剣姫転生 〜エルフの娘は世界最強の剣士を目指す〜 作:カゲムチャ(虎馬チキン)
「あああああああ!!!」
ルーデウスの
「おおおおおおお!!!」
「シィ!」
それを水神流で強引にかき分けて突っ込んできたオルステッドに、ガルさんと私が斬りかかる。
ガルさんの攻撃が受け流されれば私が攻め、私の攻撃が受け流されたらガルさんが攻め、お互いに対するカウンターのタイミングを潰して攻める。
シャンドルと一緒に戦った時と同じだ。
ただし、あの時と比べれば私の実力が段違いに上がってる。
連携の質でいえばシャンドルと組んだ時の方が圧倒的だけど、地力の差が埋まってる上にクソチート武器まで装備して、しかもルーデウスという凄腕魔術師による援護まであるんだから、前回よりは遥かに善戦できていた。
「ハッ!」
オルステッドが師匠の剣に向けて手を伸ばす。
この動きは知ってる。
シャンドルの奥義を無効化した武器破壊技、北神流『破鋼』だ。
クソチート武器のせいで、迂闊に私の攻撃を受けられないからこそ苦戦してるんだから、それを壊せばいい。
実にシンプルで、そして大正解な判断。
知ってる技とはいえ、オルステッドの技量で放たれるそれはタイミングも秀逸すぎる。
わかっていても避けられない。
ギリギリ避けられると思った時は、あえて無理に避けさせて、こっちの体勢を崩すのが狙いと見た方がいい。
今回は前者だ。
タイミングがドンピシャすぎて避けられない方。
「『泥沼』!」
「……チッ」
でも、直前でルーデウスの援護によってオルステッドの足下の地面が泥沼に変わる。
オルステッドは即座にそれを魔術による土のプレートで覆ってレジストしたけど、足場が急に変わって動きがほんの少しだけ乱れ、その隙に師匠の剣の位置をズラすことで破鋼は不発に終わった。
代わりに空いた手でぶん殴りにきたけど、それはなんとか受け流す。
こんな感じで、正直私達三人の中で一番有効打を与えられてるのはルーデウスだ。
ガルさんの動きはシャンドル同様何故か読まれ、私の方は師匠の剣を警戒されすぎて逆に完璧に対処される。
その分、オルステッドの集中力をこっちに割かせてるんだから大事な役割なんだけど、私達だけじゃダメージを与えられない。
そんな中で、ルーデウスの魔術だけがオルステッドに傷をつけていた。
オルステッドは何故か最初の治癒魔術以降自分の傷を治さないから、少しはダメージが蓄積してる。
「奥義『烈断』」
「ぐぅ!?」
当然、そうしたらオルステッドもルーデウスを狙い始める。
距離があっても威力が出る技、私も愛用してる北神流の烈断でルーデウスを狙い撃つ。
ルーデウスはそれを魔導鎧の盾で受けた。
盾に大きなヒビが入ったけど、一発は防ぎ切る。
オルステッドは更にルーデウスの方に手を向け、なんか凄そうな魔術を放とうとしてたけど、そこに私とガルさんが斬り込んで阻止。
私達の攻撃は受け流されたけど、その間に復活したルーデウスがまた援護を入れた。
この繰り返しによって、私達はあのオルステッドと互角に渡り合っていた。
魔術まで使ってるオルステッド相手にだ。
私とガルさんと師匠の剣によって、なんとか近接戦闘で食らいつき。
魔術は私達が斬り込んで発動阻止するか、無理なら魔導鎧に搭載されたあの転移の迷宮の守護者、ヒュドラの鱗から作った魔術分解の魔道具『吸魔石』でルーデウスが無効にする。
それでなんとか互角だ。
神級三人がかりで、ようやく不利寄りの互角。
しかも、ルーデウスがヒトガミから聞いた情報曰く、オルステッドは『本気を出せない呪い』とやらも患ってるらしいから、これでも全然本気じゃないはずなのにだ。
それでも、ここまで善戦できてるだけ奇跡。
ただ、決定打がない。
オルステッドには部位欠損も治せる治癒魔術がある以上、決定打となり得るのは首を飛ばすか胴体を真っ二つにするか、もしくは私の回復封じの不治瑕北神流奥義『破断』を当てることくらい。
首や胴を両断するのは難しい。
狙ってはいるけど、そんな簡単に致命傷を受けてくれる相手じゃない。
というか、そんな簡単に首とか斬れるなら、とっくの昔に倒してるわ!
