剣姫転生 〜エルフの娘は世界最強の剣士を目指す〜   作:カゲムチャ(虎馬チキン)

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66 襲来! 同門の皆さん!

 ペルギウスさんの転移魔法陣により、私達アリエル様御一行は北方大地と中央大陸西部の出入り口、赤竜の上顎の近くにある転移魔法陣へと飛んだ。

 赤竜の上顎に来るのはもう何回目だろ?

 えっと、最初にアリエル様達と姉をシャリーアまで護衛した時に一回。

 シャンドルと別れて路銀が尽きるとは思ってもみなかった時に一回。

 今回でまだ三回目なんだ。

 一つ一つのエピソードが濃いから、もっと何回も来てるような気がしてた。

 

 そんな赤竜の上顎を抜け、中央大陸西部、アスラ王国が治める土地へ。

 その入り口でアリエル様達は、道の端にある✕字の刻まれた飾り気のない石の前に花束を置いて、祈りを捧げた。

 この石は覚えてる。

 私が駆けつけるまでの襲撃で、間に合わずに死んじゃった従者の人達のお墓だ。

 姉の火魔術で荼毘に付して、ここに骨を入れた壺を埋めたのだ。

 その時の悲しそうな顔をしてた姉達の姿をよく覚えてる。

 

 話したこともない人達だけど、私が駆けつけるまで姉を守ってくれてありがとう。

 アリエル様のついでっていうか、あくまでも姉は一緒に戦う仲間で庇護の対象じゃなかったんだろうけど、それでもありがとう。

 昔と同じこと思いながら、私も祈りを捧げておいた。

 

 

 そして、ここからは遂に、姉がいつ暗殺者に殺されるかと冷や汗が止まらなかった思い出のある因縁の森、赤竜の髭に入る。

 ここを抜ければアスラ王国だ。

 ただし、前にも経験したように、ここは絶好の暗殺スポット。

 まず間違いなく暗殺者が襲ってくると思う。 

 前回は格下ばっかりだったから瞬殺できたけど……今回襲ってくる可能性が高いのは、あのオーベールさんだ。

 

 剣の聖地での勝率は五分。

 あの時から私も剣の聖地で色々と吸収して強くなったとはいえ、何してくるかわからないオーベールさんに、いつ来るか、どこから来るかもわからない暗殺スポットっていう場所は、まさに鬼に金棒。

 あまりにも向こうに地の利があり過ぎる。

 

 それでもまだ私を狙ってくれるんだったら対処できる自信があるんだけど、護衛対象を狙われたら私一人じゃどうにもならないかもしれない。 

 魔眼の索敵に引っかかってくれないかなぁ。

 無理だろうなぁ。

 アスラ王国には超希少ながらも魔眼対策の装備もあるって話だし。

 

 

 赤竜の髭に入る前に、最後のフォーメーションの確認をした。

 最前列にエリスさんとギレーヌ。

 その後ろからサポートできる位置に姉とルーデウス。

 馬車の中にアリエル様と侍従の人が4人。御者台に2人。

 その馬車を五角形に囲うように、ルークさんと4人の護衛の人達。  

 後方からの襲撃に備えて師匠と私。

 

 ギレーヌと私は魔眼による索敵も担当する。

 魔眼封じの装備を付けてる敵は見つけられないだろうけど、その他の敵は見つけられると思うから。

 

 ちなみに、この一行は全員が馬に乗ってる。

 この中で乗馬スキルがないのは私とルーデウスだけだ。

 ルーデウスは姉の後ろに乗ってて、ちょっと前までは時々姉の胸を揉んで私からの殺気の視線と、エリスさんからの嫉妬の視線を食らってた。

 時と場合を考えろエロデウス!

 まあ、さすがに赤竜の髭に入ってからは自重するみたいだけど。

 

 一方の私は師匠の前に乗らせてもらってる。

 ヤリ○ン師匠と密着する位置とか、本来なら姉と同じく身の危険を感じて然るべきなんだけど、

 悟りきった賢者のような顔で語り出した師匠曰く、ノトスの血筋は女性の格差社会の象徴に強く興奮するみたいで、絶壁の私にはピクリともしないから安全らしい。

 

 それ昔ルークさんにも聞いた気がする。

 考えてみれば、師匠の奥さんのゼニスさんも、手を出されたメイドのリーリャさんも格差社会の権化だ。

 絶壁でもまな板でもロリでもイケてしまうルーデウスが、ノトスの血族の中では異端なんだって。

 そんなことを宣った師匠に嘆けばいいのか、殴ればいいのか、安全なことを喜べばいいのか、もうわかんないよ!

