剣姫転生 〜エルフの娘は世界最強の剣士を目指す〜 作:カゲムチャ(虎馬チキン)
行くって話が出てから即行で準備が整えられ、三日後には既に私達は図書迷宮の中にいた。
図書迷宮は滅茶苦茶ご近所にあったのだ。
なんてことは、もちろんない。
図書迷宮は北方大地から順当に旅すれば、世界を一周弱しないといけない魔大陸の奥地にある。
それなのに、たった三日で来れたのは転移魔法陣で距離をすっとばしたからだ。
オルステッドの仲間特典の一つである。
彼は武力だけじゃなくて頭の方もよろしいので、色んなことに詳しい。
世界各地にある転移魔法陣の場所も知ってるし、何なら自分で設置できる。
今回のは設置したタイプだ。
ウチの社長が万能すぎてやばい。
そして、図書迷宮の中に足を踏み入れたのは、アリエル様、姉、ルーデウス、私、それから師匠似の騎士ことルークさんを含めたアリエル様の従者の人達5人。
従者の人達は姉を除いて11人いるけど、6人はシャリーアで仕事してるから来てない。
更に、ここに追加で三人。
エリスさんとギレーヌと師匠だ。
この三人に仕事中の従者の人達を加えたメンバーが、そのままアスラ王国の戦いに赴くメンバーになる。
エリスさんは単純な戦力。
アスラ王国ではほぼ確実に戦闘になる。
日記ではレイダさんとオーベールさんがアスラ王国に雇われてるって書いてあった。
あの二人と戦うなら、戦力は一人でも多い方がいい。
戦力って意味ではロキシーさんとお婆ちゃんもそれなり以上に強いんだけど、あの二人は妊娠中だから連れていけるわけもない。
対して、エリスさんには戦えない事情とかないし、しかもエリスさんはルーデウスのために頑張ってたわけで、そのルーデウスが戦いに行くんだから付いていかないわけがない。
ギレーヌの目的は、仕えてたボレアス家の仇討ちだ。
剣の聖地にいた時に聞いたけど、ロアの街の街長だったフィリップさんとその奥さんは、転移事件で紛争地帯に飛ばされて亡くなってたらしい。
ギレーヌも紛争地帯に飛んでて、二人の仇の奴らは見つけ出して殺したから、もう二人の仇討ちは済んでる。
残ってるのは、ボレアス家当主、サウロスさんの仇討ちだけ。
サウロスさんは転移事件の責任を誰かに押しつけられて処刑された。
その押しつけた誰かをギレーヌは探し出して斬りたいのだ。
そいつを政治的なあれこれでギレーヌの前に引き摺り出してあげるから、代わりに力を貸してねって契約で、ギレーヌはアリエル様一行に加わった。
エリスさんもギレーヌと同じく仇討ちも目的としてるだろうけど、比率としてはルーデウスの護衛と半々くらいだと思う。
そして、最後に師匠。
師匠の目的もルーデウス達の護衛だ。
オルステッド戦の時に役に立てなかった分、今回はやってやるって張り切ってる。
でも、それと同時にめっちゃ憂鬱そうな顔もしてる。
なんでかってと言うと、師匠の出自がアスラ王国内でかなりややこしいことになってるからだ。
最近になってようやく知ったんだけど、師匠の出身はアスラ王国の四大地方領主と言われてる四つのグレイラット家の一つ、ノトス・グレイラット家らしい。
つまり、師匠の旧姓というか、元の名前はパウロ・ノトス・グレイラット。
更に、アリエル様の守護騎士であるルークさんのフルネームは、ルーク・ノトス・グレイラット。
更に更に、アスラ王国の王都アルスで私達を門前払いしてくれやがったピレモンさんのフルネームは、ピレモン・ノトス・グレイラット。
これが何を意味するのかと言うと、ピレモンさんは師匠の弟で、ルークさんはピレモンさんの息子だから師匠の甥に当たって、ルークさんとルーデウスは従兄弟ってことだ。
本当に世の中は奇妙な縁で溢れてる。
ただ、今回はただ奇妙な縁だなーってだけじゃ済まない。
ノトス家はアリエル派唯一の有力貴族だったから味方なんだけど、師匠は父親と大喧嘩して実家を飛び出してるので、ノトス家とは相当折り合いが悪い。
その父親はもう亡くなってるそうだけど、勘繰り大好き策謀大好きのアスラ貴族の中に、そんなややこしい事情の師匠が飛び込めば、絶対ロクなことにならないって本人がげんなりした様子で言ってた。
思い返してみれば弟のピレモンさんも師匠に敵愾心持ってたような気がするし、私がピレモンさんに会った時もそのせいなのか色々と苦労させられた。
え?
よくそんな昔のこと覚えてるなって?
されて嫌だったことって意外と忘れないよね。
とにかく、そのせいでルークさんと師匠の仲もちょっとギクシャクしてるし、そういうのと比べものにならないくらいの面倒事が巻き起こるかもしれないと思えば、そりゃげんなりもするよね。
アリエル様が防波堤になってくれることを祈ろう。
そんなメンバーで図書迷宮を進む。
ここは迷宮って名前は付いてるけど、危険はかなり少ない場所らしい。
生息してる魔物は、こっちに敵意のない本好き魔王の使い魔ばっかり。
生やした触手で本を本棚にしまうカタツムリ。
壁を掘って図書館を広げるアリ。
体内に本を入れて運んだり、アリが掘った壁の破片を体内で分解して加工して本棚の素材にしてるスライム。
そういうのしかいない。
実に平和だ。
道中の本棚に入ってる本を軽く確認しながら、数キロ単位の広さを持つ図書館の先へ先へ。
姉が気づいたんだけど、図書館の奥に行けば行くほど、本の年代が新しくなってるみたい。
私達が求めてるのは、400年前の王様の資料だ。
外側にあった本は何千年も前のやつだったし、そうなると400年前なんて比較的新しいことになる。
だからこそ、とりあえず図書館の中心に向かって私達は歩いた。
ただ、図書館の中心には大分毛色の違うのがいた。
「おお」
それは巨大なスライムだ。
何十本もの触手を動かして、同時にいくつもの本を高速で書いてる。
あれが本好きの魔王様かな?
