剣姫転生 〜エルフの娘は世界最強の剣士を目指す〜 作:カゲムチャ(虎馬チキン)
無事目覚めたことで皆にもみくちゃにされ、「オルステッドの呪いかと思った!」とかオルステッドが不憫になるような疑いを持ってた皆の誤解を晴らし、
師匠に剣を失っちゃったことを謝って、「そんなこと気にするより自分の心配しろ!」って男前なセリフに心を打たれた後。
私はペルギウスさんから渡された連絡用の魔道具を使って空中城塞に連絡を入れた。
そこから迎えにきてくれた、前に私が殴っちゃった人こと、ペルギウスさんの12の使い魔の一人『光輝』のアルマンフィさんに転移の魔道具を渡され、ペルギウスさんの転移魔術っていう正規のルートで空中城塞に行って静香に会ってきた。
この連絡用魔道具、七大列強の石碑とかのペルギウスさんに縁のある場所からじゃないと連絡届かないのが不便だけど、
連絡さえ入れば、なんと光の速度で移動できるという最強の伝令兵アルマンフィさんが一瞬で迎えにきてくれるので、総合的には死ぬほど便利。
まあ、私はペルギウスさんに多分嫌われてるから使い倒すことはできないだろうけど。
『そう。じゃあ、オルステッドとは協力することになったのね』
『うん。そういうことになった。最初からこうすれば良かったって激しく思うよ。……ごめんね、静香。ルーデウスを止められなくて』
『いいのよ。エミリーだって凄く頑張ってくれたし、何より結果オーライだしね。ただ、私もオルステッドを裏切っちゃったから、次に会う時が怖いけど……』
『護衛でもしようか?』
『お願いできる?』
『任された』
そんな感じで後日、静香とオルステッドが会った時に立ち会った。
オルステッドは裏切られたことにちょっとショック受けてる感じだったけど、最終的には静香を許して朗らかに会話してたよ。
殺されかけたのにこれとか、懐が深いなオルステッド。
さすが世界最強。
心の広さも世界一か。
静香の方はそんな感じとして、ルーデウスの方でも色々あった。
まず、ルーデウスはエリスさんと結婚した。
なんでも、私もガルさんもやられて絶対絶命のあの状況で迷わずオルステッドに立ち向かい、カッコ良くルーデウスを守ってくれた姿にキュンときたらしい。
そんな神がかり的なタイミングで現れた理由が道に迷って到着が遅れたからっていうのは締まらないけど、それを口に出したら「お前が言うな」の総ツッコミが飛んできたからさて置く。
エリスさんとルーデウスは元々フィットア領ですれ違う前までは両想いだったみたいだし、聞けば初体験もお互いだったって話だし、キッカケさえあれば焼けぼっくいに火がつくのも早かったんだと思う。
エリスさんも私の予想に反して理知的で、ルーデウスとの間にすれ違いがあったって事実をちゃんと飲み込んで、他の女とくっついたことを責めなかったみたいだしね。
とりあえず、更に重婚しやがった上に「エミリーにもキュンときたんだけど」とか笑えない冗談をのたまったルーデウスには「三股野郎に惚れる趣味はない」となじりながらゴミを見る目を向けておいた。
今回は私に浮気の原因がないから存分になじれる。
姉が何も言わないから、私もそれ以上は言わないけどさぁ。
でもまあ、狂犬襲来からの家庭崩壊よりは遥かにマシか。
もっと拗れるかと思ったけど、エリスさんもグレイラット家も、予想以上にすんなりとお互いを受け入れてくれた。
皆の心情が色々と上手いこと噛み合った結果の奇跡だ。
ロキシーさんの一件とか、もっと遡れば師匠がリーリャさんを孕ませた一件とかで、グレイラット家が重婚に慣れてたっていうのも大きい。
あと、エリスさんは重婚が珍しくもない貴族の出身だったから、そういうのに拒否感が無かったらしいのも大きい。
もう貴族らしさなんて微塵も残ってないけど。
いや、それは元からか。