だったら破断を当てるしかないんだけど、こっちも無理。
ヒュドラと戦った時より私の技量は上がってるし、今なら無防備な状態で発動準備に5秒もかければ破断は使える。
でも、5秒なんて稼げるわけないでしょ!
5秒どころか一瞬でも私が、いや私達の中の誰かが抜けたら、その瞬間に負けるわ!
不治瑕じゃない破断ならもっと早く使えるんだけど、それじゃあんまり意味ないし、多分そっちですら間に合わないよ!
そんな感じで、にっちもさっちもいってない。
お互いにね。
「ぐっ!?」
「ガルさん!」
ガルさんがオルステッドの一撃を食らって血を吐いた。
その瞬間、私達は即座に事前に決めておいた動きをする。
「『
「『烈断』!」
「『光の太刀』!」
私とルーデウスがオルステッドをふっ飛ばすタイプの攻撃をして、ガルさんも無理矢理体を動かして追撃。
ほんの僅かにオルステッドを後退させる。
「『エクスヒーリング』!」
その隙に私が無詠唱治癒魔術でガルさんを治す。
一撃で戦闘不能になるような傷じゃなかったから、中級治癒でも即座に完治した。
こんな感じで、決定打が無いのはオルステッドだって同じだ。
こっちもオルステッドと戦って無傷なわけないし、むしろ被弾回数はこっちの方が多いんだけど、私は龍聖闘気もどきでダメージを軽減し、ガルさんは剣神としての絶大な技量で致命傷を避けてる。
そして、致命傷さえ負わなければ、私の無詠唱治癒魔術で即座に治せる。
回復のタイミングも凄いシビアで、ギリギリの綱渡りが続いてる状況だけど、私達はなんとかオルステッドと拮抗していた。
お互いに決め手がない。
一瞬の気の緩みで崩壊する薄氷の上の拮抗状態とはいえ、戦いはある種の膠着状態に陥っていた。
「……仕方ないか」
その静寂を打ち破るべく、オルステッドが動いた。
左手と右手を合わせ、左手の中から何かを引き抜く。
それは、刀だった。
某なんでも真っ二つにする13代目が持ってる斬○剣みたいにシンプルな造形の刀。
持ち手にはなんの装飾もなく、鍔すらない。
でも、その刀と、何よりそれを持ったオルステッドを見て、私の背筋は凍りついた。
あれは、ダメだ。
勝てないと本能が叫ぶ。
今までも素手でヒグマに挑んでるみたいな戦力差は感じてたけど、これは次元違いだ。
大怪獣ゴ○ラとでも対峙してるかのような絶望感。
オルステッドが動いた。
向かった先はガルさんだ。
ガルさんは動揺しながらもさすがは剣神というべきか、すぐにオルステッドを迎撃した。
その迎撃に放った太刀は見事なものだった。
今まで見たガルさんの攻撃の中で最も速く、最も鋭い光の太刀。
ギレーヌの5倍は速いんじゃないかと思うような、人間の限界を超えた速度。
もしかしたら、ガルさんの生涯最高の一振りとか、そんな感じの一撃だったのかもしれない。
でも、オルステッドの方が速かった。
オルステッドの方が圧倒的に速かった。
「あ?」
ガルさんが何が起きたかわからないって感じの声を上げる。
そんなガルさんには、両腕が無かった。
両脚も無かった。
ガルさんの生涯最高の一振りがオルステッドに当たる前に、オルステッドは二回刀を振るったのだ。
両腕を斬り飛ばすのに一回、両脚を斬り飛ばすのに一回。
渾身の一撃を真っ向から粉砕された剣神は、両手足を失った無力な状態となって崩れ落ちた。
「『
