剣姫転生 〜エルフの娘は世界最強の剣士を目指す〜   作:カゲムチャ(虎馬チキン)

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 日記を読み終わってルーデウスに返す。

 その時、一応聞いてみた。

 

『確認するけど、ヒトガミについてオルステッドに挑む。その気持ちは変わらない?』

『ああ』

 

 片言による情報伝達の齟齬を避けるために日本語で問いかけたけど、ルーデウスの返答はにべもない。

 私は「はぁぁぁぁ」と盛大にため息を吐く。

 

『ヒトガミは約束を守らないかもしれないよ? これだけのクソ野郎だもん。むしろ、約束なんて平気で破ってせせら笑いそうな気がするんだけど』

『……それでも、俺には約束を信じることしかできない。オルステッドを殺せば俺達は用なし。そう信じることしかできないんだ』

 

 ルーデウスは自分に言い聞かせるようにそう言った。

 ヒトガミへの恐怖で視野が狭まってる感じがする。

 まあ、この日記見ちゃえば、誰がそれを責められようかって感じではあるけどさぁ。

 私ですら、こんな未来がくると思うと怖いもん。

 自分視点で絶望の未来を見せつけられたルーデウスの恐怖は、一体どれほどのものか。

 

『オルステッドに助けを求めるわけにはいかないの? クソ野郎よりかは信じられる気がするけど?』

『いや、ダメだ。オルステッドだけじゃヒトガミに勝てない。ナナホシにも言ったけど、負け戦の将にくっついて全てを失うわけにはいかないんだ』

『オルステッドとルーデウスの子孫と私が協力すれば勝てるんじゃなかったっけ?』

『それもどこまで本当かわからない。それに、仮に俺の子孫が勝てるんだとしても、その子孫だけ生き残って、他の家族が全滅したんじゃ意味ないだろ?』

『あー、まあ、確かにそうだね』

 

 勝てても全てと引き換えじゃ何にもならないっていうのは確かにそうだ。

 人、それを勝利じゃなくて相討ちと言う。

 オルステッドに土下座して助けてくださいって言っても、そのオルステッドに皆を守ってくれる力がなければ終わりってことか。

 かの龍神様は滅茶苦茶強いけど、単純な強さだけじゃヒトガミの攻撃を防げないっていうのは、この日記を見てれば嫌ってほどわかるからね。  

 

『ヒトガミが約束守ってくれる可能性の方が高いのか、オルステッドに皆を守ってくれるだけ力がある可能性の方が高いのか……私の頭じゃ判断つかないんだけど、ルーデウス的にはどう思う?』

『……俺もわからない。オルステッドにどれだけの力があるかなんてわからないからな。

 でも、ヒトガミは今この瞬間も俺のことを見張ってるかもしれないんだ。

 俺が変な気を起こした瞬間に、あるいはそんな未来が見えた瞬間にヒトガミの攻撃が始まる。そう思わないといけない』

『うっわ』

 

 何それ?

 つまり、オルステッドに協力を求めようにも、求めようとした瞬間にヒトガミの魔の手が伸びてきて潰されるってこと?

 どうにもならないじゃん!?

 警察に助けを求めようにも、犯人に四六時中監視されてるみたいな話だよ。

 こういう時の定番は、いかに犯人にバレないようにして救援を要請するかだけど、未来が見える奴の目を欺くとか無理ゲーもいいところだと思う。

 

 あれ?

 詰んでない?

 

『……敵にしてもオワタ。味方にしても裏切られる可能性大とかタチ悪すぎでしょ。敵にしても味方にしてもロクな結果に終わらないとは聞いてたけど、ホントその通りだよ』

 

 シャンドルの言ってたことは正しかった。

 ヒトガミとは早急に縁を切った方がいい。

 いや、ルーデウスの場合は切った瞬間に襲いかかってくるんだけどさ。

 どうにもならないなぁ。

 

『ヒトガミに気をつけろって手紙に書いたけど、無駄になっちゃったね。これじゃ気をつけようがないよ』

『え? 手紙? なんのことだ?』

『へ? 剣の聖地から出したんだけど、届いてないの?』

 

 重要な情報だから、短い距離だからって油断せずに、シャンドルや姉に言われた通り、道中で紛失しないように複数枚の手紙を出したんだけど?

