剣姫転生 〜エルフの娘は世界最強の剣士を目指す〜 作:カゲムチャ(虎馬チキン)
剣の聖地に来てから半年以上が過ぎた。
ここでの毎日は、エリスさんの問題さえ無視すれば楽しすぎて怖い。
どんどん強くなっていく剣術三人娘の皆とは毎日戦えるし、ガルさんとレイダさんもたまには相手してくれる。
他にはギレーヌやオーベールさん、剣帝の二人も相手してくれた。
楽しい。
楽しすぎてシャリーアへの帰還を、もうちょっと、あとちょっとだけって引き伸ばしまくっちゃってる。
ちなみに、神級コンビ以外で私が一番苦戦したのはオーベールさんだった。
彼は何でもありの北神流を私とは違う形で体現してる剣士で、口から火を噴いたり、気づかないうちに床に接着剤を撒いたり、戦いの最中に逃亡したかと思えば、そこらへんを歩いてた剣聖の人を盾にして攻撃してきたりと、マジで何でもやってくる。
そのくせ単純な剣技も普通に強いから、彼との戦績は五分五分くらいだ。
総合能力値では私の方が大分上なんだけど、徹底して真っ向勝負を避けて、こっちに力を出させないように立ち回るせいで、多少の実力差くらい埋められちゃうんだよね。
強者なり、『孔雀剣』のオーベール。
まあ、悲しいことに、そのオーベールさんはもう帰っちゃったんだけどさ。
元々、ガルさんの頼みでエリスさんに北神流を教えるために来てたみたいで、そのエリスさんが北聖になって教えることは教えたって感じで帰る予定だったらしい。
同門だし、縁があったらまた会いたいなぁ。
他の人達との戦績は、剣帝の二人には八割くらい勝てて、ギレーヌには八割強くらい勝てた。
知らない間に私に超えられてたギレーヌは悔しがって鍛え直し始めたよ。
なんでも、私に負けると師匠に負けた気分になるらしい。
ドヤ顔で煽ってくる師匠の顔が頭に浮かぶそうだ。
私としては、昔は追いかけるだけの存在だったギレーヌと切磋琢磨できる関係になれて嬉しかった。
で、そんな強者達との修行に明け暮れてたおかげで、私の剣の腕はこの短い間に急上昇した。
ガルさんとレイダさんという最高のお手本がいて、二人をお手本にして磨いた技を存分に試せる好敵手達がいたおかげで、今の私はもう剣神流帝級と水神流帝級の認可を手に入れた。
つまり、これにて『剣帝』『水帝』『北帝』と、長を除けば三大流派の最高位を全て手に入れたことになる。
まあ、北神流が神級一歩手前の帝級なのに対して、他の二つは王級寄りの帝級だから、まだまだ精進あるのみなんだけど。
でも、剣帝の二人にもギレーヌにも負けなくなってきたし、そろそろガルさんやレイダさんから一本くらい取れるかなー、なんて思ってたら声に出てたみたいで「面白ぇ!」と言い出したガルさんと、後日列強の座を賭けたガチの真剣勝負をすることになった。
超楽しみ。
一方、エリスさん関係の問題は全く解決してない。
成果といえば、割とすぐにエリスさんがルーデウスと離れてこんなところにいる理由が判明したことくらいだ。
なんでも、ルーデウス、エリスさん、護衛のスペルド族さん(ルイジェルドさんというらしい)の三人は、フィットア領に辿り着く直前にオルステッドに出会ったというか、遭遇したみたいで、その時にルーデウスが心臓を貫かれて殺されかけたらしい。
オルステッドの連れの仮面の女の進言でルーデウスは治療されて一命を取り留めたそうだけど、ルーデウスが殺されかけてる時に何もできなかった自分をエリスさんは許せなかった。
今の自分じゃルーデウスの隣に相応しくない。
だから強くなろうと思って、ルーデウスと別れてギレーヌと一緒に剣の聖地に来たと。
うん。まあ、そこまでは理解できる。
絶対にルーデウスの認識と盛大にすれ違ってると思うけど理解はできる。
というか、もしルーデウスがエリスさんの気持ちをちゃんと理解した上でウチの姉と結婚して重婚までしたんだとしたら、ただのクソ野郎だ。
さすがにそれはないと思う。多分。
もしも、本当にルーデウスがそんなクソ野郎だったら、私の手で引導を渡してやる。
正直この問題だけでもお腹いっぱいなのに、エリスさんは更に追加で何故か「ルーデウスと一緒にオルステッドを倒す!」とか言ってるからね。
お礼参り的な意味ならわからなくもないけど、当のルーデウスがオルステッドに挑むとはどうしても思えない。
いくら殺されかけたとはいえ、あの戦いを好まないルーデウスが、家族との平穏な日常を捨ててまで列強上位に挑む姿なんて想像つかないよ。
一体、エリスさんの中ではどんな認識になってるのか。
わからない。
でも、わからなくても、エリスさんは説明なんて面倒な真似はしてくれない。
そもそも、今の話は全部、ニナさんやイゾルテさんとの会話で漏らした情報だ。
私に話してくれるわけないからね!
というか、そもそもの発端となったオルステッドは、なんでルーデウスを殺そうとしたんだろう?
