いを詰めた。

 

「ひぇ!?」

 

 番長は情けない声を上げながら岩砲弾を連打したけど、その全てを水神流奥義『流』にて受け流す。

 水神流の基礎にして奥義の名を冠する技。

 極めれば受け流せぬ攻撃無しと言われる技を、私はそれなりに高レベルで使いこなしていると自負している。

 そんな殺意の無い魔術で打ち破れると思うな!

 

「『光の太刀』!」

「ほげぇ!?」

 

 やがて、間合いがゼロになったところで、並みの相手には防御も回避もできない神速の一閃を放ち、番長こと学園最強の男を沈める。

 ふっ、短い天下だったな番長よ。

 魔法大学最強の称号は返してもらおう。

 

 私は今回使っていた訓練用の木剣を天に掲げ、堂々たる勝ち名乗りを上げた。

 

「我が名は、北帝、『妖精剣姫』エミリー。学園を、支配する、番長と、その一味。この私が、討ち取ったり!」

「「「うぉおおおおおおお!!!」」」

 

 大歓声が上がる。

 悪逆非道の番長の魔の手から学園を解放した私に万雷の拍手が送られる。

 そんな光景を見て、研究室から出てきてた静香が一言。

 

「何やってんのよ」

 

 ……まあ、静香の言葉が全てだった。

 なんのことはない。

 これは悪の番長と正義の剣士による学園の覇権を賭けた戦いではなく、ただの身内同士による茶番である。

 

 

 

 

 

 私が密かに立ち会いを楽しみにしていた番長と六魔練。

 その正体は、全員知り合いであった。

 番長の正体はルーデウスだったし、怪力の神子はザノバさんだし、天才魔術師はクリフさんだし、裏切り者の犬猫はリニアとプルセナだし、無詠唱使いの凄腕魔法剣士は言わずもがな姉である。

 新入りの剣士は、無事警備員に就職した師匠だ。

 

 師匠は最近入ったから無実として、他の皆は何やってんの?

 番長なんて名乗って楽しかったの?

 って聞いたら、ルーデウスはぶんぶんと首を横に振りながら、全部誰かが勝手に言い出して噂が一人歩きしただけだって供述した。

 

 まあでも面白そうな集まりではあったから、全員纏めてかかってこいや! って感じで渋るルーデウスを引きずってきて、練習場で模擬戦形式の修行をやり始めたんだけど、

 なんかいつの間にかギャラリーが集まってきて、いつの間にか世紀の決戦みたいな雰囲気になってて。

 生徒会長一派ことアリエル様達も止めてくれないし、学園のアイドルことノルンちゃんが声援を飛ばしたせいなのか、会場が更にヒートアップ。

 最終的に、もうどうにでもなれって気持ちで、全員がその場の雰囲気に身を任せた。

 

 結果、妖精剣姫の名声が魔法大学の中で復活することになったのだった。

 

 

 

 

「くっそ、やっぱ強ぇな、エミリー。さすがは北帝だぜ」

「ありがとう。師匠も、強く、なってた。何年か、すれば、王級に、なれるかも」

「お! マジか!」

 

 最近の師匠は私から教わって光の太刀を習得したので、前にギレーヌが言ってた基準に従えば、もう剣聖だ。

 加えて、他の流派の技も磨きがかかってる。

 現時点でも王級に手が届くか届かないかってくらいのところまできてるから、あと数年あればマジで王級狙えると思う。

 

 まあ、仮に王級クラスになれたとしても、私は剣神流では聖級、水神流では上級までの認可しか貰ってないから、北神流以外の王級の認可はあげられないんだけどね。

 階級の認可を与えられるのは、それ以上の階級を持ってる者だけって感じみたいだから。

 

「さすがは姉御ニャ! 一生ついていくのニャ!」

「王の帰還なの!」

「裏切り者に、用は、ないよ?」

「そんニャ!?」

「チャンスが! チャンスが欲しいの!」

 

