剣姫転生 〜エルフの娘は世界最強の剣士を目指す〜   作:カゲムチャ(虎馬チキン)

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56 日記

 ペルギウスさんに送ってもらったところからシャリーアに戻り、もう一回ルーデウス邸に行って、アイシャちゃんに昨日は話聞かずに飛び出してゴメンと謝り、空中城塞での顛末を伝えて化け物を見る目を頂戴した後、ルーデウスの居場所を教えてもらった。

 今、ルーデウスは作業のために買い取ったシャリーアの郊外にある小屋で、他の皆と一緒に何かやってるらしい。

 

 そこに向かって空中ダッシュ。

 その小屋周辺はガヤガヤしてたので、すぐにわかった。

 結構たくさんの知り合いが集まってる。

 肝心のルーデウスに加え、姉、お婆ちゃん、ロキシーさん、クリフさん、ザノバさん、ジンジャーさん、ジュリちゃん。

 そして、恐らくはクリフさんにくっついてきただけだろうお婆ちゃんを除く全員が一丸となって、何かを一心不乱に作っていた。

 

 鎧だ。

 地面に横たわった、全長3メートルくらいの巨大な鎧と、そのパーツ。

 完成まではまだ時間がかかりそうな作りかけの状態だけど、この時点で鎧とわかる見た目をしてた。

 あれが静香の話にも出てきたやつか。

 あんなもの作るとか本気なんだね。

 

「ルーデウス」

「ああ、エミリー! 来てくれたんだな! 待ってたよ!」

 

 声をかけた私に、ルーデウスがことさら嬉しそうに返事をした。

 でも、嬉しそうなのは表面上の雰囲気だけで、ルーデウスは目の下に隈を作ってたり、どことなく呼吸が浅かったりと、見ただけでわかるほど精神的に追い詰められてそうな感じだった。

 こうして喜んでるのも、久しぶりの再会を喜んでるんじゃなくて、戦力が来てくれたのを喜んでる感じだと思う。

 

「話は、シズカから、聞いた。オルステッドに、挑むん、でしょ?」

「ああ。俺はオルステッドを殺さなきゃならない。頼む! 協力してくれ!」

 

 ルーデウスがバッと頭を下げる。

 他の皆の目が無ければ土下座してそうな勢いだ。

 

「その前に、理由、詳しく、教えて、ほしい」

「ナナホシから聞いたんじゃないのか?」

「シズカは、言葉、濁してた。エグい、話だから、ルーデウスに、直接、聞けって」

「……まあ、そりゃそうか。そうだよな。ちょっと待っててくれ」

 

 そう言って、ルーデウスは小屋の中に入り、すぐに何かの金属でできた箱みたいなものを持って出てきた。

 開けるための開く部分が一切ない。密閉されてる。

 ルーデウスはそれを土魔術で操って開け、中にあった一冊のノートみたいなものを取り出した。

 

「まずは、これを読んでほしい。これを読めば、俺がどんな理由でオルステッドに挑もうとしてるのかわかると思う」

「例の、未来の、日記って、やつ?」

「ああ。そうだ」

 

 静香曰く、かなりエグい内容が書かれてたって言ってたやつだ。

 恐る恐る表紙をめくってみたら、目に飛び込んできたのは私ほどじゃないけど汚い字。

 ……これ、別の意味で読むのに苦労しそう。

 

「借りて、いい? 読むの、時間、かかりそう」

「構わない。ただ、できれば他の人には見せないでくれ」

「わかった」

 

 日記を借りて、後は他の皆に軽く帰還の挨拶をしてから、今日のところはひとまず家に帰った。

 家の仕事を一手に引き受けてる母にただいまを言って、久しぶりに自分の部屋に戻る。

 

「ふー……よし」

 

 そして、意を決して日記を開いた。

 最初の数ページは拍子抜けするくらい普通の内容だ。

 私が剣の聖地に行ってた間のこととか書かれてて興味深かった。

 

 それによると、私の不在中に静香の帰還のための研究、異世界転移魔術の研究が一段落。

 異世界から種無しスイカを召喚することに成功し、研究を次の段階に進めることに成功したらしい。

 そして、この先の研究のための教えを乞うべく、静香は知り合いである召喚魔術の権威ことペルギウスさんに話を聞きにいき、今まで手伝ってくれたルーデウス達へのお礼として、ペルギウスさんを紹介してくれることになった。

 

 ペルギウスさんとの謁見には、研究に特に協力してたルーデウス、ザノバさん、クリフさんの他に、ペルギウスさんの権力を求めたアリエル様一行と、何故かお婆ちゃんも参加したとか。

