剣姫転生 〜エルフの娘は世界最強の剣士を目指す〜   作:カゲムチャ(虎馬チキン)

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 襲撃の後。

 直近の危機が去って、実家が裏切ったという事実を直視せざるを得なくなったルークさんは荒れた。

 ウィ・ターさんの証言だけならまだ、敵の動揺を誘う北神流の話術って可能性もあったんだけど、倒した兵士の何割かの鎧にノトス家の紋章が入ってたことで確定しちゃったのだ。

 

 ルークさんは頭を抱えてブツブツと「バカな……こんなバカな……」って現実逃避を始め、かと思えば突然師匠とルーデウスに突っかかって「お前達の策略か!?」とか言い出し、アリエル様に怒られてた。

 

 そんなルークさんを気にかけつつ、作戦会議。

 またオーベールさんが来て、今度こそ人質作戦じゃなくてこっちの数を減らしにこられたら嫌だから。

 このまま国境に向かうルートはやめて、ここらに住み着いて密輸とか奴隷売買とかやってる盗賊団を利用して密入国しようぜってルーデウスが言い出した。

 そういえば、オルステッドの作戦を教えてもらった時に、こういう話もしてた気がする。

 

 これにルークさんが猛反対。

 ヒトガミに色々と吹き込まれてるのかルーデウスを疑い、その盗賊団にアリエル様を売り飛ばそうとしてるんじゃないかとまで言った。

 さすがに様子がおかしいと感じたっぽいアリエル様が、そんなルークさんを一喝してルーデウスの作戦で行くことを決定。

 私達はその盗賊団のところに向けて移動を開始した。

 

 

 

 

 

「師匠、大丈夫?」

「……ああ、ちょっと考えごとしてただけだ」

 

 移動中、馬の後ろから漂ってくる師匠の雰囲気がちょっと重いことに気づいて話しかけてみたら、そんな言葉が返ってきた。

 ……やっぱり師匠にとっても、実家絡みの問題には思うところがあるらしい。

 向こうは戦力を失ったばっかりだから、オーベールさんが今すぐにもう一回現れる可能性は低いって皆言ってたし、少しくらいお喋りしても大丈夫だろう。

 

「実家の、こと、考えてた?」

「まあな。何十年も前に飛び出した家だし、戻りたいとは微塵も思わねぇが……父親と大喧嘩して、売り言葉に買い言葉で飛び出してきた、その時のことは後悔してるんだ。

 聞けば弟も、ピレモンもオレが飛び出したせいで随分と苦労したみたいだし、その弟と今回敵になって、場合によっちゃ斬らなきゃならねぇ。

 その上、ピレモンの息子のルークまでああなってんの見たら、さすがに色々とモヤモヤしてきてな」

「そっか」

 

 私のこの口と頭じゃ気の利いた返しはできない。

 だから、せめて師匠が色々吐き出して、ちょっとでも気持ちの整理をつけて楽になってくれたらと思う。

 

「ノトスの問題はオレにも責任がある。だから、なんとかしてやれるもんなら、なんとかしてやりたいんだがなぁ」

「師匠なら、できる」

「そうかぁ? オレなんざ、息子の教育もまともにできなかった男だぞ?」

「それでも、ノトス、これ以上、悪く、なりようが、ない。師匠が、頑張って、間違っても、問題ない」

 

 そう言うと、ちょっとポカンとした雰囲気が背中から伝わってきた。

 思ったことが口から出ただけだけど、あながち間違ってもいないと思う。

 だって、現時点でピレモンさんってアリエル様の敵に回った裏切り者だし、ルークさんからの好感度は最悪だし。

 割とマジでこれ以上悪くなりようがない気がする。

 

「……ハハ。そうだな。確かに、その通りかもしれないな。じゃあ、ダメ元でなんかやってみるか」

「好きに、すればいい。好きに、するのが、一番」

 

 前世で好きなことをできなかった私は、余計にそういう思いが強いのだ。

 