それを見て、私は踏み込みと自分の背後からぶつけた衝撃波による高速移動でオルステッドに向かっていった。
勝算があったわけじゃない。
ただ、後手に回ったら今のガルさんみたく、何もできずに終わると思っただけだ。
「う、撃ち抜けぇぇぇぇえええ!!!」
私と同時にルーデウスも動いた。
オルステッドに向けてガトリングを乱射しようとして……オルステッドが煩わしそうに刀を一振りしただけで、そこから放たれた飛ぶ斬撃がルーデウスのガトリングを斬り裂いた。
だけど、ルーデウスに意識が向いてる隙に私が追いつく。
幻惑歩法、誘剣、迷剣、目潰しの火魔術。
小細工でもなんでも、でき得る限りのことをしてオルステッドを惑わし、渾身の光の太刀を放った。
「ッ!?」
しかし、オルステッドは私の一撃を刀で受け止めた。
硬いものほど斬り裂くはずの魔剣の一撃を、オルステッドの刀は当たり前のように防いだ。
「うぐっ!?」
そのままオルステッドの刀が振り抜かれる。
師匠から託してもらった私達の切り札を両断しながら。
しかも、そこから飛んだ袈裟懸けの斬撃が、咄嗟に後ろに飛んだ私の体に大きな裂傷を刻んだ。
肋骨が両断され、肺にも他の内臓にもダメージがきてる。
真っ二つになってないだけ奇跡だ。
刀身に直接斬られてたら絶対そうなってた。
私の体はその斬撃で吹き飛ばされて、背後にいたルーデウスの魔導鎧に激突した。
「エ、エミリー!?」
「ごほっ!?」
傷付いた体を無詠唱の治癒魔術で治す。
でも、ガルさんも脱落して、師匠の剣も失ってしまった。
戦況は絶望的。
……こりゃ、勝ち目ゼロだわ。
「ルーデウス、逃げて」
「え?」
ルーデウスが何を言われたのかわからないみたいな間抜けな声を上げた。
気持ちはわかるけど、ここは即行で察してほしい。
「あれは、無理。勝ち目、無い。私が、足止め、するから、逃げて」
「で、でも! それじゃエミリーが!?」
「私は、剣士。あれだけの、強敵に、挑んで、斬られるなら、割と、本望」
オルステッドは何故か私とルーデウスが会話してる間に攻めてこなかった。
何かを見極めるように、じっとこっちを見てる。
それを尻目に、私はずっと一緒の相棒だった、師匠から10歳の誕生日プレゼントとして貰った剣を腰から引き抜く。
「早く、行け!」
そして、もう一度オルステッドに向けて飛びかかった。
「『烈断』!」
まずは牽制。
飛翔する巨大斬撃がオルステッドに迫り、当然のごとく受け流された。
だろうね!
「『光の太刀』」
「うわっと!?」
オルステッドの光の太刀をなんとか受け流す。
いや、今のは奇跡だった。
幻惑歩法はもはやデフォルトで使ってはいたけど、そのおかげで直撃コースを僅かに外れたのか、奇跡的に誕生日プレゼントがオルステッドの刀の側面に当たったのもあって、受け流しが成立した。
今のオルステッドは何故か魔眼にも映らなくなってるから、闘気の流れから動きを先読みするのも無理なのに、単純計算でガルさんの最高の一撃の2倍以上の速度を誇るオルステッドの光の太刀をよく受け流せたな私。
……いや、奇跡ではあるけど偶然じゃないっぽいなこれ。
オルステッドの足下が土のプレートに変わってた。
多分、ルーデウスが泥沼を使って、オルステッドがレジストして、それで僅かに剣閃がぶれたんだ。
ルーデウスの逃走前の最後っ屁かな?
