剣姫転生 〜エルフの娘は世界最強の剣士を目指す〜   作:カゲムチャ(虎馬チキン)

68 / 146
67 VS『孔雀剣』

「「ガァアアアアアアア!!!」」

 

 エリスさんとギレーヌが二手に別れて兵士達に突っ込む。

 ギレーヌが正面、エリスさんがナックルガードのいる左側だ。

 その二人を姉が魔術で遠距離からサポート。

 師匠はウィ・ターさんとぶつかった。

 ルーデウスは師匠の戦いに控えめなサポートを入れながら周囲を警戒してる。

 護衛の人達は、暴れるエリスさんやギレーヌを避けて馬車に突撃してきた兵士達を迎撃中。

 

 そして、私は動かない。

 というか、動けない。

 私の仕事はオーベールさんを警戒することだ。

 私だけじゃポンコツ晒しかねないから、ルーデウスも同じくオーベールさんを警戒して控えめなサポートしかしてないけど、あくまでもメインでオーベールさん対策を任されてるのは私である。

 さっきは師匠がすぐ後ろにいたから大技を打てた。

 だけど、乱戦になってきた今はそうもいかない。

 

 私は馬車の上に飛び乗って、全方位を見ながらオーベールさんがどこから来てもいいように警戒する。

 いないなんてことはないはずだ。

 オルステッドから聞いたオーベールさんが奇襲する時の基本スタイルは、何かで目を引いておいて後ろからバッサリ。

 北王二人(三人?)と大量の兵士なんて絶好の囮がいる状況で来ないわけがない。

 むしろ、このままオーベールさんが来なかったら、多分私達の勝ちだ。

 

 ギレーヌは正面の兵士達を相手に無双してる。

 何の心配もいらない。

 

 エリスさんも心配はいらないけど、ナックルガードにやや手こずってた。

 単純な実力ならエリスさんの方が上なんだけど、大量の兵士と一緒に攻められてるっていうのがマズい。

 剣神流には光の太刀っていうチートがあるから、相手が一人なら、試合開始! 即終了! ってくらいの無類の強さを発揮するんだけど、

 反面、攻撃に特化し過ぎてて、攻撃中に別の奴に側面や背後から攻められると脆い。

 特に魔術とか飛んでくると辛い。

 

 格下相手なら今のギレーヌみたいに問題にしないんだけど、敵に同格に近い相手がいれば、剣神流に対して数の暴力は割と有効なのだ。

 ナックルガードの、エリスさんの間合いのギリギリ外側をウロチョロして惑わして、その隙に兵士達に攻撃させて、隙あらば自分も攻めるっていう立ち回りも上手い。

 さすが立ち回りに優れた北神流。

 

 とはいえ、ナックルガードを仕留め切れてないってだけで、別に苦戦してるわけじゃない。

 エリスさんは北聖の認可も持ってるから、そこらの剣神流よりよっぽど対応力あるしね。

 ナックルガードは攻めようとしても全然攻められてない。

 姉の援護で兵士の数も減ってきてるし、そのうちケリがつくと思う。

 

 師匠とウィ・ターさんの戦いは互角。

 最初、ウィ・ターさんはピカピカに磨いた鎧や剣で太陽光を反射して、それを使った目潰しというしょっぱい技を使って師匠を追い詰めてた。

 でも、ルーデウスに泥の魔術で鎧を汚されてからは小技が使えなくなって、互角の戦いにもつれ込んでる。

 互角ならルーデウスによる援護の差で師匠が勝つ。

 

 こんな感じで、戦況は私達の方が優勢だ。

 なら、逆転のために必ずオーベールさんがどこかで仕掛けてくる。 

 相手は北帝『孔雀剣』のオーベール。

 奇襲の申し子とまで呼ばれる男。

 彼の一手で戦況は逆転し得るのだ。

 

 私は待つ。

 神経を研ぎ澄まして待つ。

 オーベールさんが出てくる瞬間を。

 奇襲の申し子が姿を現す瞬間を。

 

 そして、━━遂に、その時が来た。

 

「!」

 

 森の左側、ナックルガードが出てきた方向から、馬車に向けて何かが飛来してくる。

 袋だ。

 袋と言えばオーベールさんと剣の聖地で戦った時、催涙弾入りの袋を投げつけられて、涙とくしゃみと鼻水で乙女の尊厳が崩壊したことがあった。

 苦い思い出。

 だけど、それがあるからこそ即座に対応できる!

