剣姫転生 〜エルフの娘は世界最強の剣士を目指す〜   作:カゲムチャ(虎馬チキン)

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51 VS『剣神』

 私とガルさんとの戦いは、まず静寂から始まった。

 私からは攻めない。

 一目見ただけで、この人相手に先手は取れないと直感したからだ。

 

 私の最速の技は剣神流奥義『光の太刀』。

 そして、その分野では間違いなく本家本元の頂点であるガルさんが勝ってる。

 光の太刀の打ち合いになれば、オルステッドと戦った時みたいに速度で負けてやられる。

 

 故に、私が狙うのは北神流の技で惑わし、受け流せる位置に来た初太刀を水神流の技で返すこと。

 曲りなりにもオルステッドの光の太刀を受け流した戦法だ。

 あの時は返す余裕なんて一切なかったけど、今ならやれる! 多分!

 

 そして、ガルさんは私の狙いに気づいてるからこそ迂闊に動けない。

 今だって、完全に静寂に包まれてるのは見せかけだけで、私は超細かい幻惑歩法によってほんの僅かに動き続け、何重にもフェイントを入れてるのだ。

 

 そんなことしてるうちに、魔法大学での番長戦の時みたくギャラリーが集まってきた。

 大量の聖級剣士レベルの人達に加え、お嬢様と、そのお嬢様と同格くらいに見える女の人が二人。

 その三人よりちょっと劣ってそうな男の子が一人。

 更に元々いたオーベールさんに、そのオーベールさんと互角くらいに見える、恐らくは剣帝と思われる人が二人。

 果ては、ガルさんと同格に見えるお婆さんまでいるよ。

 あ、ギレーヌまでいるじゃん。

 剣の聖地のパワーインフレが凄い。

 

「ふっ!」

 

 私がそっちに気を取られた一瞬の隙に、ガルさんが動いた。

 光の太刀による神速の居合い斬り。

 かかった!

 今の隙も見せかけだけのフェイントだ!

 

 北神流『誘剣』!

 偽りの隙を見せて相手を誘う技!

 いくら私がポンコツでも、こんな達人を前に、こんなわかりやすい隙を晒すか!

 

「ハッ!」

 

 一瞬で間合いを詰めて放ってきた最高峰の光の太刀を、水神流奥義『流』で受け流す!

 よっし、完璧!

 このままカウンターを……

 

「甘ぇ!」

「ッ!?」

 

 ガルさんは速攻で振り抜いた剣を引き戻し、二の太刀に連続の光の太刀を放ってきた。

 私がカウンターに移るよりも、ガルさんが振り切った剣を引き戻す方が早い!

 

 ガルさんが更に攻勢に出る。

 恐ろしいことに、放つ剣撃の全てが光の太刀だ。

 一撃一撃の間に僅かな予備動作は挟まってるけど、それでも滅茶苦茶速い!

 速すぎる!

 速すぎて受け流しが徐々に間に合わなくなり、立ち回りにも綻びが生じ始める。

 

 私は初めてギレーヌと戦った時のことを思い出した。

 あの時はギレーヌが手加減してたこともあって、駆け引きや立ち回りでは意表を突いて善戦できたけど、最終的には単純な剣速の差で押し切られて、ねじ伏せられた。

 

 ガルさんとの戦いはその時を彷彿とさせる。

 駆け引きで優位に立とうとしても、カウンターで後の先を狙おうとしても、ガルさんは圧倒的な剣速に任せて先手先手を取り続け、ゴリ押しでこっちの迎撃態勢を崩しにくる。

 攻めて攻めて攻めて、攻め続けた末に相手を倒す。

 速さと攻撃力に特化した剣神流を体現するような戦い方。

 

 これが『剣神』ガル・ファリオン……!

 

 その称号に一切の偽りなし。

 今の私じゃ、純粋な剣技だけじゃ絶対に勝てない。

 悔しい。

 とてつもなく悔しい。

 なまじ斬り合いが成立するくらいまで強くなったおかげで、決して手の届かない遥か高みを見た時の憧れよりも、手が届きそうで届かない悔しさと歯がゆさの方を強く感じる。

 

 だけど、絶対勝てないのは単純な剣技だけなら(・・・・)の話だ。

 私は北帝。

 何でもありの北神流を主体とする剣士。

 剣を愛し、剣の高みを目指してはいるけど、剣だけに囚われてはいない(・・・・・・・・)

 

「そら!」

 

 ガルさんの斬撃が私の剣を弾き飛ばす。

 オルステッドにもやられたことだ。

 その時、私はどうした?

