剣姫転生 〜エルフの娘は世界最強の剣士を目指す〜 作:カゲムチャ(虎馬チキン)
ペルギウスさんに庭園弁償しますって言ったら「いらん!」と言われ、不機嫌そうな様子で彼が退室していった後。
緊張の糸が完全に切れてウツラウツラし始めた私は、何を思ったのか膝枕してくれた静香に甘えて、そのまま眠りに落ちた。
そうして一旦眠ることでランナーズハイ状態を解除し、いつにも増しておかしくなってた頭と、地味に枯渇寸前だった魔力と体力を通常状態に戻す。
いやー、改めて思い返してみると、昨日の私はどうかしてたね。
アドレナリンどばどばで、正常な判断能力を完全に失ってた。
敵だと思って突撃して暴れ回って、ペルギウスさんには本当に申し訳ないことをしてしまった。
やっぱり、いくら強靭な体を手に入れたっていっても、一週間徹夜で全力ダッシュは無理があったんだ。
徹夜って怖い。
疲労と焦燥がセットだと、なおヤバい。
正常な判断ができなくなる。
これからは焦ってる時にこそ余裕を持つことを心がけよう。
最低でも仮眠は取ろう。
紛争地帯に飛ばされた時ですら、父と母に言われて仮眠は取ってたんだし。
……これ、私が一人で紛争地帯に転移してたら間違いなく死んでたね。
そんな頭パーン状態を解除してから、改めて静香と話をした。
話題は帰ったら聞こうと思ってた割と重要なことだ。
そう、オルステッドのことである。
オルステッドがルーデウスを殺しかけたって話をちゃんと聞いておこうと思ったのだ。
そうしたら、なんと静香の方でも今まさにオルステッドが問題になってるらしい。
現在、ルーデウスがオルステッドを殺そうとしてるそうだ。
しかも、静香からオルステッドとの連絡用マジックアイテムを借り、それを使って誘導するための罠を用意し、ルーデウスの戦闘力を飛躍的に高めるための鎧を作り、マジのガチで準備を整えて本格的に殺しにいくつもりらしい。
どういうことぞ!?
まさかエリスさんの言ってた通り、ルーデウスはずっと前からオルステッド殺しを狙ってたんだろうか?
そんな言葉がポロっと口から出た瞬間、「そんなわけないでしょ」と即座に静香から否定の声が上がった。
ルーデウスは静香には事情を話したみたいで、それによると、ルーデウスの夢にヒトガミが出てきてオルステッドを殺せと言ってきたことが今回の騒動の原因だそうだ。
ヒトガミ……あいつやっぱり、そういう奴だったんだね。
でも、なんでルーデウスは実質死ねと言われてるような命令に従ってるのか。
その理由は、一ヶ月くらい前に時間転移魔術とやらで未来のルーデウスがこの時間軸に飛んできたことに起因する。
…………いきなり話がSFに飛んだ。
この世界はファンタジーじゃなかったの?
『もう、静香は冗談が上手いなぁ』
『これが冗談を言ってるように見える?』
静香の目はマジだった。
マジでそんなことが起こったんだと雄弁に語ってる目だった。
つまり、少なくとも静香が納得させられるだけの根拠がある話なのだこれは。
正座して真面目に静香の話を聞く。
未来のルーデウスは、未来で起こる最悪の展開を今のルーデウスに伝えていったらしい。
その未来ルーデウスが書いて持ってきたっていう日記を静香は見せてもらったそうだけど、ちょっと口にするのもはばかられるくらいにエグかったそうだ。
なるべく要点だけ纏めて言うと、ヒトガミの罠によってロキシーさんや姉が死に、そこから未来ルーデウスの人生が絶望の底に落とされるって感じの内容だったとか。
詳しくはルーデウスからその日記を見せてもらえって言われた。
多分、私相手なら見せてくれるだろうからって。
それで、未来ルーデウス曰く、ヒトガミには絶対に勝てない。
あいつには未来が見えて、その未来をある程度自分の望む方向に誘導する力も持ってる。
言われてみれば、あいつは私に対しても予言じみたこと言ってたわ。
で、ヒトガミはそれを使って最悪の病原菌と接触させたり、危険な戦いに参加して負けるように仕向けたり、そういうスケールが大きいくせに自分では絶対に動かないセコい手段で攻撃してくるらしい。
ヒトガミを倒そうにも、あいつのいるところには何をどうしてもルーデウスでは辿り着けない。
