剣姫転生 〜エルフの娘は世界最強の剣士を目指す〜   作:カゲムチャ(虎馬チキン)

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 ルーデウスと話した後、私は師匠に対して、オルステッドと戦うのをやめるように説得した。

 当然、師匠は「息子が命懸けるって時に、指くわえて見てろってのか!?」と大変男前なことを言ってくれたんだけど、悲しいかな。

 戦闘力の不足だけはどうにもならない。

 

 私は師匠を納得させるために決闘をし、剣の聖地で鍛えた剣技をもって1秒とかけずに師匠を沈めた。

 

「オルステッドは、もっと、速くて、もっと、強い。最低でも、王級上位は、ないと、サポートも、できない」

「くそっ……!?」

 

 師匠は悔しがってた。

 己の不甲斐なさに憤ってた。

 でも、不意に立ち上がったかと思うと、家からあるものを持ってきて私に託した。

 

「せめて、俺の代わりにこいつを連れていってくれ。必ず役に立つはずだ」

「……わかった。師匠の、想い、受け継いだ」

 

 それから、師匠は一層修行に励んだ。

 今回の一件が解決した後、次こそは役に立てるようにと。

 あわよくば魔導鎧の製作中に成長して戦いに参加できるようにと。

 やっぱり、私の師匠は滅茶苦茶立派だと思った。

 

 

 

 

 

 そんなやり取りから一ヶ月半。

 そろそろ頃合いかなってことで、私は再び剣の聖地を訪れて、ガルさんの勧誘をした。

 

「オルステッドに挑む? エリスも出てく直前にそんな手紙受け取ったらしいが、居場所わかってんのか?」

「わかってる。罠に、嵌める、準備も、できてる」

 

 そう告げると、ガルさんの顔つきが一気に真剣なものとなった。

 口元は笑ってるけど、眼光が視線だけで竜を殺せそうなくらい鋭くなり、全身からとんでもない殺気と闘志を隠すことなく噴出させる。

 当座の間っていう道場の稽古場に同席してた剣聖達が冷や汗ダラダラになり、中には気絶する人まで出始めた。

 

「面白ぇ。行方知れずの世界最強。それにもう一度挑む機会が、こんななんでもねぇ日に巡ってくるとはな。真剣勝負をすっぽかされたのは腹立つが、それを差し引いてもお前を客人として迎え入れて良かったぜ、エミリー」

 

 そうして、ガルさんは道場の床から立ち上がった。

 その手にアレクの王竜剣と同じ、王竜王カジャクトの肉体から作られたという48の魔剣の一つ、ガルさんの愛剣である魔剣『喉笛』を持って。

 

「乗った。オルステッドとの戦い、俺様も一枚噛ませろ」

「わかった。よろしく」

 

 こうして、私はガルさんの勧誘に成功した。

 一応ダメ元でレイダさんも誘おうかと思ったけど、レイダさんはもうイゾルテさんと一緒に、アスラ王国の水神流総本山に帰っちゃったみたい。

 

 ニナさんと剣帝の二人にも声をかけたけど、ニナさんはジノくんっていう、私の剣の聖地滞在初日の大乱闘に交ざってた男の子をちらりと見て「やめとくわ」って言った。

 剣帝さん達には「師匠の戦いに割って入るなど恐れ多い」と断られた。

 それを見てガルさんは「根性のねぇ奴らだ」って鼻で笑ってたけど。

 

 で、良くも悪くも一番反応しそうな肝心のエリスさんはというと、

 ちょっと前に『剣王』の称号とルーデウスの手紙を貰って、ギレーヌと一緒に既にシャリーアに向けて出発したらしい。

 果たして念願のオルステッド戦のために向かったのか、それともすれ違った結果浮気みたいなことしやがったルーデウスを抹殺しにいったのか。

 ヒヤヒヤが止まらないぜ。

 

 

 そんな不安を抱えながらも、私はガルさんを連れてシャリーアへ帰った。

 帰り道はもちろん空の旅だ。

 誰かを一緒に飛ばすのは初めてだったけど、まあ、ガルさんなら空から落としても死なないでしょと思って、かなり雑に運んだ。

 具体的には、自分が飛んでる隣で適当にガルさんにも衝撃波をぶつけてかっ飛ばす感じだ。

 

「おお! 凄ぇ凄ぇ! これなら空中城塞にも行けそうだな!」

 

 まあ、ガルさんには大ウケだったから問題無し。

 空中で上手く体勢を整えて空の旅を楽しんでた。

 でも、実際にこの方法で空中城塞に行くと家主に盛大に顔をしかめられるからオススメしないよ。

 

 