 

『……ちなみに、それいつの話だ?』

『半年以上前』

『マジか……。その手紙があれば、未来の俺もこんなことにならなかったかもしれないな。多分、ヒトガミに握り潰されたんだろう』

『うっわ』

 

 あいつどこまでも……。

 脅すために突きつけられた銃口が更にめり込んできたような気がした。

 

『…………はぁぁぁぁぁ。わかった。不本意。本当に不本意だけど、協力するよオルステッド戦。ああもう、静香になんて言えば』

『すまん。本当にすまん。ありがとう、エミリー』

『全くもう。変な奴に狙われる義兄を持つと大変だよホント。生きて帰れたら何か埋め合わせしてよね』

『ダイヤの指輪でも超高級車でも、喜んで献上させていただきます』

『いらないから、シルを全力で愛して、静香を全力で助けてあげてね』

 

 そんなアホなやり取りをして、少しだけ笑い合った私達は、すぐに真剣な顔になって対オルステッドに向けた作戦会議を始めた。

 

『とりあえず、どんな感じの作戦考えてるの?』

『まず、ナナホシから借りたオルステッドとの連絡用のマジックアイテムを囮におびき寄せて、罠に嵌める。そこに遠距離から聖級や王級の大規模魔術を連続で撃ち込む。

 それで仕留めるのが理想だけど、仕留め切れなかったら開発中の魔導鎧を着た俺と父さんで近接戦って感じを想定してる』

『えっぐい』

 

 それオルステッド相手じゃなければオーバーキルだよ。

 ガルさんでも倒せそう。

 というか、剣の聖地ごと吹っ飛ばせそう。

 でも、

 

『師匠に戦ってもらうのはやめといた方がいいね。言いたくないけど、師匠じゃ力不足だよ』

『え? で、でも、父さんは王級に手が届くくらい強いんじゃないのか?』

『王級下位じゃオルステッドに瞬殺されるってことだよ。王級だった頃に戦ったことがあるからわかる』

『戦ったことあるの!?』

 

 あ、そうだった。

 ルーデウスにはまだオルステッドと戦ったこと言ってないんだったわ。

 こんなことになるなら、もっと早く言っとけば良かったよ。

 ルーシーの天使っぷりのことばっかり語り合ってる場合じゃなかった。

 

『そ、その時はどうなったんだ?』

『なんか試す? とか言われて戦闘になったけど、シャンドルと2対1で攻めても傷一つ付けられなかった』

『シャンドルって確か、北神流の師匠だったよな?』

『そう。神級クラスの使い手。私はそのサポートが限界だった』

『マジか……』

 

 ルーデウスがより一層絶望が深くなった感じで天を仰いだ。

 あ。

 というか、

 

『オルステッドと戦うなら、シャンドル呼べばいいんじゃない? 中央大陸にはいるらしいし、手伝ってくれるかはわかんないけど、呼べばくるでしょ。数ヶ月以内に』

 

 ついでに、アレクとかガルさんとかレイダさんとかも呼んで袋叩きにすればいいのでは?

 アレクはどこにいるかわかんないから時間かかるだろうし、レイダさんはオルステッドにトラウマ持ってる感じだったから断られそうだけど。

 でも、ガルさんはオルステッドを斬りたいって言ってた。

 それにシンパシーを感じたからこそ、ガルさんはエリスさんに目をかけてた節があるからね。

 オルステッドを餌に剣神一本釣りできるんじゃない?

