剣姫転生 〜エルフの娘は世界最強の剣士を目指す〜   作:カゲムチャ(虎馬チキン)

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61 目覚めたら……

 目が覚める。

 最初は寝起き特有のボーっとした感じが頭を支配してたけど、意識がハッキリしてきて、気絶する前の記憶が蘇るにつれて、なんで私は生きてるのかな? と疑問が湧いた。

 

 目に映る景色は、見覚えがあるようなないような微妙な天井。

 困った。

 これじゃあの名台詞「知らない天井だ」が使えないじゃないか。

 

 とりあえず、寝た状態から体を起こす。

 そしたら二人の男が目に入った。

 二人は向かい合うように座ってて、一人は私に背中を向けて、もう一人はその対面に座ってる。

 

「起きたか」

「わ」

 

 その対面に座ってる方に話しかけられて、目が合って、びっくりした。

 銀髪金眼の怖い顔、オルステッドだった。

 でも、敵意も殺意も見えない。

 あれ?

 どういうことぞ?

 私達、オルステッドと殺し合ってたんじゃなかったっけ?

 

「お前達は本当に俺を見ても怖がらないのだな」

「エミリー!!」

「わぷ」

 

 オルステッドがなんとなく、本当になんとなくだけど、ちょっとだけ嬉しそうな顔したように見えた直後、もう一人の背中を向けてた方によって私は強く抱きしめられた。

 ルーデウスだった。

 色々疑問はあるけど、とりあえず妻子のある奴が義妹に抱きつくなし。

 ひるドラみたいな誤解されるのはごめんだよ私は。

 

 あ!

 しかもこいつ! どさくさ紛れに手が私の尻に向かってるぞ!

 

「死ね!」

「ごめんなさい!」

 

 頬骨が砕けるくらいのセクハラクラッシャーパンチを食らわせた後、被告人に事情聴取したら、抱きついた時の感触が姉に似てて脊髄反射的に手が動いてしまったとのこと。

 有罪。

 腹を切って詫びろ!

 

「茶番はそれくらいでいいか?」

「あ、す、すみません、オルステッド様!」

「んん?」

 

 ルーデウスがナチュラルにオルステッドを様付けした。

 あ、ちょっと今ので展開が読めたかも。

 

「とりあえず、そいつに説明してやれ」

「イエッサー!」

 

 オルステッドの命令にルーデウスがふざけた口調で答えつつ、私が気絶した後の顛末を説明してくれた。

 

 まず、あの後、駆けつけた皆とオルステッドによる戦いが勃発。

 右腕を斬られたとはいえ、まだ魔導鎧のあったルーデウスとエリスさんが協力することによって、なんとオルステッドの片手を斬り飛ばすほどの善戦をしたらしい。

 

 ごめんエリスさん、あなたのこと舐めてたよ。

 まあ、エリスさん曰く、オルステッドは謎の舐めプモードだったらしいけど。

 本人に真相を聞こうとして目を向けたら「確かめるためにやったことだ」って答えが返ってきた。

 よくわからぬ。

 

 で、善戦はしたものの、オルステッドは治癒魔術を使って一瞬で全ての傷を治した後、魔導鎧をバラバラに両断し、飛びかかってくる皆を峰打ちで叩き伏せた。

 仲間も魔導鎧も失い、魔力すら枯渇寸前になり、無様に地面に這いつくばって命乞いするルーデウスに対し、オルステッドはこう言ったらしい。

 

『ヒトガミを裏切って俺に付け!!』

 

 って。

 オルステッド曰く、呪いが効かない私達の体質と、純粋な戦闘能力、それとヒトガミがわざわざ始末しようとする厄介さには利用価値があるとのこと。

 勧誘するつもりだったから、私にもガルさんにもトドメを刺さなかったのだ。

 戦いが途切れた時に私が「不本意」って言ってたのを聞いて、実際に戦ってみて殺すには惜しいほどの力があるって思ったからこそ、オルステッドは勧誘を決意したみたい。

 言っといて良かった。

 