 ルーデウスに尻尾振っておいて、今更私の方に戻ってきた調子のいい犬猫はすげなくふっておいた。

 こいつら私がいなくなった後、鬼のいぬ間になんとやらで、案の定アリエル様に舐めた態度とって姉に叩き潰されたみたいだしね。

 その後、屈服させられて溜まった鬱憤を晴らすために、弱いものイジメでザノバさんの宝物とやらに手を出して、それの贈り主だったらしいルーデウスの逆鱗に触れ、心を折られたって話だ。

 折られた割には随分元気に尻尾振ってきてるけど。

 

 他の面々に関しては、頭を打ったルーデウスが姉に膝枕され、デコピンされたクリフさんがお婆ちゃんに慰められ。

 やたら頑丈だったせいで、まさか死にかねないような攻撃をするわけにもいかず、水魔術で窒息という割とエグい手段で倒しちゃったザノバさんには、護衛の女の人と、ちっちゃい女の子が駆け寄って必死に看病してた。

 

 護衛さんはジンジャーさんって名前で、王子様なザノバさんの唯一の護衛。

 あのちっちゃい女の子はザノバさんの小間使いみたいなことしてるジュリちゃんって子らしい。

 名目上は奴隷だけど、実態はルーデウスの人形作りの弟子なんだとか。

 だから人形って何?

 いや、凄い熱意で説明されたから知ってはいるんだけど、ディープなオタクのトークそのものって感じの凄い勢いで喋られたから、今いち頭に残ってないんだよね。

 

「お疲れ様です、エミリー。相変わらずお強いですね」

「ありがとう、ございます。アリエル様」

 

 解散しようとするギャラリーの目に留まるタイミングで、アリエル様が声をかけてきた。

 アリエル様に敬語を使う私にギャラリーがざわめき、学園最強に返り咲いた私を従えてる(ように見える)アリエル様の評価が天元突破してるのが目に見えるようだ。

 相変わらずだね、この人。

 

「そんなあなたをベッドの上で滅茶苦茶にしてみたいのですが」

「お断り、します」

「あら残念」

 

 後半の言葉は周囲に聞こえないように私の耳元で言ってたけど、この人はもう完全に私へのセクハラを楽しんでる。

 声をかけた時点で目的達成したから、後は遊んでいいってことかな?

 この人が王様候補とか、アスラ王国大丈夫?

 

「なんか……凄かったわね」

「オルステッドに、比べれば、大したこと、ないよ?」

「いや、それはそうなんだけど……」

 

 最後に、ギャラリーが解散したところで声をかけてきたのは静香だ。 

 あのオルステッドと一緒に旅してた静香には物足りない戦いかと思ったけど、割とそうでもないみたい。

 若干だけど、楽しそう?

 

「オルステッドの戦いって、基本的にどんな奴でも一撃で倒しちゃうだけだったもの。しかも血なまぐさいし。

 でも、今のは王道のファンタジーって感じで、映画のアクションシーンとか見てるみたいで、ちょっと楽しかったわ」

「それは、良かった。静香も、剣術の、良さに、目覚めた」

「いや、そこまでは言ってないから」

「何故」

 

 静香とそんな他愛もない話をする。

 別に日本語じゃないんだけど、それでも静香は楽しそうだ。

 研究の方では役に立てない。

 でも、こういうことが少しでも役に立ってるなら嬉しい。

 

「あ、そうだ。例の件だけど、向こうがもうちょっと時間が欲しいって言ってるわ。覚悟決めるのに難儀してるみたい」

「ん。気持ちは、わかる。私も、あんまり、知られたく、ないし」

「やっぱり、そういうもの?」

『……だって、自分のお腹から赤の他人が産まれてくるとか怖いじゃん。私は今の両親も凄い大切だから、気持ち悪がられるのも、気持ち悪がらせるのも嫌だよ、私は』

 