 そのことをルーデウスに告げてみると、

 

『エミリーのコネクションが凄い……。でも、他の人はともかく、シャンドルとアレクって人は呼べない。呼ぶなってヒトガミに釘刺されてるんだ』

『なんで!?』

『なんでも、この時期にその二人がシャリーアにいると都合が悪いらしい。理由は知らないけど』

『えぇ、なんじゃそりゃ』

 

 あんな化け物を殺せとか言っておいて、万全の準備は整えさせてくれないとか、いったい何様のつもりなんですかねヒトガミ様よぉ。

 

『じゃあ、呼べてもガルさんくらいってこと? あ、エリスさんとギレーヌはどう? 二人とも王級上位くらい強いし、戦力にはなると思うよ?』

『……エリスには手紙を送ったよ。一緒に戦うかどうかは、エリスの返事次第だ』 

『そっか。オルステッドに挑む前に殺されないといいね』

『もしそうなったら助けてくれるか?』

『やだ。自分で撒いた種くらい自分でなんとかしろ』

『……はい』

 

 ルーデウスは項垂れた。

 

『で、オルステッドにはいつ挑むの?』

『……今のところ魔導鎧の完成予定の二ヶ月後を想定してる』

『二ヶ月!?』

『早くしないと、ヒトガミの気が変わって攻撃してくるかもしれないからな。魔導鎧制作のヒントまで与えて急かしてきたし』

 

 あー、そっか。

 ヒトガミはいつでもルーデウスに攻撃開始できるわけで。

 そして、オルステッドに比べればルーデウスを潰す方がよっぽど簡単だ。

 今それをしない理由はわからないけど、ヒトガミの気まぐれで生かされてるなら、ルーデウスの言う通り早くしないと攻撃開始される。

 

『あのモザイク、無茶なことばっかり……!』

 

 ぶっ殺してやりたい。

 それができないから、こんなに苦労してるわけだけど。

 そう考えると、もうため息しか出ないよ。

 

『はぁ……。とりあえず、私のやることは師匠の説得かな。ガルさん呼びにいくのはギリギリでいいや』

 

 気が短いくせにフリーダムな人だから、事前に呼んで待たせたりしたら勝手に何するかわかんないし。

 だから、ギリギリでいいのだ。

 

『エミリー、本当に、本当に、ありがとう』

 

 ルーデウスが深く、それはもう深く頭を下げた。

 本気の感謝と誠意の伝わってくる姿だった。

 

『シルを未亡人にするわけにはいかないからね。死ぬ気で生きてよ?』

『ああ、もちろんだ。絶対に生きて帰る。ロキシーも妊娠したし、生まれてくる我が子の顔を見るまで死ねないからな』

『死亡フラグ乙。というか、ロキシーさんもおめでたなんだ。おめでとう』

『ありがとう』

 

 そんな冗談を言い合ってから、ルーデウスは魔導鎧とやらの制作に戻った。

 さて、私も気合い入れないとね。

 恨みも何も無いし、それどころか静香を助けてくれたことに感謝までしてるけど、こうなっちゃった以上は仕方ない。

 

 挑ませてもらうよ、━━七大列強第二位『龍神』オルステッド。




ヒトガミ「シャンドルを呼ぶ? ダメに決まってるでしょ。せっかく遠ざけたのに、その分の労力がもったいないじゃないか。
 アレクもせっかく上手いこと使えそうな感じになってるんだから、わざわざエミリーに近づけて、エミリー経由でアリエルの仲間にさせる必要もないよね。
 シャリーアに呼んで、オルステッドが関わらない場合の未来だと厄介なことになってるのが見えるし。
 その状態で、何かの間違いでオルステッド戦を生き残っちゃったら面倒だ。
 まあ、心配しすぎだとは思うけどねー。
 なんにしても、オルステッドがルーデウスとエミリーを殺してくれれば相当楽になるし、十中八九そうなるでしょ。
 ついでにオルステッドが消耗すれば万々歳。
 使徒としてぶつければ勝手に敵認定して始末してくれる短絡的なバカの相手は楽で良いや」

勝利を確信するヒトガミの図。
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