 そんな旅路を10日間。

 さすがに一人の時より時間がかかったけど、無事シャリーアに到着。

 ガルさんをルーデウスに紹介した。

 

「は、はじめまして! ルーデウス・グレイラットです!」

「お前がエリスの言ってた奴か。なんだよ、全然強くなさそうじゃねぇか」

 

 ガルさんはルーデウスをジロジロと見た後、失望したみたいにため息を吐いた。

 

「こんな小僧がオルステッドとの戦いで役に立つのか?」

「ルーデウス、魔術師。剣士と、同じ、基準で、考えるの、ダメ」

「まあ、それもそうか。少しは期待してるぜ。ダメ元でな」

 

 こんな失礼で不遜なガルさんに、ルーデウスは苦笑で済ませた。

 ここで悔しいとか感じないあたりが、ルーデウスが戦士タイプじゃない所以だよね。

 

 でも、この頃にはもう魔導鎧が完成してたみたいで、それに乗り込んだルーデウスを見るとガルさんは掌を大回転させた。

 

 魔導鎧は巨大な鎧だ。

 全長3メートル。

 カラーリングは森林に溶け込むような迷彩カラー。

 ガッシリとした相撲レスラーみたいな体格で、右腕にはルーデウスの得意技、超火力の岩砲弾(ストーンキャノン)を連射するというガトリングもどきを装備し、左腕には3メートルの巨体を覆い隠せるほどの大盾を持ってる。

 

 端的に言ってカッコ良い!

 戦闘に特化したような無骨なボディは、私とジュリちゃん以外の女性陣からの評価が悪いけど、君達にはわからんのか!?

 あの機能美が!

 力士やレスラーを思わせる戦う男の肉体美が!

 それに何より、あのメタリックなカッコ良さが!

 

 女性陣にはわからなくても、師匠、ザノバさん、クリフさんみたいな男性陣にはちゃんとこの良さがわかるみたいで、皆目をキラキラさせてた。

 それはガルさんも例外じゃなく、表面上は落ち着いてたけど、目は皆と同じで巨大ロボットを見る子供みたいにキラキラしてて、魔導鎧の戦闘テストの相手を買って出てたよ。

 

「ハハハハハハ! なんだこりゃ! 面白ぇ! 距離さえありゃ、初めて戦った時のエミリーより歯ごたえあるじゃねぇか!」

「剣神様に、うおっ!? そう言ってもらえて、ほわっ!? 光栄です、うわっと!?」

 

 ガルさん、割と本気で戦ってんじゃん。

 それについていってるルーデウス凄いな。

 アーマードルーデウスの身体能力は私やガルさんと大して変わらない。

 鎧一つでここまで変わるとは。

 これならオルステッドとも戦えるかもしれない。

 

 とりあえず、ガルさんとルーデウスの戦いが楽しそうだったから私も交ぜてもらった。

 ガルさんに剣の聖地に行く前の私より上だと言わしめたその力、見せてみるがいい!

 私とガルさんの二人がかりで攻められて、ルーデウスは悲鳴を上げた。

 

 

 

 

 

 こうして、私達の準備は一応ながら整った。

 シャンドルやアレクを呼べないのは腹立つし、エリスさんとギレーヌは道に迷ったのかまだ来てないしと、不安要素が多々あるけど、これ以上はヒトガミもガルさんも待ってくれそうにない。

 特にガルさんはハリキリまくってて、せっかくモチベーションが最高潮なのに、時間を空けて水を差すのは得策じゃないからね。

 戦いは心技体。

 心が占めるウェイトは大きい。

 

 それでもエリスさん達くらいは待った方がいい気もするけど、ここまで遅れてるってことは私みたいに遭難してる可能性もある。

 あの二人は私と似たタイプだから大いにあり得るよ。

 ガルさんがイライラし始めたし、これ以上は待てない。

 

 それに、エリスさんから見たら浮気みたいなことした形のルーデウスが、どの面下げて「俺のために死んでくれ」みたいなことを頼み込むんだって話でもあるからなぁ。

 あまりにも筋の通ってない話だし、拗れる未来が容易に想像できる。

 

 だったら、拗れてルーデウスが調子を崩す前に、それでいてガルさんが絶好調のうちに仕掛けた方がいいんじゃない? ってことになった。

 多分、オルステッドを相手にするなら、王級二人が戦力に加わるより、神級一人が絶好調で強くなってる方が有効だろうし。

 その王級二人とギスギスする可能性が高いなら尚更。

 

 そんなわけで、私達は皆に見送られながら魔法都市シャリーアを旅立った。

 目指すは、シャリーアの北北東にある廃村。

 ルーデウスが罠を仕掛けた、オルステッドを誘導する予定の場所。 

 そこが決戦の地だ。


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