剣姫転生 〜エルフの娘は世界最強の剣士を目指す〜   作:カゲムチャ(虎馬チキン)

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69 トリス

 翌日。

 私達は亀のような速度(私基準)で森を進み、盗賊団の縄張りにまでやってきた。

 政務とかにかかりっきりで体力トレーニングをする暇がなかったアリエル様は、護衛4人の一人であるアリステアさんにおんぶされての移動だ。

 あの人も上級剣士だから人一人運ぶくらいわけないだろうけど、アリエル様のセクハラが心配である。

 あの位置からなら、格差社会の象徴を揉み放題やぞ。

 

 なんてことをしてるうちに、盗賊団っぽい連中の気配が、姿を隠したまま私達を囲み始めた。

 全員が殺気立つけど、殺し合いに来たわけじゃないから誰も剣は抜かない。

 

「山彦はなんと返す?」

「兎の穴蔵、それと(つぐみ)(さえずり)

 

 やがて姿を現した、ザ・盗賊みたいな格好したリーダーっぽい奴に、ルーデウスが合言葉っぽいのを言って、よくわからないうちに話が纏まったっぽい。

 どこで調べたんだろう、その合言葉?

 ああ、オルステッドから聞いたのか。

 

 疑問は解消され、私達は盗賊に案内されて小屋みたいなところに連れていかれた。

 私達の目的である密入国は明日の朝早くから開始するみたいで、それまでにこの小屋を出たらダメって言われた。

 案内役の人に関しては今から連れてくるらしい。

 

 ……それにしても、こういう盗賊を見ると、殺人狂じゃない私でも思わず斬りたくなっちゃうな。

 盗賊にはロクな思い出がないからね。

 紛争地帯の連中然り、ベガリットで遭難するキッカケになった連中然り。

 そういう奴らは、ほぼほぼ皆殺しにしてきたから、盗賊見ると条件反射で駆除したくなる。

 Gを見たらジェットを噴射したくなるのと一緒だ。

 

 そんな衝動を堪えながら待ってると、扉が凄い勢いでガンガンと叩かれた。

 多分、案内役の人でしょ。

 それでも皆は警戒しながら、慎重に扉を開ける。

 

「ったく……さっさと開けやがれってんだい、ウスノロが! このせっかち者のトリスさんを呼びつけといて待たせるってのはどういう了見……ひぃ!?」

 

 入ってきたエリスさん以上に格差を感じる女の人が、大声で文句を言ったかと思ったら、私を見て即座に青褪めた。

 漏れてる殺気が強すぎたっぽい。

 でも、盗賊見てるとこうなっちゃうからね、仕方ないね。

 

「エ、エルフの少女で、こんな殺気を放つ化け物って……まさか『妖精剣姫』!? なんでこんなところに!?」

 

 あ、一瞬で素性がバレた。

 私も有名になったものである。

 

「はじめまして、トリスさん。ルーデウスと申します」

「あ、ああ、よろしく……って、ルーデウス? まさかシャリーア最凶最悪の魔術師『泥沼』……!?」

 

 ルーデウスの方はこれ、どんな情報が広まってるんだろ?

 

「あ、悪い。べ、別に詮索するつもりじゃなかったのさ。この商売では情報が命だからね。危険人物の名前と風貌は知ってるのさ」

「言うほど危険ではないつもりですがね」

「ああ、そうだろうさ。わかってるわかってる。あんたは無名のルーデウス。巷で有名な『泥沼』じゃあない。

 そっちの危ないエルフも『妖精剣姫』じゃないし、そこの女も『狂剣王』じゃない。そっちの獣族も『黒狼』じゃないし、そこのイケオジも『剣匠』じゃない。それでいいんだろ?」

 

 その後、ルーデウスとトリスさんは色々と話してた。

 ルーデウスが何とか会話を広げようとしてるというか、お見合いでもしてるの? って感じだ。

 なんともまどろっこしい会話。

 もしや、今度こそ四股狙いか。

 私が思わずそんな疑念を抱いた時、

 

「貴女、もしかしてトリスティーナ・パープルホースではありませんか?」

 

 部屋の奥で寝てたはずのアリエル様が出てきて、そんなことを言い出した。

 とりすてぃーな・ぱーぷるほーす?

 はて?

 どこかで聞いたことがあるような?

 

「な、なんでその名前を……!?」

「ああ、やっぱりトリスティーナでしたか。ほら、覚えていませんか? 私の五歳の誕生日の時に、お会いした事があったでしょう?」

「ま、まさか……!? いや、でも妖精剣姫が一緒にいるってことは本当に……! ア、アリエル様!?」

 

 どうやら、アリエル様の知り合いだったっぽい。

 

 そこからアリエル様は言葉巧みに、トリスさんがなんでこんなところにいるのか、つまりトリスさんの経歴を話させていった。

 それによるとトリスさんは幼い頃に拐われて、例のターゲットの一人であるダリウス上級大臣とやらの性奴隷にされてたらしい。

 アスラ貴族ってホントに……。

 

 で、そこから更に盗賊団に売り払われ、しばらく親分の女として過ごし、親分の気まぐれで盗賊としての修行を開始。

 その親分が代替わりして自由の身となり、今に至ると。

 

 エグい。

 ルーデウスの日記と同じくらいエグい。

 今すぐ、そのダリウスとかいう上級大臣を斬りたくなるくらいには不快な話だ。

 あ、いや、ダリウスはターゲットなんだから、どっちみち斬るのか。 

 だったら何の問題もないな。

 

 その話を聞いたアリエル様は涙。

 必ずや、かのダリウスクソ野郎を失墜させてみせる。

 だからダリウスに性奴隷にされてた証言をしてほしいとトリスさんを説得した。

 

 そんなアリエル様の言葉に、相手の強大さをわかってるトリスさんは悩んだけど、

 こっち陣営にはペルギウスさんと北神カールマン二世。

 おまけに、私やルーデウスやギレーヌやエリスさんや師匠みたいな、そこそこ有名な戦力が勢揃いしてると知って、

 それでもちょっと悩んだ末に、トリスさんはアリエル様の味方となってダリウスを討つことを神に誓った。

 

 感動的なシーンだ。

 あまりにもアリエル様に都合が良すぎて、オルステッドの仕込みだろうなって思うしかないって点を除けば。

 

 まあ、なんでもいい。

 これでトリスさんは復讐のチャンスを手に入れて、アリエル様はダリウスに対する切り札を手に入れた。

 後でアリエル様にコソッと聞いたところ、トリスさん加入によって、現時点での勝率は90%にまで急上昇したらしい。

 それくらい貴族の子女だったトリスさんを誘拐して性奴隷にしてたって事実をアリエル様が握るっていうのは大きいそうだ。

 

 これならもう、シャンドルに頼る必要もないだって。

 哀れ、シャンドル。

 とはいえ、あくまでもこれは政治的な勝率の話であって、レイダさんやオーベールさんを使った力技に頼られると、まだわかんないんだけど。

 

 まあ、何はともあれ。

 こうして、アリエル様御一行にトリスさんが緊急参戦し、翌日からアスラ王国への密入国が開始された。


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