剣姫転生 〜エルフの娘は世界最強の剣士を目指す〜   作:カゲムチャ(虎馬チキン)

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7 ドナドナ

 7歳になった。

 1年くらい前に、師匠がゼニスさんが妊娠したことで溜まった性欲のせいで暴走し、メイドのリーリャさんを妊娠させて家庭崩壊の危機を招くという割と洒落にならない事件が起こったけど、なんやかんやで一応はなんとかなったみたいで、師匠の家族が一家離散することはなかった。

 

 代わりに、師匠はゼニスさんにゴミを見る目で見られて避けられ、愛弟子の私にすら冷たい目で見られ、一時期かなり落ち込んでたけど。

 まあ、最近は渦中の娘さん二人も生まれて、いい父親になろうと奮起して頑張ってるから大丈夫でしょ。

 

 あと、雨に濡れたルーデウスが一緒に濡れた姉をお風呂に連れ込んで脱がしたという、私にとっては師匠の浮気よりも重大な事件が起きたりもした。

 その時に私が家の手伝いで一緒にいられなかったのが悔やまれる。

 今までの姉に対する態度で私の信頼を勝ち取り、まあ、少しは二人きりにしても大丈夫かなと油断させて、その隙を突いた見事な犯行だと言えよう。

 もし私が油断さえしなければ、ルーデウスのルーデウスを蹴り潰してでも阻止したのに。

 悔やんでも悔やみ切れない。

 

 と思ったんだけど、話を詳しく聞いてみると、どうも故意じゃない可能性が僅かに出てきて私の脳は混乱した。

 なんでも、ルーデウスは件の事件の時まで、姉のことを男だと思ってたらしい。

 ふざけんな。

 そんな一昔前のラブコメのお約束みたいな展開があるわけないだろ。

 

 そう主張したいところなんだけど、当のルーデウスがマジのガチで落ち込んでて、これが演技だったら凄いな、主演男優賞ものだなって感じだったので、頭から否定することもできなかった。

 それに今まで私に対する扱いと姉に対する扱いが明らかに違ったことも、そういう理由なら説明がつかなくもないし。

 というわけで、ルーデウスに関しては私の中で保護観察処分ということになった。

 

 そんな愉快というにはちょっと行き過ぎた事件が発生しつつも時は過ぎ、今日も私はルーデウスに会いに行きたい姉と、ついでになんか師匠に用があるらしい父と共に師匠の家を目指す。

 父はともかく、姉は最近私より師匠の家によく行ってるんじゃないかな?

 父や母が、なんか最近姉が親の言うことよりルーデウスを優先してるって悩んでるし。

 

 実際、私から見ても、姉はちょっとルーデウスに依存してるような気がしないでもない。

 まあ、姉からしてみれば、ルーデウスはクソガキどもにイジメられてたところに颯爽と現れて助けてくれて、しかも、その後も一緒にいて守ってくれるヒーローみたいなもんだしね。

 依存するのもわからんでもない。

 

 え?

 その理屈で言ったら、ルーデウスが現れるまで姉を守り続けてきた私にも依存するはずだろって?

 家で手仕事の手伝いをすればものを壊し、お使いに出せば道を覚えるまでの間に三回は迷い、時間が余れば剣を振り出して、そのまま時を忘れて夜になること複数回。

 畑の手伝いをすれば農地を爆散させ、姉へのイジメに対する効果的な対処法も思いつかなかった、剣術以外になんの取り柄のない無口片言幼女の妹が頼りになる存在に見えるとでも?

 寝言は寝てから言ってほしい。

 

 そんなわけで、姉は強くて口も回って、色んなことを教えてくれて、イジメっ子どもからも守ってくれる頼れる男の子であるルーデウスに依存し始めてるのだ。

 唯一のマイナス要素であるあのエロい視線も、エロがなんたるものかよくわかっていない年齢の姉にとっては、大したマイナス要素足り得ない。

 ……こうして並べてみると、あいつスペックバカ高いなぁ。

 剣術以外は転生者の私より遥かに上ってどういうことよ?

 もしや奴も転生者なのでは?

 

 そんな転生者スペックのルーデウスに依存し始めちゃった姉。

 今はまだ可愛いもんだけど、将来姉がヤンデレとか、異世界チーレムものによく出てくる、頭空っぽの主人公全肯定ヒロインみたいになったらやだなぁ。

 

 そうして恐ろしい未来予想に震えてるうちに師匠の家に到着。

 すると、そこには一台の馬車が停まっていて、なんとその馬車に簀巻きにされたルーデウスが放り込まれる場面を目撃してしまった。

 

「ルディ!?」

 

 それを見た姉が狂乱!

 無詠唱の中級魔術を、ルーデウスを馬車に放り込んだ師匠に向けてぶっ放す!

 師匠は難なく姉の魔術を受け流したけど、私の内心は「何やってんの!?」という気持ちでいっぱいだった。

 いきなり師匠に魔術打ち込んだ姉に対しても、ルーデウスを簀巻きにして馬車に叩き込んだ師匠に対しても。

 

 しかし、私の混乱に支配された思考回路は即座に塗り替えられた。

 師匠の傍にいた人物から、凄まじい殺気が放たれたことによって。

 

「ッ!?」

 

 その人物は、猫みたいな獣耳と尻尾を生やし、やたら露出度の高い服を着た褐色肌の女性だった。

 腰には刀のような曲剣がひと振り。

 そして何より、見ただけでわかるとてつもない強さ!

 身に纏う闘気の力強さ、一分の隙も見えない構え、どれを取っても師匠より上だ。

 そんな人物に殺気を向けられている。

 敵認定されている。

 この場にはこんな達人から逃げられるはずもない姉と父が……

 

 土壇場で加速する思考がそこまで回った瞬間、私は殆ど反射で地面を蹴っていた。


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