 答えは剣無しで向かっていった、だ。

 

 私は剣を上に弾かれた勢いを利用して、上体を後ろに倒しながら後方一回転。

 その状態でサマーソルトキックに似た蹴りを放つ。

 北神流格闘術『浮舟』!

 

「うおっと! 危ねぇ!」

 

 しかし、ガルさんは北神流との戦闘経験なんていくらでもあるのか、軽く避けて見せた。

 まあ、そうだろうね。

 この程度の奇策、北帝じゃなくたって、北神流をかじってる人なら誰だってできる。

 なんなら非戦闘員の母にだってできる。

 そんな技が剣神に通じるわけがない。

 

 だから、これはただの囮だ。

 本命はこっち!

 

「『衝撃波(エアバースト)』!」

「なっ!?」

 

 無詠唱風魔術。

 魔法大学ですら使い手が殆どいなかった技。

 これにはさすがに意表を突かれたみたいで、サマーソルトキックに意識の向いていたガルさんは、ガードしつつもまともに食らって吹き飛んでいった。

 

 だけど、ガルさんは吹き飛ばされながらも、しっかりと斬撃飛ばしを放って私の動きを牽制してくる。

 体勢が崩れてるからか、さすがにこれは光の太刀じゃない。

 せいぜい音速、無音の太刀。

 それも距離が開いて威力の減衰した一撃。

 これなら剣が無くても受け流せる。

 

 私は龍聖闘気もどきによって防御力を格段に上げた腕を剣に見立てて、水神流奥義『流』を使った。

 そして、連続の光の太刀ではなく、単発の無音の太刀相手なら、剣神相手でもカウンターが成立する。

 

 水神流奥義『流』は、極めればあらゆる攻撃に対してカウンターを決められる技だ。

 その中には当然、遠距離攻撃も含まれる。

 それによって私の手刀から遠距離カウンターの斬撃飛ばしが放たれた。

 

「チッ!」

 

 ガルさんはこれを剣で防いだ。

 迎撃ではなく、防御をした。

 剣神が、初めて守勢に回った。

 

 その隙に、私は空から落ちてきた自分の剣をキャッチ。

 そのまま上段の構えを取り、ガルさんが私のカウンターを食らってよろめいてる間に剣を振り抜く。

 ガルさんには到底及ばないけど、私の出せる最高速度の『光の太刀』を。

 

 最後は剣でケリをつける。

 これが私の戦い方。

 剣を愛し、剣の高みを目指すも、剣以外でその道のりを舗装することを厭わない。

 

 私が憧れたのは剣そのものじゃない。

 剣に憧れたのなら剣道で良かった。

 でも、剣道じゃダメだった。

 だって、私が憧れたのは剣じゃなくて、剣を使ってカッコ良く戦う画面の中の英雄(ヒーロー)達だったから。

 

 ド派手に、華麗に、豪快に、自由に、アクロバティックに、ファンタスティックに。

 そんな戦い方をする英雄達に憧れた。

 彼らの中に交ざっていても違和感がないような『理想の私』になりたかった。

 その理想を現実にしたのが私の剣。 

 これが私の剣術。 

 

 さあ、『剣神』ガル・ファリオン。

 純粋剣技の覇者よ。

 私が愛したこの剣に、純粋なる剣の道を極めたあなたは、どう向き合う?

 

 その答えはシンプルだった。

 シンプル過ぎるほどにシンプルだった。

 ガルさんは一瞬で体勢を整え、私の攻撃を、私と同じ飛翔する光の太刀で迎撃する。

 磨き上げた光の太刀で、剣神流の奥義で、どこまでも純粋な剣技で、私の前に立ち塞がる。

 

 私達の光の太刀がぶつかり合う。

 その、結果は……

 

「げふっ!?」

 

 ガルさんの斬撃が私の斬撃を斬り裂き、そのまま直進して私自身をも吹っ飛ばした。

 そのまま後ろの雪の中にダイブしてゴロゴロと無様に転がってから、ようやく停止。

 ダメージこそ大したことないけど、どう見ても決着はついていた。

 

「負け、ました」

 