 同郷以外誰に聞かれてもいいように、大事な部分は日本語で話した。

 静香はそんな私を見て、ちょっと申し訳なさそうな顔になる。

 

「そっか……。そうよね。ごめん、余計なこと言ったわ」

「別に、謝る、必要は、ない。悪いと、思ってるなら、今度、ナナホシ焼き、奢って」

「ええ。それくらいお安い御用よ」

 

 そうして静香にご飯を奢らせる約束してから、私は次の授業へ、静香は研究室へと戻った。

 最近の私が受けてる授業は上級治癒だ。

 中級解毒も学び直そうか迷ったけど、中級以上の解毒魔術は特定の強力な毒をピンポイントで治すやつで、何個も何個も種類があるから断念した。

 

 それに龍聖闘気もどきが本格的に形になってきた今、毒に対する耐性も上がってるってことに気づいたしね。

 本来は中級解毒以上じゃないと治せない毒も、龍聖闘気もどきによって軽減すれば初級解毒で治せる。

 ここに龍聖闘気もどきのメイン機能であるスーパー防御力に、上級治癒まで組み合わさったら、早々のことじゃ私は死ななくなると思う。

 死ななければもっともっと剣の高みを目指せるし、家族や静香を悲しませることも無くなる。

 とっても良いことだ。

 

 ちなみに、今日の授業の成果はほぼゼロである。

 詠唱を噛みまくって、同じ授業受けてる生徒達からほっこりとした目で見られただけ。

 上級になってくると、詠唱も長くなってくるから嫌なんだよね。

 一回成功すれば後は無詠唱で再現できると思うし、まあ、気長にやるしかないか。

 

 授業が終わったら、ゼニスさんの呪い解析のために、お婆ちゃんの旦那さんであるクリフさんの研究室へ。

 アポ無しで来たら大抵がエッチの真っ最中で気まずいことになるから、アポイントメントは大事。

 いくらお婆ちゃんがエッチ大好きでも、さすがに孫に見られたいとまでは思わないみたいだからね。

 

 そこでクリフさん監修、そして師匠やルーデウス立ち会いのもと、ゼニスさんの呪い解析と、比較対象兼こっちも何とかしたいお婆ちゃんの呪いの解析を行う。

 クリフさんが色んな魔道具を使って、その結果二人の体に生じた魔力の変化を私が観測するのだ。

 

 自分で言うのもなんだけど、私は魔力眼を使いこなせてる方だと思うから、研究が捗って助かるってクリフさんに感謝された。

 ただ、ゼニスさんの呪いに関しては、下手に手を出すと何故かゼニスさんが混乱したみたいな様子になるし、今のところ体に異常が出てるようにも見えないから、明確な症状が出るまでは経過観察って感じになった。

 私が旅に出る半年後までに明確な変化が無かったら、大きな悪影響は及ぼさないタイプの呪いか、あるいは神子っていう結論に落ち着くだろうってクリフさんは言ってる。

 もしそうなればひと安心かな。

 

 それが終われば下校の時間。

 大半の生徒は学生寮に戻るけど、私やルーデウスみたいに家がある人は家に帰る。

 

「お疲れ、エミリー」

「父、待った?」

「いや、今勤務時間が終わったところだよ」

 

 学校時間の終わり。

 偶然なのか学校側の配慮なのか知らないけど、勤務時間の終わりが下校時刻に被ってる父と一緒に、私は母の待つ家に帰る。

 姉はお嫁に行っちゃったけど、それを除けばブエナ村にいた頃と同じ幸せがようやく戻ってきて、私は幸せだ。

 

 ……私が転生者だってことを明かして、この幸せを壊したいとは思わない。

 勝手だと思うけど、剣術一筋で人だってバンバン殺す不良娘のワガママだと思ってほしい。

 知らぬが仏とも言うしね。

 こんな名言を残してくれてる分、仏様はヒトガミ様よりよっぽど信じられるよ。

 

 そんなことを思いながら、私は父と共に家路についた。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。