魔王なんて肩書持ってるだけあって、かなり強そう。
でも、私とは相性が良さそうでもあった。
他の皆の話だと、スライムは核を潰さない限りいくらでも再生するし、あんな巨大だと剣が届かないから、剣士は相性が悪そうな感じなんだけど。
王竜王だの、不死魔王だの、巨大な魔物だの、やたらとHPの高い怪物達を倒してきた英雄の剣術を受け継いでる私としては、むしろ、そこらの剣士を相手にするよりやり易そう。
烈断で吹っ飛ばして、再生してる間に破断の準備を整えて放てばそれで終わりそうだ。
破断は不死殺し、回復封じの剣技だから再生もできない。
まあ、もちろん油断はしないし、そもそも戦いにきたわけじゃないんだから、こんなのは無駄な戦力分析に終わった方がいいんだけどね。
魔王様のご機嫌を損ねて襲われないように、図書館ではお静かにを心がけて移動する。
その途中で、
「あ」
姉が何かに気づいたような声を上げた。
「あったよ、この辺りだ」
そう言って、姉が本棚から抜き取って手にした本には『ガウニス王 〜その軌跡と生涯〜』というタイトルが書かれてた。
どうやら目的の区画に辿り着いたらしい。
さあ、検索開始だ。
この膨大な本の中から。
……帰っちゃダメ?
「ダメ」
姉に笑顔で退路を塞がれ、私は皆と一緒に大人しく検索作業を開始した。
それから4日が経過した。
私達は図書館の中でキャンプという、普通の図書館の中でやったら正気を疑われるようなことを実行し、この辺りの本を片っぱしから調べていた。
私は三冊くらい読んだあたりで頭が痛くなった。
どうしてこう歴史書の類っていうのは、カッチリした真面目な文章で書いてあるんだろうね。
もっと軽快に、ラノベみたいな文章で書いてくれれば、私だって頭痛を感じずに読めたのに。
そんな感じで半ば戦力外の私は、とりあえず、それっぽい本を見つけたら、他の人がまだ読んでない本を積んでるところに追加で積むくらいの仕事しかできてない。
でも、そんな私でも、たまに読みやすい本と遭遇することがある。
今読んでるこれなんかもそうだ。
内容はちょっとあれなんだけど、軽い文体で書かれてるから読む分には疲れないんだよね。
まあ、私にとってはどこまで行っても外国語みたいなものだから、あくまでも比較的にだけど。
というか、よくよく考えてみると、よく異世界語なんて読めてるな私。
いつだって人を最も成長させるのは、強く強く必要に駆られることってことか。
まがりなりにも元日本人として、文字が一切読めない生活って怖かったからなぁ……。
『今日は城の女文官にゴミを見るような目で見られた。この大変な時に何してんだテメェって目だ。うるせぇよブス』
『今日は兄上が凱旋した。過酷な戦いだったらしいけど、どうにか勝ったらしい。褒め称えられてた。
局所的な戦いに勝ったところで、ラプラスを倒せなきゃ意味ねぇのにな!
酔ってたせいで思わず口に出てたみたいで、それを聞いてた兄上の護衛騎士の一人にぶん殴られた。でも誰も無礼とか咎めてくれない。
くそう! こうなったら、もう一回飲みに行ってやる!』
『今日は父上にもっと精進しろとか言われた。兄達のようになれとか言われた。
うるせぇ! なれるならとっくになってるわ! 誰も俺に期待なんかしてねぇくせに!
イライラしたから下町に繰り出してチンピラどもをボコしてやった。反撃で歯が何本か折られた。痛い』
姉やゼニスさんに必死で読み書きを教わってた時代を思い出しつつ、日記を読み進める。
綺麗な字に反して、完全にチンピラの愚痴みたいな内容。
どこの時代にもこういう人はいるもんだなぁ。
でも、なんというか、酒場に愚痴を吐きにいって、慰めてくれた給仕の女の子に告白してセクハラしてぶん殴られたとかのエピソード見てると、愛すべきバカって感じがする。
酒場に出没するような傭兵とか末端兵士みたいな人達とは、悪友みたいな関係を築けてたみたいだしね。
ちょっとだけこの人に好感が持てた私は、どこかに名前とか書いてないかなーと思って、流し読みしてたページを少し真面目に見ていく。
そうしてるうちに、あることに気づいた。
この日記、度々王城での出来事が書いてある上に、なんか見覚えのある名前が何度も登場するのだ。
この前からずっと調べてる資料の中に何度も出てきた、大将軍とか、英雄とか、大貴族とか、そういう人達の名前が。
そして、極めつけが……
『今日は酒場でチンピラどもにまでバカにされた。
誰が出がらしガウニスだ! 誰がミソッカスガウニスだ! その通りだよちくしょう!
だけど、そんな舐めたこと言った奴らは全員ノシてやった。
こちとら一応は英才教育受けてる王族なんだよ! いくらミソッカスでもテメェらよりは強いんだ! ざまぁ見ろ!』
「…………」
私は無言で本を閉じ、能面のような無表情でアリエル様のところに行って、日記を押しつけてからその場を去った。
さーて!
それじゃあ、まだ知らない北神英雄譚の一節とか探しにいこうかなぁ!