 そして、裏切った瞬間にヒトガミの攻撃が始まるんじゃないかという懸念も、どういう理屈かはわからないけど、オルステッドはヒトガミの目に映らない特殊な能力を保持してるらしいので、オルステッド周辺もヒトガミには見えず、裏切って即攻撃が始まるってことはなかった。

 しかも、オルステッドに頭を下げて服従を誓ったルーデウスもまた、オルステッドが身につけてた腕輪を媒体に似たような能力を与えてもらい、ヒトガミの目に映らなくなったんだって。

 

「それ、私にも、くれない?」

「悪いが一人用しかない」

 

 の○太くんをハブる時のス○夫か。

 まあ、無いならしょうがない。

 

 話を戻すけど。

 ヒトガミにこっちが見えてない間に、ルーデウスはオルステッドにさっき助言と一緒に貰った召喚魔術のスクロールにより、家族を守護する守護魔獣を召喚する予定らしい。

 ヒトガミによる不幸連鎖のピタ○ラスイッチ攻撃は、そういう『運命の強い守護魔獣』とやらに守らせることで防げるんだってさ。

 

 これまた理屈なんてこれっぽっちもわからなかったけど、例えるならピ○ゴラスイッチやってるところに乱入してきて、装置のどこかしらを適当にぶっ壊して滅茶苦茶にしてくるペットがいれば大丈夫とか、そういう感じだろうと自己解釈した。

 

 なんのことはない。

 要するに、オルステッドにはちゃんと、ヒトガミからルーデウスを守ってくれるだけの力があったってことだ。

 先に教えておいてほしかった。

 まあ、最終的には最高の落としどころに落ち着いたんだから、結果オーライってことにしておこう。 

 そうじゃなくたって、一番の被害者はオルステッドなんだから、私に言えるのは「ごめんなさい」だけだ。

 

 ヒトガミ対策はこんな感じ。

 で、ルーデウスがオルステッドに下った後の皆の反応はというと、当然のことながら大反対の嵐。

 オルステッドには嫌われる呪いがあるからね。

 今だって皆はここで何があってもいいように、建物の外で警戒待機してるらしいよ。

 中にまで入ってきてオルステッドを刺激したら、私がどうなるかわからないってことで。

 

 言われてみれば気配がするわ。

 それと、ここはルーデウスが魔導鎧を作るための場所として購入したシャリーア郊外の小屋だったみたい。

 道理で見覚えがあるようなないような天井だったわけだ。

 

 それで、私がここで寝てた理由は何かというと。

 驚いたことに、あの戦いから既に10日くらいが経過してて、その間私が全く目を覚まさないもんだから、心配したルーデウスが、私の傷を治療してくれた張本人であるオルステッドに見せることにしたって感じの経緯だったらしい。

 ちょうどオルステッドに呼び出されたタイミングでもあったみたいだしね。

 

 で、オルステッドの診断結果はただの過労。

 同じく治療されたガルさんは、気絶すらせずに「オルステッドに下る? ふざけんな!」って言って剣の聖地に帰っちゃったみたいなのに、私だけこれとか中々に不甲斐ない。

 

 あ、オルステッドは勧誘を拒んだガルさんを殺すつもりもないみたいだよ。

 殺したら私達(特に呪いの影響下にある皆)からの心証が、ドン底を通り越して造反待ったなしになりそうだからって。

 

 まあ、何はともあれ、私はこうして無事に目覚めた。

 そして、私が寝てる横で、オルステッドはルーデウスを呼び出した本題であるお互いの情報のすり合わせと、これからどうするのかって話をしてたらしい。

 その内容も、ルーデウスが噛み砕いて私に教えてくれた。

 

 説明その1。 

 オルステッドとは、そもそも何者なのか。

 世界最強の男でヒトガミの敵でしょ?