ありがたい!
「北神流奥義『砕鎧断』!!」
刀を振り抜いた体勢のオルステッドの肩口から、敵の鎧を砕きながら中身を斬るための防御貫通技を放つ。
「いっつ!?」
でも、私の斬撃が届く前に、オルステッドの斬撃が私を斬った。
受け流した刃が凄い速度で翻って、神速の二太刀目が私の両腕を肘の先から斬り飛ばす。
龍聖闘気もどきなんてものともしない。
豆腐のように斬られた。
だけど、北神流は四肢を失ったくらいじゃ終わらない!
残った足で大地を蹴って加速。
斬られた両腕と共に宙を舞う剣を口でキャッチしながら、もう一撃!
狙いは目だ。
いくら龍聖闘気で防御力を上げてても、脆い眼球になら攻撃が通るかもしれない。
某三刀流のごとき華麗な口技を見せてやる!
「ああああああああ!!!」
その時、私の後ろからルーデウスが飛びかかってきた。
魔術による電撃を纏わせた魔導鎧の拳を振り上げて。
……逃げなかったんだ。
アホめ。
バカめ。
私の覚悟を無駄にしやがって。
だけどまあ、やっちゃったもんは仕方ない。
それにどうせ逃げ切れたとしても、私とガルさんを失った状態じゃオルステッドを殺せなくて、ヒトガミの餌食になる可能性が高いしね。
こうなったら奇跡信じて、二人で玉砕するっきゃないな!
「『
私の口撃と、ルーデウスの雷パンチがオルステッドに迫る!
「フッ」
でも、オルステッドはしゃがんで私の攻撃を簡単に避け、ルーデウスの拳を刀であっさりと両断した。
「うぁあああああ!!?」
魔導鎧ごと腕を斬られて、ルーデウスが悲鳴を上げる。
一方、私の方には蹴りが飛んできた。
思いっきり体重の乗った回し蹴りが、私の脇腹に深々と突き刺さる。
「あ、がっ!?」
痛い。
蹴られた側の内臓が全部潰れたような感覚がする。
背骨もボキッと折れた。
ああ、これは終わった。
上級治癒でも治らない。
「くっ、そう……!」
強い。
強すぎる。
あの刀を抜かれてからは何もできなかった。
これが……これが列強上位の本気。
これが世界最強の男。
あまりに遠い。
憧憬すら感じるほどの遥かな高みだ。
ごめん、ルーデウス。
私はここまでみたい。
無理だと思うけど、後は自分でなんとかして。
そんなことを思いながら、私は凄い勢いで背後に吹っ飛ばされた。
そのまま背後の何かにぶつかり……
「エミリー!!」
その瞬間、聞き覚えのある声が聞こえてきて、私の体はその声の主にキャッチされた。
「うぐっ!?」って声が聞こえてきたけど、背後の人物は私をしっかりと受け止める。
この声は……師匠だ。
なんでここに?
「待たせたわね! ルーデウス!」
そして、現れたのは師匠だけじゃなかった。
行方不明だったエリスさんが、ギレーヌが。
他にも姉が、ロキシーさんが、お婆ちゃんが、父が。
エリスさんとギレーヌを除けば、ウチの家族とルーデウスの家族の中で少しでも戦闘能力がありそうな面子が、全員ここに集合していた。
無理無茶無謀としか言いようがない。
いくら数を集めても、一定以上の戦闘力が無いとオルステッド相手には無力だ。
この中でギリギリ戦力になりそうなのは、エリスさんとギレーヌくらいだと思う。
でも、そんな無理無茶無謀をしてでも助けにきてくれた皆を見て、オルステッドは━━
そこで私の意識は落ちた。
パウロの剣「ぐはぁーーー!?」
これが残ってたら万が一があり得るので、社長に本気で警戒されて叩き斬られたクソチート武器。
バランスブレイカーなど不要だ!