剣姫転生 〜エルフの娘は世界最強の剣士を目指す〜 作:カゲムチャ(虎馬チキン)
皆に挨拶してからシャリーアを旅立ち、途中でラピ○タみたいな空飛ぶ巨大な城を見かけたりしつつ、私は北方大地の果て、中央大陸の最西端へと向かった。
そこにあるのは、私が昔から滅茶苦茶心惹かれていた場所だ。
そう!
剣の聖地である!
長かった……。
この場所の存在を知り、憧れを抱いてから10年以上の時が過ぎた。
寄れそうなくらい近くまで来たこともあった。
でも、来れなかった。
それどころじゃない事態が立て続けに起こってたからだ。
しかーし!
今はそんなことはない!
ゼニスさんの呪いも大きな害の無いタイプか神子だろうって結論に落ち着き、残ってる大きな問題はアリエル様の政争のみ!
そっちはまだ時間がかかるらしいし、最悪何かしらのトラブルで前倒しになったりとか、はたまたシャリーアで何か緊急事態が起きたとしても、手紙を貰ってから動いて普通に間に合うくらいの余裕がある。
シャリーアから剣の聖地までの距離は、急げば一ヶ月くらい。
初めて行く場所ってことで多少迷ったけど、それでも二ヶ月はかかってない。
もう大体の場所(めっちゃアバウトな基準だけど)は覚えたし、全力疾走すれば二週間くらいで。
北神流『花火』を使って、障害物を無視した空中ダッシュをすれば、更に半分の一週間でシャリーアに戻れると思う。
つまり、シャリーアの誰かが私に向かって手紙を出せば、手紙が出された時点から数えて一ヶ月強で戻れるのだ。
要するに、もはや憂いは何もない!
さあ、待っているがいい聖地に集う剣士達よ!
今、手合わせに行きます!
そうしてテンションを爆上げしながら、私は一見すると雪に覆われたただの田舎村にしか見えない剣の聖地の中へと踏み入った。
そのまま村の中心にある大きな道場を目指して……
「へ?」
「お?」
そこで最初に遭遇したのは変なおじさんであった。
変なおじさんとしか言えないくらいには変な格好をした人だった。
虹色の上着に膝までの下履き。
腰には剣を4本差し、頬には孔雀の刺青。
髪型はパラボラアンテナみたいな奇抜なスタイルで、体からは多分香水のものと思われる柑橘系の臭いが漂ってくる。
変なおじさんだ。
変なおじさんとしか言いようがない。
だけど、見た目に反して纏う闘気の質は凄い。
龍聖闘気もどきの技術を除けば、私と同レベルだ。
それによって目の前の人の第一印象は、変なおじさんから凄腕の剣士へと一瞬にして変換された。
「むむ! 幼い見た目に反してその物腰。中々の強者とお見受けする。
「あ、ご丁寧に、どうも。私は……」
「オーベール。何やってんのよ。早く来なさい」
凄腕剣士のオーベールさんが同門だと知ってちょっと嬉しくなってた私達の会話に、一人の剣士が不躾に割り込んできた。
格差社会の権化を胸に実らせた、ボン・キュッ・ボンの赤髪の剣士だ。
纏う闘気の質も、オーベールさんには及ばないけど結構凄い。
具体的に言うと師匠より凄い。
王級下位くらいの強さはありそう。
さすが、剣の聖地。
こんな人がポンっと出てくるなんて。
あれ?
でも、この人どこかで見たような……
「ッ!? あんたは!?」
赤髪剣士は私の存在を認識した瞬間、訓練用と思われる木刀を構えて襲いかかってきた。
獣のような殺気。
それを感じて私はこの人のことを思い出す。
「あ、お嬢様だ」
そう。
彼女はかつてロアの街でルーデウスが家庭教師をしていたボレアス家のお嬢様であった。
転移事件で魔大陸に飛ばされて、フィットア領までルーデウスと一緒に戻ってきた後に別れたって聞いてたけど、今は剣の聖地にいたんだね。
しばらく見ない間に随分と強くなってる。
そして、体の方も剣術と同じくらい育ってるというか、実ってるというか……。
それこそ、一瞬この人がお嬢様だって気づかなかったくらいに。ぐぎぎ。
そんなことを思いながら、お嬢様が放った光の太刀を水神流の技で受け流した。
「お久しぶり、です。元気、でしたか?」
「ガァアアアアアアアアアア!!!」
「……元気、みたい、ですね」
「あがっ!?」
とっても元気に私を殺さんばかりの勢いで攻撃してくるお嬢様を、私は水神流による受け流しとカウンターによって沈めた。
昔より凄い速くなってたし、こっちのペースを崩してくる独特のリズムも健在。
更に北神流を思わせる常道から外れた動きに、殺気を向けるタイミングでこっちの動きを誘導しようとしてくる謎の技術まで使ってきて強かったけど、それでも1対1なら水神流だけでどうにかなるレベル。
というか、あまりにも殺気という名の攻撃意志が強すぎて、狙いにさえ気づいちゃえば水神流のいいカモだ。
相性問題だね。
剣の腹をお嬢様のお腹に向かって叩き込み、それによってお嬢様は目の前の道場の扉を突き破りながら吹っ飛んでいった。
あ、やば。
後で弁償しないと。
こんなことで迷宮貯金が減るとは、相変わらずポンコツだな私……。
「おお、お見事! あの狂犬をこうも簡単に! それに今のは水神流の技。水王か水帝の方ですかな?」
「いえ、私は……」
「おう、なんだなんだ? 面白ぇことになってんじゃねぇか」
またしても私の自己紹介が遮られた。
遮ったのは、道場の奥から出てきた壮年の男性剣士だ。
道場の破壊に関しては全面的に私が悪いので、道場の奥から出てきたこの人にはまず謝罪するのが筋なんだけど……その人の放つ凄いプレッシャーが、私に謝罪よりも先に構えを取らせた。
「いきなりエリスが吹っ飛んでくるから道場破りが来たとは思ったが、予想以上に面白ぇ客だな。ちっこいナリしてるが、相当強ぇだろお前?」
そう言って、きらびやかな鍔を持つ、一目で業物とわかる剣を居合に構える壮年剣士。
その身に纏う闘気の質も、その物腰の隙の無さも、明らかに私以上だ。
シャンドルと同格のレベル。
闘気だけで比べるならシャンドルが勝るけど、実際に戦えばどっちが勝つかわからないくらいには強そう。
「俺様が『剣神』ガル・ファリオンだ。興が乗った。挑戦受けてやるぜ道場破り。かかってきな」
「…………」
どうしよう。
私は道場破りに来たんじゃなくて、ここの人達と切磋琢磨するために来たんだけど、こんなノリノリなの見ちゃうと、ちょっと言い出しづらい。
オーベールさんも息を呑んで観戦モードに入ってるし、これで断ったら空気読めない人みたいじゃん。
それに正直、私もこの人を前にして武者震いが止まらないしね。
『剣神』ガル・ファリオン。
七大列強第六位。
序列の上では七位の『北神』であるシャンドルやアレクよりも上の強者であり、現在最強の剣術流派と呼ばれている剣神流の頂点。
つまり、私の目指す世界最強の剣士。
オルステッドという更なる高みを知っちゃった今では最終目標じゃなくなっちゃったけど、それでも、こんな達人との試合を避けて何が剣士か。
道場破りうんぬんは後で訂正すればいい。
今は私も純粋に、この戦いに心躍らせてもらうことにしよう。
「私は、北帝、『妖精剣姫』エミリー。参る」
「来い!」