 それ以上の込み入った事情にはあんまり興味ないんだけど、上司の行動理念は知っとくべきだってルーデウスに言われて、まあそれもそうかと思って説明を聞いた。

 

 オルステッドの正体。

 それはヒトガミに殺されてしまった初代龍神とやらが、ヒトガミを倒すべく『転生法』という秘術を使って未来に送り込んだ初代龍神の息子である。

 

 この初代龍神っていうのは、この世界に伝わる有名なおとぎ話の登場人物だ。

 英雄譚じゃないから私はあんまり興味なかったけど、聞いたことくらいはある。

 前世で例えるならアダムとイブとか、キリスト神話並みに有名な話だからね。

 文明圏で生きてれば、どこかで耳に入る。

 

 かつて、この世界は7つの世界に分かれていて、それぞれの世界の神が、それぞれの世界を支配していた。

 

 人の世界を支配する『人神』。

 魔の世界を支配する『魔神』。

 龍の世界を支配する『龍神』。

 獣の世界を支配する『獣神』。

 天の世界を支配する『天神』。

 海の世界を支配する『海神』。

 無の世界を支配する『無神』。

 

 しかし、大昔に龍の世界の悪い龍神が大暴れして他の世界をぶっ壊し、生き残った人達は唯一残った人の世界へと逃げ込んだ。

 その人の世界も龍神は滅ぼそうとしたけど、そこで龍神の配下であった『五龍将』が造反し、龍神と相討ちになって死亡。

 その時の戦いの余波で龍の世界も滅亡。

 こうして世界は今私達が生きる人の世界だけとなり、他の世界から逃げてきた、魔族、龍族、獣族、天族、海族と、元々この世界に生きていた人族が交わって生活するようになった。

 私の種族であるエルフや、タルハンドさんの種族であるドワーフみたいな亜人っぽい人達がどこから来たのかは説明がなかったから知らない。

 

 これがこの世界の創生神話みたいな物語。

 でも、オルステッドの説明によると、悪い龍神ことオルステッドのお父さんが大暴れしたくだりには裏があるらしい。

 初代龍神が大暴れした理由は、人神を名乗っていたヒトガミに騙されたから。

 あいつ、何万年前から悪さしてんねん……。

 

 とにかく、そんな感じで、お父さんの仇討ちのためにヒトガミ討伐に邁進してる人がオルステッドである。

 ヒトガミを倒すためにお父さんに色々秘術をかけてもらってるんだけど、その副作用でオルステッドは魔力の回復がもの凄く遅いらしい。

 普通の人の千倍は魔力回復に時間がかかるから、軽々しく本気で戦えない。

 これが『本気を出せない呪い』の正体だとも教えてくれた。

 

 説明その2。

 私達にオルステッドの嫌われる呪いが効かない理由。

 答え。

 多分、私達が異世界人だから。

 

 ルーデウスは静香に呪いが効かないって話になったあたりで、覚悟決めてオルステッドに自分が転生者であることを話しちゃったらしい。

 その結果、転生というものの正体が発覚した。

 オルステッドも異世界からじゃないけど、過去から転生してる転生者だからね。

 転生については詳しかったっぽい。

 

 そして転生、というより龍族の秘術である『転生法』というのは、己の魂を未来に送り、別の生命体を乗っ取って復活するというもの。

 ……この時、凄まじく嫌な予感がしたけど、とりあえず最後まで話を聞いてくれとルーデウスが言うので、最後まで聞いた。

 

 転生法にはルールというか、制限みたいなものがある。

 本来であれば肉体と魂は唯一無二のものであり、他の体に寄生しても拒絶反応が出て転生は失敗に終わってしまう。

 だから、転生法では事前に多くの他者に己の『因子』なるものを打ち込み、その打ち込まれた人が子供を作る度にほんの少しずつ遺伝子情報的なものを書き換えて、最終的にかつての自分と全く同じ体の子供を産ませ、その子供に成りすまして転生するらしい。

 頭がパンクしそうな難しい話だったけど、私の根幹に関わる話なので根性で聞いた。

 

 で、その転生法だけど、現代ではペルギウスさんやシャンドルのお父さんに倒されたっていう、あの『魔神』ラプラスがそれをやってるみたいで、今の世界にはラプラスの因子を持ち、ラプラスと似た特徴を持つ人達が多く生まれてる。

 その特徴っていうのは、高い魔力や魔術の素質、頑強な肉体、生まれながらの魔眼、緑色の髪、闘気を纏えないなどが該当する。

 

 この条件、思いっきり私に当てはまってるよ!

