剣姫転生 〜エルフの娘は世界最強の剣士を目指す〜   作:カゲムチャ(虎馬チキン)

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71 王位を賭けた戦い

 決戦は王城の一室を使ったパーティーの形で幕を開けた。

 ジェノサイドパーティーとか、そういう意味じゃないよ?

 ちゃんと貴族達がキラびやかな服を着て、うふふ、おほほと含み笑いでお互いのお腹の中を探り合う平和(?)なパーティーだ。

 

 ただし、今回はアリエル様が対抗馬である第一王子の……名前なんだっけ?

 ダリウスに比べて皆の会話に出てくる頻度が低いから名前忘れた。

 出てきたとしても『兄上』とか『第一王子』って呼ばれてるし。

 

 えっと、確か、グラー、グラー……グラードン?

 そんな大地を広げそうな名前の第一王子派に、アリエル様が何かしら仕掛けるつもりだって皆察してるからソワソワしてる。

 私達はそんな会場の護衛。

 というか、アリエル様個人の護衛として会場入りした。

 

 最初に現れた主要人物の一人は、護衛としてウィ・ターさんを引き連れたピレモンさんだった。

 苦い思い出が残ってる上に、よく見ると顔が師匠やルークさんに割と似てるからすぐわかる。

 ピレモンさんは私の隣に立つ師匠に忌々しそうな視線を向けてきて、師匠はバツの悪そうな顔になった。

 

 ピレモンさんに続いて、続々と今回の戦いの関係者達が会場に入ってきた。

 アリエル様の従者の人達の家族。

 トリスさんの家族。

 アスラ王国の上級貴族達に、四大地方領主と呼ばれる四つのグレイラット家。

 最初に来たノトス他、エウロス、ゼピュロス、ボレアス。

 

 ボレアス家と言えば私の中ではフィリップさんなんだけど、そのフィリップさんは転移事件で死んじゃったから、ボレアス家の代表は知らない人だった。 

 なお、私に貴族の人達の見分けがつくわけないので、隣にいる師匠とアリエル様親衛隊の皆さんが解説してくれないとわかんないです。

 

 そして、遂に最大の大物がやって来た。

 でっぷりと太った醜悪な見た目の人物、ダリウス上級大臣。

 その姿を見てアリエル様親衛隊の皆が抑え切れなかったみたいに僅かな殺気を放ち、私はダリウスの護衛をしてる人達を見て、隠す気もなく戦意をむき出しにした。

 

「オーベールさん」

「久しいな、エミリー。1年ぶりといったところか」

「ん? 一ヶ月前、くらいに、会ったよね?」

「そういうのは表に出してはいけないことになっているのでな」

 

 それでいいのかと突っ込みたくなるようなバレバレの取り繕い方をしたのは、道中最大の敵だったオーベールさんだ。

 隣にはナックルガードの姿もある。

 でも、不思議なことにレイダさんの姿は無かった。

 

「今回は、負けない」

「ふっ。望むところだ」

「おい! 行くぞ、オーベール!」

 

 剣士同士の宣戦布告に無粋に割り込んできたダリウスによって、オーベールさんは連れて行かれてしまった。

 イラッとしてダリウスを睨みつけたら「ひぃ!?」って悲鳴を上げてた。

 なんか聞いてたより小物な感じがするんだけど。

 仮にも今回最大の難敵(政治的な意味で)なら、初対面の幼女にビビるなし。

 

 で、これにてお互いの隠し球以外、主要人物全員集合。

 こっちもアリエル様達が事前にシャリーアで仲間にしてアスラ王国に送り込んでおいた人達を加えて戦力を補充した。

 上級剣士と上級魔術師が合わせて数人。

 神級、帝級、王級の敵の前だと頼りなく感じるけど、それでも屋内で鎧ピカピカ目潰しが使えないウィ・ターさんくらいなら相手にできると思う。

 倒せないだろうけど、時間稼ぎくらいなら何とか。

 

