剣姫転生 〜エルフの娘は世界最強の剣士を目指す〜 作:カゲムチャ(虎馬チキン)
師匠に剣術を習い始めて数日。
たったこれだけの時間でも、確実に自分の中にこの世界の剣術が根付いていくのを感じる。
しかも最高なことに、師匠はこの世界で剣術三大流派と呼ばれる三つの剣術全てを習得していた。
速度と攻撃力に特化した『剣神流』。
防御とカウンターに特化した『水神流』。
臨機応変さに特化した『北神流』。
この三つ全てで、師匠は『上級』という高い位を持っている。
剣道で言えば四段五段の高段位みたいなものだ。
もっとも、この世界の剣術の位は上から、神級、帝級、王級、聖級、上級、中級、初級の七段階に分かれてるらしいので、師匠ですら下から数えた方が早いという、とてつもないインフレが巻き起こってるんだけど。
まあ、剣術は中級で一人前、上級は才能ある人が10年くらいかけなきゃ習得できないって言われてるみたいだから、若くして三大流派の全てで上級の師匠は充分すぎるほどに凄いけどね。
ただ、もっと凄い人が世界に溢れてるだけで。
オラ、ワクワクしてきたぞ!
いつかは私も最上位の神級にまで登り詰めてやる!
そんな感じで、私は順風満帆の異世界ライフを……
「あ、魔族だー!」
「魔族が二人で歩いてるぜー!」
「やっちまえー!」
……送ってはいなかった。
今日は引きこもりがちな姉を外に出すために、一緒に父にお弁当を届けに行ってる途中だったんだけど、そこで村の悪ガキどもとエンカウントしてしまった。
姉がビクッと震えたので、私は素早く姉を背中に庇う。
私の方が小柄なんだけど、精神年齢的には随分上なんだから、私が守らなくては。
「これでも食らえ!」
悪ガキどもの泥玉攻撃!
私は師匠に借りてる木剣を腰から引き抜き、目にも留まらぬ速度で振るって全ての泥玉を撃ち落とす。
しかし、奴らはそれで戦意を失うことなく、連続で泥玉を投げてきた。
なんでも、私の防御を突破できたら100点らしい。
子供を殴るわけにもいかないからって、反撃しないでおいてやったら調子に乗りおって!
こんな感じで、私達は村の悪ガキどもからイジめられていた。
原因は姉の髪の色だ。
どうも、この世界では緑の髪は差別の対象みたいで、理解ある大人はともかく、倫理観のないガキどもは寄って集って姉をイジめようとするし、その姉を守ってる私のこともついでに攻撃してくる。
いや、百歩譲って私はいいんだよ。
ガキに遅れを取るほど弱くないし。
問題は、私がついてない時に姉を狙われることだ。
私だって四六時中姉の傍にいられるわけじゃないし、ウチの家は割と貧乏な上に二人も子供を養わなきゃいけないから、5歳の姉も何かしらのお手伝いでやむを得ず一人で外出しなきゃいけない時がある。
そういう時に限ってクソガキどもとエンカウントするみたいで、姉は泣きながら帰ってくるのだ。
その話を聞いた瞬間、私はクソガキどもに襲撃をかけようとしたけど、父に止められた。
私の力で殴ったら洒落にならないことになるからって。
手加減くらいできるんだけど、まあ、そういう問題でもないよね。
イジメに対して暴力で反撃したら泥沼になる予感しかしないし。
かといって言葉でどうにかしようにも、この片言でどうにかなるはずもなく、解決策を思いつくような頭の持ち合わせもなく……。
そもそも私に剣術以外の有用なスキルは備わっていないのだ。
まともに話せたとしても丸く収められる気がしないよ。
むしろ、火に油を注いで炎上させる気しかしない。
泥沼より酷くなりそう。
で、結局、姉は引きこもりがちになって、外に出る時はなるべく私が盾になるって感じで対処してるけど、根本的な解決にはほど遠い。
ままならないものだ。
やがて、ガキどもは「次こそ成敗してやるからな!」とアホみたいな捨て台詞を残して退散していった。
きっと奴らの中では、私は倒すべき魔王か何かに見えてるに違いない。
そして、奴ら自身は勇敢に魔王に立ち向かう勇者なのだ。
ふざけんな。
「ううっ……ごめんね。ごめんね、エミリー」
「シルの、せいじゃ、ない。悪いの、あいつら」
泣きながら謝ってくる不憫な姉を、私はできるだけ優しく撫でる。
ああ、マジで不憫だ。
どうかこの子の未来に幸あってくれと、私は神に祈った。
◆◆◆
その数日後。
「お、おはよう、ルディ」
「おはよう、シルフ!」
師匠の家で剣術を習ってると、姉が赤い顔してルーデウスに会いに来るようになった。
なんでも、イジメられてるところをルーデウスに助けられたらしいんだけど、奴は未だに私のことを舐めるような目で見てくるような奴なので、ぶっちゃけ姉が悪い男に引っかかったようにしか見えない。
我が姉ながら不憫すぎて、私は泣いた。