 同じ血が流れてる姉と合わせれば、闘気を纏えない以外全部じゃん!

 

 だけど、それはルーデウスも同じらしい。

 ルーデウスの場合は高い魔力と魔術の素質、それと闘気を纏えないに該当する。

 確かに、ルーデウスの魔力総量はバカみたいに多い。

 私と比べたらバケツの水とプールの水くらい違う。

 

 魔力眼出力強で初めてルーデウスを見た時は緊急事態というか、具体的に言うと転移の迷宮でのロキシーさんとの情事中だったからスルーしちゃったけど、後から考えてみるとツッコミを入れるべき魔力量だったよ。

 それにラプラスの因子、通称『ラプラス因子』っていう理由があったなら納得する。

 魔神ラプラスの魔力総量は歴史上トップクラスってシャンドルから聞いたことあったし。

 

 で、そんなラプラスの転生法と私達の転生の関係性はというと。

 オルステッド曰く、私達のこの体は死産だったんじゃないかって話だ。

 

「ルーデウスは魔力方面に、お前は肉体方面にラプラスの因子の影響が強く()()()()()()

 それだけのデタラメな体ならば魂の方が耐えられなくともおかしくはない。

 魂が壊れて死産となるはずだった赤子の体。そこにお前達が滑り込んだのだろう」

 

 そこまで聞いて、ようやく私は少し安堵した。

 私は確かに転生者だけど、エミリーという少女の人生を奪ったわけではなさそうだとわかって、安心した。

 いや、結局まがい物には違いないんだけど。

 それでも、一人の人生を奪った簒奪者ではなく、まがい物でもあの二人の娘として、今まで通り胸を張って生きていこうと誓った。

 

 そんな最重要議題を終えて、説明その3。

 オルステッドの仲間になったけど、何すればいいの?

 答え。

 ヒトガミをぶっ殺す。

 うん。それはわかってる。

 知りたいのは具体的な方法だ。

 

 聞いてみると、オルステッドでも現時点ではヒトガミを倒すことはできないらしい。

 そもそもヒトガミのところに行くことすらできない。

 ヒトガミのいる無の世界の中心に行くには、未来ルーデウスの日記に書いてあった通り、『五龍将の秘宝』がいる。

 その秘宝は現時点でも四つまでは回収可能だけど、最後の一つは数十年後に転生法で復活する最後の五龍将である『魔神』ラプラスが持ってるから今は回収できない。

 この世にいない奴から秘宝の回収はできないのだ。

 

 はい、ちょっと待とうか。

 ラプラスが五龍将ってなんやねん?

 ラプラスって400年前の戦争で魔族を率いた魔神でしょ?

 龍族じゃなくて魔族じゃないの?

 

 というわけで、説明その4。

 ラプラスって何者?

 答え。

 オルステッドのお父さんに仕えてた初代五龍将唯一の生き残り『魔龍王』ラプラスの成れの果て。

 すみません、まだわかりません。

 もうちょっと噛み砕いてください。

 

 要求通り噛み砕いて教えてくれたルーデウスによると、魔龍王ラプラスは初代龍神と相討ちになったっていう初代五龍将の一人だけど、

 そもそも五龍将が龍神と戦うハメになったのもヒトガミのせいなので、真相を知ったラプラスは初代龍神の配下に戻り、崩壊する龍の世界を脱出。

 その後は二代目龍神を名乗り、ヒトガミを倒すために色々と頑張ってたらしい。

 

 だけど、そんなラプラスを疎ましく思ったのか、第二次人魔大戦という『魔界大帝』キシリカ・キシリスが起こした二度目の人族と魔族の大戦争のどさくさに紛れて、ヒトガミの使徒となった『闘神』がラプラスを強襲。

 大陸に大穴を空けるほどの死闘の末に、ラプラスは魂を真っ二つに引き裂かれた。

 これが魔界大帝キシリカが、『黄金騎士』アルデバランと相討ちになったっていうエピソードの真相だ。

 実際はキシリカとアルデバランじゃなくて、ラプラスと闘神が相打ちになってたのだ。

 いい加減な伝承である。

 