 

「『光の太刀』!」

 

 私はそれを飛ぶ光の太刀で撃ち落とした。

 前は至近距離で迎撃しちゃったからエラいことになったけど、この距離なら催涙弾は届かない。

 そして、袋が飛んできた方向をよく見れば、魔眼にボヤけて映るパラボラアンテナみたいな特徴的すぎる髪型した人影が一つ。 

 見つけた!

 と思った瞬間、

 

「!?」

 

 斬った袋から催涙弾じゃなくて、凄い勢いで煙が噴き出してきた。

 これ見たことある!

 ルーデウスがオルステッドへの罠に使った、開けると凄い量の煙が出てくるマジックアイテムの箱にそっくりだ!

 

 それが一瞬で私達の視界を塞いだ。

 しまった!? 罠だった!

 やっぱりポンコツ晒してしまった!

 

「『突風(ブラスト)』!」

 

 しかし、こんな時のためのルーデウスが、風魔術で一気に煙を吹っ飛ばした。

 視界が塞がれてた時間は2秒もない。

 そして、煙袋が飛んできた方向からは意識を逸らさなかった。

 あそこからオーベールさんが煙に紛れて飛び出してきても、問題なく対応できた自信がある。

 

 だからこそ、反対方向から飛んできた刃に反応が遅れた。

 

「え!?」

 

 反対方向。

 ウィ・ターさんが出てきた、最初に私がゴッソリと抉った森の中から、よくマンガとかで忍者が使ってる苦無(くない)みたいな飛び道具が凄い速度で飛来してくる。

 

「ッ!? 水神流『流』!」

 

 私は水神流の技で苦無を受け流す。

 でも、意表を突かれた一撃のせいで、咄嗟に体は我が身を守るための防御態勢を取ってしまった。

 それを見越したようなタイミングで、右側の森からちょっとボロボロのオーベールさんが飛び出してくる。

 

 あ、これ多分、最初の私の攻撃に巻き込まれたな。

 その後、死んだふりで兵士の死体の中に紛れてたんだ!

 ってことは、さっき反対側から煙袋を投げたのは影武者か!?

 こっちのオーベールさんも魔眼にボヤケて映るし、魔眼封じの装備をもう一個使った上に髪型まで同じにするとか豪華な影武者だな!?

 

「あっ!?」

 

 しかも、飛び出してきたオーベールさんが狙ったのは私じゃなかった。

 今の私は防御態勢で身構えてる。

 だからこそ、オーベールさんはそんな私を狙わずに、何が起こったのかわかってない感じのルークさんに狙いを定めた。 

 あ、ルークさん死んだ!?

 

「おぐっ!?」

 

 と思ったら死ななかった。

 オーベールさんはルークさんを斬るんじゃなくて腹パンを食らわせ、痛みに呻いたところを取り押さえて人質にした。

 後ろからルークさんを抱きかかえ、その首筋に剣を突きつけながらオーベールさんが口を開く。

 

「動くな! 動けばこの青年を……」

「『光の太刀』!」

「ぬぉおおう!?」

「うわぁああ!?」

 

 そんなオーベールさんに光の太刀で斬りかかる私。

 驚愕しながら避けるオーベールさんと、悲鳴を上げるルークさん。

 チッ! 外した!