 だから、空中城塞でアリエル様の魔力が見えたんだね。

 

 で、そこから先は静香からも聞いた通り、静香が急病にかかり、ルーデウス達が治療法を探して魔大陸まで行った話が書かれてる。

 あと、何故かペルギウスさんが知ってたお婆ちゃんの過去とか、そのお婆ちゃんが妊娠したとかの気になる情報も書いてあった。

 

 でも、ここまではダイジェストって感じ。

 日記を書き始める前にあったことを、思い出しながら箇条書きにしてる感じだ。

 それが終わると、全体的に日常での幸せな一幕が多く書かれてて、エグいという言葉からは程遠い内容に見えた。

 

 だけど、それがあるページを境に一転する。

 

 始まりはロキシーさんが倒れ、その病名が『魔石病』だと判明したと書いてあるところから。

 魔石病。

 どこかで聞いたことがあるような無いような、とにかく私の記憶には残ってない病気だけど、日記によると体が徐々に魔石になっていき、やがては死に至る難病で、神級の解毒魔術じゃないと治らないとんでもない病気らしい。

 

 その神級解毒魔術の詠唱が書かれてる本はミリス神聖国の秘宝か何かみたいで、それを手に入れるべく、ルーデウス達は転移魔法陣を使ってミリスへと向かった。

 メンバーはルーデウス、師匠、クリフさん、ザノバさんの四人。

 姉は家でロキシーさんを守ってもらうために留守番。

 私を待つっていう意見もあったみたいだけど、事は一刻を争うってことで強行したっぽい。

 

 神級解毒の本は、ミリス教団の大聖堂の奥にある。

 ルーデウス達はこっそりと侵入して詠唱を書き写してくるつもりだったけど、詠唱がまさかの辞書一冊分くらいの長さだったため、書き写すのを断念して盗むことにした。

 でも、ミリスの騎士団だって無能じゃない。

 侵入はバレて追いかけられ、追っ手の中にはアナスタシアなんちゃらとかいうやたら強い人達もいて、逃げ切れずに師匠を殿として置いていくハメになった。

 

 その後、師匠が心配だけど、とにかくロキシーさんを早く助けなければという思いでルーデウス達は転移魔法陣を目指す。

 でも、そこで待ち伏せによる奇襲を受けて転移魔法陣が崩壊した。

 

 別の転移魔法陣を目指したけど、この頃には完全にミリス中に指名手配されて懸賞金をかけられ、騎士団だけじゃなく賞金稼ぎみたいな奴らまで大量に襲ってきて、先に進めないどころかクリフさんがやられて死んでしまったらしい。

 敵の賞金稼ぎの中に、悪を許さぬ正義の英雄とか名乗る、世界最高のSSランク冒険者が交ざってたそうだ。

 何やってんの、あのバカ。

 

 そんなバカ相手に、ルーデウス達は分散して撹乱と視界を塞ぐ系の魔術を多用し、真っ向勝負を避けることでどうにか逃げ切った。

 分散してたからこそ一人の犠牲で済んだんだろうけど、そんな作戦を取らなければクリフさんは死ななかったんじゃないかって、この日記のルーデウスはずっと後悔してる。

 

 それでもロキシーさんのためにと先に進み、やっとルーデウスとザノバさんの二人はどうにか別の転移魔法陣に辿り着いてシャリーアに帰還するも、その頃にはもうロキシーさんは手遅れだった。

 ロキシーさんは亡くなり、追撃のようにルーデウス達を追ってミリスに行ってたらしい私が師匠の訃報を持ち帰ったことで、ルーデウスの心は壊れた。

 

 その後、ルーデウスは酒浸りのダメ親父へと変貌する。

 姉がどうにか慰めようとしてたみたいだけど、自分の殻に籠もってしまったルーデウスに言葉は届かず。

 やがてルーデウスが酒の勢いで他の女を抱いてしまったのを最後のひと押しにしたかのように姉の心も限界に達して、姉はそっとルーデウス邸を出ていく。

 

 家を出て姉がやってたことは、アリエル様の政争の手伝いだ。

 どうも何かしらのトラブルが起きたみたいで、アリエル様は予定をかなり前倒しにして政争を始めたっぽい。

 シャンドルの到着すら待たずに。

 ルーデウス視点の日記だと細かい顛末はわからないけど、最終的にアリエル様は敵勢力の罠に嵌って、クーデターの主犯ってことにされてしまった。

 

 そのクーデターを鎮圧するって名目で、アリエル様は敵武装勢力に囲まれた。

 その戦いには私も参加してたみたいで、ちょうど剣客として傭われてたレイダさんを斬り殺すも、同じく傭われてたオーベールさんに何かやられて姉と共に撤退したらしい。

 レイダさんを斬り殺すとか凄いな私。

 勝率的にはそんなに高くないと思うけど、シャンドル抜きでどうやって勝ったんだろ?