 

 あと気にかかる問題は、馬車が遅いこと。

 時速100キロ以上のダッシュで移動することが多い私としては、これが地味に気になる。

 危険地帯を進むっていうのに、前世の私のジョギングより遅いんだもん。

 前回は刺客が強くなかったから大して気にしなかったけど、今の赤竜の髭はオーベールさんがポップする魔境と化したんだから、一刻も早く抜けたいっていうのが正直な気持ちだ。

 

 いっそ、私が馬車を引いてダッシュすればオーベールさんも追いつけないのでは?

 って、深く考えずに口にしたら、「鞭を入れさせてくれるなら喜んで」と、馬用の鞭を華麗に操るアリエル様に言われて意見を取り下げたけど。

 

 アスラの王族貴族はどいつもこいつも!

 エリスさんを見習え!

 ああ、ダメだ! 姉とイチャつくエロデウスを見てから、ちょっと発情してたわ!

 じゃあ、ルークさんを見習え!

 ああ、ダメだ!

 エリスさんのたわわな果実にチラッチラッと目が行ってたわ!

 ここには変態しかいないのか!?

 

 

 そんな最後の茶番を終えて、遂に赤竜の髭に突撃。

 遅い馬車にもどかしい気持ちになりながら前進する。

 結局、私が馬車を引く案は、アリエル様の冗談はさて置き、こんな森の中の大して整地されてない地面を私の全速力で駆けたら馬車の方が壊れるっていう至極真っ当な意見によって却下された。

 

 そうじゃなくても、使ってる馬車が転移魔法陣のある遺跡みたいな建物を抜けられるようにってことで分解式の小型のやつだから、これ以上の人数は入らないし。

 私とアリエル様と馬車に乗せられる人数だけで先行しても、他の皆を置き去りにして戦力分散したら、オーベールさんに各個撃破されるのがオチだ。

 諦めて、皆で仲良くゆっくりと進むしかない。

 

 そんな行進を続けること数時間。

 たった数時間の旅路で、私の魔眼は襲撃者の魔力を捉えた。

 

「敵、発見」

「あたしも見つけた」

 

 私とギレーヌが同時に敵発見を告げる。

 ギレーヌは魔眼使ってなかったんだけど、多分鼻と勘で見つけたんだと思う。

 さすが獣族。

 

「場所と数は?」

「場所は、この先。数分、進めば、ぶつかる」

「数は多い。たくさんだ」

「多分、50人は、いる」

 

 ギレーヌの基準が大雑把だったから、一応補足しておいた。

 

「迂回しよう」

「多分、無理。向こうにも、バレた」

「ああ、臭いが近づいてきてるな」

「何っ!?」

 

 迂回を提案したルークさんの額から冷や汗が流れた。

 それにしても、この距離で私達を発見して行動に移せるってことは、向こうにも私達みたいな魔眼持ちか、鼻の良い人か、あるいは耳の良い人でもいるのかもしれない。

 

「どうにか逃げられないか?」

「馬車じゃ、無理。というか、もう、来た」

 

 私達がそんな会話してるうちに、前方から鎧を着た大量の兵士達が走ってきて私達の前に布陣する。

 隠れてるけど両脇の森の中にも結構いて、左右から私達を挟もうとしてるのがわかった。

 

「護衛術士のフィッツだ! この馬車がアスラ王国第二王女アリエル・アネモイ・アスラのものと知っての狼藉か! どこの兵だ! 名を名乗れ!」

「『烈断』!」

「ちょっ!? エミリー!?」

 

 姉が馬上からカッコ良い感じのこと言ってる最中に、私は馬から降りて、右側の森をゴッソリ抉る烈断を放った。

 その一撃で右側の森から来てた兵士達は全滅。

 あ、いや、全滅じゃない。

 一人生き残って飛び出してきた。

 

「あ、相変わらず容赦のない攻撃……! だが、相手にとって不足なし!

