剣姫転生 〜エルフの娘は世界最強の剣士を目指す〜 作:カゲムチャ(虎馬チキン)
姉がルーデウスに手籠めにされてから数日。
私は師匠の迷惑にならないくらいの間隔で剣術を習いに行き、残りの時間は自主練か家の手伝い、あるいは姉とルーデウスと一緒にいることにした。
二人の傍にいるのは当然姉が心配だからであり、言い換えればルーデウスの監視のためでもある。
それもこれも、ルーデウスから感じるエロガキのオーラが凄すぎるからだ。
性欲を持て余した中年男性レベルにすら感じる。
一応は私も生まれ持った女としての勘が結構な音量で警鐘を鳴らしてるのだ。
ルーデウスの父である師匠の昔のエピソードも聞かされてる身としては、姉を心配しない理由がない。
ちなみに、そのエピソードは師匠の奥さんであるゼニスさんが、普通の子供ならわからないくらいに厳重に何重ものオブラートに包んで教えてくれたんだけど、そのせいで師匠に対する尊敬の気持ちが半分くらい削げ落ちちゃったのは悲しい事件だったよ。
ヤリ○ンなんてレベルじゃない。
大昔の過ちまで含めれば、犯罪者一歩手前どころか普通に犯罪者だ。
何さ、今師匠の家でメイドやってるリーリャさんを
というわけで、そんなエロ師匠の遺伝子をバッチリ継いでると思われるルーデウスを警戒するのは当然なのだ。
姉が剥かれてからじゃ遅い。
そう思って身構えてたんだけど……意外なことに、ルーデウスは紳士だった。
「よし、じゃあ今教えた通りにやってみよう!」
「うん! 汝の求める所に大いなる水の加護あらん……」
今も、私が近くで師匠に教えてもらった型全部を通しでやってる中、ルーデウスは姉にイヤらしいことをするでもなく、私の時みたいに舐めるような目で見ることもなく、なんか魔術を教えていた。
魔術とは、まあ大体の人がイメージする魔法とほぼ同じものだ。
とんでも剣術があり、オーラが見える魔眼なんてものまであるファンタジー世界なんだから、そりゃ魔術くらいあるよね。
というか、前に村に来てたロキシーさんという高名な魔術師の人と何度か会ったことあるから、魔術の存在自体は結構前から知ってた。
残念ながら、魔術自体を見る機会には恵まれなかったけどね。
だから、こうして魔術を見るのは今回が初めてだ。
姉が魔術の発動に必要な詠唱とかいうのを唱えると、私の魔眼は姉の体の中のオーラが腕を通って青いオーラに変換され、それが更に手の平の先で水の玉になる様子を映す。
いや、師匠の言う通り私の眼が『魔力眼』っていう魔眼なら、この眼に映るオーラは魔力ってことになるんだっけ。
まあ、それはともかく。
これが魔術か。
師匠が纏ってるオーラこと魔力(正確には闘気というらしい)ともまた違う。
闘気が少量の魔力を何かと混ぜて変質させた上で体に纏ってる感じなのに対し、魔術は大量の魔力を手動で変換して超常現象に変えてる感じ。
どっちも、この写○眼をもってしても一朝一夕じゃコピーできないだろう。
そもそも魔力の操り方とか知らんし。
闘気の方はそんな複雑には見えないから、取っ掛かりさえ掴めればいけそうな気がしてるんだけど、魔術の方はどう足掻いても独学じゃ無理そう。
……ふむ。
そういうことなら、姉に便乗してここでルーデウスに習っておくっていうのも悪くない?