 そうして、遂に色んな意味でパーティーと呼ぶべき戦いが始まった。

 

 

「本日、お忙しい中、お集まりいただきありがとうございます」

 

 まずは主催であるアリエル様による、病気の国王を心配する言葉とか、留学先で何を思っただとか、校長の話並みにどうでもいいトークからパーティーは始まる。

 まどろっこしいと思うけど、それが貴族なんだから仕方ない。

 でも、割とすぐにそんな話は終わりを告げて、攻撃が始まる。

 

「さて、本日、皆様にお集まりいただいたのは他でもありません。二人ほど、皆様に紹介したい方がいるのです」

 

 それで出てきた一人目は綺麗に着飾ったトリスさんこと、パープルホース家次女、トリスティーナ・パープルホースさん。

 こうして見ると、ちゃんと貴族のご令嬢だ。

 少なくとも昔のエリスさんとは比べものにならない。

 

 そして、トリスさんによる、というかトリスさんを使ったアリエル様によるダリウスへの攻撃開始。

 トリスさんは今までどうしていたのかを語り、ダリウスにやられた仕打ちを語り、色々と脚色して完全悲劇のストーリーと化した話でダリウスを狙い撃つ。

 

「いやはや。本日のアリエル様は、ずいぶんとお戯れがすぎるようだ」

 

 でも、小物っぽいと思ったとはいえ、向こうもさすがに難敵と見られてた上級大臣。

 奴は事前にトリスさんの実家に圧力かけてたらしく、既にトリスさんが死んでて、それを両親が確認してるって設定をぶつけてきた。

 

 ダリウスの顔がにちゃぁと、昔のルーデウスを思わせる感じで歪む。

 あまりに不快だったから思わず殺気を送っちゃったけど、そうしたらダリウスは一瞬にして冷や汗をかきながらも、顔面の笑みだけは維持した。

 器用だなぁ。

 

「なあ、そうであろう? パープルホース家現当主、フレイタス・パープルホース殿。

 そなたは、確かに、死体を確認したはずだ。トリスティーナ嬢は行方不明ではなく、すでに死亡していると認めたはずだ。

 そう宣言してくれぬか? この戯言を終わらせるためにも。なあ、フレイタス殿?」

「わ、我が娘は……」

 

 しかし、

 

「我が娘、トリスティーナは…………ダリウス上級大臣により、奪われました」

「…………は? フレイタス殿!? な、何を!?」

「そちらにいるのは、間違いなく我が娘、トリスティーナでございます! アリエル様、我が娘を攫い、監禁して辱めたダリウス上級大臣に裁きを!」

「馬鹿を言うなフレイタス! 貴様は持っているはずだ! 身元確認のために印を押した証文を!」

「……ダリウス様。そのようなものは、存在いたしませぬ」

「……ッッ!!」

 

 そんな二人のやり取りを見て、アリエル様が薄く笑った。

 ああ、根回し済みだったのね。

 さすが、我らがアリエル様。

 ただの変態王女じゃないわ。

 

「さて、ダリウス上級大臣。何を隠そうパープルホース家当主にこう言われては……。

 貴族の子女を誘拐し、監禁し、辱めるなど、いかに王国の重鎮と言えど、罪は罪。逃れうるものではありません。

 あなたは王国の法により、裁かれることでしょう」

「ッ〜〜〜!?」

 

 ダリウスの顔が笑みじゃなくて、追い詰められた焦りで歪む。

 ギョロギョロと目線を動かして味方を探すも、そんな人は誰もいなかった。

 ただ一人を除いて。

 

「ずいぶんと騒がしいパーティだ」

 

 そう言ってパーティー会場に入ってきたのは、グラードン第一王子。

 舞台裏から気配がしてたから、スタンバってるのはわかってたけど。

 腹心のピンチと見て出てきたっぽい。

 