敵対しても手の届かないところから一方的に攻撃され続け、いずれ大切なものを全て失うだけ。
なら、媚びへつらってでも敵対を避けるしかない。
そして、ヒトガミは言った。
ヒトガミにとって最大の敵であるオルステッドさえ殺せば、もうルーデウスには手を出さないと。
ヒトガミがルーデウスを狙った理由は、未来視によってルーデウスの子孫が私をお供に引き連れてオルステッドに協力し、ヒトガミを倒してしまう未来が見えたから。
オルステッドと、ルーデウスの子孫&私、どちらか片方だけなら怖くない。
だから、オルステッドを殺せたら、ルーデウスと、ついでに私のことは見逃してあげる。
それがヒトガミの主張。
ちなみに、私は単体なら別に怖くないし何もしないけど、ルーデウスの子孫経由でオルステッドに使われると厄介な装備アイテム扱いだったそうだ。
嫌われる呪いのせいで通常の
強力って言われるのは悪くないけど、アイテム扱いは納得がいかない。
こんなの信じられる根拠の一切ない話だ。
でも、ルーデウスはその希望に縋ってる。
一筋の希望を信じて、絶望のオルステッド戦に挑もうとしてる。
『正直、ルーデウスにはオルステッドを殺すんじゃなくて、オルステッドに相談してなんとかしてほしいんだけどね』
『私も同意見。あの人、静香をおんぶとかしてたし、顔の割に優しそうな人だったしね』
オルステッドと戦いたいとは思う。
超えたいとも思う。
けど、殺したいとは思わない。
私は剣術狂いだけど、別に殺人狂ではないのだ。
私がオルステッドに抱いてる感情は、手合わせ的な感じで戦って勝ちたい一択である。
『そういえば、そんなこともあったわね。……お世話になった人同士が殺し合うとか、本当にままならないわ』
静香は苦しそうにそう言った。
恩人同士が殺し合いか。
私で言うなら、師匠とシャンドルが殺し合うようなものかな?
うわぁ、嫌だなそれ。
そんな立場に立たされた静香の心境は察するにあまりある。
『ルーデウスからの協力の話、断れなかったの?』
『……凄い剣幕というか、凄く必死そうな顔で土下座までして家族を守りたいんですなんて言われたら、断り切れないわよ』
『ごめん。失言だったよ』
断れるんだったら、とっくに断ってるよね。
じゃあ、説得するとしたらルーデウスの方か。
私に説得スキルなんて便利なものは備わってないんだけど、やるだけやってみるしかない。
『話はわかった。後はルーデウスに色々聞いてみるよ。私の頭で何か思いつくとも思えないけど、まあ、できる限り頑張る』
『お願いね』
そうして私は静香と別れ、ペルギウスさんに改めて謝罪と挨拶をしてから、空中城塞から飛び降りようとした。
そしたら、なんかペルギウスさんに連絡を入れるための魔道具を渡された上に、転移でシャリーアの近くまで送ってもらえた。
あれだけやらかしちゃったのにこんなに良くしてくれるとか、懐の広すぎる人だなぁ。
まあ、理由としては、静香はこれから空中城塞に住むことになったから、会いにいく度に今回みたいなことされたらかなわないっていうのが9割。
純粋に静香のためっていうのが1割。
私への配慮では断じてないって言われたけど、それでもありがたいものはありがたい。
頭を下げてお礼を言っておいた。
そうしたら、なんかペルギウスさんは毒気が抜かれたような顔してた。
さて、次はルーデウスだ。
どうすればいいのかなぁ。
誰か教えてほしいよ全く。
・魔剣『エミリー』
強化していけば最終的に初代剣神や初代水神より強くなる、彼らとは方向性の違う才能モンスター。
なんとなくで全ての攻撃を光の太刀で放てたという初代剣神を感覚派の化け物とするなら、エミリーは学習型の化け物。
強い奴と戦ったり、強い奴に教えを乞う度に飛躍する。
呪いのせいで装備できるアイテムが限られているオルステッドが装備できる中では神刀に次いで最強の武装。
ただし、自律型兵器として使用するとポンコツなので、使い方には注意が必要。
運び手であるルーデウスとその子孫をどうにかすればオルステッドの装備から外すことができるので、ヒトガミ的撃破優先度はルーデウスの方が高かった。