多分、嫌われる呪いに過剰反応してルーデウス達が攻撃しちゃったから、正当防衛でぶっ飛ばしたって流れな気がするけど……この日、珍しく冴えてた私はある一つの可能性に思い至った。
ヒトガミ。
オルステッドといえばヒトガミだ。
私もヒトガミの名前を出した瞬間、記憶に刷り込まれるレベルの凄い殺気を向けられたし。
ひょっとして、ルーデウスも夢にヒトガミが出てきてるのでは?
それがオルステッドにバレて殺されかけたのでは?
正当防衛で思考を打ち切らずに、ちゃんとここまで考えられたこの日の私は本当に冴えてたんだと思う。
そのことも、ちゃんと手紙に書いておいた。
私の汚い字で長文を書くと、日本語でも人間語でも解読に手こずって結局何を伝えたかったのかわからなくなるそうなので。
エリスさん関係の情報を箇条書きみたいに書いた紙とは別にもう一枚紙を用意して、そこにデカデカとした字で『ヒトガミに気をつけろ!!』って書いといた。
正直、私はヒトガミという存在がどんなもので、どう危険なのかすら知らないんだけど、あのオルステッドが敵意をむき出しにし、あのシャンドルが警戒してたってだけで、やばい存在だというのはわかる。
警戒するに越したことはない。
どう警戒すればいいのかもわかんないけど、まあ、手紙で注意喚起するだけでも大分違うでしょ。
全部私の思い過ごしなら、それはそれでいいしね。
むしろ、私のポンコツを思えば、思い過ごしである可能性の方が高いか。
あと気になるのは、ルーデウスを助けるように進言したっていう、オルステッドの連れの仮面の女のことだよ。
どう考えても仮面の下の顔は一つしか思い浮かばない。
静香さんや?
私、そんな話、一言も聞いてないんですけど?
これは帰ったら第二回異世界人会議だな。
「すみませーん! エミリーという方にお手紙でーす!」
「ん?」
そんなこと思ってたら、なんかモコモコとした防寒着に身を包んだ冒険者っぽい人が、道場の前で私宛の手紙が届いたと言っていた。
誰からだろ?
ルーデウス宛の手紙には、エリスさんにバレたら嫌だから返信は出すなって書いといたしなぁ。
「私が、エミリー、です」
「あ、どうも。受け取りのサインお願いします」
日本の郵便と似たようなシステムの依頼達成書に汚い字でサインしてから手紙を受け取る。
えーと、差出人は……ロキシーさん?
どうしたんだろ?
あ、もしかしておめでたとか?
エリスさんのことがある手前、もしそうなら若干複雜な気持ちになるけど。
『エミリーへ
ナナホシさんが倒れたそうです。
お医者さんというか、特殊な診察のできる方の話によると、治療法を探すのにも時間がかかる珍しい病だとか。
正直、どうなるかわからない状況です。
できれば至急シャリーアに戻ってきてください』
「えぇ!?」
静香のこと考えてた矢先に、まさかのこれ!?
マジで!?
私は手紙を読んだ瞬間に身支度を整え、ニナさんにガルさんへの「真剣勝負はお預け。ごめんなさい」という伝言を伝えて、全力ダッシュでシャリーアへと急行した。
森があれば大ジャンプと衝撃波を使った空中移動技『花火』で跳び越し、道中で再びラピュ○を見たりしながら、最速最短でシャリーアまでの道のりを走破する。
待ってて、静香!
なお、真剣勝負の約束をすっぽかされたガルさんは盛大に根に持ったらしいけど、今の私には気にしてる余裕のない話だった。
一方……
ヒトガミ「どうだい? 賭けに勝って更なる幸せを手に入れた気分は?」
ルーデウス「……エミリーの強さ見たら、確かに、お前の言う通り、俺がベガリットに行かなくてもなんとかなったと思えたよ。俺が余計なことしなけりゃ、ロキシーにあんな怖い思いさせることもなかったのか?」
ヒトガミ「そうだね。エミリーなら魔眼を全開にすれば普通に最後の魔法陣を見つけられた。そうなると君が頭をひねって魔法陣を覗き込む必要もなかったし、あんな事故が起こることもなかったよ」
ルーデウス「そうか……」
ヒトガミ「まあまあ、結果オーライなんだから良かったじゃないか。君は今幸せだろう?」
ルーデウス「……そうだな。確かに、俺は今幸せだ。でも、悪かったよ。お前の言うこと変に疑って。素直に言うこと聞いときゃ良かったとまでは思わないけど、お前の言ってること自体に嘘はなかったんだな。思えば今までも散々助けてもらったし……その、ありがとな」
ヒトガミ「アハハ! 良いってことだよ。僕はヒトガミ。人の神様だからね。人を助けてあげて、ついでに面白いものが見れれば満足なのさ」
ルーデウス「最後の一言さえなけりゃ拝んでやってもよかったんだがなぁ。ところで、今日はどうしたんだ? また何か困ったことでも起こるのか?」
ヒトガミ「いや、大したことじゃないよ。助言というより頼みに近いかな。今からちょっと地下室に行って、異常がないか見てきてほしいんだ。何もなかったらなかったで、それでいいんだけどさ」
ルーデウス「地下室? うーん、まあ、それくらいならいいか。今まで変に疑いすぎてたからな。たまには何も疑わず、お前の言う通りにしてみるよ」
ヒトガミ「ふふ、そうかい……あ り が と う」
ル ー ト 分 岐 ! !
ヒトガミ「…………疲れた」
老デウス「未来から来た」
ヒトガミ「ふぁ!?」