 そして、魂を真っ二つにされたラプラスは、記憶を失って二人の人物となる。

 人を憎悪する『魔神』ラプラス。

 神を打倒せんとする『技神』ラプラス。

 

 魔神の方のラプラスは、記憶を失ったことでヒトガミへの恨みつらみが、何をどう間違ったのか『人族』を抹殺せねばという想いに変換されちゃったみたいで、400年前に魔族を率いて人族を滅ぼすための戦争を起こした。

 『ヒト』と『人』で間違えられた人族は、とんだとばっちりである。

 

 一方、技神の方のラプラスは、記憶を失いつつも自分の覚えてる膨大な技を誰か(オルステッド)に伝えなければならないっていう目的だけは、おぼろげに覚えていた。

 そこで『七大列強』というシステムを作り、人々が最強の座を求めて研鑽するように仕向けた。

 何を隠そう、私の最終目標だった七大列強第一位こそが、この技神である。

 ルーデウスがヒトガミから聞いた話によると、技神よりも本気出したオルステッドの方が強いらしいから、私の最終目標もそっちにシフトしてるけどね。

 

 話が逸れちゃったけど、とにかくヒトガミをぶっ殺すためには、ラプラスから最後の秘宝を回収するのが絶対条件。

 他の秘宝はオルステッドが回収するらしいからいいとして、じゃあ私達は何をすればいいのかというと、約100年後に起こるヒトガミとの最終決戦に向けて、色々と布石を打つことだって。

 

 オルステッドはお父さんがかけてくれた秘術のおかげで、ヒトガミには及ばないまでも、ある程度未来が見える。

 何をどう動かせば歴史がどう変わって、どうやれば自分に有利な未来になるのかがわかる。

 タイムリープ系の主人公みたいな能力だなぁ。

 

 ちなみに、その能力で得た情報を参考に、ヒトガミが今まで私達に接触してきた目的をオルステッドが分析したところ、

 

「ルーデウスの方は渡された日記を読んでから考察するが……エミリー、お前に対してのヒトガミの狙いはわかりやすい。

 確認だが、お前がヒトガミに会ったのは一度だけ。転移事件で紛争地帯に飛ばされ、そこでシャンドルと出会う前。

 助言は想定していたルートを迂回して進み、その先で出会うビゴという人物に助けを求めろ。

 そして、それに逆らった結果シャンドルと出会った。間違いないな?」

「うん」

 

 もう何年も前だから記憶が曖昧だけど、とりあえず神妙な顔でうなずいておいた。

 私が覚えてなくても、オルステッドの方が前に会った時の会話を覚えてるっぽいから問題ない。

 

「更に、お前はシャンドルと出会う前に大量の刺客からの襲撃を受けたと言っていたな?

 それを踏まえれば、恐らくヒトガミは他の者に助言をして刺客達を誘導し、お前を始末したかったのだろう。

 だが、予想以上にお前の運命も力も強く、奴が望む未来へ導けなかったと見える」

「運命?」

 

 野郎がそんな前から私を狙ってたことにもイラッとしたけど、ちょっとよくわからない単語が出てきたから、そっちを優先する。

 というか、オルステッドの話は転生法だの、ラプラス因子だの、未来視だの、運命だの、難しい話が多すぎて、通訳デウスがいないと理解できないよ。

 

「エミリー、多分運命っていうのはマンガとかでよくある因果律みたいなものだと思う。

 タイムスリップとかで過去を変えようとしても、結局は似たような結果になるみたいな話あるだろ?

 あんな感じで、運命の強い奴の行動は、ヒトガミでも中々変えられないみたいなんだ」

「ごめん。私、そういう、頭、使う、作品、苦手」

「そ、そうか。ごめんな」

 

 やめろ!

 その可哀想な子を見る目をやめろ!

 根本的なところはわからなくても、ちゃんとニュアンスくらい伝わったわ!