 ただ、所詮グラードンはダリウス以下の警戒レベルでしかない男。

 グラードンは罪人であってもダリウスは国にとって必要な人材だと言い、アリエル様の言う通り裁くか、それとも自分の主張に従って見逃すか決めようとか言い出した。

 その方法は多数決。

 

「そんなんで、決めて、いいの?」

「より多くの貴族の支持、つまり、より多くの権力と発言力を持ってる方の意見が通るってことだ。何もおかしくないぞ」

「なるほど」

 

 隣の師匠に聞いたら、補足説明してくれた。

 助かる。

 

「で、まあ、そうなると、ずっと国を離れてたアリエル様より、ずっと王都で権力基盤を築いてきた向こうの方が圧倒的有利だな。普通なら」

「その前に、もう一人(・・)、皆様にご紹介したい者がいます」

 

 師匠の説明とほぼ同時のアリエル様の言葉が終わると同時に、城の外から巨大な火柱が上がった。

 外に出てた姉の仕込みだ。

 そして、炎に照らされて、王城の上空に浮かび上がる巨大な影。

 アリエル様の隠し球のご登場だ。

 

「空中城塞!?」

「いつの間に、こんな近く……!?」

「まさか、おいでになるのか……!」

 

 会場に近づいてくる気配が13個。

 空中城塞に住まうという、ある大英雄と12の使い魔。

 その伝承通りの人数。

 

 そうして、遂に伝説がこの場に現れた。

 

「皆様、ご紹介しましょう。『魔神殺しの三英雄』の一人。『甲龍王』ペルギウス・ドーラ様でございます」

 

 心なしか、アリエル様がドヤ顔したような気がした。

 アスラ王国においてとんでもない発言力を持ってると、他ならないアリエル様自身が言ってた人、ペルギウスさん。

 この人の登場によって、勝負は決した。

 

「おお、これは困った。空席が3つ。 さて、アリエル・アネモイ・アスラよ。グラーヴェル・ザフィン・アスラよ。我はどこに座ればよろしいか」

「……!」

 

 わざとらしいペルギウスさんの言葉にグラードン、じゃなくて、グラーヴェルが息を呑んだ。

 ペルギウスさんのおかげで、ようやく名前を思い出せた。

 次の瞬間には忘れてる気がするけど。

 話したこともないし。

 

「それは……もちろん……最上位の席へと、お座りください」

「いいや。我はすでにこの国を長く離れすぎた。次代の王の席を奪うわけにはゆくまい。

 アリエルよ。その席には貴様が座れ。我は隣に座らせていただくとしよう」

 

 次代の王と言って、ペルギウスさんはアリエル様の背中を押した。

 誰も何も言わない。

 誰も何も言えない。

 事前のアリエル様達の予想によると、ペルギウスさんに唯一抗い得たはずのダリウスは終わってる。

 ゲームセットだ。

 

 ━━政権争いはね。

 

「来た」

 

 グラードンと同じように、途中から会場の近くでスタンバってたのは気配と魔眼でわかってた。

 でも、グラードンなんぞとは比べるのも失礼なくらい上手く気配を消してた。

 そんなことができる達人が、パーティー会場の天井を突き破って、政権争いというゲーム盤を力技でひっくり返すべく襲来した。

 

「やれやれ、夢のお告げはこういうことかい」

 

 ヒトガミの切り札。

 当代最強の剣士の一人。

 

「ほれ、助けにきてやったよ」

 

 『水神』レイダ・リィアが、ダリウスに向かってそう言った。

 稽古で向き合った時には見せてくれなかった、本気の戦意と殺気を纏って。

 

 不謹慎だとは思いつつも、それを見て私は、━━ゾクゾクしてきて、牙をむき出しにしながら、心の底から笑った。

 

 オルステッドを殺しにいった時には感じなかった感覚。

 アレクと一緒にファランクスアントと戦った時や、ガルさんと最初に向き合った時と同じ、確かな胸の高鳴りを感じながら。


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