 

「エミリー!? この青年は仲間ではないのか!? 一瞬の躊躇もなく斬りかかってくるとは、どこの狂犬だ!?」

「ルークさん、アリエル様の、騎士。アリエル様の、ために、死ぬなら、多分、本望」

「そ、そうだ! 俺ごとやれぇ!」

 

 ルークさんが取り押さえられながら男前なことを言った。

 カッコ良いぞルークさん。

 例えヒトガミの使徒でも、あなたの遺志はちゃんと継ぐから安心してください。

 もちろん、できることならちゃんと助けられるように全力で頑張るけど。

 さっきだって、ルークさんを抱きかかえてるオーベールさんの左腕だけを狙ったし。

 遺志を継ぐのは、あくまでも最悪の場合だ。

 

「せいっ! やぁ!」

「ぬ!? ぬぐっ!?」

 

 ルークさんを盾にしながら私と斬り合うオーベールさん。

 四肢欠損とか、胴体に風穴が空くくらいなら、ルーデウスが昨日オルステッドに貰ってた王級治癒魔術のスクロールで治るだろうってことで、割と遠慮なしに攻める私にオーベールさんは防戦一方だ。

 

 一応、ルークさんの致命傷になるような場所に斬りかかるのは避けてるから盾として機能はしてる。

 その代わり、オーベールさんはルークさんを抑えてる左手を使えないから、差し引きでトントンくらいだと思う。

 いや、右手も私との斬り合いで使ってるせいで、両手が塞がって得意の奇策が使えない分、むしろ不利かな?

 

「こ、これは堪らん! 人質作戦は逆効果であったか!?」

 

 不利を悟ったオーベールさんが、ルークさんを後ろから蹴り飛ばして私への目くらましに使ってきた。

 それを衝撃波で馬車の方に吹っ飛ばしつつ、ようやく盾の無くなったオーベールさんに光の太刀で斬りかかる。

 このタイミング、取った!

 

「ん!?」

 

 その瞬間、一瞬にしてオーベールさんの姿が纏ってたマントを残して消えた。

 代わりに丸太がマントの中に出現する。

 変わり身の術……マジックアイテムか!?

 私の剣は丸太を斬るだけに終わり、森の中からオーベールさんの声が聞こえてきた。

 

「撤収! 撤収! やり直しだ!」

「むむ!」

「オーベールが負けたのか!」

「仕方あるまい! パウロ様! これにてゴメン!」

「待てやコラァ!!」

 

 オーベールさんの号令に合わせて、ナックルガードとウィ・ターさんが華麗に引いていく。

 背中に一発叩き込んでやろうにも、ここからじゃ味方を巻き込むから大技は使えない。

 その味方が撤退していく兵士の大部分は討ち取ってくれたけど、肝心の北王以上は全員取り逃がした。

 残念なような、知り合いを斬らずに済んでホッとしたような。

 

 こうして、第一回目の襲撃は味方の被害ゼロ、敵は北王以上の3人(4人?)以外ほぼ全滅という結果に終わった。

 懸念はオーベールさんを取り逃がしたことと、もう一つ。

 

 ノトス家の裏切りが発覚したことである。




ダリウス「ほれほれ〜! 早く屈服しないと潰しちゃうぞ〜!」
ピレモン「くっ!? だが私は……アリエル様のためにも負けるわけにはいかんのだぁ!」
ダリウス「哀れだなぁ、ピレモン。お前を裏切った主のためにそんなに頑張るなんて可哀想になぁ!」
ピレモン「どういう意味だ!!」
ダリウス「何、アリエル殿下は使えないお前に見切りをつけたのだよ。今のアリエル殿下の傍にはパウロがいる。そう、優秀だったお前の兄、パウロだ! お前がどれだけ頑張ったところで、例え我らに勝てたところで、待っているのはパウロにノトス家当主の座を乗っ取られる未来だけだぞ?」(にちゃぁ)
ピレモン「なん、だと……!?」
ダリウス「そんな主など裏切って我らの仲間になれ、ピレモン。少なくとも我らは当主の座からお前を引き摺り下ろそうなどとは考えていない。ノトス家はお前のものだ!」(ゲス顔)
ピレモン「あ、あああ……」(絶望)

ピレモンさん闇落ち!


おまけ

オーベール「エミリーが強すぎなので、弟子(エリス)の前とか考えずに、手段選ばずガチで殺しにいきました」
オーベールの影武者「本当はね、私だって嫌だったんですよ、こんな変な髪型にするの。でも、命令だから仕方なく……! この作戦が終わったら丸刈りにしてきます」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。