剣姫転生 〜エルフの娘は世界最強の剣士を目指す〜   作:カゲムチャ(虎馬チキン)

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64 見てはいけないもの

 どこかでアリエル様が失神してる気配を感じながら無心で歩いてたら、私は魔王スライムの近くまで来ていた。

 今も魔王スライムが書き上げた本がガンガン本棚に収納されてるから、やっぱりここが一番新しい本棚なんだろうね。

 なんとなく、その本棚の中から一冊取り出して読んでみた。

 

『偉業を成そうとべガリットに渡って随分経った。

 父さんが巨大ベヒーモスを倒して、今もそれが巨大な骨と共に語り継がれる伝説になってる地に来たのに、僕はまだ何も成せていない。

 いや、それっぽいことは何回かやったんだけど、今ひとつ名声に結びつかない。

 どうすれば、父さんを超える英雄になれるんだろうか……』

 

『今日は冒険者として迷宮に潜る。難易度S級を誇る最難関の迷宮の一つだ。

 ここを単独で制覇すれば、まだまだ父さんには届かないだろうけど、それなりに名を上げられるはず。頑張ろう』

 

『ダメだった。このレベルの迷宮は単純な強さだけじゃ越えられない。

 罠を踏みまくって、道に迷いまくって、食料が尽きて、食べられるものが迷宮に溢れる魔物しかなくなった。不味い……』

 

『吐き気がする……もう嫌だ……なんでもいいから『食べ物』と呼べるものが食べたい……』

 

『でも、諦めない……! 僕は絶対にこの迷宮を制覇して、父さんの偉業を超えるんだ……!』

 

『頑丈な不死魔族の血が流れてなければ絶対に食中毒になってただろう魔物の生食に耐えながら、迷宮を進むこと数ヶ月。

 遂に迷路を抜けた! ……と思ったら外だった。

 どうやら、いつの間にか出口にまで戻ってきてたらしい。

 凄まじい徒労感に襲われた。

 疲れた。ただ疲れた……』

 

 ……なんか、またしても扱いに困るブツが出てきた。

 未来ルーデウスの日記の件で若干好感度が下がってた某三世の空回り奮闘記が書かれた日記を見て、なんとも言えない気持ちになる。

 少なくとも、哀れみが悪感情を完全に吹き飛ばしてしまった。

 

『今日は凄いことがあった! なんと最強の魔物と言われてるファランクスアントの群れを討伐したんだ! 吟遊詩人達がこぞって唄を作り始めてるし、今日は本当に良い日だ!』

 

『一緒にファランクスアントを討伐した少女、エミリーとの二人旅が始まった。

 彼女は幼い見た目に反してとても強い。帝級でも上位の力があると思う。僕も負けてられない』

 

『今日は街で相次いでいる連続誘拐事件を解決した。エミリーのおかげだ。

 彼女の魔眼であっという間に犯人達を見つけて、僕が一撃で成敗!

 でも、エミリーは戦うタイミングを逃して不満そうだった。ごめん』

 

 哀れみから一転。

 楽しそうだなこいつって感想が浮かんできた。

 さっきまでの鬱屈とした感情はどこいった?

 

『今日はサキュバスに襲われて、エミリーに襲いかかってしまった。

 不覚だ。エミリーは自分がポンコツ晒したせいだって言ってたけど、気を抜いて奴の接近に気づかなかったのは僕も同じだ。

 彼女には怖い思いをさせてしまった……。なのに、エミリーは気にしてないかのように笑ってくれる。本当に強い子だ』

 

『サキュバスのせいで発情した僕を、エミリーは気絶させて娼館に放り込んだって言ってた。

 娼婦の人を抱いて僕は正気に戻ったけど、そのことを少し残念に思ってる自分がいる。なんなんだろう、この気持ちは……』

 

『エミリーの目的地である迷宮都市ラパンが近づいてきてる。

 それに比例するように、僕の心はどんどん曇っていった。

 そのせいで最近はエミリーとの稽古で2割負けてる。

 いや、単純にエミリーが強くなったのもあるんだけど』

 

『明日にはもうラパンに到着する。……エミリー、ラパンでの用事が終わったら、また僕と一緒に旅をしてくれないかな?』

 

『エミリーと別れた。でも、彼女はいつかまた会おうと言ってくれた。

 最近は『北神カールマン三世』と『妖精剣姫』の物語が多くの吟遊詩人達に唄われるようになってきてる。

 いつかまた彼女と会えた時は、この唄みたいな名声をもっともっと積み重ねて、父さんをも超える英雄譚を作るんだ!