そして、エリスさんにくっついてきたギレーヌも、師匠やゼニスさんやお婆ちゃんと再会して、一緒に宅飲みをしてた。
お婆ちゃんは妊婦だから飲んでないと思うけど、後日見かけた時は皆良い笑顔だったから良かったよ。
ゼニスさんもちょっと微笑んでたし。
転移の迷宮の時に唯一いなかったギレーヌとの縁も戻って、ようやく元Sランク冒険者パーティー『黒狼の牙』の絆が完全復活した感じがして、私までなんだか感慨深かった。
で、オルステッドが日記を読み終えた後でもう一回開いた説明会の方だけど。
私が聞いてもちんぷんかんぷんだし、ヒトガミの目に映らない二人だけで話した方が良いだろうって理由をひねり出して遠慮しておいた。
後で要点だけ纏めてルーデウスが教えてくれる予定だ。
その翌日。
ルーデウスはオルステッドから貰った召喚魔術のスクロールで守護魔獣の召喚に成功した。
一回アルマンフィさんが召喚されて、ペルギウスさんに怒られるというトラブルが発生したものの、仕切り直して無事に召喚は終わったそうだ。
その守護魔獣は見せてもらったけど、でっかい豆柴って感じだった。
実に可愛いけど、守護魔獣としては頼りない。
と思ったら、なんとその豆柴『聖獣様』っていう獣族の信仰対象にまでなってる凄い獣らしい。
オルステッド曰く、この豆柴の縄張り内ならヒトガミのピタ○ラスイッチなんて怖くないんだって。
凄いな豆柴。
ルーデウスによって『レオ』と名付けられた聖獣豆柴は、その日からお散歩でシャリーア中を走り回って、我が家も含むルーデウス邸周辺を自分の縄張りにした。
これでウチの家族も大丈夫だろう。
その後、ルーデウスからオルステッドとの会議で決まった仕事についても説明された。
私達の最初の仕事はなんと、
「アリエル様を、アスラ王国の、国王に?」
「ああ、アリエル様が王になるとヒトガミにとって都合が悪い。逆にオルステッドにとっては都合がいいらしい」
ああ、なるほど。
そういう感じか。
オルステッドがシャンドルのごとくアリエル様の魅力に陥落したのかと思ったけど、そんなことなかったんだね。
でもまあ、アリエル様の手伝いをすること自体は昔から決めてたことだから問題ない。
元々は姉が手伝うなら私も手伝わないと姉が危ないじゃんって理由だったし、それは今でも変わってないけど、そこそこ一緒に過ごしてるうちに、あの人自身にも情が湧いてるしね。
セクハラは許さないけど。
で、そのアリエル様は最近、ペルギウスさんを勧誘しようとしてフラれまくってるらしい。
いつかアリエル様が言ってた気がするけど、ペルギウスさんはアスラ王国の生ける伝説。
味方にできれば勝利確定とまでは言わないけど、滅茶苦茶強力なカードにはなるんだって。
アリエル様は現時点での勝率が30%くらいのところを、ペルギウスさんが加入すれば一気に90%に跳ね上がるって言ってた。
3倍だよ、3倍。
ペルギウスさんのアスラ王国での影響力、発言力はそれくらい凄いらしい。
シャンドルも凄いっちゃ凄いんだけど、あくまでもシャンドルは北神カールマン
アスラ王国でペルギウスさんと同等の力を持ってたのは、シャンドルのお父さんの北神カールマン一世だ。
シャンドル自身にアスラ王国で活動した実績はないから、ぶっちゃけ、アスラ王国でのシャンドルの力は完全に親の七光りに依存することになる。
というのが、アリエル様談。
それでもシャンドルがいなければ勝率は10%を切る上に、万全の準備を整えられたとしても40%いかないって話だから、どれだけ北神一世が偉大だったのかわかるね。
そんなシャンドルにも、近いうちに連絡を入れる予定だ。
オルステッド曰く、あと少しすればアスラ王国の現国王、つまりアリエル様のお父さんが病気になったっていう報せが来て、跡目争いが本格的に始まるらしいから。