 あ、師匠の使ってた切れ味逆転の魔剣に手を出したとか?

 確かに、あの剣があればレイダさんにも勝てそうではあるけど。

 

 でも、レイダさんを倒したところで、戦いに勝てはしなかった。

 私達以外の手勢は全滅。

 アリエル様は捕えられて処刑。

 ルーデウスは全てが終わった後にこのことを知った。

 ミリスの一件でアスラ王国でも犯罪者扱いされてたルーデウスは、国境を通してもらえないどころか捕まりかけて足止めされ、密入国のために盗賊ギルドを頼って時間をロスし、アリエル様の情報を掴むために奔走してるうちに全部終わってしまったのだ。

 

 ルーデウスは必死でクーデターの場から逃げたという私と姉を探した。

 だけど、やっとの思いで見つけた時、姉の亡骸の前で私が泣いていたそうだ。

 姉はオーベールさんに毒の塗られた剣で斬りつけられたみたいで、逃げて傷を治したはいいけど、毒まではどうにもならなくて助けられなかったって、私は泣きながらルーデウスに謝ったらしい。

 そんな私にルーデウスは酷い罵声を浴びせて、後になって後悔したと日記には書いてある。

 

 その後、ルーデウスは以前にも増して酒浸りのクズと化す。

 自暴自棄になって、娼館通いだの、ナンパだの、果てはレ○プだのを企み、正直ここのページは今までとは違う意味で見てられない。

 

 そんなことしてるからノルンちゃんやリーリャさん、ルーシーにも出ていかれ。

 家族と一緒に私もそっちについていき。

 だけど、唯一戻ってきてくれたアイシャちゃんと、まだクズデウスを見捨てないでいてくれたザノバさん達によって、ルーデウスは少しずつ立ち直っていったみたい。

 あと、このあたりにエリスさんが登場したけど、もう完全に気持ちがすれ違ってた。

 ダメ元でもいいから私がなんとかしておくべきだったかなと思うレベルで。

 

 そして、ルーデウスが完全に立ち直る前に、また事態が急転する。

 

 ルーデウスの夢にヒトガミが出てきた。

 そして、あいつは盛大なネタバラシをして、ルーデウスを信用させて最悪なタイミングで地下室の扉を開けさせ、そこから魔石病に感染したネズミを出して、ロキシーさんを魔石病に感染させて殺したのは自分だと暴露した。

 他にも、アリエル様が罠に嵌って姉が死んだのも、ミリスでやたら強い騎士団が現れて師匠が死んだのも、SSランクのバカが追っ手に加わったせいでクリフさんが死んだのも、そのせいで帰還が遅れてロキシーさんの治療が間に合わなかったのも、全部僕の仕込みだったんだよとヒトガミは笑いながら言った。

 

 それによってルーデウスは激怒した。

 必ずヒトガミをぶっ殺すと誓って残りの人生を生きた。

 闘神の鎧とやらの文献を参考にして、自分の戦闘力を大幅に上げる『魔導鎧(マジックアーマー)』なる鎧を開発し、更に魔術の腕も磨き、ヒトガミの情報がありそうなところを片っ端から捜索していった。

 

 でも、ヒトガミの情報は全然見つからない。

 ルーデウスはまたどんどん荒んでいき、よく遭遇して殴りかかってくるエリスさんに対しても、鬱陶しいを通り越して殺意を抱くようになる。

 

 やがて、ヒトガミの情報は長生きしてる人ほど持ってる可能性が高いと知ったルーデウスは、何千年も生きてる『不死魔王』アトーフェラトーフェから情報を聞き出そうとして会いにいき、何がどうしてそうなったのか知らないけど戦いになって、エリスさんがルーデウスを庇って死んでしまったらしい。

 エリスさんと一緒に行動してたらしいギレーヌが、エリスさんの亡骸の前で感情を爆発させてルーデウスを責めたみたいで、その時のギレーヌの話でようやくエリスさんの気持ちをルーデウスは知った。

 あまりにも遅すぎる。

 もう取り返しなんてつかない。

 

 そして、今度はアイシャちゃんやザノバさん達まで死んでしまう。

 ミリスの騎士団が世界の反対側の北方大地まで執念深く追ってきて、ルーデウスの不在中にアイシャちゃん達を殺してしまったのだ。

 