 僕達二人で!』

 

 お、おおう。

 なんだろう。凄くこそばゆい。

 全力の信頼が伝わってくる感じだ。

 

 これだけ信頼してくれてるなら、私と一緒にオルステッドの仲間になろうぜ! って勧誘にも頷いてくれそう。

 オルステッドの敵は何万年も前から歴史の裏で暗躍し続ける巨悪ヒトガミだ。

 あいつのお爺ちゃん達が倒したラプラスとも多分戦うことになるんだろうし、そんな活躍の機会を与えられたら喜ぶでしょ。

 

 勧誘の手紙というか、アレク宛の伝言はシャンドルへの伝言と合わせて冒険者ギルドに依頼しておいた。

 呼ぶなって言ったヒトガミへの嫌がらせも兼ねてね。

 敵の嫌がることをするのは戦いの定石だし。

 

 だから、運が良ければ今回の戦いの最中に、運が悪くてもそのうち仲間にできると思う。

 伝言を握り潰されようが、こっちにヒトガミキラーのオルステッドがいる以上、いつかはどうにかして接触できるでしょ。

 再会が楽しみだ。

 私達の未来は明るい。

 

『僕と別れた後のエミリーの情報が入ってきた。難易度S級の迷宮を攻略したらしい。さすがだ。でも、言ってくれれば協力したのに……』

 

『最近はあんまり活躍ができなくなってきてる。まるでエミリーと会う前に戻ったみたいだ。

 でも、僕は挫けない! 英雄は最後には必ず栄光を掴むんだ!』

 

『ベガリット大陸を出て、王竜王国に向かった。父さんの伝説が始まった地だ。

 そこにランドルフがいるって聞いたから勝負を挑みにいったんだけど、会えずじまいだった。

 仕方なく代わりに王竜山脈に入って王竜を何体か狩ってみたけど、ダメだ。

 こんなんじゃ父さんの王竜王討伐どころか、エミリーの迷宮攻略にすら及ばない。もっと、もっと頑張らないと……』

 

 それを最後に本は終わっていた。

 単純にページが尽きたのだ。

 うん。若干病みの気配を感じたような気がしないでもないけど、あいつだって頑張ってるってことは大いに伝わってきたね。

 私も頑張らないと。

 

 一応、日記の続きがないか探してみたけど、最新の本棚だけでもとんでもない量がある上に、整理なんて一切されてないから見つけられなかった。

 あるいは、まだ本好き魔王様が写本してないのかもしれない。

 ちょっと残念に思いながらも、よくよく考えてみれば他人の日記を盗み見るなんて、相手の羞恥心を爆発させて友情に亀裂を入れる行為だよねと思い直して、新しい日記探しをやめるのはもちろん、今見たことも全部私の胸のうちに閉まっておくことにした。

 

 と、その時、私のお腹がくぅ〜と可愛い音を鳴らした。

 

「おっと」

 

 日記を読むのに随分と時間を使ってたっぽい。

 あいつの字は汚くもなかったけど、綺麗でもなかったからね。

 そして、私にも読める人間語で書かれてはいたけど、結局のところ母国語が日本語の私にとっては、人間語だって解読に時間がかかる外国語だし。

 むしろ、解読できてるだけ凄いと自分を褒め称えたいレベルだし。

 

 まあ、なんにしても、日記に熱中するあまり時間を忘れてた。

 お腹の空き具合から察するに、アリエル様にガウニスの日記を渡してから半日ちょっとってところかな?

 そろそろ向こうでも結論の一つくらい出てると思うけど……

 

「ん?」

 

 その瞬間、私は殺気を感じた。

 本好き魔王こと、巨大スライムからだ。

 何事?

 特に機嫌を損ねるようなことした覚えはないんだけどな。

 そのうち、使い魔のカタツムリやアリや小型スライムまで寄ってきて、私の周りを囲み始めた。

 

「……ごー……たぁ……」

「よぉー……しー……」

「よぉー……ごー……しー……たぁー……」

 

 え、なんて?

 よごした? 

 誰が?

 私やってないよ!?