私の夢は世界最強の剣士なわけだから、魔術を戦闘で使う気はないけど、いつか武者修行の旅に出た時、魔術で飲み水の確保とかできたら相当便利な気がするし。
エロガキに教えを乞うのはちょっと抵抗あるけど……まあ、姉に対しては紳士に振る舞ってるし、私も多少は態度を軟化させてもいいのかもしれない。
ルーデウスは
うん、そうだよ。
私とルーデウスは同じ師匠に教わってる兄弟弟子みたいなものなんだから、これを機に仲良くなっといた方が師匠も喜ぶはず。
というわけで、早速魔術を成功させて喜んでる姉とルーデウスのところに行こう。
「ねぇ」
「ん? どうしたの、エミリー」
「それ、教えて」
姉が出した水の玉を指差しながらそう言う。
そうしたら、ルーデウスがニチャッとした笑みを浮かべて「ついにデレ期が……!」とか言い出した。
早まったか。
「もちろんいいよ! じゃあ、そのためにも手取り足取り教えてあげよう」(にちゃぁ)
「うっわ……」
言葉とは裏腹に、ルーデウスの中年エロ親父のごとき性欲に満ちた笑みがより深く気持ち悪くなった。
思わずガチトーンでドン引きの声が出る。
ギルティ。
こいつはやべぇや。
エロガキどころか未来の性犯罪者だ。
ここで仕留めておいた方が世の女性達のためだと思う。
「ひっ!?」
というわけで、私は全力の殺気をルーデウスに叩きつけた。
安心しろ。
一撃で逝かせてやる。
「ご、誤解! 誤解だから! 別にエロい意味で言ったわけじゃないから! いや、確かにちょっとは思ったかもしれないけど……」
「エミリー! ルディに酷いことしちゃダメ!」
「む」
姉に言われたので、仕方なく殺気を収める。
そうしたら、ルーデウスは半分ガチで泣きながら姉に抱き着いた。
貴様! 今度は姉に狙いを定めたか!
「あ、ありがとう、シルフ。本気で怖かった……」
「ど、どういたしまして……!」
と思ったけど、どうにも下心が見えない。
恐怖が下心を上回ってるのかな?
いや、なんかそれを差し引いても、姉に対する態度と私に対する態度が違う気がするけど。
ルーデウスは金髪フェチとか、カタコトフェチとか、そういう感じなんだろうか?
姉の方は抱き着かれてあんな真っ赤になってるというのに。
姉をエロガキに渡す気はないけど……あそこまで意識されてないと、ちょっと不憫だ。
「ご、ゴホン! じゃ、じゃあ気を取り直して、魔術の授業を始めよう」
「普通に、よろしく」
「わ、わかってますとも、ええ」
ブルっても教えること自体はやめようとしないあたり、ルーデウスはある意味凄い奴なのかもしれない。
そんな感じの茶番を経て、ルーデウスによる魔術の授業が始まった。
姉にも見せてた本を私にも見せて、詠唱を教えてくれる。
本に書いてある文字はまるで読めなかったけど。
……今度、誰かに教えてもらおう。
で、次は早速実践。
「汝、の、求める、所に、大いなりゅ、みじゅの……噛んだ」
おのれ!
このカタコト体質のせいで詠唱が上手くできない!
そんな私を見て、姉は微笑ましいものを見る目になり、ルーデウスは温かい目+なんかねっとりした視線を寄越してくる。
見るな!
そんな目で私を見るな!
「もう、一回。汝、の、求める、所に、大いなる、水の、加護、あらん。清涼なる、せせらぎ、の、流れを、今、ここに。━━ウォーター、ボール!」
できるだけゆっくりと、とにかく噛まないように気をつけながら詠唱を言い切る。
すると、私の中の血液みたいな何かが勝手に動いて右手に集まっていくような感覚がした。
自分の中の魔力がさっきの姉と似た動きをしていることを魔眼が捉える。
しかし、詠唱があれな出来だったせいか、魔力は途中で動きが止まって霧散してしまう。
「失敗」
「ま、まあ最初から上手くいくものでもないからね」
なんかルーデウスがホッとしたような顔してた。
剣術だけじゃなく、魔術まで私に抜かれるんじゃないかとか思ってたのかな。
まあ、そんな幼い自尊心はともかく。
今のが魔力を動かす感覚か。
前世ではあり得ないような不思議な感覚だった。
これは私が求めていたことの取っ掛かりになるかもしれない。
その日は二人がかりで魔術のあれこれを教えてもらったけど、結局、私がまともな魔術を習得することはなかった。
数日後。
私は魔術による魔力コントロールに着想を得ることで、微弱ながらも師匠と同じ『闘気』という身体強化の魔力を纏うことに成功した。
ルーデウスは白目を剝いた。