 これによって、ルーデウスの傍に大切な人は誰一人としていなくなり、狂ったようにヒトガミへの復讐だけを支えに生きていく。

 やがて、ヒトガミの情報を探す中で古代龍族の遺跡とかいうのを発見し、ヒトガミが無の世界の中心とやらにいることを突き止めるも。

 そこに行くにはペルギウスさんを含む『五龍将』という人達が一つずつ持ってる秘宝が必要で、その五龍将がルーデウスの寿命が尽きる前に全員揃うことは決してない。

 もう老人と言える年齢になったルーデウスは、その事情を知って愕然とする。

 

 その後、老デウスは諦め切れなかったのかなんなのか、ヒトガミのもとへ至るために続けていた転移魔術の研究中に、古代龍族の遺跡の壁画に書かれてた魔術と転移魔術をこう、上手いこと使えば、莫大な魔力消費と引き換えに過去への転移が可能になるんじゃないかということを思いつく。

 全てを失い、大切な人達の仇も取れないと知り、半ば破れかぶれで、老デウスはあんまり安全確認とかしてなさそうな過去転移魔術を使うことを決意した。

 

 日記はここで終わってる。

 だから、この後は静香から聞いた話になるけど、なんとか過去に飛べた老デウスはルーデウスに未来で起こることを話して、いくつかの助言と日記を託して、過去転移の反動で死亡。

 ルーデウスは老デウスの日記を読み、静香に事情を話し、それが私の方にも伝わってきて……そして今に至る。

 

 

 

 

 

 日記を読み終えた私は、それを机の上に置いて、ただ一言呟いた。

 

「きっつ……」

 

 紛争地帯で初めて人を殺しまくってた頃よりSAN値の削れる内容だった。

 静香がエグいって言ったのも納得だよ。

 この日記には淡々とした出来事の羅列じゃなくて、その出来事を通して体験した、生々しいルーデウスの感情の全てが綴られていた。

 怒り、悲しみ、憎しみ、絶望、悔しさ、諦め、無力感、後悔。

 正気度を削ってくるほどの負の感情が詰め込まれていた。

 ページが涙の跡でヨレヨレになってるのも珍しくなかったし。

 

 未来の自分と話をして、こんなものを見せつけられたら、そりゃルーデウスもああなるわ。

 ヒトガミにはここまでルーデウスの人生を滅茶苦茶にできる力があって、挙げ句そんなクソ野郎を倒す手段がないなんて知ったら、そりゃヒトガミに逆らおうなんて考えられなくなるよ。

 

『ごめん、静香。これは止められないかも』

 

 自然とこぼれ落ちた日本語で、私はここにいない友達に謝った。




・日記ルートのエミリー

塞ぎ込んでるエリナリーゼと落ち込んでる両親を励まし、シルフィの件で責められてる自分がルーデウスの近くにいたらダメだと思って、家族と一緒に出ていくノルン達についていった。
最終的にビヘイリル王国の片隅に流れつき、そこで家族やグレイラット家の皆と一緒に過ごす。
ノルンやルーシー、エリナリーゼの息子のクライブに剣を教えたり、
ノルンの旦那さんの病気の治療法を探して世界中を飛び回ったり、
ルーデウスが原作よりも早く復讐鬼になったせいで協力を得られなかったナナホシのために魔石や魔力結晶集めの旅をしたりと、
過去を悔やんだり、ままならない現実に歯噛みしたりしつつも、前を向いて、そこそこ幸せに生きた。
誰かの作為を感じるレベルでタイミングが悪く、ルーデウスとの再会は叶わなかったらしい。


・日記ルートのヒトガミ

エミリーを待たずにルーデウス達がミリスに行くように助言したり、
夢に出ただけじゃ操れないミリスの狂信者達を他の使徒を使って誘導し、ほっといたらルーデウス達を守り切ってロキシーが死亡する前に帰還させてしまうパウロを仕留めたり、
エミリーとの訓練のおかげで、戦闘力的には原作より少し強いルーデウスの帰還を遅らせるためにSSランクのバカを誘導したり、
普通にやったら勝てちゃいそうなアリエルを負けさせるために色々やったり、
エミリーが老デウスの遺志を受け継いでオルステッドの仲間にならないように、二人の再会フラグを定期的に潰したり、
そんな感じで滅茶苦茶苦労したので、ネタバラシの時にテンションが振り切れてた。
一応このネタバラシ自体も原作よりタイミングが早く、ルーデウスを早めに復讐鬼にすることでペルギウスに敬遠させ、空中城塞やナナホシを介して二人が再会する可能性を下げるための布石の意味もあったが、それにしても調子に乗りすぎた。
そのせいで老デウスに全部ひっくり返された。
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