連絡手段は冒険者ギルドに依頼して、各地の冒険者ギルドの掲示板にシャンドルへの伝言を貼り付けてもらうこと。
中央大陸にはいるって言ってたし、場所によってはすぐに合流できると思う。
ただ、シャンドルがアリエル様と合流するのは当然ヒトガミも警戒するはず。
私の手紙を握り潰した時みたいに手を打たれて、あるいは既に手を打たれ終わってて、全てが終わるまで合流させてくれない可能性も高いから、シャンドルが来ること前提で考えるのはやめとけってオルステッドは言ってた。
多分、ヒトガミがオルステッドとの戦いにシャンドルを呼ぶなって言ったのは、これが理由だと思う。
同じく北神カールマンの血を受け継いでるアレクも同様。
オルステッド曰く、シャンドルとアレクがこの時期にシャリーアにいたら、アリエル様に協力する可能性が高かったんじゃないかって。
シャンドルはアリエル様に陥落させられてるし、アレクは父親を超える英雄になりたいって言ってたから、活躍のチャンスは逃さないでしょ。
一緒に行動させたら親子関係の問題でギクシャクするかもしれないけど、あの二人だったら私が潤滑油になれる。
そして、北神が二人揃ってれば、戦闘面でも政治面でもアリエル様がめっちゃ有利で、オルステッドはニッコニコ。
逆にヒトガミは涙目。
だから、全力で遠ざけるだろうっていうのがオルステッドの予想だ。
そうなると、シャンドルもアレクも無しでアリエル様を勝たせる方法を考えないといけないわけで。
オルステッドとルーデウスが考えたのは、やっぱりペルギウスさんを仲間に加えることだった。
ペルギウスさんがアリエル様の仲間になるための条件として提示したのはただ一つ。
アリエル様が王として相応しいとペルギウスさんに認めさせること。
ペルギウスさんが出した試験『王にとって最も重要な要素とは何か?』っていう質問に、アリエル様が望む答えを返せたら仲間になってくれるらしい。
それができてないからフラれてるんだけど。
そこで、オルステッドとルーデウスは一計を案じた。
「図書迷宮?」
「はい。そこには、かつてペルギウス様達の盟友として共に魔神ラプラスと戦った当時のアスラ王国国王、ガウニス・フリーアン・アスラに関する資料が大量に存在するそうです。そこになら、ペルギウス様が求める王の姿のヒントが何か……」
「行きます」
ルーデウスが出した提案に、アリエル様は食い気味に即答した。
図書迷宮。
ルーデウスの説明によると、古今東西ありとあらゆる本を、本好きの魔王が魔眼で盗み見て書き写して保管してる場所らしい。
本好きの魔王ってなんだよって思ったけど、世の中には変態な王女様だっているんだから、肩書と中身が一致してない人くらいありふれてるよねと一瞬で思い直した。
魔王だって本を読むし、王女様だってSMに目覚めるのだ。
そこを否定するのは人種差別ってものだよ。
そんなことを思ってたら、SMに目覚めてる王女様の方を自然と見てた。
「そんな情熱的な目で見詰めてきてどうしたんですか、エミリー? もしや遂に私のお誘いに乗ってくれる気になりましたか?」
「違う」
アリエル様は元気であった。
色んな意味で元気であった。
もう無敵なんじゃないかな、この人。
ヒトガミは日記の未来で、この人をどうやって負けさせたんだろうなぁ。
まあ、それはともかく。
オルステッドの仲間として赴く最初の任務地は決まった。
いざ、図書迷宮へ。
ペルギウスがダメでも、シャンドルという保険がいるから元気()な王女様の図。
日記ルートのヒトガミ「まずルークを誘導して目先の勝利を重ねさせて信用させてから、ダリウスを誘導して最後の最後で罠に嵌めるように仕向けて、レイダにもあの魔剣装備したエミリーの詳細情報を伝えとかないと負けるし、その前にシャンドルを中央大陸の端に誘導して戻ってくる前に決着つけないといけないし、ああもう! おのれエミリー!!」