 

「何か、誤解……」

「「「コァーーーーーー!!」」」

 

 私の弁明も聞かず、使い魔達が襲いかかってきた!

 え、冤罪だぁーーー!?

 

「剣神流『光の太刀』!」

「「「ーーーーーー!?」」」

 

 一応、本棚を傷つけないように配慮した飛翔する光の太刀が、使い魔達に命中した。

 アリとスライムは何体も倒せたけど、驚いたことにカタツムリは一撃じゃ死んでない。

 硬ッ!?

 いくら距離のせいで威力が落ちてたっていっても、剣帝級の光の太刀を受け切るとか強いな!?

 

 でも、それなら!

 

「北神流『烈断』!」

「「「!!!???」」」

 

 光の太刀より速さでは劣るけど、威力では遥かに上の必殺技を放つ。

 それによって使い魔達は消滅。

 でも、さすがに少し本棚を巻き込んじゃった。

 

「ーーーーーーーー!!!!!」

 

 それに激怒したのか、本好き魔王が自ら攻撃してきた。

 体からおびただしい数の触手を伸ばして私を狙い撃つ。

 ……うん。ごめんね、本好きの魔王様。

 いくら冤罪が始まりでも、殺しにこられたら容赦できないよ。

 

「もう、一回。『烈断』!!」

「!!!!!!??????」

 

 さっきより力を込めて、全力の烈断を本好き魔王に食らわせる。

 ミサイルでもぶつかったかのように巨大なスライムボディが爆発四散した。

 でも、見たところ核は壊れてないし、回復封じの技でもないからすぐに回復するでしょう。

 お世話になったんだから、命まで取る気はない。

 

「ありがとう、ござい、ました」

 

 聞いてくれないだろうけど、一応感謝を込めて頭を下げて、私は本好き魔王から離れるように走り出す。

 同時に魔眼の出力を強に。

 皆の魔力を追っていき、そんなに時間をかけずに合流できた。

 でも、皆も何故か使い魔達に襲われてた。

 アリエル様にカタツムリが襲いかかろうとしてる。

 それを烈断で吹っ飛ばした。

 

「エミリー!」

「ごめん。離れ、すぎてた。これ、どうなってるの?」

「……その、すまない。俺が本に涙をこぼして汚してしまったんだ。それで、彼らが怒って襲いかかってきて……」

「ルークさんが?」

 

 ルークさんが泣くところなんて見たことないんだけど。

 それこそシャンドルにボコボコにされてた時ですら。

 そのルークさんが泣くとか何があったんだろ?

 

「ルーデウス様がシルフィの前任の守護術師、デリックの日記を見つけてきてくれたのですよ。おかげで、ペルギウス様の問いに答えが出せそうです」

「デリック……」

 

 誰だっけ?

 いや、アリエル様の言う通り姉の前任の守護術師なんだろうけど、肝心の人物像がまるで浮かばない。

 前に会った時、アリエル様達の口から名前が出てたような気もするんだけど……。

 まあ、アリエル様達が大切な思い出みたいに語ってるから、きっとラノア王国への旅の途中で死んじゃったっていう5人と同じくらい大切な人だったんでしょ。

 なんにせよ、アリエル様がこの図書迷宮で答えを見つけられたなら良かった。

 

「じゃあ、もう、ここに、用は、ない、ですか?」

「ええ。ありません」

「わかった。突破、します。付いてきて、ください」

 

 そうして、私達は悪いと思いながらも使い魔達を粉砕し、図書迷宮を脱出した。

 

 

 

 

 

 後日。

 アリエル様はペルギウスさんの問い『王にとって最も重要な要素とは何か?』という質問に対して『遺志を継ぐこと』だと答えた。

 アリエル様は、アリエル様のために死んでいった人達の想いを継いで、その人達のための王になりたい。そう答えた。

 デリックっていう人は、アリエル様のために死んだ最初の一人だったらしい。

 

 その答えを聞いて、ペルギウスさんは納得した。

 ペルギウスさんが求めた答えとは違うみたいだけど、それでもアリエル様のことを王に相応しい存在だと認めてくれて、協力することを約束してくれた。

 

 こうして、アスラ王国の生ける伝説、魔神殺しの三英雄の一人『甲龍王』ペルギウス・ドーラは。

 アスラ王国第二王女、アリエル・アネモイ・アスラの協力者となった。


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