「ありがとな、エミリー」

「別に、考えなしに、思ったこと、言っただけ」

「それでもだよ。ちょっと、まともな時のエリナリーゼみたいだったぞ」

「どういう、意味?」

「いい女になってきたって意味だよ」

 

 そう言って、師匠は後ろから頭を撫でてきた。

 ふむふむ。いい女か。

 まあ、悪い気はしない。

 むふーって感じで気分を良くしてると、後ろで師匠が小さく笑った気がした。

 

 

 

 

 

 夜。

 森の中を分解した馬車を馬に運ばせながら進んだせいで、ただでさえ遅い移動速度が更に遅くなって、一日では盗賊団のところに辿り着けなかった私達は、森の中でキャンプしていた。

 

 火の番は護衛組11人が二人一組(一つだけ三人一組)になって交代でやる。

 今の時間帯は私とルーデウスの担当だ。

 で、ルーデウスは見回りの名目で、こっそり私達に付いてきてるオルステッドとの密会に行った。

 他の皆は呪いのせいでオルステッドに不信感を持ってるから知らせてないけど、ルーデウスと同じく呪いの効かない私には一応話が通ってる。

 

 だけど、この日はルーデウスが密会してる間にアリエル様が来た。

 

「刺客が怖くて眠れないのです。一緒に寝てはくれませんか?」

「お断り、します」

「あら残念」

 

 わざとらしいお芝居を軽く一蹴。

 そんな茶番をやった後、アリエル様は帰ってきたルーデウスを連れてどこか行っちゃった。

 まさか四股目かと疑ったけど、私の耳元でアリエル様が「オルステッド様に会ってきます」って囁いていったから、違うっぽい。

 

 でも、二人が帰ってきた時、アリエル様は妙にスッキリしたような顔をしてた。

 溜まってたものが解消されたみたいな顔だ。

 しかも、ルーデウスと妙に仲良さそうにしてる。

 

「ま、まさか……!?」

「違うからな!」

 

 私のゴミを見るような目だけで全てを察したのか、私が言い切る前にルーデウスが反論してきた。

 自覚してる時点で有罪じゃねぇか!

 

「違いますよ、エミリー。ルーデウス様とは何もありませんでした。せいぜいズボンとパンツを剥かれたことくらいです」

「ギルティ」

「やめて!? 剣を抜かないで!? というか、アリエル様も誤解を与える言い方しないでくださいよ!?」

 

 ルーデウスが皆を起こさないように小声で叫び、アリエル様がパンツを剥かれたとは思えないほど上品に微笑む。

 ……もしかして、またアリエル様に遊ばれた?

 

「というのは冗談で、本当は私がオルステッド様を見て失禁してしまったので、それで濡れてしまったズボンとパンツをルーデウス様に乾かしていただいただけですよ。

 久しぶりに人前での失禁をしましたが、ルーデウス様とオルステッド様の前という絶対に粗相があってはいけない場での文字通りの粗相は、背徳感と絶望感でとても興奮しましたね」

「そっか。よかった」

 

 もうアリエル様にはツッコミを入れるだけ無駄だということがよくわかった。

 

「それで、オルステッド様と話した結果なのですが、ルークや政争に関しては私に一任してもらえることになりました。

 ルーデウス様とエミリーはヒトガミとの戦いに専念してください」

 

 おお、そうなったんだ。

 オーケー、わかった、理解した。

 

「じゃあ、師匠にも、声、かけて、あげて、ください」

「パウロ様に?」

「ノトス家の、ことで、何か、したいって、言ってた」

「なるほど。わかりました。それは心強いですね」

 

 今ここに、アリエル様と師匠のコンビが結成されることが決まった。

 師匠が中年の性欲でアリエル様と一夜を共にしないことを祈る。

 ゼニスさんがああなっちゃって溜まってなければいいけど。

 リーリャさんがどうにかしてくれてるかな?

 

「では、まずは明日。盗賊団との邂逅での一手ですね。期待していてください、二人とも」

 

 ニッコリと笑うアリエル様。

 それを見て私は思った。

 最初から協力要請しとけば良かったのでは?


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