 雪の中から這い出して、私は敗北を宣言する。

 負けた。

 悔しい。

 大好きなことで一番になれないのは死ぬほど悔しい。

 でも、これでいい(・・・・・)

 

 そんな簡単に超えられたら興ざめだ。

 北神流もまだ帝級、剣神流は聖級、水神流は上級の認可しか持ってない。

 こんな未熟な状態で超えられるほど世界最強の剣士の看板が軽かったら逆に絶望だよ。

 大好きなことだからこそ、目指す頂きは心の底からカッコ良いと思えるような高みであってほしい。

 そんな高みを目指すためにここまで来たんだ。

 ここでの修行で、私は何段階も強くなるぞー!

 

「北神流に水神流、光の太刀に魔術、おまけに劣化オルステッドみてぇなやたら硬い闘気か……。へっ! 久しぶりに楽しかったぜ道場破り。おい! 誰かこいつの傷を治療してやれ!」

「必要、ないです。もう、治った」

 

 私は無詠唱の治癒魔術で傷を治した。

 私の斬撃とぶつかって威力が落ちた斬撃飛ばしで、龍聖闘気もどきに守られた肉体に大したダメージは入らないよ。

 肉は斬られたけど骨は無傷。

 当然、内臓にも斬撃は達しなかった。

 そのくらいなら初級治癒でもすぐに治せる。

 

「なんだよ、まだまだ元気じゃねぇか。なんで降参なんかしやがった?」

「あのまま、攻められてたら、多分、死んでた。だから、降参した。まずは、ガルさんの、1勝(・・)。もう一回、やろう」

 

 そう言うと、ガルさんはポカンとした顔になって、次の瞬間には大笑いし始めた。

 

「ハァッハッハッハー!! 本気で面白ぇ奴だ! 気に入ったぜ! 足腰立たなくなるまでシゴいてやる!」

「待ちな、ガルの坊や。次はあたしの番だよ。久々に年寄りの血が疼いちまってねぇ」

「おいおい! 今楽しいとこなんだ! 邪魔すんじゃねぇよ婆さん!」

 

 なんか、ガルさんがいきなり出てきたお婆さんと喧嘩し始めた。

 口論はそのうち剣を抜いての斬り合いに発展し、二人は一進一退の攻防を繰り広げる。

 ガルさんの方が強いけど、お婆さんも相当強い。

 10回戦ったら3回はお婆さんが勝つと思う。

 

 結局、その10回の中の3回をこの戦いで引き当てたお婆さんが、息を切らした状態で私の次の相手に名乗りを上げ、私はお婆さんにボッコボコにされた。

 この人、水神流の達人だった。

 というか水神流の頂点、当代『水神』レイダ・リィアさんだった。

 まあ、そのくらいじゃないと剣神に勝てるわけないんだけど。

 

 その後、私がどっちかと戦って負ける度に二人が戦って、次にどっちが私と戦うか決め、お互いに体力を削り合ってヘロヘロになった二人に私が勝ったりした。

 だけど、二人が体力回復のために休んでる間にお嬢様が襲いかかってきて、お嬢様と一緒にいた女の人二人も挑んできて、三人に続こうとした男の子も挑んできて一撃KOされ。

 更には、ギレーヌとかオーベールさんとか剣帝の二人も乱入してきて、挑戦者同士でのバトルも勃発。

 勝って、負けて、全員どんどん疲れていって。

 最終的には、体力が回復した神級コンビに全員揃ってボコボコにされ、神級同士の最終決戦をガルさんが制して終了した。

 

 もう完全なるお祭り騒ぎだった。

 神級の二人も私に興味があったという以上に、意地になってお互いに譲らなかった結果の剣術祭りだったような気がする。

 他の人達は単純に乗っただけだろう。このビッグウェーブに。

 剣の聖地にはノリの良い人が多い。

 というか、私と同類の剣狂いが多い。

 めっちゃ楽しかったです。

 

 

 

 

 

 ちなみに、この日、七大列強の石碑に刻まれた六位の紋章が、短時間のうちに凄い勢いでコロコロと変わってたらしい。

 後日、たまたまそれをリアルタイムで見てて何事かと思ってたというシャンドルに再会した時、真相を話したら呆れた顔で「七大列強の称号も随分軽くなったなぁ」と呟いてたのが印象的だった。

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