 

「要するに、ヒトガミ、私の、行動、変えられなかった。そういう、ことでしょ?」

「そうだ。奴には恐らく複数の未来の道筋が見えている。助言によって他者の行動を変え、自分が最も望む未来の道筋に乗せるというのが奴のやり方だ。

 奴に従わず、奴に従った者によって起こされた現象の尽くを退ければ、奴は望んだ未来に誘導することができなくなる」

 

 追加で語られたオルステッドの話はよくわからなかったけど、とりあえず私の答えは正解だってことはわかった。

 それで充分だ。

 

「お前の現状は、もうひと押しすれば殺せそうに見えたのだろうな。

 使徒に何度か助言を与え、お前の未来を悪い方へ悪い方へと数回変化させれば、そのうち増やした未来の道筋の中にお前が死ぬ未来が現れて、ゴリ押しで始末できると思ったのだろう。

 ヒトガミが安易に誰かを始末しようと思った時によく使う手だ。

 特に転移事件は多くの運命が狂った特異点。

 そこで追い詰められていたのなら、始末するには絶好のチャンスに思えたはずだ」

 

 そんな難しい理屈こねくり回してまで殺しにくるとか、ヒトガミめ、そんなに私が怖いか。

 装備アイテム扱いしてたくせに。

 

「だが、奴の狙い通りにことは運ばず、何度変化させてもお前が死の未来に辿り着くことはなかった。

 そこで奴は次善策を取ったのだろう。それがお前への助言だ」

「ちなみに、エミリーが助言に従ってたらどうなってたんですか?」

「ヒトガミが助けを求めろと言ったのは、恐らくマルキエン傭兵国のビゴ・マーセナルだろう。

 奴はとある戦いで死ぬ運命だが、何かの拍子に生き残ればマルキエン傭兵国の大将軍になる。

 そんなビゴに助けを求めれば、恐らく両親の安全と引き換えにマルキエン傭兵国のために戦うことを要求されていた。

 結果、エミリーは紛争地帯に押し込められ、本来起こすはずであったヒトガミにとって都合の悪い出来事を起こさない」

「うっわ」

 

 思わず声が出た。

 逆らっといて良かった助言。

 あの時の私、グッジョブ。

 

「それと、シャンドルにも会わせたくなかったのだろう。

 奴はヒトガミがロクでもない存在だということを知っている。

 そのシャンドルから聞けば、お前はヒトガミの言うことをより一層聞かなくなる可能性が高いからな」

「そのシャンドルさんって何者なんですかね……。ヒトガミもオルステッド様との戦いに呼ぶなって言ってましたし」

「北神カールマン二世だ」

「ふぁ!?」

 

 せっかく隠してたシャンドルの正体がさらっとバレてるけど、まあいいや。

 どうせアリエル様とかにはバレバレだったし。

 

「ひとまず、今日のうちに説明すべきことはこれくらいか。次はこの日記を読み終えた後に呼び出す」

 

 その一言で今日のところは解散となった。

 私はまだカールマンショックが抜けてないルーデウスを引きずって外に出る。

 

 情報量が多すぎて頭がパンクしそうだ。

 知恵熱も出てるから、明日には全部の説明を忘れてそうな気がするなぁ。

 けど、創生神話の裏側や、英雄譚に出てくる有名人の真実っていうスケールの大きい話は聞いてて結構ワクワクしたから、意外と忘れないような気もする。

 歴史の授業は頭からすっぽ抜けても、好きなアニメとかマンガとかの設定は忘れないのと同じ現象だ。

 

 そして、建物を出た私は、待機してた家族や師匠に「無事で良かった!」ともみくちゃにされたのだった。




エミリー「私はポンコツだけどバカじゃない。好きなことはちゃんと覚えられる」ドヤァ


・エミリーの夢に出たヒトガミの狙い
助言はダメ元。
ワンチャン言うこと聞かせられたらいいなとは割と切実に思っていたが、
本命は夢に出ておくことで、それを知ったオルステッドにエミリーを始末させること。
実際、ナナホシの提案でルーデウスを見逃した前例がなければ、そうなっていた可能性はそれなりに高い。
最悪それで始末できなくても、ルーデウスの方が成功すれば問題なし。

結果。
問題しかなかった。orz
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