 我が名は『北王』ウィ・ター! 北神三剣士が一人、『光と闇』のウィ・ターである!」

 

 その生き残りは北王を名乗る、キラッキラに磨かれた鎧を身に着けた、身長1メートルくらいの小柄な人だった。

 小人族(ホビット)ってやつだね。

 というか、あの人自体に見覚えがある。

 王都アルスでノトス家に押しかけた時に用心棒やってた人だ。

 私は人の顔と名前覚えるのも苦手だけど、手合わせした強い人のことは忘れない。

 

「げぇ!? ウィ・ターじゃねぇか!?」

「ん? 師匠、知り合い?」

 

 と、そこで私に続いて馬から降りた師匠が、嫌そうな顔でウィ・ターさんを見て叫んだ。

 

「……実家にいた頃に雇われてた用心棒の息子だ。昔からセコい手が好きな奴だったが、まさか北王になってるとはな」

「むむ!? その顔立ち、もしやパウロ様!? 何故このようなところに!?」

「そりゃこっちのセリフだ! お前こそこんなところで何してやがる!」

「実は独り立ちしてから、色々あって北王になった頃に父が引退することを知りまして!

 ちょうどフリーだったので、父のコネでノトス家の用心棒に就職して今に至ります!」

「そうか! つまりお前もノトスも敵に回ったってことだな!」

「バ、バカな!?」

 

 敵意むき出しで剣を構える師匠。

 一方、なんかルークさんが青い顔になってる。

 あ、そうか。

 ノトスが敵に回った、つまりアリエル様を裏切ったってことは、ルークさんから見ると実家が敵に回った感じなのか。

 

「「とう!」」

 

 そんなやり取りを師匠達がしてる間に、左側の森からもなんか出てきた。

 大量の兵士達と、その先頭に立つ影分身の術でも使ってるみたいに同じ姿をした二人の剣士。

 その頭からはウサ耳が生えてる。獣族だ。

 あ、もしかしたら、私達に気づいたのは、この人達かな?

 ウサギって耳良さそうだし。

 なお、二人とも男なので、ウサ耳でもバニーガールではない。

 

「我らは北神三剣士が一人!」

「二人で一人の『北王』!」

「「『双剣』のナックルガード!」」

「『妖精剣姫』に『黒狼』『泥沼』『狂剣王』!」

「『無言』のフィッツに『剣匠』パウロまで!」

「誰も彼も強敵揃い!」

「だが、それ故に!」

「相手にとって!」

「「不足無し!!」」

 

 同じ声に、完璧に息の揃ったタイミング。

 目を閉じてれば一人が喋ってるとしか思えないような以心伝心ぶりを見せつける、北王を名乗った分身剣士。

 多分双子か何かだと思うけど、さすがは何でもありの北神流。

 あんなものまで強みにしちゃうとは恐れ入る。

 私と姉も見習うべきかもしれない。

 

 右からは『北王』ウィ・ター。

 左からは『北王』ナックルガード。

 正面とナックルガードの後ろには大量の兵士達。

 オーベールさんが来るかと思ったら、まさかの数と質に任せた物量攻撃で来た。

 

「かかれぇ!」

「「「うぉおおおおお!!!」」」

「「ガァアアアアアアアア!!!」」

 

 結構な大戦力が一斉に私達に向かって雪崩込み、それに対して真っ先にエリスさんとギレーヌが向かっていって、戦端が開かれた。

 アスラ王国王位継承戦、開幕!




・敵戦力
エミリーとパウロがいる分、原作よりアリエル様親衛隊がやばいので、ダリウスさんサイド出し惜しみ無し。

・ウィ・ターさんの経歴
独自設定。パウロが実家にいた頃に既に北王で用心棒だったら、ウィ・ターさんがとんでもないご高齢ってことになっちゃうので。
パウロだって、もう40近いし……。
ちなみに、前回エミリーが遭遇した時は雇われたばっかりでした。
初任務で幼女にボコボコにされるとか可哀想。
絶体絶命の状況で北王を雇えて喜んでたのに、その北王が幼女、しかもパウロの弟子にボコボコにされるのを見せつけられたピレモンさんはもっと可哀想。

・『剣匠』パウロ
エミリーが師匠師匠って言ってたから、冒険者時代の異名を押し退けて、最近広まり始めた。
三大流派全てを操り、あの妖精剣姫を育て上げた剣士の理想の姿とまで言われている。

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